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2020年8月6日
はじめにプロジェクトにおけるBIM活用が進む中で、BIMをどのように活用するかを工夫することは、生産性の向上や品質確保にとって重要なことです。近年は、建築確認におけるBIM活用も進んでいます。日本建築センター(以下、「BCJ」という)と竹中工務店も、2017年に日本で初めて省エネ適合性判定の対象となる規模の建築物の建築確認と省エネ適合性判定においてBIMを活用した事前審査を実施し、その有効性や課題を整理するなど、建築確認へのBIM活用に積極的に取り組んできました。 検査の概要(1)検査対象建築物 BIM・MR検査の方法(1)中間検査 また、検査中の質疑は、現場の写真データも添えて共有クラウドのBIMモデルの該当部分に記録することで、質疑内容がより明確になるように工夫しました。質疑に対する回答(是正報告)も、回答文書に是正後の現場の写真データも添えて共有クラウドのBIMモデルの該当部分に記録することで、検査の経過が明確になるようにしました(図-2)。 (2)完了検査の方法 ①検査項目 完了検査(建築設備の検査)におけるBIM・MR検査の検査項目は次のとおりです。 1)空調・換気機器の設置状況の確認 2)配管・ダクトの各系統の接続状況の確認 3)延焼の恐れのある部分の位置の確認(延焼の恐れのある部分と設備開口の離隔の確認) 4)自動火災報知設備の感知器の感知区域や法定離隔距離の監理状況の確認 ②完了検査用BIMモデルの特徴 完了検査の検査用BIMモデルとしては、検査の効率化と的確性の向上のために、検査項目及び検査目的に合わせて以下の表示等をしたモデルを作成しました。 1)建築設備の種別や系統による色分け 建築設備は、外見が同じ又は似ている機器・器具や配管・ダクト等が多いため、外見のみで種別や系統を判別するのは困難です。そこで、空調・換気機器の設置状況の確認(①1))や配管・ダクトの各系統の接続状況の確認(①2))の効率化と視認性の向上を目的として、BIMモデルの建築設備を種別や系統ごとに色分けしました。 2)設計図書における補助線の表示 設計図書では、法適合の確認の効率化のために、延焼の恐れのある部分などの補助線を明示しています。しかし、実際の建築物や敷地には補助線は明示されていないため、通常の検査では、現場と設計図書を見比べたり、距離を測定しながら、各設備の設置位置の確認や妥当性の確認を行います。BIMモデルも、通常は補助線が明示されていませんが、今回は、BIMモデルにも補助線を明示し、実際の建築物に補助線を投影して確認できるようにすることで、検査ポイントの見える化と法適合性の判断の効率化を図りました。 3)監理値や監理記録の表示 完了検査は、工事監理者による工事監理の状況を確認することが検査方法の一つです。そのため、検査では、工事監理者の監理記録を確認したり、現場検査における測定や作動状況の確認等の結果と監理記録を比較することで、監理状況の妥当性を確認します。通常は監理記録と設計図書は別の図書ですが、今回は、自動火災報知設備の感知器の感知区域や離隔距離を監理記録としてBIMモデルに記録・表示することで、監理状況の確認の効率化を図りました(図-3)。 ③検査の実施 完了検査では、BCJ(検査者)と竹中工務店(受検者)の双方が検査用BIMモデルを投影させたHMDを装着し、受検者がBIMモデルをもとに設計(確認図書)内容や監理状況を説明しながらBIM・MR検査を実施しました。 検査者や受検者が見ているMR情報は、現場内の大型ディスプレイや持ち運び可能なノートPCにも表示しました。これにより、HMDを装着していない人や現場にいない人も、リアルタイムで検査箇所や検査内容を共有できるようにしました(写真-1)。 BIM・MR検査のメリットBIM・MR検査の実施による、検査者と受検者それぞれにとってのメリットは次のとおりです。 (2)受検者にとってのメリット BIM・MR検査の課題今回実施したBIM・MR検査の課題は次のとおりです。 まとめと今後の展望今回の取り組みにより、BIM・MR検査は、視認性を高めることで空間把握の確度が高まり、現地確認に時間を要する箇所の検査の効率化と的確な検査に繋がることが確認できました。また、共有クラウドを活用することで情報の一元化が図られ、検査者・工事施工者・工事監理者等の迅速な情報共有に繋がりました。この検査手法は、法定検査の省力化を図るだけでなく、自主検査、建物維持管理への省人・省力化へとさらなる効率化が期待できます。 一般財団法人 日本建築センター 確認検査部 設備審査課 主査 杉安 由香里
株式会社 竹中工務店 東京本店 設計部 設計第2部門 設計4(アドバンストデザイン) グループ長 花岡 郁哉
建設ITガイド 2020 特集2「建築BIMの”今”と”将来像”」 ![]() |
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2020年8月3日
はじめに日本ファシリティマネジメント協会(JFMA)のBIM・FM研究部会は2012年9月に発足し、「BIM・FMガイドライン」の策定と新たなビジネスモデルの構築を目標に活動している。JFMAは、ファシリティマネジメント(FM)を「企業・団体等が組織活動のために、施設とその環境を総合的に企画、管理、活用する経営活動」と定義し、「ファシリティ(土地、建物、構築物、設備等)すべてを経営にとって最適な状態(コスト最小、効果最大)で保有し、賃借し、使用し、運営し、維持するための総合的な経営活動」と説明している。FMは組織のファシリティに関する永続的な活動である(図-1)。建築に関するFMの起点は、建築をつくるかどうかを判断する段階であり、建築のライフサイクルもここから始まると考えている。 ファシリティマネジメントのためのBIMガイドラインJFMAのBIM・FM研究部会が活動を始めた頃は、FMや建築の運用に関わる人たちにとって”BIM”という言葉自体が馴染みのないものであった。まず”BIM”という単語と考え方を広めることから始める必要があると考え、2015年4月に「ファシリティマネジャーのためのBIM活用ガイドブック」を発行した。このガイドブックでは、BIMの解説と国内外の先進事例を紹介し、FMとBIMが連携する可能性を示したにすぎなかった。実際にFMでBIMを使ってみようと思っても、何をすればいいか、何から始めればいいかが分からないという声が寄せられるようになった。FMでBIMを利用しようと考える人たちには、具体的な手法を示す手引書が必要であった。 BIMが活用できるFM業務先に述べたようにFMの業務は多岐にわたる。ガイドラインでは、BIMが活躍できるFM業務として以下の8つの場面を挙げ、それぞれで必要なBIMモデルと情報、進め方、効果などを説明している。 ③ワークプレイスづくり・区画管理 ⑤中期修繕・改修計画 ⑦修繕対応 ⑧運用管理サービス 維持管理でBIMモデルを活用するための必要なことこの①~⑧の場面ごとに、ファシリティマネジャーが必要する情報は異なっている。単に設計段階や施工段階でBIMモデルを作成したからといって、それがそのまま全ての場面で利用可能なわけではない。設計を始める段階で、ファシリティマネジャーと設計者が維持管理でBIMモデルを使うことや、その際にどのようなBIMモデルと情報を必要としているかを共有しておく必要がある。また施工者を選定する段階では、そのことを施工者に伝えておかなければならない。建築の引き渡しと同時にBIMモデルも引き渡されることが理想である。そのためには、それが実現できるプロセスと関係者それぞれの役割を明確にし、文書化して合意しておく必要がある。それがBIM実行計画(BEP:BIM ExecutionPlan)と呼ばれている。 維持管理でBIMモデルを利活用する際の課題要求通りのBIMモデルを受け渡され、実際に維持管理でBIMモデルを利活用していく上で、いくつかの課題がある。維持管理の期間は長い。建築が解体されるまで続く。維持管理の期間が長期にわたるからこその課題もあり、現時点で解決できないものもある。 おわりにJFMAのBIM・FM研究部会が活動を開始してから7年半が経過した。この間に建築生産の現場では、徐々にではあるが着実にBIMが浸透している。一方、維持管理をはじめとした建築生産以外の分野では、BIMへの関心が高まってはいるものの、活用は進んでいない。また設計・施工段階においてもFMという視点でのBIMモデルの利活用も進んでいない。巷ではAIやIoTに注目が集まり、都市レベルではさまざまな試みが行われている。次は建築がフィールドになると考えている人は多い。BIMによる建築のデジタル情報は、建築においてAI、IoTを活用する際の基盤となる。企画・計画段階から建築生産、維持管理を含めた建築のライフサイクルにわたるFM視点でのBIMモデル活用が一般化し、建築が新たな価値創造の場となることを祈っている。 公益社団法人 日本ファシリティマネジメント協会 猪里 孝司
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はじめに海外では、公共調達部門でBIMの利用が義務付けられたり、確認申請時にBIMデータの提出が義務化されるなど、国家戦略としてBIMの導入・活用を推進している国も出てきています。日本においても、2009 年頃から一部の設計事務所やゼネコンを中心にBIMの導入が進み始めましたが、2018年6月に閣議決定された「未来投資戦略2018」などの国の施策を受け、2019年6月には、官民が一体となってBIMの推進と利活用に向けた環境整備に取り組む「建築BIM推進会議」が設置され、BIMの普及と活用に向けた本格的な取り組みが始まっています。 日事連「BIMと情報環境ワーキンググループ」一般社団法人日本建築士事務所協会連合会(日事連)では、これからの事務所経営にはBIMの活用やICT能力の向上が喫緊の課題であると位置付け、2018年9月、「建築BIM推進会議」のスタートに先立って「BI Mと情報環境ワーキンググループ」を設置しました。そして、建築士事務所におけるBIM導入の意義や必要性・利点の整理、BIMの普及における課題を明らかにしながら、教育・学習システムの研究、BIM活用による建築士事務所の将来像や業務発展の方向性を検討するなど、建築士事務所だけでなく建築界に幅広くBIMが普及することを使命として、さまざまな活動を行ってきています。 アンケート調査の概要「BIMと情報環境ワーキンググループ」では、これまで建築設計プロセスや建築士事務所の運営にBIMを効果的に導入する上で必要な取り組みなどについて議論を重ねてきました。その中で、まずはBIMの導入状況を調査し、開設者や管理建築士が現状をどのように捉えているのか、また、すでにBIMを活用している建築士事務所が何を利点と捉えて運用し、何が課題であると感じているのかを把握する必要性があると判断しました。そして、今後のBIMの普及・促進に向けた基礎資料とするため、建築士事務所協会の会員事務所を対象に、以下に示す「建築士事務所のBIMとIT活用実態にかかわる調査」を実施することにしました。 アンケート調査の結果「建築士事務所のBIMとIT活用実態にかかわる調査」の内容は多岐にわたるため、ここではアンケート調査結果の内、特徴的な項目の内容についてデータとともに紹介します。 (2)導入しているBIMソフトウエア (3)BIMの活用範囲、BIMでよく利用する機能(導入事務所のみ) (4)活用方法の課題(導入事務所のみ) (6)BIMを導入・活用する上で希望する国や自治体からの支援 (7)BIMを導入・適用したことによる効果(導入している事務所のみ) (8)経営面でのBIMの導入・適用する上での課題(導入している事務所のみ) 導入や運用コスト、人材育成や習熟に要する時間などの課題も多く、まだ十分に普及しているとは言えない状況ですが、BIMを導入している事務所では効果を感じているという回答が90%近くに達しています。これはBIMを使用した実感でもあると考えられ、こうした体験の積み重ねが今度の普及・促進につながると期待しています。 アンケート調査の反響この「建築士事務所のBIMとIT活用実態にかかわる調査」結果は、2019年9月、日事連のWEBサイトでその一部が要約版として公開されました(http://www.njr.or.jp/list/01277.html)。そして、その内容は業界新聞やWEBマガジンなどで取り上げられ、建築士事務所のBIM導入率が30%であることに着目した記事が多数を占めました。また、設計実務での運用効果や事務所規模が大きいほど導入率が高いことを指摘した記事やBIM普及の阻害要因として導入や教育にかかるコスト、人材不足や活用にかかる時間と公的支援の必要性を取り上げた記事、BIMソフトウエアベンダーの価格政策に言及している記事なども見られました。 さいごに「BIMと情報環境ワーキンググループ」では、今後、事務所経営における効率化や業務改善の効果といった側面についても、さらに突っ込んだ調査と議論を行いたいと考えています。建築生産プロセスがBIMデータによってつながるようになれば、建築士事務所の業務も大きく広がり、設計者はプロジェクト全体をコントロールする役割が期待されるようになるでしょう。日事連では、今回のアンケート調査で得られた会員事務所の率直な声に向き合い、国やさまざまな業界団体などとも連携し、BIMの普及と活用のための活動を進めていきます。そして、BIMによって建築士事務所や建築業界をリードし、さらに建築業界を超えたメリットを社会全体にもたらすために貢献していきたいと考えています。 一般社団法人 日本建築士事務所協会連合会 BIMと情報環境ワーキンググループ 委員 繁戸 和幸
建設ITガイド 2020 特集2「建築BIMの”今”と”将来像”」 ![]() |
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