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BIMデータを活用した建築確認申請について

2021年9月27日

 

はじめに

2016年度の政府成長戦略でi-constructionが掲げられ、主に公共土木建築の中でBIM/CIMの推進が進められてきた。その後、2018年度にはデータ駆動型社会、Society 5.0の施策が示され、民間公共問わず建築分野のBIM推進が位置付けられたことを受け、2019年4月、建築BIM推進会議がこの目標を達成するために設置された。また、2019年6月に閣議決定された、成長戦略実行計画の中の「令和元年度革新的事業活動に関する実行計画」では、図-1に示すように、建築確認審査に対しても、2022~2025年度に「BIMによる建築確認申請の推進」が位置付けられ、BIMによる建築確認の実現が必須となった。このようなBIM推進に対応する施策が続々と打ち出される中、あらためてBIMデータを活用した建築確認申請の開発の現状と展望について説明したい。
 

令和元年度革新的事業活動に関する実行計画

図-1 令和元年度革新的事業活動に関する実行計画
(令和元年6月21日閣議決定)におけるBIM/CIM等の普及拡大の工程表 1)


 
 

成長戦略におけるロードマップとその対応

建築確認におけるBIMの活用は、日本建築行政会議指定機関委員会を事務局とする「建築確認におけるBIM活用推進協議会」(以下、協議会)で検討が進められており、建築BIM推進会議における「BIMを活用した建築確認検査の実施検討部会(部会3)」に位置付いている。
 
具体的な検討内容は、協議会の事業計画の中で次の3つを定めている。
 
(1)BIMモデルを利用して作成する確認申請図面の標準化を図るため、BIMモデルから作成する建築確認に必要な図面表現の標準(以下、「確認図面の表現標準」という)の作成と、種々のBIMソフトウエアにおいて確認図面の表現標準を作成するために必要な入出力情報を定めるための解説書(以下、「解説書」という)の作成を行い、それらの普及を推進する。
 
(2)BIMモデルデータを建築確認の事前審査の際に利用する場合に、審査者が使用する、確認審査に適したBIMビューアーソフトウエアの仕様(機能、性能等を定めたもの。以下同じ)を策定し、その円滑な開発に向けた環境を整える。
 
(3)上記(1)、(2)のほか、これらの共通事項として、法令改正等に伴う解説書・BIMビューアーソフトウエア仕様の見直しなどの継続的運用の確保や、国際情勢の把握と日本の情報発信による国際協調の推進などを行う。
 
このうち(1)は、建築設計のBIM作業環境における、確認申請図書の作成基準の確立を目指すものである。これは、シンガポール政府の建築確認における業務標準(Code of Practice)に相当するものであり、BIMによる確認申請図書の作成が一定の規範に基づいて作成できることを担保することで、申請者側が確認審査図書作成の追加的な作業を強いることがないようにするとともに、BIMソフトウエアに確認審査図書作成のための付加的機能を装備されることを期待することで、確認審査手続きがBIM普及の支障とならないようにするという期待が込められている。
 
2019年度は、協議会の前身である、「BIMを活用した建築確認における課題検討委員会」(委員長 松村秀一東京大学大学院特任教授)の成果を拡張し、建物用途の異なる3つの建築設計によるBIMモデルを作成し、確認図面の表現標準、および、確認図面の表現標準の作成に必要な入出力情報(意匠、構造、設備)の整理とその解説書を作成した。解説書については、確認図面を構成する図書ごと、部位ごとに必要とされる入出力情報と必要な表現を得るためにBIMソフトウエアの機能を使って表現できたかどうかについても整理を行い、表-1に示す、「審査項目別のBIM活用課題一覧表」にまとめた。さらに、その内容の理解を深めることを目的として意匠・構造・設備の分野ごとにテーマを設定し、図-2のような、「課題別検証シート」としてまとめた 2)
 

審査項目別のBIM活用課題一覧表

表-1 審査項目別のBIM活用課題一覧表 2)


 
課題別検証シートの例(意匠 課題1、3、4)

図-2 課題別検証シートの例(意匠 課題①、③、④) 2)

 
審査項目別のBIM活用課題一覧表は、BIMソフトウエアを用いて確認図書を作成する際に、加筆や表現方法の工夫を必要とするといった、共通の課題となるテーマが抽出されたものである。各課題に対する表現、とりわけ、BIMの特性を生かした「BIMならでは」の表現方法の具体的な解決方法について、課題別検証シートに整理されている。
 
2019年度の協議会成果が想定する技術段階は、図-3の開発ステップでStep1+に相当するものとなる。BIMを活用した確認図書の作成については、図書作成上の課題と各課題に対する表現方法を、一覧表やシートにより理解を深めることで、これからBIMを活用して確認図書を作成する方に対する一助となること、あるいは、BIMソフトウエアに、これらの課題を解決するような機能等の搭載を期待したい。

 

BIM建築確認の開発ステップ概要

図-3 BIM建築確認の開発ステップ概要(建築研究所2015) 3)


 
 

確認審査におけるBIMデータの活用

しかし、Step1+は、BIMによる設計環境下で、効率的に作成された、従前の申請図書を審査者が審査することを示しており、在来審査のBIM対応の水準にとどまると言える。2019年度の協議会の検証においても、確認の試審査は、BIMソフトウエアから出図した図書イメージであり、審査者としては、申請者側が「BIMならでは」の作図をしていることについて意識していないため、分かりやすい図書の表現をしている設計者側の意図が十分伝わっていないという指摘がなされている。言い換えれば、図書の生成元となる、BIMデータから出図されているという背景の理解の不足が、設計側の図書表現の意図の理解の支障となっているということである。
 
このような状況を打開し、BIMによる確認図書の作成をより効果的にするために、協議会では、2020年度に、前述の事業計画の(2)に当たる課題について、審査者のBIMモデルと申請図書の供覧による理解度の変化、事前相談における確認審査のBIMビューアーソフトウエアの仕様の検討を行うこととしている。
 
また、BIMによる設計が、属性情報の活用などにより合理化が進められるに従い、BIMモデルが内包する数的情報を活用して、審査対象項目を漏れなく抽出し表現する、あるいは、算式による法適合の判定を自動で行い、審査に活用したいという申請者側のニーズが生じることとなる。諸外国のBIM建築確認の発展の過程を見ていると、建築許可、建築確認においてBIMを試行する段階で、起こりがちな状況のようである。このような状況において、審査者側は、「BIMは本当に信用に足るのか?」という疑念を持つこととなる。図-4は、buildingSMARTの法 規 部門(Regulatory Room)の議論に供されたものであるが、申請者側はBIM利用が増えるにつれ申請作業を一元化したい要求が強くなる一方、審査者側(規制側)とすると、「信用のおけない技術導入に向けた規制緩和はけしからん」、というわけである。しかし、設計者側が持つ、効率化の体験を審査者側で追体験し、一種の成功体験を経ることにより、BIMの活用に向かうものと理解されている。
 

申請者と審査者(規制側)との間のBIMの意識の違い

図-4 申請者と審査者(規制側)との間のBIMの意識の違い 4)

 
わが国においてもその状況は変わらず、事前相談段階におけるBIMモデルの供覧は、一種の成功体験を醸成するものとして期待されるが、BIMデータを活用した建築確認申請に至るためには、Step2+やStep3-、3のBIMデータに直接アクセスする審査が実現されなければならないが、「法適合判定がモデルのデータを使って確認ができれば良い」というだけでは審査実務に適用するには不十分である。
 
 

BIMデータの活用に向けた課題

まず、現行の建築確認審査においては、設計者が建築基準法施行規則に従って表現した明示すべき事項を図に表現し、その表現を基に、審査者側は、規則により申請者が審査項目の内容について明示した事項について、審査者側はその内容について確認処分を行うものであるのに対し、BIMデータによる審査の場合は、明示すべき事項が容易に確認することができず、BIMデータから審査者が審査項目に当たるデータを能動的に検索して、その内容の確認処分をすることとなる。つまり、BIMデータによる審査の場合に、申請者側の明示義務を果たすこととなるかという懸念である。これについては、私見ではあるが、BIMモデル閲覧における明示すべき事項の要件と、当該事項の有無や内容の確認にかかる確認処分行為の業務方法について規定を定め、コンセンサスを得ることで対応しうるのではないかと考えている。
 
また、審査後のデータの取り扱いについても、申請用データの検証性や真正性などを確保する技術が必須である。特に、確認審査手続きで審査機関側に求められる15年間の図書保存に対して、BIMデータの見読性や検証性を担保できる技術的裏付けが現時点でないのが実情である。
 
長期にわたる検証性を確保するためには、データフォーマットが規格等で定義されていて、仮にデータ作成時の規格が古いものとなった場合にでも、旧の規格に基づいてそのデータの確からしさが検証できることが望まれる。Step1+の場合、図面データはISOで定義されるPDFとして保存することでその要件を満たすことができる。そのため、Step2+以降でBIMデータを取り扱うためには、ISOで定義されるIFCによることが想定される。建築確認審査でBIMデータを取り扱うためには、全ての情報をIFCとして受領することはすぐには難しく、データとして審査する内容をIFC、その他の図面表現により審査する内容をPDFとして、双方を併せて確認するケースが想定される。その場合、審査の対象となるデータファイルがIFCとPDFと分離するため、相互の整合を確認するために、PDF図面表現とIFCモデルビューを重ね合わせる技術の開発が必要となる。
 
データの真正性確保の考え方については、建築確認手続きで提出する図書の押印が廃止される運びとなっているが、真正性の内の本人性の確認手段が、電子署名に代わる方法で行って良いということであり、長期にわたるデータの完全性や原本性について、電子署名あるいはタイムスタンプといった措置を不要とするものではないと考えている。PDFについては、すでに電子申請のファイルとして電子署名に対応しているが、IFCについては、XMLファイルに対する電子署名が応用できると見込まれているが、取り扱うIFCファイルのサイズに対して、署名の処理時間が実用的であるかなど、その知見がまだ不足しており、検証が必要である。また、BIMデータを、審査機関で取り扱うための基盤のあり方についても、検討が必要である。BIMのデータマネジメント手法については、ISO19650で定めるCDE(共通データ環境)の方法に準拠することが望ましいと考えられる。
 
 

建築確認BIMデータの活用の将来

確認審査時にBIMデータを受領して建築確認を行った場合、提出されたBIMデータは正本としての位置付けとなると考えられ、着工後の中間工程検査、完了時検査において、正本としてのデータに対して検査が行われることが考えられる。例えばStep3のような、BIMデータのみで確認がされている場合、確認済みのBIMデータに対して施工の結果を検査することになるということである。その場合、確認済みBIMデータと遠隔臨場技術と組み合わせたリモート検査の実現など、withコロナ時代に対応する新しい検査の方法の開発も近い将来に開発されるかもしれない。
 
また、実際の建築物の形状や性能を高精度でBIMモデルに表現し、建築物のオンデマンドあるいはリアルタイムの制御をBIMモデルで行おうとする、Digital Twinの議論が活発となっているが、少なくとも、オンデマンドの法適合確認ができるようなモデリング手法の開発も行われることになるだろう。
 
欧米では、図-5のような、建築許可の段階で、地理情報(GIS)と連携したデータの取り扱いが行われており、Virtual Cityへの展開など、ビッグデータとして活用する取り組みも現れてきている。わが国においても、単に審査機関のみの情報基盤というだけでなく、構造計算適合判定や消防同意などの外部の審査・同意行為との連携や、建築確認概要書等の特定行政庁へのデータ連携など、データによる審査の効率化、Smart City構築につながるような、データの高度利用のためのプラットフォームとして機能するための設計も必要であろう。
 

ノルウェーのBygglett(簡易な建築許可)

図5 ノルウェーのBygglett(簡易な建築許可)システムデモ画面 5)




 
 


図表出典、参考資料等
1)令和元年度革新的事業活動に関する実行計画(令和元年6月21日閣議決定)、p36
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/ps2019.pdf
 
2)建築確認におけるBIM活用推進協議会HP
https://www.kakunin-bim.org/
 
3)武藤正樹:「BIMと建築確認検査業務への応用」、 えぴすとら73号、 2016.4、建築研究所
https://www.kenken.go.jp/japanese/contents/publications/epistura/pdf/73.pdf
 
4)Ma s aki MUTO: e-submissioncommon guidelines for introduce BIM to building process、 Fig.10 Difference in consciousness of BIM between applicant and regulators、 p12、 buildingSMART International Technical Report No. RR-2020-1015-TR、 2020.10
https://www.buildingsmart.org/standards/bsi-standards/standards-library/#reports
 
5)https://bygglett.catenda.com/
 
 

国立研究開発法人建築研究所 上席研究員 武藤 正樹

 
 
【出典】


建設ITガイド 2021
BIM/CIM&建築BIMで実現する”建設DX”
建設ITガイド_2021年


 
 
 



いまさら聞けない BIM/CIMの始め方

2021年9月13日

 

BIM/CIMの状況

周知の通り、国土交通省は令和2年9月の第4回BIM/CIM推進委員会にて、「令和5年度(2023年度)までに小規模を除く全ての詳細設計・工事においBIM/CIMを原則適用」という方針を示しました。
 
また、CIM導入ガイドライン(案)は、「設計業務等共通仕様書」の構成に合わせて、より業務内容との関係性を明確にして参照しやすくするために、BIM/CIM活用ガイドライン(案)への再編が行われ、共通編については、令和2年3月に公開されました。令和3年度には河川編、砂防および地すべり対策編、ダム編、道路編などが公開されます。
 
このようにBIM/CIMの世界は毎年急速にバージョンアップしていますので、常に情報を把握することが重要です。
 
弊社が受託しているBIM/CIMモデル作成の依頼では、昨年度よりモデリング相談が漸増し、本年度はさらに新たな顧客からの相談が急増している状況から、業界全体が大きく変わってきているのが手に取るように分かります。
 
新たな相談の中で最も多いのが、「BIM/CIM活用業務ではないけれど、会社として取り組みをしていきたいが、どうすれば良いでしょうか」という相談です。今までも国土交通省の発表や各種団体のセミナーなどで情報を把握していたけれど、いざ具体的な取り組み方についてとなると経験がないので分からないということです。
 

BIM/CIMの詳細設計・工事への適用のロードマップ(案)

国土交通省 第4回BIM/CIM推進委員会資料より抜粋



弊社もCIMという言葉が出てきた平成24年度あたりの時点では、取組順序も分からず、何が正解かも分からずやってきましたが、さまざまな経験から得たものがあり、今回ここにこれから取り組む際に知っておくべきことを紹介したいと思います。
 
 

まずは3次元データの特徴を把握する

BIM/CIMを始めようとすると、すぐにどのソフトを選定すれば良いかとか、後述するリクワイヤメントを満たすには、どうすれば良いかと考えがちですが、ソフトを買えばできる訳でもなく、単に3次元化するだけでは、自分たちの生産性向上は図ることはできません。
 
まず、初めに必要なのは、土木で利用する3次元データの特徴を把握する必要があります。土木で利用する3次元データには、下記の3種類のデータがあります。3Dポリラインなどの線(ワイヤーフレーム)は今回除いて考えます。
 
・ソリッドモデル
・サーフェスモデル
・点群データ
 
ソリッドモデルは、中身の詰まったデータで、豆腐のようなものです。土木では「構造物」で利用します。単体で体積を算出したり、形状に属性を付与することが可能です。

 
土木で利用する3次元データの特徴


サーフェスモデルは、表面だけのデータで、ブルーシートのようなものとなります。
 
土木では「現況地形」「造成後の法面」などに利用します。
 
単体だと表面積しか算出できませんが、複数のサーフェスデータがあれば、差分計算により土量計算に活用できます。
 
中にはソリッドモデルに見えるサーフェスモデルというものもありますが、今回の解説は省略します。
 
土木で利用する3次元データの特徴

点群データは、集合体で見ると地形や建物が3次元に見えますが、1点につきXYZの座標を持つデータです。
 
点群単体で、「現況」の状況が見えるだけでなく、必要な個所をデータ上で計測が行える他、点群からサーフェスを作成することも可能です。
 
また点群を削除することで、新しい景観を見ることが可能となります。
 
土木で利用する3次元データの特徴

これら3種類のデータは、複合的に利用しても単体で利用してもBIM/CIM活用をしているといえます。ただし、どの工種にも使えるわけではないということに加え、異なる特性のデータなので、扱うソフトウエアが異なるということに、気付いていただきたいのです。
 
対象の工事でどのデータが必要になるかを先に知ることが重要であったりします。
 
例えば、起工測量時に点群をとっておけば、施工計画書作成にも利用できますし、これから施工する3次元モデルを配置する3次元の現況図を別途作成する手間が省けてBIM/CIM活用にもなり、生産性向上にもつなげられたりするからです。
 

土木で利用する3次元データの特徴

福井コンピュータ株式会社提供



工種によるデータの違いとソフトウエア選定

2次元CADもソフトウエアによって特徴がありますが、3次元は次元が増えた分、当然ながら倍以上のソフトウエアの種類や特徴があります。
 
3次元CADは、自動車業界、映像・ゲーム業界、建築業界などで発展してきました。
 
これらの業界では、作成するモデルは自動車業界ならクルマ、建築業界なら建物といったように作るものは一貫性があり、形状が異なるだけなので複数のソフトウエアを利用する必要がありません。
 
一方、土木業界は多種多様な工種があるので、異なる3次元データを混在させたり、使い分けたりする必要があります。
 
では土木業界で必要な3次元モデルは工種によってどのように分類されるのでしょうか。
 
3Dデータと工種のポジショニング

上図のようにサーフェスとソリッド、地形を含む工種と単体で成り立つ構造物で分類すると、多種多様なのが分かります。
 
この図からも分かるように、当然、利用するソフトウエアも異なってきます。
 
・ 地形が絡む工種(現況地形、計画地形、道路、河川)
 
地形が絡む工種(現況地形、計画地形、道路、河川)

・単体で成り立つ工種(構造物、仮設)
単体で成り立つ工種(構造物、仮設)

ここで重要なのは、BIM/CIM対応するためには、数種の3DCADを利用しなければならないことです。
建築と土木は同じ建設業界ですが、考え方が大きく異なることを知っておくべきです。
 
構造物は地形上に存在し、施工段階の状況(土工事や地形なりの構造物)を複合的に表示したりしますので、サーフェスデータとソリッドデータを同じ空間で表示する、いわゆる統合モデルを作成する必要が生じることもあります。
 
上記のような理由から、会社全体で統一したソフトウエアを選定するのではなく、工種ごと(担当部署ごと)に選定し、複数のソフトウエアを組み合わせて利用することを推奨します。
 
 

詳細度によるデータの違い

工種により作成するデータやソフトウエアが異なることを理解しただけでは不十分です。
 
BIM/CIMに対応するためには、詳細度(LOD:Level Of Detailsの略)を考慮したデータを作成する必要があります。
 
詳細度は、LOD100 ~ LOD400まで4段階あり、3次元モデルの利用シーンによって、どこまで詳細に作成すべきかを決めて作成します。
 
3次元をやったことない方が最初に壁となるのは、この詳細度といっても過言ではありません。
 
全ての構造物データを一番詳細なモデルであるLOD400で作成すれば、積算も可能になってきますので(積算については他の問題点もありますが)、これでなければBIM/CIM活用ではないと思っていないでしょうか。
 
図-1のように鋼構造物は重要となる場合がありますが、どのような工種でもいつも必ずその詳細度は必要があるでしょうか?
 

詳細度によるデータの違い

図-1
LOD400の例:オフィスケイワン株式会社提供



例えば、道路工事の場合、L型街渠を1本ずつ作る必要があるでしょうか?そこまではほとんどすることはないので、大げさな話ですが、LODを詳細にすると当然作業時間も膨大になるということです。
 
国土交通省は2023年度までに小規模を除く全ての公共工事でBIM/CIM化と言っていますが、詳細度については指定していません(図-2)。
 

土木分野におけるモデル詳細度標準(案)

図-2
出典:土木分野におけるモデル詳細度標準(案)
【改訂版】平成30年3月 社会基盤情報標準化委員会 特別委員会



詳細度は下図のように定義されていて、BIM/CIMをどのシーンでどのように活用し、どのような効果が得られるのかによってLODを決めてやっていくことも重要なポイントだと思います。3次元から少し離れた話になりますが、地図情報においてこの詳細度について考えてみてください。
 
都道府県を表示している時は主要な道路くらいしか表示されていないのに対し、自分の住んでいる地域を表示している時には主要道路に加え、街区道路や住宅が表示されています。
 

尺度による表示内容の違い

尺度による表示内容の違い:地理院地図より引用



つまりエリアが広範囲の場合は街区道路があっても見えないため、詳細度を下げ、エリアが狭い場合は詳細な情報が必要なため、詳細度が高くなっています。
 
BIM/CIMも同様に利用シーンによって詳細度は変えるべき(常に詳細に作る必要はない)と私は思っています。生産性向上、問題点の解決など、意味のある3次元モデルを作成することを強くお勧めします。
 
 

2次元CADの使い方と異なる点

現在は3次元での設計までは実現できていないことが多く、設計された2次元図面から3次元モデルを作成することがほとんどです。
 
その際に必要な知識としては、2次元図面では1工事単体で図面の役割を成していましたが、土木における3次元の場合は、地理空間上の構造物として管理するために単位を合わせる必要があり、m単位、少数点以下第3位までの管理となります。
 
平面図においては、図面枠内に作成していたのに対し、方位や座標をCADデータそのものに与えることに加え、測地座標系を設定する必要が生じます。
 
そのため、測地座標系は世界測地系(測量成果2011)とし、平面直角座標系を用い、m単位で統一することになります(管理する数値は小数点以下第3位まで)。
 
さらには、基準水準面については、T.P.(東京湾中等潮位)を標準とするので、A.P.やO.P.は変換した高さに変換しなければなりません。
 
構造図の場合は、現状ではmm単位で作図されていることが多いと思いますが、3次元ではm単位で作図して小数点以下第3位の精度でモデリングします。
 
3次元データに取り組む際に、2次元図面の描き方も変化を求められているのです。
 
さらに3次元図面を作図するためには、画面を上から下からまたは左右からと動かしながら作図します。画面表示の変化が激しいため、PCのスペックが乏しいと動かなくなってきます。
 
 

必要なハードの環境

BIM/CIMに取り組む際によく聞かれる項目の一つがPC環境です。そしていつも回答することは、作成する3次元データによって異なるということです。点群を扱う際や3次元モデル作成の範囲が広ければ、情報量が多いため相当なスペックが求められます。単体の構造物で配筋などが入らないLODが低いデータであれば、それほど高スペックでなくても良いこともあります。全員のPCを高スペックにするのではなく、作成するモデルによってPCを使い分けるのも手です。
 
推奨スペックは扱う3Dモデルによって異なります。
・点群処理、広範囲の場合やVRの場合
・単体のモデリング程度の場合
(表-1)
 

BIM/CIMに取り組む際に必要なハードの環境

表-1



人材育成

土木業界では今まで3次元に取り組んでいませんでしたので、BIM/CIM作成ができる人材はほとんどいないのが実情です。他の業界(建築や機械業界)でモデリングできる人を探す方法もありますが、構造物のモデリングはすぐにできるようになる一方、サーフェスモデルは土木の図面を読み取る力が必要なので、特に時間がかかります。メーカー各社の研修を積極的に受講することをお勧めします。
 
 

事例

 

CIM導入ガイドライン 下水道編

CIM導入ガイドライン 下水道編 R1.5 国土交通省抜粋




施工計画の例

施工計画の例:福井コンピュータ株式会社提供




点群活用の例

点群活用の例:株式会社デバイスワークス



要求事項(リクワイヤメント)について

BIM/CIM活用の実施方針として、要求事項(リクワイヤメント)という言葉があります。
 
これは、BIM/CIMモデル作成に関する発注者の要求事項ということですが、必須項目としては、
・CIMモデルの作成・更新
・属性情報の付与
・CIMモデルの照査
・CIMモデルの納品

選択項目としては、表-2から5項目
を選択することになっています。
 

要求事項(リクワイヤメント)選択項目

表-2



要約すると、
・CIMモデルの共有、確認
・情報共有システムによる情報連携
・後工程で活用できる必須項目以外の
属性情報
・施工ステップの確認、工程連携
・モデルからの自動数量抽出
・2次元図面との整合性を確認する3DAモデル作成
・3次元モデルおよび属性を活用した照査
・ICTによる3次元計測と3次元モデルでの検査
・CIMモデルを活用した仮設計画、施工計画
を選択することになっています。
 
リクワイヤメント必須項目で出てくる属性情報について、どんな属性を入れれば良いかという議論が必ず出てきます。
 
例えば、今回の案件が道路設計だとします。
 
道路設計には、サーフェスモデルで作成される道路線形や法面に加え、BOXカルバートのようなソリッドモデルが共存することが多いと思います。
 
ここで重要なのは、リクワイヤメントを対象範囲全体でやる必要はないということです。この例で言えば、属性としては道路の中心線形はJ-LandXMLによって属性情報が入ります。道路線形情報は、施工者側にデータが渡る際に非常に重要な役割を果たしますので、この属性情報を作成すれば良いのです。
 
このデータがあるとMG(マシンガイダンス)で利活用でき、施工者側が生産性向上を図れるのです。BIM/CIMはデータが活用できなければ意味がありません。自分たちが便利になることも重要ですが、業界全体がトータル的に生産性向上に図れるように考えるべきだと思います。
 

構造物モデルは、施工者側でコンクリート打設リフトの情報などの属性を入れるなど完成形状にだけ属性を入れるなど、作業途中の情報を入れることも可能です。
 
BIM/CIMを行うに当たって、見栄えの良い実績となる配筋のモデリングを望む声が多く聞こえます。しかし私は必ずしも重要だと考えていません。設計図どおりに作成すると継ぎ手は重なってしまいますので、干渉チェックをする際にはわざわざ動かしておかなければなりません。
 

継手部分の重なり

継手部分の重なり



確かに数量は算出できますが、2次元図面から作っているだけなので、数量は分かっています。設計ミスを見つけることはできるかもしれませんが、作業ボリュームに対する費用対効果があまりないと思います。
 
鉄筋の取り合い(補強筋など)を確認する箇所だけ作成すれば良いと思います。
 
属性を利用して数量を算出する際に、3次元モデルを作成すれば本数などを計上することができ、効果的になると考えて、鉄筋の属性を入れることが挙げられますが、鉄筋が全て入っていなくても参照による属性管理をすることが許されていますので、参照(リンク)による対応も考える方が得策かもしれません。参照情報のデータベースがあれば積算につなげられますので、3次元モデルとは別途作成して管理することも考えてみてはいかがでしょうか(図-4)。
 

BIM/CIM活用ガイドライン(案)

図-4 BIM/CIM活用ガイドライン(案)共通編 R2.3 国土交通省



鉄筋の例のように、全てを3次元化しようとするのではなく、費用対効果を考えて協議すべき箇所についてBIM/CIM化をすべきだと考えています。
 
BIM/CIMを始める際に、最初から難しいことをやろうと考えると非常に大変です。できるところから取り組んで、そこから飛躍していっていただければ幸いです。
 
最後にBIM/CIMは1年ごとに進展しています。常に最新の情報を取得していくこと
が大切です。
 
国土交通省のBIM/CIMポータルサイトを確認して実施方針やガイドラインを確認するようにしましょう。
http://www.nilim.go.jp/lab/qbg/bimcim/bimcimindex.html
 
 

問い合わせ先

株式会社デバイスワークス
東京都中央区日本橋茅場町2-14-7
日本橋テイユービル1F
03-6661-7771
代表取締役 加賀屋 太郎
Email:consul@deviceworks.co.jp

株式会社 デバイスワークス 代表取締役 加賀屋 太郎

 
 
【出典】


建設ITガイド 2021
BIM/CIM&建築BIMで実現する”建設DX”
建設ITガイド_2021年


 
 
 



大学におけるBIM教育の先進事例 「広島工業大学 建築デザイン学科」 -アナログとデジタルの両端から建築のリアルを捉える-

2021年9月4日

 
広島工業大学 建築系学科


広島工業大学の建築系学科は、工学部につくられた建築学科に始まり、同学部で発展した建設工学科と、環境学部の環境デザイン学科に派生している。われわれが所属する建築デザイン学科は、建築系学科創設50年の節目に、約20年間続いた環境デザイン学科の改編に伴いスタートした新しい学科である。前身である環境デザイン学科では、広島を代表する建築家・村上徹が中心となり、現在の設計教育の土台を築いた。建築デザイン学科は、この設計教育を母体とし、より幅広いものづくりを視野に入れたカリキュラムが特徴である。
 
 

カリキュラムの新たな柱

建築デザイン学科では、「建築」を軸とし、「インテリア・木工」と「デジタルデザイン」を新たな柱として加えた。これら2つの柱を加えた理由は、現在の建築教育において、木材などのリアルな材料に触れるものつくりが少なくなっていること、また日本の建築教育におけるデジタル技術の導入が、海外と比べ著しく遅れていることが挙げられる。今後建築業界にロボットやAIなどが浸透していく段階においては、伝統的な技術を含めた既存のやり方と、最先端の技術の両方を理解し、それぞれの良さを尊重させながら、うまく組み合わせていく人材が重要になってくる。新カリキュラムでは、そのような建築の未来像を見据えた内容といえる。
 
広島工業大学のカリキュラムの新たな柱 広島工業大学のカリキュラムの新たな柱


広島工業大学のカリキュラムの新たな柱 広島工業大学のカリキュラムの新たな柱


全ては手から始まる

「インテリア・木工」ではこれまでの伝統的なものつくりを学ぶために、本格的な木工機械を取りそろえた「木工房」を整備し、そこで1年生の最初の設計演習として『デザインワークショップ』をスタートする。この授業の初回は、入学直後の1年生を対象とした新入生オリエンテーションにて実施する。同オリエンテーションでは、広島県木材組合連合会や広島の家具メーカー協力の下、午前中に広島近郊の山林に行き、間伐材の伐採を体験する。午後は製材所を訪れて丸太が製材に変わる過程を、夕方には家具工場で製材が木製家具になる過程を学び、日ごろ何気なく使っている椅子や机などが、山林からどのようなプロセスを経てわれわれの手に届いているのかを体験する。そこから3カ月かけて、木製ベンチのデザイン・設計、ならびに制作を行う内容となっている。
 
この授業は専任教員が全員で担当しており、各教員が5人1組のグループを2つずつ受け持つ。意匠だけでなく、構造や環境、生産や木材加工を専門とする教員が一堂に会して学生を指導することで、形態や座り心地だけでなく、耐久性や生産性といったさまざまな視点からデザインを検討することを目指している。またこのベンチつくりには1脚当たりの予算と工期を設定しており、学生は、木材の使い方や、加工の方法、さらには木取図の作成を通しての積算など、建築の設計においても最低限必要な意識を植え付ける。
 
 

世界との溝を埋めるデジタルデザイン教育

本学科のデジタルデザイン教育は、『コンピュテーショナルデザイン(1年後期)』『デジタルファブリケーション(2年前期)』『BIM実習(2年後期)』の、「デジタルファブリケーションラボ」にて実施する3つの授業が中心となっている。日本の建築教育においては、まだまだデジタルvsアナログの議論が収束しそうにないが、そんな間にも海外の大学との差が大きくなりつつある。また、建築業界はBIMへのシフトが加速しており、絶対的な人材の不足が大きな課題になっている。今後の変化に対応すべく、建築を学ぶ学生はデジタルとアナログを横断するコンピュテーショナルな思考を養い、つくりながら考える力を身に付ける必要がある。そのような力を伸ばすために『コンピュテーショナルデザイン』では、国際的なデファクトスタンダードの3DCADとなりつつあるRhinocerosを使い、3 次元で考え、3 次元でデザインする基礎スキルを身に付けるとともに、Grasshopperを使ったパラメトリックモデリングでプログラミングを通したモデリングを学ぶ。その後、『デジタルファブリケーション』では、レーザーカッターやNC加工機といったデジタル加工機を使い、3DCAD上に作られたモデルを模型やモックアップに具現化するスキルを学ぶ。これらデジタル加工機を使ったプロトタイピングを繰り返すことで、コンピューターの中では見えてこない問題を見つけ出すと同時に、材料の特性に触れながら構造的な検討や実際の組み立て方などを考える。そういったデジタルデザインの土台の上にBIMやプログラミングを武器に、日本国内に限らず、世界に飛び出していける技術者を育てる設計教育を目指している。
 

広島工業大学のデジタルデザイン教育



広島工業大学のデジタルデザイン教育 広島工業大学のデジタルデザイン教育


多角的な視点から建築デザインにトライする

また3年生後期の授業に『デザインスタジオ』がある。これは3年前期の研究室配属以降、研究室ごとに専門的な学びを深めている3年生最後の設計演習である。『デザインスタジオ』では、各教員の専門領域を活動対象にすることで、建築デザイン学科の幅の広さを象徴する授業を目指している。
 
この『デザインスタジオ』では、3年間継続される「共通テーマ」に沿い、各ゼミで「ゼミテーマ」を設定して課題に取り組む。ちなみに2018~2021年の共通テーマは「TRANSITION(移行、変遷、変わり目)」である。われわれの生活自体が大きく変化する時代である今こそ、あらためて「過去」から「現在」を見つめ直し、「現在」から「未来」をデザインすることを目指し、各研究室の専門領域において思考するとともに、「社会実践的なものつくり」にトライしている。
 
 

設計教育の設計

ここまで、わが学科の方針や主要科目について概説したが、「設計の科目は?」と思われた方もいると思う。最後に、わが学科における「設計教育の設計」についてまとめたい。
 
建築デザイン学科の設置にはさまざまなサブテーマを持って取り組んだが、その一つに「学生の設計離れ」があった。他大学の現状について数校にヒアリングを実施したが、この傾向はわが校だけの現象ではなかった。ヒアリングの過程において、教員らの多くは「学生のレベル低下」「根性の無さ」「安定志向」などなど、学生に対して攻撃的な意見は耳をふさいでも聞こえてきたが、これは外的要因に他ならない。われわれは、学生の設計離れの要因を大学における「設計教育」にあると捉え、その解決の一環として「さまざまな設計演習」を取り入れることとした。『デザインワークショップ』や『デザインスタジオ』など、前述した一連の設計演習に加え、HEΛIOΣ(ヘリオス)アカデミック版を活用したコストプランニング(自身が考えた建築コストをリアルタイムで体感する)などもこれにあたる。
 
広島工業大学の設計教育の設計 広島工業大学の設計教育の設計


広島工業大学の設計教育の設計


HEΛIOΣ(ヘリオス)アカデミック版を活用したコストプランニング教育

建築教育においてコストプランニングの教育が非常に遅れていることは周知の事実である。この原因の一つは、設計教育が構造や材料、設備などと連携が図られていないことに尽きると筆者らは考えている。設計=意匠といった教育を実施している学校・大学は少なくない。
 
このような状況を鑑み、わが学科では設計教育におけるBIM導入をにらみ、設計教育とコスト教育を連携した「コスト感覚の養成」を「建築積算演習(3年後期)」で試みている(今年で3年目)。
 
本演習では、HEΛIOΣ(ヘリオス)アカデミック版を使用しているが、市販のHEΛIOΣとアカデミック版の大きな違いは、数量ではなく値入れまでを自動演算してくれる点である。つまりアカデミック版では、学生が柱や壁、基礎や屋根を配置すれば造った部位ごとのコストが順に加算され『ここまで造るのにいくらかかるのか?』がリアルに体感できる。また本演習では、同一床面積の建物であっても、平面形状の違いにより壁長が変わればコストが変わること、地下1階地上2階と地上3階ではコストが変わること、すなわち「何によりコストが変わるのか?」をリアルに体感できる。
 
導入当初は学生の飲み込みを心配したが、『BIM実習(2年後期)』を学んだ後の学生はゲーム感覚でHEΛIOΣアカデミック版を活用してさまざまなパターンの設計にチャレンジしている。今後は建設費だけではなく、維持管理費を含めたライフサイクルコストの算出にもチャレンジしたい。引き続き、株式会社日積サーベイにご協力をお願いしたい。
 
 

さいごに

建築デザイン学科では、従来の設計演習における設計対象を拡大し、展開する全ての設計演習において「リアル」というキーワードを大切に教育に取り組んでいる。
 
建築業界のみならず、社会全体で急激にデジタル化が進む今だからこそ、われわれはアナログとデジタルの両端から建築のリアルを捉えて教育に取り組む必要があると考えている。
 
 
杉田 洋 Hiroshi Sugita
広島工業大学教授/1971 年広島生まれ。大阪芸術大学卒業。芝浦工業大学大学院修了。広島大学大学院博士課程後期修了。博士(工学)。建築保全。株式会社杉田三郎建築設計事務所、広島大学助手を経て2005年より現職。
 
杉田 宗 So Sugita
広島工業大学准教授/1979 年広島生まれ。パーソンズ美術大学卒業。ペンシルバニア大学大学院修了。広島大学大学院博士課程後期修了。博士(工学)。建築設計。米国や中国の設計事務所勤務の後、株式会社杉田三郎建築設計事務所、東京大学G30コースアシスタントを経て2015年より現職。

 
 

広島工業大学 環境学部 建築デザイン学科 教授 杉田 洋/准教授 杉田 宗

 
 
【出典】


建設ITガイド 2021
BIM/CIM&建築BIMで実現する”建設DX”
建設ITガイド_2021年


 
 
 



「工事写真レイヤ化」の活用事例

2021年8月10日

 

はじめに

デジタル工事写真の高度化に関する協議会(2021年4月に法人化予定)では、一般社団法人 日本建設業連合会から、「工事写真レイヤ化」の要望を受け、技術的な検討を進めてきた。度重なる検討の結果、工事写真レイヤ化のファイルフォーマットとして、SVG(「Scalable Vector Graphics」JIS X4197:2012)を採用した。デジタル写真管理情報基準(2020年3月)では、写真のファイル形式が、日本産業規格(JIS)に示される形式であれば納品可能と緩和され、SVGは今後活用が期待される技術である。
 
本稿では具体的な活用事例として、当協議会の会員企業から3製品を紹介したい。
 
 

配筋検査アプリ SiteBox配筋検査  株式会社 建設システム

■配筋検査における工事写真レイヤ化

橋梁下部工における工事写真レイヤ化の試行事例(図-1、図-2)を紹介する。
 
工事写真レイヤ化を活用することで、電子的なマーカーを設置でき、従来の配筋検査における準備作業や、マーカーの回収作業等の後片付けを効率化することができる。建設システムの工事写真レイヤ化の対応は、配筋検査に特化した機能として提供している。
 
試行した株式会社桑原組(滋賀県高島市)の玉村氏からは、「特に天端の配筋検査では、型枠が組み上がってし まってからの検査となり、マーカーを落とすと回収作業に非常に手間がかかるため、マーカーレスは非常に有効で ある」と評価されている。
 
また、SiteBox配筋検査独自の機能である「連続マーカー」機能を利用すれば、鉄筋間隔に合わせて電子マーカーを簡単に描画することが可能である。電子マーカーは、信ぴょう性確認の対象ではないため、まずは大まかに配置しておき、隙間時間等を活用し調整することも可能となり、現場の生産性向上が期待できる。
 

配筋検査における工事写真撮影

図-1 配筋検査における工事写真撮影




レイヤを使った電子マーカー

図-2 レイヤを使った電子マーカー



■電子黒板、電子マーカーのオンオフ機能

 
その他にも、工事写真レイヤ化に対応した写真は、写真管理ソフトで電子黒板、および電子マーカー等の注釈を非表示にすることができる(図-3)。これにより、従来では黒板により隠れていた鉄筋の不可視部を確認することも可能になった。
 
写真管理ソフト「写管屋」では、SVGファイルであればアルバム貼付後に、レイヤの表示/非表示を切り替えることが可能である。例えば、図-3のように、同じ写真から、黒板有無、注釈有無を切り替えて表示可能であり、写真としてより幅広い利活用が期待できる。
 

「工事写真レイヤ化」により配筋検査業務を効率化できる事例を紹介した。建設システムでは、配筋検査業務の効率化を目指し機能をアップデートしていくとともに、配筋検査以外にも活用できるシーンを拡大し、建設業の生産性向上に寄与していくという。
 

写真管理ソフトで電子黒板や電子マーカー等の注釈表をオンオフできる

図-3 写真管理ソフトで電子黒板や電子マーカー等の注釈表をオンオフできる



【工事専用タブレット 蔵衛門pad】 株式会社 ルクレ

 
株式会社ルクレの「蔵衛門Pad」は、電子小黒板付き写真の撮影ができる工事専用タブレット。防水・防 塵・耐衝撃で、特に高堅牢な「蔵衛門 PadTough(タ フ)」では 、-2 0度から60度下での動作を保証しており、建築・土木をはじめ、幅広い業種で導入されている。
 
工事写真のレイヤ化には2020年10月に対応。工事写真に電子的なマグネットや補助線を描画できる「電子マー カー」機能を搭載した。ここでは実際に「蔵衛門Pad」を導入している風越建設株式会社での活用状況を紹介する。
 

■撮影の手間が半減

従来、配筋写真などの撮影には、カメラ以外に木製黒板や、配筋を目立たせるためのマーカーが必要だったが、「蔵衛門Pad」では、電子小黒板を画面に投影しながらの撮影が可能だ。さらに、工事写真に「電子マーカー」を描画できるため、「蔵衛門Pad」だけで配筋写真の撮影をすることができる。
 
「電子マーカー」は画面上をタップするだけで設置でき、現場でマーカーを取り付け、回収する手間を省ける。また、マーカーを回収し忘れることにより、異物として残ってしまう危険性がなくなり、施工品質の向上が期待できる(図-4)。
 

マーカーの設置方法の比較

図-4 マーカーの設置方法の比較



■より発注者へ伝わる工事写真に

 
手で取り付けるマーカーは、手が届かない下筋などには設置できなかった。また、無理をして手を伸ばして設置しようとすると、マーカーを落としてしまう恐れもある。「蔵衛門Pad」の場合 は撮影後に電子マーカーを設置できるため、今までは付けられなかった箇所にも電子マーカーを設置し、どの配筋を指しているのか分かりやすい工事写真を撮ることができる(図-5)。
 

手が届かなかった下筋にも電子マーカーの設置ができる

図-5 手が届かなかった下筋にも電子マーカーの設置ができる



パソコン用の工事写真管理ソフト「蔵衛門御用達 2021」では、電子マーカー付きの工事写真(SVG形式)と、通常の工事写真(JPEG形式)を 同じ工事写真台帳に取り込むことができる。さらに工事写真台帳では、電子マーカーの表示をオンオフで切り替えられるため、より施工品質が分かりやすく、信ぴょう性のある工事写真台帳の提出が可能だ(図-6)。
 

工事写真台帳上で電子マーカー表示のオンオフ切り替えが可能

図-6 工事写真台帳上で電子マーカー表示のオンオフ切り替えが可能



【デジタル野帳 eYACHOforBusiness】株式会社 MetaMoJi

 

■概要

 
次版のデジタル野帳「eYACHOforBusiness(以下eYACHO)」では一般財団法人日本建設情報総合センター(J A C I C)の工事写真作成基準改定に伴い工事写真作成機能にレイヤ化を導入し、注釈(アノテーション)を付与する機能を追加する。これにより電子納品向け工事写真の解釈・説明コス トを低減して業務効率化を促進する。

■レイヤ化による工事写真へのアノテーション

 
eYACHOはすでに、JACICの工事写真作成基準に準拠し、電子納品に利用できる工事写真の作成機能を提供し
ている。プリセットされた帳票上で項目を選択・記入するだけで工事計画に沿った工事黒板や工事写真票をノート上にあらかじめ、あるいはその場で直接準備することができ、現場での工事写真撮影をスムーズに進められる。(図-7)。
 

プリセットされた帳票に項目を選択・記入して電子黒板を自動作成

図-7 プリセットされた帳票に項目を選択・記入して電子黒板を自動作成



eYACHOにはもともとノートに追加した写真上に手書きによる説明を加える機能があるが、工事写真の撮影後に画像を編集すると改ざん検知機能のチェック対象となるため、工事写真については書き込みを許しておらず、検品する側は証明される現場情報を画像そのものから読み取るしかなかった。工事写真レイヤ化に伴い、次版のeYACHOでは写真撮影と信ぴょう性適用処理の間に注釈(アノテーション)を作成する機能を追加(図-8)。電子納品向け工事写真そのものに補助線や説明文、どこが注目箇所かを書き込むことができ、納品側・検品側双方のコミュニケーションコストを低減する。
 

工事写真レイヤー化によりアノテーション機能を実現

図-8 工事写真レイヤー化によりアノテーション機能を実現



■「写真にそのまま書ける」手書きの直感性

 
eYACHOの工事写真アノテーショ ン機能では、紙に書く感覚で直線や円形・矩形、手書きの囲い線や文字を写真上に直接書き込むことができる。証明する鉄筋がどこにあるかを示すリボンの着脱など写真の視認性を高めるための手間をかけなくても、検品側に見るべき場所と内容をはっきりと示せる。ペントレイ上の複数のペン(豊富な色・太 さ・ペン先を搭載:図-9)を用途に合わせて選び、短時間に意図どおりのアノテーションを完成することができる。
 

豊富な色・太さ・ペン先で意図どおりの手書きアノテーション

図-9 豊富な色・太さ・ペン先で意図どおりの手書きアノテーション



■確認したいレイヤだけを表示

 
信ぴょう性適用処理の完了後は「被写体画像」レイヤと「黒板画像」レイヤに改ざん検知機能が適用され、工事写真の信ぴょう性を保証する。従来は被写体と黒板を一体の画像として保持したが、今後はこの2層と「アノテーション」レイヤの画像をeYACHO上で個別に選択して表示でき(図-10)、納品後にも黒板部分や注釈が重なる部分の被写体写真を確認することができる。
 

確認したいレイヤーだけを選択して表示

確認したいレイヤーだけを選択して表示




 

デジタル工事写真の高度化に関する協議会

 

【出典】


建設ITガイド 2021
BIM/CIM&建築BIMで実現する”建設DX”
建設ITガイド_2021年


 



デジタル写真管理情報基準の改定について -工事写真のレイヤが可能に-

2021年8月5日

 

はじめに

国土交通省の土木工事においては、工事着手前および工事完成、また、施工管理の手段として各工事の施工段階および工事完成後目視できない箇所の施工状況、出来形寸法、品質管理状況、工事中の災害写真等を写真管理基準(案)に基づき撮影し、提出するものとされている。
 
工事写真は、古くはフィルムカメラにより撮影されたものを印刷して提出するものであったが、技術の進歩に伴いデジタルカメラで撮影した写真原本を電子媒体で提出することが一般的となり、平成29年2月より、ICT技術の活用による、電子小黒板の使用や映像による提出もできることとしている。
 
このようにデジタルカメラの画像に情報を付加する技術が進歩し、作業の効率化が図られることから、令和2年3月には「デジタル写真管理情報基準」を改定し、工事写真のレイヤ化の技術を活用できるようしたものであり、本稿において概要を紹介する。
 
 

工事写真のレイヤ化について

工事写真のレイヤ化とは、撮影した写真の映像データに黒板の画像や注釈画像を個々に別レイヤとして重ね合わせることにより、写真に情報を重ね合わせることができる技術である。なお、工事写真および電子小黒板についてはおのおの異なるレイヤとすることにより、それぞれの信ぴょう性を確保するものとし、注釈画像のレイヤのみ変更可能な領域とする。
 
実際の使用例として、施工中の配筋の確認においては、写真撮影時に目印となるマグネットやロッドを設置する必要があり、現場作業が煩雑になるが、注釈画像のレイヤ上にこれらの情報を表示することにより、現場における目印の設置が不要になり、作業時間の大幅な短縮による生産性向上効果が期待される(図-1)。
 

工事写真のレイヤ化

図-1 工事写真のレイヤ化




 

「デジタル写真管理情報基準」の改定

デジタル写真管理情報基準においては、従来は写真ファイルの記録形式は「JPEG」とされていたが、令和2年3月の改定により、写真のファイル形式を「J PEGやTI FF形式等」と変更した。これにより、レイヤ化した工事写真のファイル形式(SVG)による提出を可能とした(表-1)。
 

R2.3におけるデジタル写真管理情報基準の改定

表-1 R2.3におけるデジタル写真管理情報基準の改定


 

おわりに

今回の「デジタル写真管理情報基準」の改定においてはファイル形式による制限をなくすことにより、工事写真のレイヤ化を可能とした。 今後も同様にICTを活用した新たな技術の実装化が進み、工事における生産性向上や品質確保に寄与することを期待する。また、今後は画像データの活用に加え、映像データの活用や3次元点群データの活用、BIM/CIMとの連携により、より一層の建設現場における生産性革命が進むことを期待したい。
 
 
 

国土交通省 大臣官房 技術調査課

 
 
【出典】


建設ITガイド 2021
BIM/CIM&建築BIMで実現する”建設DX”
建設ITガイド_2021年


 
 
 



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