ARCHICAD
一級建築士事務所 株式会社 カクオ・アーキテクト・オフィス
左から
代表取締役・建築家 松村 佳久男 氏
設計室長 青嶋 務 氏
設計担当 小嶌 俊輝 氏
所在地:京都市下京区
創業:1997年2月
従業員数:5名
主な業務内容:建築設計・監理、企画、デザインコンサルティング業務。住宅、集合住宅、店舗、企業施設、ショールーム、医院、旅館など。
http://www.kakuo.jp
京都市下京区の株式会社 カクオ・アーキテクト・オフィスの代表取締役 松村 佳久男氏は、手書きからCADへの移行期を知る建築家だ。同氏は早い時期からBIMの有効性に着目し、8年前にARCHICADを導入した。施主や施工者とのコミュニケーションに威力を発揮するとともに、今ではBIMモデルを基にVRを使った手法も取り入れているという。今回は、設計におけるBIMの有効性について、話を伺った。
カクオ・アーキテクト・オフィスの設計手法
弊社は「ARCHICAD」「Artlantis」を導入して8年目になります。建築家・高松伸建築設計事務所での修行時代に、手書き図面からCAD図面への過渡期を過ごし、双方のメリット・デメリットを経験したことから、BIMによる設計作業が単なる2次元情報のCAD化(清書)ではなく、新しい時代の設計手法として期待できるのではないかと着目していました。
現在は、それらのソフトウェアを巧みに使い、施主とのコミュニケーション中から上質なデザインを導き出す設計手法を確立しています。「頭と手」から生まれたアナログ的感性をデジタルに置き換え「多くの高品質な空間を創出すること」が3D設計の要であると考えています。
設計過程
「条件の整理」手書きのスケッチで、想いをカタチに…
建設に当たり、施主は沢山の夢や想いをお持ちです。要望をお伺いすると、現実との差異や矛盾が沢山生じますが、あまり気にせずお話しいただきます。われわれは話の背景や経緯、お話しされている時の表情や声のトーンから、何をどうしたいのか、五感を使って読み解きます。
雑談も含め、沢山対話しているうちに、機能性、デザイン性、将来性を見据えた上で、結局どうなったら良いのかというビジョンが不思議と見えてきます。
手書きスケッチ
「現場の確認」設計条件シートの作成
おおよその考えがまとまったところで、現場に足を運び検討を行います。設定条件、近隣との関係性、眺めや周りからの視線、日当たり、風の流れなどを考慮し、実現性を検証します。
「思考過程」ARCHICADにて、3D – ホワイトモデルでラフ案を検証
優秀なたたき台が、プロジェクトの原型になります。
これらは、空間の特性やスケール感を客観的に理解する作業で、床の素材と外構の植栽、空以外は全て「白色」の3Dオブジェクトで構成します。
3D-ホワイトモデル
「無理、無駄のない必然性によるデザインを導き出す=説得力がある」
何をコンセプトに、何を達成しなければならないのかを考え、デザイン・アイデアを練ります。ポイントは、過去の経緯と未来のビジョンを検証して、現在の在り方を提示すること。また、部分と全体のトータルコーディネートが求められます。ホワイトモデルの3D空間を自由に歩き回り、空間の心地よさを想像力で確認しながら「無理、無駄のない必然性によるデザイン」を達成するまで、自問自答を繰り返します。
3D-デザイン検討モデル
「アイデア、センス」を感じてもらう。ArtlantisのレンダリングでリアルなCG表現
プレゼンテーションでは「アイデア、センス」を感じてもらい、施主と考えの共有を図ります。共有できたかどうかの判断は「なるほど!」という施主の声が頼りです。われわれは常に言葉で表現できない何かを求められています。相手の五感に訴えかける感覚は、2次元の図面ではなく「リアルな3D表現」によって伝えることができます。
基本設計・実施設計でのBIM活用
「分かりやすさ」ARCHICADの3D表現が意思疎通をスムーズにする
完成された3Dオブジェクトから切り出す2D設計図の作成は、施工会社との共有が目的であり、積算根拠の資料であると考えています。手書き図面の頃は、無意識に鉛筆の筆圧、太さなどから設計者が伝えたいニュアンスが伝わっており、見る方は情報がすっと頭に入ってきました。CADが主流になってからは、図面が均一になり、強調したい箇所の伝達、ニュアンスの共有が難しくなったといわれます。メリットは、コピー&ペーストにより効率化が図れること。デメリットは、経験の浅いスタッフが書いた図面でも、納まってないのに納まっているかのように感じられ、後にそのツケが回ってくることでしょうか。ARCHICADは、部材の3Dオブジェクトを建設現場とほぼ同じ工程で構築するため、設計者が事前に問題改善を図れるなど、無理、無駄のない作業環境が設計段階で検証できます。
「費用対効果」ARCHICADの3D表現で適正な工事金額に
施工会社の見積りについてですが、作業工程や納まりが不明瞭な場合、安全を見て高めに設定されてしまうことがあります。また、逆の場合は、心理的に安く見積られるケースもあるようです。建設コストは、職人の作業手間をどう反映するかで、そこそこ差が出ます。われわれは、2D図面に3D解説図を添えて、情報を分かりやすく伝えることで、適正な金額を導き出します。
実施設計図(3D解説図付)
現場監理におけるBIM活用
特に工期の厳しい現場では、現場監督や作業員にも3D表現で伝えるのがスムーズです。現場とイメージを共有することで、経験に基づいた効率の良い、安心で安全な収まりが提案されることがあります。また、現場での評価は上々で、特に断面パースをプロジェクターで投影すると歓喜の声が上がります。特に、天井高を梁成ぎりぎりまで高くしたいケースや、複雑なダクト経路の納まり確認などに有効で、不可能と言われた事項を、可能にしてきた実績が多々あります。他にも、施主の承認を取りやすく、後に思っていたモノと違うというトラブルは有りません。
施工検討図(3D解説図付)
バーチャルリアリティ(VR)が、空間の質を向上する
近年、海外物件の設計依頼の声がかかるようになりました。今後も3D設計を活用して現場とのコミュニケーションを発揮する機会が増えると予想しています。特に現場運営が不安定なアジア圏では、現場監督の不在、未熟な職人のスキル、設計図を見ない、大工職人がそれぞれの考えで施工するケースもあります。
3D設計の利点は、パソコンの中に仮想(バーチャル)で建物を建設することによって、理解が難しい箇所、注意しなければならない箇所について、沢山の3D画像で解説することが容易なことです。究極はプラモデルの組み立て解説図のようなもので、ARCHICADならそれは可能だと思います。「言葉の壁」「コミュニケーションの壁」を越えた建設現場の運営。ARCHICADを駆使すれば、われわれ日本の設計事務所が培ってきたスキルやセンスは、海外でも貢献できます。
また、国内の施工現場では、経験豊富な現場監督や職人が不足しており、外国人の雇用が進むなど、高い施工品質を追求することが難しくなっています。だから、建物の品質が保てないと諦めるのではなく、BIMという最新の設計ツールをフルに活用し、よりシンプルで、分かりやすく。諦めるどころか「さらなる向上」が期待できると考えています。
Artlantisを使ったリアルなレンダリングCG
竣工写真:京の焼肉処 弘 八条口店[ Photo:Yasunori Shimomura ]
最終更新日:2019-05-14
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