一貫構造計算プログラム「ASCAL」
会社概要 田辺建築構造研究室
所在地:大阪府泉南市
主な業務内容:建築構造設計および監理
主に建築構造設計を手がける田辺建築構造研究室では、それまで否定的だった一貫計算プログラムを導入した。耐震偽装事件をきっかけに2007年に改正された建築基準法による適合性判定制度が始まったためだ。実際に導入して何が変わったのか、どんなメリット・デメリットがあったのかを伺った。
田辺 壱 氏
ASCAL導入のきっかけ
「構造屋をダメにしたのは一貫計算プログラムが原因だ」と一貫計算ソフトには否定的で、自作プログラムで計算していた私も、耐震偽装事件をきっかけに適合判定制度ができてからは、これも時代の流れと覚悟を決めて導入の検討をしたのが、今から3年前でした。
個人設計者としまして100万も200万もするメーカーのソフトは二の足を踏んでいました。そんな時建築雑誌で見たASCALはキャンペーン中ということで、解析規模が制約されない50万円台の価格は大変魅力的でした。
早速代理店を訪れ購入を決めました。そのキーポイントは
1)どんな形状でも解析できること
特に階の途中から中間階が設定できるということが最大のポイントとなりました。と言いますのは、私が依頼を受ける建物は屋根裏階に中2階をつくり、そこを倉庫にすることが多くありました。他のメーカーのソフトではこの層の設定での層間変形角、剛性率がうまくいかなかったのですが、その点ASCALは非常にうまくいきました。
2)保有水平耐力算定での復元力特性図が実用的に使えること
それまで使っていた簡易な弾塑性解析プログラムでは、出力されたPδの値を手書きでスケルトンカーブにしていましたので、一貫計算より連続して出力される図によってその労力を軽減したかったためです。ASCALでの出力図を見てこれは何とかいけるのではないかと感じました。
他のメーカーの一貫計算は身近な人も使っており、大体の感じは分かっていたのですが、全く知らないASCALを導入するのは、期待と不安が交錯していました。いやむしろ不安の方が大きかったかも知れません。
しかしその不安とは裏腹に大変良い結果を得ることができました。以下その過程を記します。
初めて使ってみて
いざ使ってみました。
最初はS造3階建ての円形の玄関が接続する住宅でした。正直言って入力に非常に戸惑いました。特に荷重の層指定はなかなかなじめませんでした。小梁とかスラブの入力も一つ一つ入力していかなければならず、他の一貫ソフトでは一瞬にしてできるものもありましたので、便利が悪いなーと思ってしまいました。
しかし後日もっと複雑な形状を設計した時、この一本一本の入力方法だからこそどんな形状にも対応できることが分かり、この方法で納得しました。面倒と思っていても、慣れてしまえばそんなに時間はかからなくなりましたし、むしろどのような形状でも自由に
設定できる方が設計者にとってははるかに大きなメリットがありました。
また、一貫計算では計算は正しくとも入力が間違ってしまえば元も子もありません。その点3Dのグラフィック表示は大変有用でしたし、お施主さんへの構造説明にも十分使えました。積載荷重、スラブ荷重、壁荷
重と荷重の内訳を個別に出力してくれるので、入力の確認が容易でした。
初めての上に複雑な形状でしたので、四苦八苦しながらでしたが何とか期限内に仕上げ、確認申請、適合判定に進みました。審査者は慣れないようでしたが、特に大きな問題もなく仕上げることができました。
いろいろ使ってみて
その後、主に鉄骨造を2~3棟立て続けにしました。慣れたところで当初の目標であった弾塑性応答解析に取り組みました。当初はASCALで出力された層間変形角曲線でしようと思っていたのですが、ASCALのオプションでこの曲線を正確に書いてくれる「ASCAL-QDM」があることを知りました。価格は10万円でした。他のメーカーも調べましたが、個人の私に手が出るような値段ではありませんでした。QDMを早速購入し、一貫計算から連続してスケルトンカーブを求め応答解析を行いました。応答解析ソフトは他社のものを使いました。このQDMもその設定とかは少し工夫は必要でしたが、何度か試行錯誤して使えるようになりました。
この応答解析までの一連のシステムをもって延床面積14,000㎡、スパン36mの大空間のある5階建ての鉄骨造を設計することができました。
設計を始めてから、私もいつかは大手事務所さんがされている動的解析による設計をしてみたいと思っておりましたが、そのソフトの高価さから半ばあきらめていましたが、このASCALの一連のソフトより、個人の自分でもできるようになりました。いっぱしに「レベル1」あるいは「レベル2」の設計をお施主さんに説明できるところまできました。
この振動解析の中で分かったことですが、ASCALに入っている固有周期の計算は大変正確のようです。他社の振動解析専用のソフトで行った結果と合致していました。これはとても重要なことで、これを使ってモーダルアナリシスによる弾性応答解析ができます。また、ASCAL上で出力される剛性マトリクスはこれから振動解析を勉強しようとするものにとってはとても良い生きた勉強材料になると思います。
さらには、自分の設計したものがどのくらいのコストなのか気になるものですが、都合よくASCALには数量積算の機能がありました。これは私がASCALを導入した当初は、鉄骨造はあまりうまく作動していなかったようですが、昨年から「ASQUAN」としてバージョンアップされてからは様相が変わりました。大変洗練された出力方式となり、がぜん威力を発揮してくれました。これもプログラム売出し中に安く手に入りました。
これにより自分の設計した建物の鉄筋量、鉄骨量をそのケースごとにデータ化し、大きな間違いはしていないかの検証、コスト的にどうなのかの検討ができ、説得力のある自信を持った設計ができるようになりました。
そして低層ではありますが片側土圧のかかる壁式構造の建物を頼まれました。これも整形ではなく、高さがでこぼこしており、部屋も複雑に入り組んでいました。それまでの経験により入力はどうこうはありませんでしたが、5m以上の片側土圧を受けるため、基礎が通常のピン支持ではどうしてもうまくいきませんでした。これには支点に地盤バネを設定することにより、矛盾なく設計できました。この地盤バネの設定や位置指定が自由にできるのも大きなメリットと感じました。
3年間使ってみて
上記の文面では書ききれていませんが、これまで使ってみて次の感想を持っています。
1)楽して構造計算しようと思う人は合わないかもしれません(他のメーカーさんのものより操作が少しややこしいかも知れない)。
2)一貫計算で構造計算のなんたるかを勉強しようと思う人、特に支点条件・荷重条件などいろいろ変えて、力の流れから検討してみたい人にはうってつけかも知れません。
3)上記に述べたように振動解析にも分野を伸ばしたい人は、QDMを使えばできます。弾塑性応答解析プログラムも高価なものでなくてもフリーソフトを使っても十分いけます。
4)このQDMを使えば限界耐力計算もソフトを購入しなくともいけると思います(現在取り組み中)。
5)使えば使うほど味の出るソフトです。
おわりに
以上が使ってみての感想ですが、人間のすることですから全てが完全とは限りません。プログラムミス、機能ミスがあるのも事実ですが、これはある程度やむを得ないと思っています。
私は一貫計算構造計算プログラムを使った場合必ず、荷重の確認、応力の確認、大雑把な断面の確認を行います。時には自分で作ったプログラムと比較して数値の確認をします。その作業の中でいくつかのASCALの不具合を見つけ修正のお願いをしたこともあります。
メーカー側は不具合のないプログラム作成に努力していただくことはもちろんですが、ユーザー側が(旧・大臣認定の)一貫計算ということで盲目的に信用したり、あるいは何か問題があった時、プログラムのせいにするのは、設計者のとる態度ではないと思っています。不具合な事項も含めて全て自分の責任で使用しなければいけないと思います。
現在、社会を取り巻く状況は監査社会とも呼ばれ、その精密な検証が重要視され、一貫計算プログラムなくして構造設計は考えられない時代になっています。モデル化の試行錯誤が容易なASCALを自分のツールとして常に研鑽を積み社会に貢献したいと思います。
最終更新日:2012-03-22
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