「V-nasClair」/「Kit」シリーズ
株式会社長大
所在地:東京都中央区
設立:1968年2月
資本金:10億円
従業員数:943名(2023年9月30日現在)
主な事業内容:国内外インフラ設計・整備、地域開発、
その他社会環境改善に関わるソリューション ほか
https://www.chodai.co.jp/

社会基盤事業本部
齋藤 弘志 氏
株式会社長大は創立以来、経営理念として「社員の創造性と、相互の信頼を育み、美しく、快適な地球環境づくりに邁進する世界の技術と頭脳の会社を創造する」を挙げ、そのキャッチフレーズとして「人・夢・技術」を掲げ、豊かな自然を生かしながら人が「夢」を持って暮らすことのできる生活基盤を創造し支えるために技術の研鑽に励んできた。
そして、この技術を活用して、さらに安全に、安心して暮らせる社会の実現に向けて、あらゆる生活基盤に関わるサービスを提供し、ステークホルダーの期待と信頼に応える努力をしている。
はじめに
真に建設業界の生産性向上を実現するためには、業務プロセスの抜本的な改革を行わなければならない。
この課題にひた向きに取り組み、日々挑戦を続けているのは株式会社長大(以下、長大)社会基盤事業本部の齋藤弘志氏だ。
建設コンサルタント業界のトップランナーとして一線で活躍する長大だが、その技術力を生かして、電線共同溝3次元設計システムの技術監修を務めた。
2022年7月、川田テクノシステム株式会社(以下、KTS)との連携により誕生したシステムが「MAISETSU_Kit」「DENKYO_Kit」である。
これらのシステムを活用して、長大は電線共同溝設計プロセスを革新的に省力化し、かつ設計品質の向上を実現した。
本記事では、従来の2次元設計と比較した3次元設計の利便性について、齋藤氏へのインタビュー形式でお届けする。
3次元設計システム導入により、業務プロセス70%省力化
システム開発に至った経緯について、お聞かせください。
齋藤氏:設計者が直感的に、電線共同溝の素案作成ができるシステムを求めていました。
電線共同溝業務は各関係者との協議・調整が非常に多いため、それだけ設計の修正が多く発生します。
その修正を一つ一つ手作業で行うことに、正直かなり骨が折れていました。「作図作業を自動化して、作業手間をなくせるシステムがあれば…」そんな思いを抱えていたところ、かねてより3次元設計システムの開発に尽力していたKTSさんと構想が合致して、本格始動したのです。
本システムの魅力はどういった点でしょうか?
齋藤氏:今まではやはり、度重なる修正作業の手間がネックとなっていました。
3次元設計では空間情報が一元化されているため、作業の手戻りが大幅に削減されます。
モデルを修正すれば縦横断図も追従するので、さまざまな検討案を短時間で作成することができます。
さらに、従来の2次元設計ではかなわなかったシステム内でのマニュアル適合性のチェックも可能になったので、省力化を図りつつ生産性向上につながったのだと思います。
発注者からもご好評だったという、実物件での活用事例についてお聞かせください。
齋藤氏:近年、国土交通省から発注される詳細設計業務では、電線共同溝設計に限らずBIM/CIMモデルの作成が求められます。
しかし、従来どおり2次元で設計した図面を3次元モデルに起こす方法では、結局作業手間が増えてしまいます。
完成イメージの共有という点ではBIM/CIMのメリットを感じる一方で、作業量は増加している歯がゆさを感じていました。
そんなBIM/CIMの課題を解決するべく、現在は設計着手段階から3次元設計を積極的に導入し、2次元設計⇒3次元モデル化に要する作業手間を減らすことでBIM/CIMモデルの作成工程についても合理化を図っています。
また2024年度局長表彰を受賞した高崎河川国道事務所の電線共同溝設計業務では、BIM/CIMの作業に充てられる時間が少なかったのですが、「DENKYO_Kit」と「MAISETSU_Kit」を活用したことで、スピーディーなモデリングができました。
また、作成した3次元データは2次元図面に書き出すことが容易なため、2次元⇔3次元の作業手戻りを大幅に短縮することができ、最大限のパフォーマンスを発揮できたかと思います。
特に橋梁や大型排水施設との交差部における電線共同溝整備は、管崩しなどにより管路線形が複雑になります。
従来の2次元設計では表現が難しかったのですが、「DENKYO_Kit」を活用して3次元で管路線形を作成することで、設計の品質を高めることができました。
管路線形を可視化できるので施工イメージもつきやすくなると思います。

表-1 2次元設計/3次元設計の作業日数比較
従来の2次元設計と比較して、どの程度の省力化を実現しましたか?
齋藤氏: 電線共同溝設計業務を従来の2次元設計で行った場合と「MAISETSU_Kit」「DENKYO_Kit」を活用して3次元設計で行った場合にどれくらい時間が短縮できるのかを検証したことがあります。
平均作業日数は3次元設計で行った場合の方が、3分の1以下となることが分かりました(表-1)。
単純に作図作業だけを見ても、本システムを活用することで約7割の作業効率化となる計算です。
修正作業や協議の工程も考慮すれば、より差がつくと思います。
また2次元設計の場合、そこから3次元モデルを作成するにはさらに作業時間がかかります。
当初から3次元で設計をしていれば、必要に応じて3次元モデルを抽出したり、2次元成果品を自動生成したりできるので、大幅な省力化が期待できます。
3次元設計の課題としては、設計初期段階におけるインプット作業が多くなる傾向があります。
例えば地形モデルの作成や、埋設物の管径や土被り設定などの処理が必要になります。
一度設定してしまえば、その後の設計作業は簡略化できますが、初期段階の作業をいかに効率的に実施できるかが重要になります。
今でも合理的な方法を模索しながら対応しているところです。
誕生から2年、進化を続けるシステム
直感的な電線共同溝設計を可能とする「DENKYO_Kit」と「MAISETSU_Kit」は、リリース後もバージョンアップを重ねている。
埋設物用の属性付与により、任意の3D要素の干渉チェックおよび各種2次元図面への反映が可能となった。
また工区別に作成した設計モデルを統合できるようになり、協働設計・並行作業を実現した。
さらに、2次元平面上に仮置きした埋設モデルに対して、工期途中で取得した3次元地形測量データの差し換えを可能としたことにより、タイムラグを解消した。
長大はこれらの機能を活用し始めて、さらなる効率化を図っている。
システム導入当初からの進展について、お聞かせください。
齋藤氏:開発当初から作成できるモデルの種類が増えて、より幅広い業務に対応できるようになったと思います。
また引込・連系管など、より詳細な作図が可能となりました。今後もKTSさんと協議を重ねてブラッシュアップして、実業務に生かしていきたいと考えています。
今後の課題と展望
3次元設計に取り組んでいく中で、課題に感じていることはありますか?
齋藤氏:「DENKYO_Kit」と「MAISETSU_Kit」を活用することで、電線共同溝の基本図面(平面図や縦横断図)の作成については大幅に生産性が向上することは間違いないと思います。
しかし、成果物としては平面図や縦横断図などの基本図面以外にも構造図など、両キットでは作成できない図面も必要になりますので、適所で両キットを活用しDXとアナログのやり方をバランスよく導入していく必要があると感じています。
両キットはKTSさんの尽力により随時バージョンアップが施されているため、従来のアナログ作業の部分が徐々に解消し、より利便性の高いシステムに仕上がっていくと思います。
本システムを活用することで最終的にはBIM/CIMに関わる費用も抑えられるので、発注者にとってもメリットがあります。
システムの普及と、それを扱える人材育成が今後の課題ですね。
3次元設計に踏み切るには、心理的にもハードルがありますよね。今後の展望をお聞かせください。
齋藤氏:数年前の弊社もそうでしたが「いつかはDX化をやらなければいけない」という危機感は持ちつつも、「新しいシステムに慣れるまでに時間がかかる」、「誰かがやってくれるだろう」という、どこかひとごとの意識があるのかもしれません。
通常業務をこなしつつも新しいシステムを導入するのはそれだけで心理的にも体力的にも負担になります。
特にDX化は若手技術者に矛先が向かいがちですが、われわれのような中堅技術者が積極的に推進していかないといつになってもDX化は進みませんし、気付いたときには他社に大きな後れをとり競争力を失うことにもなりかねません。
このような状況を打破するためにも、概略設計や予備設計など比較的システムを導入しやすい業務において積極的に活用促進を図っていきたいと考えています。
システム利用による実績やメリットを積極的に発信して、社内での利用率向上のためのモデルケースとして先導していきたいと考えています。
さいごに
今回は電線共同溝設計における3次元設計のパイオニアに、その利便性についてお話を伺った。
2024年2月、長大の技術監修により、道路排水計画システム「DRAIN_Kit」が新たに誕生した。
電線共同溝に限らず、「従来の2次元設計ができる感覚で、最大限に3次元のメリットを生かせる」システムを志している。
実務者とともにトライアンドエラーを繰り返しながら、建設業界全体におけるDX化が、われわれの使命である。
最終更新日:2025-05-28
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