水道工事設計業務における「ESTIMA/CAD-S」
概要
福岡市水道局
福岡市水道局は、大正12年(1923年)3月に計画給水人口12万人、施設能力一日最大1万5千立方メートルの規模で水道事業がスタートした。その後、市勢の発展と伴に増大する水需要に対し、地理的条件から大河川を擁せず水資源に恵まれない福岡市では、これまで実に18回にもおよぶ拡張事業を重ねている。水道創設から80年以上経過した現在では、3河川(多々良川・那珂川・室見川)、8ダム(久原ダム・長谷ダム・猪野ダム・南畑ダム・脊振ダム・曲渕ダム・瑞梅寺ダム・江川ダム)そして、福岡地区水道企業団からの受水により、一日最大74万8千百立方メートルの施設能力を備えているが、これからの水需要に対応することと、渇水期においても安定給水を確保する必要があるため、第19回拡張事業を進めているところである。

(福岡市水道局 計画部技術管理課 技術管理係 古閑 義範 氏)
システム導入の経緯
水道工事設計業務の複雑化・多様化に伴い、業務の迅速化・効率化・経費の節減を図ることを目的に導入した積算システムに加え、福岡市水道局水道工事設計CADシステム(以下「設計CADシステム」という)を開発し連携を図ることにより、さらなる業務の改善を進めるものとしてシステム導入が決定された。
平成14年7月「水道工事設計CADシステム開発業者選定委員会」を設置。
設計CADシステムの開発にあたっては、水道工事専用の設計CADソフトを用いて職員が自ら設計図面作成業務を行うシステムであることから、開発業者にその開発能力や技術力があるか、操作性や保守・運用面等において十分な内容であるか判断する必要がある。よって、設計CADシステム開発業者選定における契約方法としては、開発能力等の内容を事前に判断するため、開発予定業者から提案書の提出を求め、本市水道局の求める仕様を満たす開発業者を特定することができる契約方法とし、価格のみの競争入札によらない、標準型プロポーザル方式とし、業者選定の期間(約4ヶ月)を設け、下記の項目をポイントとして検討を行った。
○業務の効率化
設計CADシステムを開発しマッピングおよび積算システムと連携を図ることにより、マッピング等既存システムの有効利用、確認作業の軽減、図面様式の統一、設計資料の削減(ペーパーレス化)等を図る。
○経費の節減
設計委託にて行っている業務の一部を、職員自ら設計CADシステムを利用し設計書類を作成することにより、委託経費の節減を図る。
○CALS/ECへの対応
図面のデータ化により、他部署および業者との情報の共有・交換が可能となる。
これらに十分対応した設計CADシステムとして、「ESTIMA/CAD-S」を導入することとなった。
水道CAD数量計算システム
ESTIMA/CAD-S(エスティマ・キャド・エス)


◎水道事業におけるCAD数量計算システムとは
CAD数量計算システムは一般の線を引いて作画していくCADソフトとは異なり、水道用の設計図面を半自動作成することに特化したCADソフトである。
水道の設計図面には平面図、割付断面図、道路横断図、案内図といった図面があるが、平面図を作ることでこれらの図面を半自動的に作成する。さらに、平面図作成の時点で自動的に数量を拾い出し、資材、労務、土工の数量を算出する。すなわち、水道CAD数量計算システムは
・CAD設計で条件を与えながら半自動的に図面を作成する機能
・CAD設計で算出された情報を基に数量計算を自動的に処理する機能の二つの大きな機能をもっている。
また、積算システムと組み合わせると、数量総括データを積算システムに取り込むことができ、直接工事費から内訳書、単価表を作成し、本工事費まで積み上げ、設計書を自動的に作成する。
◎CAD数量計算システムの長所
①設計書の表紙の作成時、数量計算で必要な条件を設定できるため、入力の一元化が可能となり、最小タッチ数で設計ができる。
②案内図、街路図はマッピングシステムの情報を活用して作成できる。
③原図管理機能があり図面レイアウト(A0~A4)を画面で操作できる。その簡単さから設計者が意図した図面を作成できる。
④街路図上で起点・終点をクリックするだけで、自動的にその区間の距離を算出し、予定した資材で割付本数の計算を行う。それと同時に主要条件を使用して管布設工および土工の施工方法を確定し、数量を算出する。
⑤NTT線や下水道の障害物があった場合には、障害物の位置を指示することで自動迂回配管ができる。
⑥管路の確定と同時に割付図(割付断面図・割付平面図)を自動作成する。
⑦管路の確定と同時に土工断面図、道路横断図、縦断図を自動作成する。
⑧切管調整機能により、効率良い組み合わせを行い、直管本数を算出する。
⑨管路は拡縮率に応じて管記号で表示するが、リアルな立体図(図-1)を表示し、誰にでも分かりやすい配管図を提供する。
⑩給水図でメーター位置をクリックすると、本管からの最短距離で自動配管し、本管の情報を参照して材料、施工まで自動計算する。
⑪舗装については、本管の情報を使用し、コンピュータが自動的に本復旧図、舗装断面図を作画する。同時に舗装の材料、施工の数量も計算する。
⑫数量計算書として「数量集計表」「資材数量表」「土工数量表」が出力できる。また、入力データチェックや計算の確認として「入力データ一覧表」「計算履歴表」が出力できる。よって、どのように計算を行ったかすべて出力するので、設計者が確認することができる。
⑬区間ごとに計算された資材や施工は土工条件や配管条件が違うごとに集計し、積算システムに取り込むことにより本工事費まで自動的に積み上がる。
⑭クライアント/サーバ方式の採用によりシステムやデータ、設計書の一元管理ができる。また、システムの運用管理においても独自のネットワーク通信システムにより、サーバに最新版を適用すれば各クライアントは自動更新され、管理者の負担を軽減する。
⑮「使用権方式運用」によりシステムがインストールされているパソコンは、LANで繋がっていればどのパソコンでもCAD設計ができるため、設計業務以外でパソコンを使用している場合にも、他のパソコンで設計業務ができる。よって、システムと機器の有効利用が図られる。(図-2)
トータルシステムとしての運用
設計CADシステムを平成16年度より、工事を専門とする担当課に従来よりあるマッピングシステム専用機へ導入したが思った効果は得られなかった。しかし、翌年にはマッピングシステムにおける、管布設状況の閲覧および地形図の作成が各自のパソコンから可能になったことに合わせて、設計CADシステムも専用機から各自のパソコンへ移行した。
このような体制の変化により、各自の机のパソコンからマッピングシステムでの地形図の取り込み。そのまま、設計CADシステムでの平面図の作成や管割図・断面図・案内図といった図面作成が可能となった。同時に、従来から各自のパソコンにおいて使用していた設計積算システムへ取り込みが容易となり、設計図から設計書作成までの一連の作業が各自のパソコンで可能となった。これにより、トータルシステムとして効果的な運用ができるものとなった。
今後の計画
システムが導入され2ヵ年が経過している現在、システムを使用した設計書の発注を伸ばすため、設計CADシステム運用プロジェクトチームを設置し、管工事を専門とする担当課より選出されたメンバーを中心に積極的に使用し経費削減に努めていきたいと考えている。
また、設計CADシステムにおける設計積算業務は職員の熟練度に大きく左右されている。近年定期人事異動等で職員の異動が頻繁に行われている中、担当となった職員、いわゆる初めて設計CADシステムを使用する職員への習熟がポイントになる。それと共に、システム面においては、システムの簡素化等を図り、さらに容易に操作できるシステム、柔軟性に優れたシステムへの充実を図る。
←戻る ↑ページ上へ ↑記事一覧へ