熱流体解析ソフトウエア「FlowDesigner」
日立グローバルライフソリューションズ株式会社
所在地:東京都港区(本社)
設立:2019年
資本金:200億円
従業員数:約5,500名
主な事業内容:家電品、空調機器、設備機器等の販売およびエンジニアリング・保守サービスの提供、デジタル技術を活用したプロダクト・ソリューションの提供
https://corp.hitachi-gls.co.jp/
設計2グループ技師 設計1グループ
山本 哲史 氏 安田 大輝 氏
家電品、空調機器、設備機器等の販売のほか、エンジニアリング・保守サービス、デジタル技術を活用したプロダクト・ソリューションの提供を行う日立グローバルライフソリューションズ株式会社。
空調ソリューション事業部では、2010年から「FlowDesigner」を導入し、設計する施設の気流を見える化して顧客への提案などに活用している。
導入の経緯や、導入による業務への効果などを、空調システムソリューションセンタ・設計グループの山本氏・安田氏に伺った。
気流の見える化できる魅力とスピード感が導入の決め手
日立グローバルライフソリューションズ株式会社・空調ソリューション事業部では、一般施設への空調機器の提案のほか、冷蔵・冷凍設備や再生医療施設などの設計施工・アフターサービスまでをトータルで展開している。
業務の性格上、温度や気流を考慮した設計は非常に重要であるものの、「実際に施工してからでないと温熱環境がどうなるか分からない」という課題を抱え、以前からシミュレーションソフトを利用して提案を行っていた。
しかし、シミュレーションの依頼を受けてから提出するまでに2~3週間かかってしまうこと、さらに実際の空気の流れがイメージしづらいという難点に頭を悩ませていた中、空気の流れを見える化でき、かつ圧倒的な計算スピードと安定性を実現しているアドバンスドナレッジ研究所の熱流体解析ソフト「FlowDesigner」の存在を知り、即座に導入を決めた。
「もともとは弊社へ営業に来た吹出口メーカーの方がFlowDesignerを使っていて、その場でモデルを作って20~30分で計算を行い、得られる結果を見せてくれました。そのスピード感に目を見はり、すぐに弊社でもソフトの導入を決めました」と当時を振り返る設計担当の山本氏。また導入直後の印象的なエピソードとして、自動ラック倉庫の冷蔵室の新築案件での例を次のように話す。
「自動ラック倉庫は収容量を確保するため、庫内に空きスペースが少なく冷却設備を設置する場所に制約が出てきます。このため、設計図を見たお客さまが『設備内に冷気が均等に行き渡らないのではないか』という懸念を持ち、いくら言葉で説明しても納得してもらえないといったことがありました。しかし、FlowDesignerで冷気の流れをシミュレーションしてお見せしたところ、一転して設計にOKが出ました。また、このケースでは、設計者からの解析内容の説明、モデル作成、解析、結果の検証含め、半日もかからなかった。短時間で提案材料が作れるのは魅力です」
「気流を短時間で見える化できる」というインパクトは大きく、これを機に同部署では気流シミュレーションの有効性が広く認識されることに。
直感的に操作できる点も評価ポイントとなり、2010年に1ライセンス導入したのを機に現在は4ライセンスに増加。東京と大阪にある設計部門で、年間で合計30~40件ほどのシミュレーションを行っている。
導入の効果①~気流の見える化による提案の差別化~
FlowDesigner導入による一番の効果は、やはり気流を見える化できること。先述の自動ラック倉庫の冷蔵室のほか、学校などの施設への空調設備の導入といった提案でも成果を上げている。
「エアコンを導入することでどのくらい施設が冷えるか、といったことを計算書などで示しても一般の方に理解してもらうのは難しい。しかし、FlowDesignerを使えば30~40分でモデルを作成し、お客さまがイメージしやすいものを提示することができます。既存の施設への空調の導入などは案件としては比較的容易なものになりますが、だからこそ競合他社ではソフBIMトを用いてのシミュレーションまでは行わない場合も多い。
こうした案件でもFlowDesignerを活用することで、契約に結び付くことがあります」(山本氏)
空調導入の効果を目で見てイメージできることは、顧客にとっても有益な事前情報となる。
こうした情報を提供された場合、発注先としての優先順位が高くなることは想像に難くなく、FlowDesignerが競合他社と差別化に寄与していることがうかがえる。
冷蔵庫内の空調解析
導入の効果②~工数と費用の削減~
FlowDesigner導入によるもう一つの大きな効果が、作業手間が減らせることと、それによる経済性の向上。
同部署では、医療・医薬品を保管する冷蔵庫など高度な品質管理が求められる施設の新築案件も多く、この場合シミュレーションは多くの回数を重ねることになる。
「医薬品は保管環境によっては変質、劣化があり、期待される効果が得られないばかりか、人体へ悪影響を及ぼす恐れがあるため、温度管理の基準が厳しく定められています。
冷却設備(室内機、室外機)が1台・1系統故障しても温度が乱れない設備の構築が必要になるため、各設備を停止させたシミュレーションも行います」(山本氏)
同様に多くのシミュレーションが必要になるケースとしては、温度精度が求められるクリーンルームや発熱量が多くなるデータセンターの案件などが挙げられるが、FlowDesignerではこうした場合でも簡単にシミュレーションが行え、かつ計算も短時間でできるため、時間と手間が減らせるという大きなメリットを生んでいる。
さらに、事前に気流のシミュレーションを行えることは現場での施工にも好影響があると山本氏は言う。
「もしシミュレーションをせずに施工して設備内に温度ムラができると判明したら、工事のやり直しも必要になってくる。FlowDesignerを使うことでこうしたリスクは回避できますし、またシミュレーションで事前に調整が必要になりそうな箇所が分かっていれば現場で効率良く作業が行えるため、工数が減らせます」
成層空調の効果検討
データセンター内の空調解析
設計施工を通じた省エネへの貢献を模索
FlowDesignerの開発元であるアドバンスドナレッジ研究所では、製品の活用により省エネやカーボンニュートラルに貢献することも目標としている。
今回お話を伺った日立グローバルライフソリューションズの空調ソリューション事業部でも、時代の変化やそれに伴う顧客の要求の変化に柔軟に対応するため省エネへの取り組みを始めている。
その一つの例が、人々が作業するエリアのみを対象に空調し、空調負荷を低減できる「成層空調」という技術の活用。
「従来の部屋全体を空調する全体空調から成層空調に変えることによって、低容量の空調設備で作業エリアに関して、同様の空調効果が得られることをFlowDesignerの気流解析で確認しています。
その結果、電気代を約3割程度軽減可能となる試算結果を得ています。
こうした提案が採用されれば、当部署としても省エネルギーに貢献できるかなと思っています」(安田氏)
このほか、過去に設計施工を行った施設からの「空調機の設定を1℃上げたら温度分布はどのくらい変わるか」といった相談にもFlowDesignerによるシミュレーションを活用している。
「特にデータセンターなどでは、現場で実際に空調の温度を上げてみて何か不具合があってはいけないのでFlowDesignerが役立ちます。既存の施設に対してもこうしたシミュレーションを行うことで、機器の更新や新たな導入などの提案にもつなげられます」(山本氏)
環境負荷の低減のみならず、施設が運用される中での課題にも寄り添った提案をできるところにFlowDesignerの可能性が垣間見える。
今後に向けて
熱流体解析ソフトの多くは海外製で、導入後のフォローなどが行き届かないこともある。こうした中貴重な国産ソフトであるFlowDesignerはユーザーとのコミュニケーションも重視しており、2003年のリリース以来ユーザーから寄せられる声を踏まえたアップデートを繰り返してきた。
今後はモデル作成の自動化や、パーツの登録機能などをより充実させるといった展開を、開発元のアドバンスドナレッジ研究所は見据えている。
山本氏も「使い始めた13年前から比べると格段に使いやすくなっている」と操作性に太鼓判を押すが、「今後はシミュレーション結果を一覧で比較できるような、結果の検証までカバーする機能が増えてくれれば」と、業務に欠かせないFlowDesignerへの期待を寄せていた。
最終更新日:2024-05-07
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