任意形状一貫計算プログラム「ASCAL+ASTIM」
桑島由美子建築設計事務所
所在地:大阪府大阪市
事業内容:建築構造設計
大阪市で建築設計事務所を営む桑島由美子氏は、独立開業後、特殊な案件での立体解析に株式会社アークデータ研究所のASCAL+ASTIMを使用している。一貫構造計算プログラムである「ASCAL」、木造一貫構造計算ソフト「ASTIM」、どちらもグリッドフリー任意形状のBIMシステムを利用した製品であり、自由かつ容易な入力で一貫計算が可能である。導入の経緯と評価について、桑島氏からお話を伺った。
ASCAL+ASTIMの導入
所属事務所から独立し、個人事務所を開設した際、一度に計算ソフトをいくつも購入することができなかったため、いくつか依頼のあった木造軸組構法と壁式鉄筋コンクリートの計算ソフトを購入しました。当時その他の一貫計算ソフトを必要とする物件が少なく、購入費や維持費を考えると採算が合わないため、期間限定でソフトをレンタルして対応していました。
そのような状況の中、平屋の木造物件の依頼がありました(図-1)。平面形状は六角形で、屋根面が三角形で構成されており、六角形の角にある柱脚から方杖が出ていて屋根を支え、かつその方杖で水平力も負担するというものでした。
接合部はホームコネクターを採用し、節点の剛性によっても抵抗する構造形式としました。
これまでにも木造畜舎の設計経験がありましたが、そのときには平面で応力解析を行い、Excelなどを利用した手計算で断面算定と接合部の検討を行いました。
しかし今回は立体解析を行わなければ実状に応じた計算は難しいと考え、共同で設計を行っていた事務所とも相談し、ASCALはどうかという話になりました。
これまでと同様、レンタルでの使用を検討していましたが、設計期間や今後のことを考えた上で、最終的に購入する場合には支払ったレンタル料を購入費に含めることが可能なレンタルのシステムを利用しました。
図-1 3D解析モデルA
ASCAL+ASTIMを使って
これまで使用してきた一貫計算プログラムとも、任意形状の応力解析プログラムとも入力方法が違うため、初めは形状の入力方法も分かりませんでした。設計例の添付もあり、解説も付いていましたが、限られた設計期間で余裕がなく、形状も特殊であったため、最初の物件に関しては形状入力サービスを利用しました。そのデータを用いて接合部の設定や部材検討、形状修正等を行い、少しずつ特徴が分かってきました。
その後、保有水平耐力検討の必要な鉄筋コンクリート造や鉄骨造の物件でも使用してみて、最終的に購入を決めました。
整形な建物での計算は他の一貫計算ソフトと大きな違いはなく、逆に節点や部材の設定など、入力の手間は多く、節点の定義をしていないと解析モデルに含まれないなど注意も必要です。しかし自由度は高く、中間層や斜面層が設定できるので、それを利用してトラス屋根の鉄骨造の保有水平耐力計算も行うことができました。実際の建物形状に合った計算結果が得られる点は大きなメリットだと思います。
使用例
当事務所での物件数が比較的多い木造で使用した例をご紹介します(図-2、3)。
木造軸組構法に特化した計算プログラムも併用していますが、傾斜軸などの入力ができないため、特殊な形状の場合はASTIMを使用しています。
木造軸組構法3階建て、延べ床面積約200㎡の住宅です。耐力壁は筋交いと構造用合板、2階が一部大屋根になっています。2階屋根は屋根梁の上に合板直張り、3階屋根は小屋梁の上に束、母屋、垂木の一般的な屋根構成です。
耐力壁の耐力および剛性は、部材断面による場合と壁倍率を定義する場合とを選択できますが、ここでは壁倍率で定義しています。床剛性も同様に床倍率で定義できます。耐力壁はせん断剛性のみを考慮するよう設定し、柱梁接合部は金物を配置します。柱梁接合部は何も設定しないと剛接合になってしまうため、柱金物の設定で曲げ剛性を0にし、引抜き金物の種類に応じた引抜き力と、ほぞ寸法から算出したせん断耐力を入力して、全ての柱がピン接合になるようにしています。
3階小屋組は、束と母屋を入力しますが、そのままでは不安定架構となります。実際の建物では側面の合板や雲筋交いを設置するので架構として成立しますが、設計段階でそこまで指示することはほとんどありません。そこで3階の屋根面については節点定義を行わないことで解析モデルに含めず、重量のみを考慮しています。
上記のように、一般的な木造計算ソフトでは定義する必要のない項目についても設定が必要ですが、立体解析により正確な応力分布が把握でき、不安定架構となる箇所も分かるので、より実状に即した計算結果が得られたと思います。
図-2 3D解析モデルB
図-3 2階平面配置図
今後プログラムに望むこと
デメリットとしては、木造やトラスなど、構成する部材が多いものは、入力に時間がかかり、節点数が増えることで小さな建物でも計算時間や出力時間が非常に遅くなってしまう点です。ただこれはやむを得ないのかもしれません。
その他、計算書出力は改良を望みます。略伏図に傾斜軸の通り芯や寸法が表示されず、審査機関より指摘を受けることが多々あり、その都度手で追記しています。また字が小さい、あるいは重なっていて見えないという指摘も多く、別途拡大出力して対応しています。
略伏図だけでももう少し見やすくなるとありがたいです。
最後に
建物形状が特殊であることから、他の事務所では検討できないという物件も、ASCAL+ASTIMで対応することができ、事務所にとってもメリットがありました。
思うような設計条件になっているかどうか、必ず応力図で確認するようになり、結果的にミスも減ったように思います。
建築構造物に限らず、太陽光パネルの架台や展望台などでも活用しました。工夫次第でいろいろな構造物に対応できると感じています。
ASCAL+ASTIMをうまく利用しながら、今後も設計の幅を広げていければと考えています。
最終更新日:2021-04-15
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