ASTIM
株式会社イエリード
所在地:札幌市北区
設立:2013年
従業員数:2名
主な事業内容:意匠/構造設計・監理
https://www.ielead.jp/

高橋 雅人 氏
札幌市に拠点を置く株式会社イエリードの高橋雅人氏は、意匠設計者としての経験を経て、安全性だけでなく意匠性の高い設計を目指すには構造の知見が不可欠と思い構造設計の世界へ足を踏み入れた。
日々進化する意匠性の高い建物の構造計算に対応するため任意形状の計算が可能な構造計算プログラムを求め「ASTIM」を導入した。
その経緯とグレー本ベースのプログラムとの違いについて話を伺った。
ASTIM導入の理由
木造構造計算を行っている設計者なら誰もが「この物件特殊な形状だな…どうやって構造計算しようかな…?」という物件に出会うと思います。
ASTIMはまさにそのような特殊な形状の構造計算において本領を発揮いたします。
最大の利点は斜め軸や多層の床面も入力できるというまさにグリッドフリーな任意形状のモデル化が可能なことです。
限られた条件の中で空間を最大限有効に活用するため意匠設計者さんも創意工夫して日々素晴らしい建物を考え出されますが、構造設計者としてはグレー本の計算ルールの中だけでは対処に困ることが多々ありました。
例えばツインタワーや複雑形状、スキップフロアやくびれのある建物、大きな吹き抜けなどの不整形な形状です。
グレー本2017年版での記載はわずかP274~281だけに抑えられている特殊な形状の建物です。
そのような時、構造設計者はゾーン分割と検定比の比較などで対処されることが多いと思いますが、作業の手戻りが多くストレスがかかる作業です。
また確認機関の審査官の判断一つによりモデル化の変更も余儀なくされることもあります。
私はそれが嫌で、グレー本のルールに縛られない自由な形状の構造計算を行いたいと思いASTIMを導入いたしました。

水平構面11層のスキップフロア骨組図 水平構面11層のスキップフロア平面図

水平構面11層のスキップフロア3D
最初の壁
ASTIMを使用し始めた当初、使い慣れていたグレー本ベースの木造構造計算プログラムとの違いに困惑した点が二つありました。
一つ目は軸組の接合部の諸定数と拘束条件の決定です。
その理解不足により立体架構モデルを構造的に安定させられず計算をするたびに建物が不安定でエラー続きとなりその対処に悩みました。
その解決には、グレー本と木質構造設計基準・同解説、およびASTIMのマニュアルを何度も見直しながら接合部に関して根本から再考することで対処できます。
その結果、木造軸組工法の柱・梁の仕口および継手の断面形状、勝ち負け、せん断耐力および引張耐力についての知識を深めることができます。
二つ目はASTIMではどんな複雑な形状でもモデル化できてしまうので形状の再現ばかりに捉われてしまい不要な検討に翻弄されてしまったことです。
一例として軒桁より上の小屋のモデル化の再現をどこまで詳細に行うべきかなどがあります。
通常の住宅規模だとグレー本では小屋組は4m以内の雲筋交いにより計算上剛体で小屋束から母屋、梁に鉛直荷重が流れるくらいの計算となっているかと思います。
ASTIMでは小屋まで忠実に柱・梁材と変形を抑えるための筋交い、耐力壁など際限なくモデル化できてしまうので、使い始めは手間ばかりかけて深みにはまっていたような気がしますが、これは複雑な架構でも、モデル化の重要な要素を見直し、取捨選択することで解決できます。
そのような経験と苦労から逆にグレー本が複雑で多様な木造の形状を一定の条件に当て込み構造計算者が簡単に計算しやすいように考えられた優れた計算方法なのだと認識させられました。

ツインタワー平面図

ツインタワー3D

ツインタワー解析図
ASTIMの強み
ASTIMの強みは何といっても任意形状のモデル化ができることですがもう一つは柔床の計算ができることだと思います。
木造の許容応力度計算では一般的に剛床仮定が成立している前提での計算方法となっています。
しかしASTIMの場合は水平構面を柔床として計算できるので床の変形を考慮した計算ができます。
そのため耐力壁線間が広い場合や床のせん断耐力が小さい場合は床の中央が大きく変形します。
床が変形するため偏心率が小さいバランスの良い建物だとしても各耐力壁への力の伝達の割合が均等とはならず、負担の大きな壁、小さな壁も発生するので現実に近い挙動を再現でき、より安全に検討ができていると思います。
また柔床により床面のねじれや変形が考慮できるためグレー本では対応が難しい不整形な建物でも計算が可能となります。
さいごに
グレー本は分かりやすい解説書ですが不整形の検討に関してはゾーン分けを行うか立体解析にて検討を行うのが望ましいくらいの記載しかありません。
そのためASTIMの使い始めは暗闇の中を模索しているような気になるかもしれませんが、諦めずに簡単な形状の建物からでも試してみるとよいと思います。
困って解決した数だけ理解が深まると思います。
ASTIMを使って得られた立体解析のノウハウは今では一番の財産だと思っています。
ASTIMは、決して簡単で入力しやすいユーザーフレンドリーなプログラムではありません。
しかし、構造計算プログラムの入力が楽ということは、裏を返せば複雑なモデル化や計算ができないことを意味します。
ASTIMは複雑なモデル化や計算が可能なため、入力は簡単ではありませんが、その代わりに詳細な検討ができます。
性能重視のスパルタンなプログラムですが、簡単な建物から複雑な建物まで幅広く対応できるため、私は非常に気に入っています。
また、ASCALも所有していれば、木造とRCの混構造も一貫して計算できるため手戻りが少なくて済みます。
これは構造設計者の実務において非常に有難いです。
今後の4号特例縮小に伴い、より意匠性の高い複雑な建築物の構造検討が増えてくると思います。
私の中では今後ますますASTIMの出番が増えることになると期待しております。
最終更新日:2025-05-28
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