業務用ウエアラブルカメラCX-WEシリーズ
長野県 建設部
所在地:長野県長野市
県の面積:13,561.56km2
県の人口:1,989,964人(2024年9月1日現在)
https://www.pref.nagano.lg.jp/

長野県建設部建設政策課技術管理室
小宮山 直樹 氏(前列左から2番目)
建設業界の生産性向上を目指し、国土交通省主導で進められてきた「遠隔臨場」。
ウエアラブルカメラを活用し、現場に足を運ばずに確認作業を行えるため、移動時間やコスト削減、働き方改革の推進に寄与している。
長野県建設部では、遠隔臨場に必要な機器の無償貸与を開始し、導入率向上を目指すほか、若手育成にも活用。
建設業界における人手不足という喫緊の課題に対応し、建設業のDXを推進している。
業務効率化のための「遠隔臨場」普及に向けて
建築・土木業界での働き方改革、i-Construction推進、コロナ対策などを目的として、令和2年度から国土交通省主導で試行が進められ、令和4年度より本格実施のフェーズに移行した「遠隔臨場」は、人口減少に伴う人材不足の加速が喫緊の課題となっている業界にとって、業務効率化や生産性の向上、省力化・省人化を目的とした建設DXの一環として重要な取り組みである。
ウエアラブルカメラやネットワークカメラなどを利用し、現場に行かず離れた場所から「材料確認」「段階確認」「立会」などの現場確認を行う「遠隔臨場」のメリットは、監督員による現地往復時間を削減するだけではなく、監督員受け入れのための日程調整や準備作業の簡便化、作業中断回数や時間の低減、それによる受発注者双方の労働時間短縮につながるなどの効果があるとされている。
長野県では、令和2年5月から国土交通省に準じて遠隔臨場の試行を開始し、工事受注者への働きかけを行ってきた。
その結果、実施件数は年々少しずつ増えてきたものの、今後将来にわたってますます加速する人材不足の状況下において、業務の効率化や生産性の向上を目的とした遠隔臨場の推進は優先的に取り組むべき事項であり、推進の加速化が必要と判断。
令和5年に、県が受注者に対し遠隔臨場に必要な機器一式を無償で貸し出し、その利便性を体感してもらうことで、普及拡大を促す取り組みを考案し、令和6年7月から運用を開始した。
対象事業は、建設部発注の工事または委託業務(主に地質調査)として、75台を調達し、運用期間を3年間とした。
なるべく多くの受注者に貸与できるよう1台を半年ずつ貸与することを想定し、令和5年度はわずか6.4%にとどまっていた年間発注案件に対する遠隔臨場実施率を、令和8年度には約4割にまで伸ばすのが狙いだ。
「遠隔臨場」に最適なデバイス選定
遠隔臨場を効率よく実施するため、機器、特にカメラについて以下の仕様を定め、一般競争入札を経て、株式会社ザクティ(本社:大阪市)の業務用ウエアラブルカメラCX-WEシリーズの活用を決めた。
- 「建設現場における遠隔臨場に関する実施要領(国土交通省)」を満たすこと
- NETIS登録製品であること
- 手振れ防止
- ハンズフリー
- 汎用Web会議アプリ(Teams、Zoomなど)で3者以上の合同会議が可能
入札を経て実際に導入したザクティの業務用ウエアラブルカメラは、専用マウントでヘルメットにもしっかりと固定することができるため、現場の目線映像を共有できるだけでなく、独自技術による強力手振れ補正機能が搭載されているのが大きな特長。
カメラ装着者が現場を動き回ることによる映像のブレに加え、頭を大きく傾けるような、のぞき込みの動作でもカメラ映像は水平を維持し続け、送られてくる映像が傾くことはない。
そのため、遠隔で現場の様子を見る際、映像酔いがなく現地の状況確認や映像を見ながらのやり取りがスムーズに行える点が実際の「遠隔臨場」実施において、遠隔から見る側、現場から配信する側ともにストレスなく行えるポイントとなっている。
「遠隔臨場」で目指す効果
長野県としては、遠隔臨場の普及が拡大することで、次のような効果が現れると期待している。

- 現場への移動時間や待機時間の削減
- 柔軟な日程調整が可能
- 現場への移動コストの削減、CO2削減(ゼロカーボンに向けた取り組み)
- 人材育成(他の熟練技術者からの指導を受けやすい環境になる)
特に、①移動時間や待機時間の削減や②日程調整の柔軟さについては、現場立会などに対応するための前後の予定調整に費やす時間や、移動時間そのものの削減による現場の負担軽減を期待するものであり、運用中のヒアリングでは、「車で往復2時間を要する現場への移動時間を省略できた」「現場立会の日程確保が(移動時間がないため)前後に別の予定があっても容易にできた」「導入が困難だった会社に好評」など遠隔臨場の効果を実感できたという声が多く上がり、業務の効率化につながっているものと感じている。
また、③現場への移動コストの削減、CO2削減(ゼロカーボンに向けた取り組み)については、遠隔臨場の導入に伴い、自動車などを利用した現場への移動が減ることにより、移動コストやCO2削減など環境配慮につながると考えている。
④人材育成の観点に関しては、映像の共有ができることで熟練者からの指導を受けやすい環境が生まれ、技術継承や若者が安心して働ける職場環境の構築につながるだろう。
今後普及が拡大し、遠隔臨場を当たり前のように利用するようになれば、これらについても一定の効果が現れると期待している。
一方で、課題としては、現場での通信環境の確保がある。
LTE電波環境が悪い山間部やトンネル内部においては、遠隔臨場そのものを実施することが難しいほか、天候や周辺環境によっても通信が不安定になることがあり、映像や音声が乱れるなどコミュニケーションがうまくいかないことがある。
これについては、当面の対策として、衛星通信サービス(スターリンク)や光回線の設置など、通信環境の改善や拡張に向けた試行に取り組みたいと考えているところ。
また、今後もさらなるシステム側の性能向上や、将来の5G回線の普及により大容量データ通信が屋外でも可能となるため、そのような通信バックボーンの利用など、遠隔臨場の高度化が進むことも期待している。
将来の担い手確保に向けた取り組み
前述の「目指す効果」④人材育成に関連する取り組みとして、長野県では、産・学・官の連携による建設産業の理解拡大と将来の担い手確保に向け、遠隔臨場やICTを活用した就労促進や若手技術者の育成を積極的に実施している。
令和6年秋には、長野県建設業協会大北支部と長野県大町建設事務所との協働で、長野県立池田工業高等学校建築学科の生徒を対象に、遠隔臨場の実務体験学習会も実施された。
この学習会の中では、ウエアラブルカメラを装着した建設現場のスタッフの目線映像を通じ、工事現場の状況確認や現場との情報共有が遠隔より可能なことを実演。
長野県大町建設事務所は、「ウエアラブルカメラを使った遠隔臨場体験を通じ、普段の現場見学でも見ることのできない箇所や作業の様子をリモートで見てもらうことができた。
遠隔臨場は働き方改革の一つ。
最新技術を若い方に見てもらう体験を通じ、建設業を将来の選択肢の一つにしてもらいたい」と述べ、地域に根差した建設産業において、次世代を担う若手技術者の育成と就労促進による人材確保の取り組みの重要性を語った。
国土交通省の施工現場において、現場立会は、工事の品質を確保する上で大切な過程となっているが、一方で、少子高齢化社会における労働力人口減少を見据えると、持続可能な業務となるよう効率化を図ることも重要である。
その両方の目的を達成するために、遠隔臨場の導入を進めることは、今後の建設産業の発展に必要不可欠であり、また、ICT機器を活用した現場のデジタル化による業界のイメージの刷新にもつながる。
その結果、建設業界を希望する人材が増え、人材不足解消への好循環となることも期待できるため、今回の取り組みを継続し、業界全体でさらなる業務の変革が進むよう尽力していくことになるだろう。
最終更新日:2025-05-28
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