一貫構造計算プログラム「ASCAL」
アーキデア建築研究所
代表 小林 裕和 氏
所在地:東京都中央区
意匠設計を専門に手がけていたアーキデア建築研究所の小林氏だが、いわゆる耐震偽装事件をきっかけに構造設計・計算まで自ら行わざるを得なくなってしまった。
負けず嫌いの同氏は、専門外とはいえ構造計算ソフトを入手し、さらには構造設計一級建築士の資格まで取得。
以来「構造にはまっている」という。現在ではBIMツールと構造計算ソフトを連携させて、意匠も構造も自分で自由自在に設計できることを目指している。
意匠屋が構造を?
そもそもは耐震偽装事件がきっかけでした。
私は友人の診療所(RC 2F)の意匠設計を終え、大学の先輩に構造設計を依頼しようとしましたら、「耐震偽装事件の影響で今まで設計してきた物件の再検討をしていて忙しいから無理」と言われ、他に頼る構造設計者も知らず、友人には「工務店決めたから、早く設計図ちょうだい」とせっつかれていましたので、やむなく某社の構造計算ソフトを購入し、自分で構造計算・構造設計し、耐震偽装事件直後の、役所の構造チェックが恐ろしく厳しい中、建築確認を取り、建物は無事竣工しました。
しかし「お前はそもそもは意匠設計だよな、地震が来ても大丈夫か?」と友人に言われるのが嫌で、それまで構造の工事監理は自分でしていましたが、大っぴらに設計もできるよう猛勉強して構造設計一級建築士の資格を取得しました。
ついでに設備設計一級建築士も取得して「一人日建設計」などと自慢していましたが、その実、意匠設計以外の設計の実力は大したものではありませんでした。
ミケランジェロやガウディのように、思い通りに自分の構造アイデアを実現できなかったからです。
ASCALとの出会い
それは使うソフトが駄目だからだと、探して出会ったのがASCALです。
それまでの構造計算ソフトはまるであや取りをしているかの如く、もどかしくややっこしい不自由なものだったのですが、ASCALにしてからはインターフェイスの優秀な3DCADのように、自由にデザインすることができるようになりました。
3Dグラフィック 1階:壁式 2階:木造(混構造)
建築雑誌に掲載された著名な構造家の作品をPC上に再現し、記事には書かれていないいろいろなアイデアを発見し、学ぶこともできました。
2階平面
軸組み
ASCAL一つで鉄筋コンクリート造も鉄骨造も木造も、そしてそれらを混合した混構造さえも全く同じインターフェイスで計算、設計し、図面化してくれます。
それは例えば、意匠屋としての自分は企画段階において、何らかの制約(予算だったり、道路状況だったり)があって一度に容積いっぱい造れない計画で、取りあえずRC平屋で最小限に作っておいて、制限がなくなってから、木造で2、3階を増築したらなどと提案するのです。
(もちろん、混構造3階建てで設計し、最初はRC平屋で建築確認を取るつもりです)
自由に構造を考えると企画設計までも変ってきます。
BIMで考える
そして今、私はオートデスク社のRevitというBIMソフトで意匠設計をしています。
これはコンピューターの中に建築を丸ごと構築し、構造、温熱環境や空気の流れまでもコンピューターの中でシミュレーションしデザインすることができる近未来的なCADソフトです。
私はスケッチ段階からRevitを操作して考えます。
ある程度形が見えてきたらASCALで骨組みを作ります。
3D骨組み
そしてASCALで計算した骨組みを再びRevitに入れて仕上げていきます。
ただしRevitとASCALとの往来は一度で済むことは稀です。
途中、意匠的な気付きや構造のアイデアの発見があって、何度も行ったり来たりするからです。
これには少々根性が必要です。
3D解析モデル
現在、私の使用するRevitとASCALの取り込み可能なバージョンが違うために実現できないでいますが、
(いや、近々対応するとのことです)
ASCALはこのRevitとデータをやりとりすることができます。
つまり日本の建築基準法に合致した、ASCALで自由にデザインした骨組みをRevitに取り込み、肉付けし意匠設計をすることが可能なのです。
データのやり取りができれば行ったり来たりもだいぶ楽になるかもしれませんね。
ミケランジェロを目指して
現代建築の名作の多くが、単なる見かけの意匠の良さだけではなく構造の独創性を伴って高く評価されています。
それは意匠設計者と構造家の巧みな協働によるものです。
構造家は縁の下の力持ちではなく、建築家と並び称される存在となりました。
いや、過去にだって、丹下健三さんと坪井善勝さんのような名コンビがいらっしゃいましたね。
そしてもっと過去にさかのぼれば、ガウディという構造から建築を考える建築家がいました。
それも一人で。
そしてさらにさかのぼって、ミケランジェロだって一人で装飾から構造まで設計(彫刻は施工まで)していました。
そのミケランジェロがサン・ピエトロ大聖堂を設計する際に参考にした、フィレンツェの花の大聖堂、その大ドームは建築家のブルネレスキがドームをぐるりと締める鉄のテンションリング構造を考えたから可能になったのです。
ちなみに同じブルネレスキの作品の、フィレンツェの捨子養育院のとても軽快なアーチも、鉄のタイバーが両端を引っ張っているから可能になりました。
日本でも、重源の重力に抗してせり出すようなダイナミックな造形の東大寺南大門は、構造美そのものですよね。
かように古今東西の名建築は優れた構造に支えられていますが、ASCALやRevitのような優れたソフトがさらに進
化して行けば、いつか建築を学んだ者がミケランジェロのように自由に一人で構造も意匠も設計する時代が再び来るのではないかと私は密かに思っています。
そのためにもASCALを教材にして大学で構造を教えたらいいのになと、もし私がそうして構造を学んでいたら私の一生も大きく変わったかもしれません。
最終更新日:2022-04-21
←戻る ↑ページ上へ ↑記事一覧へ