BIM/CIM対応3DCAD「V-nasClair」/「Kit」シリーズ
パシフィックコンサルタンツ株式会社
所在地:東京都千代田区(本社)
創立:1951年9月
資本金:8億2千万円
従業員数:2,122名(2021.10.1現在)
https://www.pacific.co.jp
(左から)品質技術開発部 i-Construction推進センター
技術課長 中島 進 氏
センター長 鈴木 啓司 氏
取締役執行役員
品質技術開発部長 藤井 久矢 氏
品質技術開発部 i-Construction推進センター
上席調査役 齋伊東 靖 氏
パシフィックコンサルタンツは、「技術の力を、未来の希望に」をグループビジョンに掲げ、脱炭素経営「PacificNetZero」を宣言し、持続可能な社会の実現を目指す、社会インフラに関わるコンサルタントです。
インフラをはじめ、都市・建築、モビリティ、レジリエンス、エネルギーなどの領域において、事業の核であるエンジニアリングと、ビジネス・デジタルサービスを融合させることにより、複雑な社会課題を解決し、社会に新たな価値を創出する「社会インフラサービス事業」を展開しています。
BIM/CIM時代の本格到来
国土交通省が推進するインフラ分野のデジタル・トランスフォーメーション(DX)施策の一つに、「2023年度までに小規模なものを除く全ての公共工事についてのBIM/CIM原則適用」がある。
本格的なBIM/CIM原則実施を目前に、得手に帆を揚げ、BIM/CIM時代の潮流に乗る企業がある。
発端は「パラメトリック設計構想」
パシフィックコンサルタンツ(以下、同社)は、BIM/CIM対応のエンジニアやオペレータが300名以上在籍し、例年200件ほどのBIM/CIM関連業務を遂行する総合建設コンサルタントである。
同社は、BIM/CIM関連業務そのものはもちろん、将来的には「パラメトリック設計」の実現を目指している。
同社は、パラメトリック設計構想の実現に向けた取り組みの一つとして、独自に橋梁予備設計の設計支援ツール「橋梁一次選定プログラム(以下、一次選定プログラム)」を開発した。
また、国内3D CADベンダーの川田テクノシステム(以下、KTS)と協業し、「一次選定プログラム」より出力した設計成果から3D橋梁モデルを作成できるカスタム仕様を構築した。
これにより、橋梁予備設計段階における多量の比較案の設計検討や、BIM/CIMモデルの作成について、手間や時間の大幅縮減が実現した。
橋梁一次選定プログラムと3DCADとの連携
「一次選定プログラム」は、概略検討段階の橋梁設計支援システムであり、Excelベースで作られた。
橋長・幅員・形式などの必要な項目をフォーマット上に入力していくだけで概略構造のデータチェックが可能で、入力データからは計算書や報告書が出力できる。
1案当たり数分の入力で設計成果を作成できるため、多量の比較案を作成して検討できることが魅力だ。
さらに、「一次選定プログラム」の設計成果(XML形式ファイル)は、V-nasClair(ヴィーナスクレア)のアドオン製品「STR_Kit(エスティーアールキット)」「BRIDGE_Kit(ブリッジキット)」にインポートすることができ、検討各案のBIM/CIMモデルを瞬時に作成することが可能だ。
伊東氏は、「橋梁構造は、非常に難しくて厄介なものです。これまで熟練したスタッフでも3~4日かかっていたような作業が、『一次選定プログラム』と『V-nasClair』を使うことで、若手でも半日あればできるような作業になりました」と語った。
藤井氏は、「成果に対する妥当性や精度の向上のためにイテレーション(反復作業)の時間を多く確保できる、ということはそれだけ重要なことだと思っています。『一次選定プログラム』と『V-nasClair』の連携を弾みに、さらにパラメトリック設計に近いプログラムを構築していきたい」と期待を寄せた。
図-1 一次選定プログラムとV-nasClairで作成した橋梁BIM/CIMモデル
コンサルとベンダーによるパートナーシップ
同社とKTSとのパートナーシップは、2018年に遡る。
当時、同社は「本来あるべきBIM/CIMの姿」を一緒につくっていけるパートナーを探していた。
「本来あるべきBIM/CIMの姿」とは、3次元設計をベースにした設計・施工・維持管理に至る一貫した仕組みの構築のことを意味している。
KTSは、BIM/CIM活用の主軸の一つとなる「3次元設計の高度利用」に対応する製品開発に取り組んでいた。
両社の目的が合致した背景から、両社のパートナーシップが結ばれ、今回の「一次選定プログラム」と「V-nasClair」の連動が実現した。
やりたいことができるのが決め手
「真のBIM/CIM活用」という目的で結ばれたパートナーシップだったが、「V-nasClair」との連携は現場のニーズに即していた、という点が何よりの決め手だったという。
橋梁予備設計段階においては、「ざっくりとした情報を入力するだけで、手早く3Dモデルを作成したい」というニーズがあり、これに呼応した3D CADという点で「V-nasClair」が採用された。
鈴木氏は、「橋梁予備設計段階での3Dモデルを簡単に出力できるようになったので、発注者との初回打合せが単なる顔合わせの場ではなく、『ゴールイメージの共有』の場となりました。
システムで予備設計段階の検討と3Dモデルイメージが仕上がった状態で初回打合せに臨めるため、発注元とコンサルタントの両者で竣工イメージを共有できるようになりました。
これにより認識違いによる大きな手戻りがなく進めます。
『フロントローディング』で進めることのメリットは大きいと考えています」と語った。
予備設計段階で3Dモデルを作成することで、業務をフロントローディングでき、業務打合せや関係者間の合意形成の円滑化につながっている。
担い手育成としても有効なプログラム
とりわけこだわったのは、「一次選定プログラム」をExcelベースで作ること。
「一次選定プログラム」には、橋梁設計に必要な変数を求める式や仕組みがきめ細かく網羅されているため、荷重や反力を求める式をExcelベースで読み解くことが可能。
これにより業務を単純にルーチン化するだけではなく、業務への理解を深めながら進めることが可能となった。
「一次選定プログラム」について藤井氏は、「若手エンジニアには、一度は自分の頭で一週間悩んで構造計算をする経験を積んでもらいたいと思っています。もちろん、そんな苦労を毎回やる必要はなく、一度経験して仕組みを理解できれば、単純なルーチン部分はオートメーション化してしまったらいい。時間をうまく使って、エンジニアが本当に行うべき創造的な業務のために使って欲しい、と考えています」
と語った。
「V-nasClair」との連携について鈴木氏は、「数値から立体をイメージするのはとても難しいですが、数値を入力した結果、3Dモデルが作成され、あらゆる方向からの形状を見ることができます。
この経験によって空間認知能力が培われていくのも大きな魅力です」と語った。
IT化が加速度的に進み、求められる技術が日々高度化していく中で、次世代の担い手育成にも余念がなかった。
図-2 一次選定プログラムとV-nasClairの模式図
さらなる展開への期待
KTS製の下部工概略設計システムと連携することで、オールインワンの「橋梁予備設計支援システム」としてさらなる展開が期待されている。
また、これまでは同社の「一次選定プログラム」向けの拡張機能であった「XMLファイル読込み機能」を「V-nasClair」のオプションである「Kitシリーズ」に標準機能として搭載し、XMLファイルの記述様式も公開する。
そのため、ある程度のプログラミング知識があれば、XMLファイル読み込みにる3Dモデルの作成が可能となる。
さらに、統一プラットフォームの構築へ期待が高い、設計-施工-維持管理工程でのデータ連携に欠かせない統合モデルにおける属性情報の保持についても、今後の展開に期待を寄せた。
最終更新日:2023-06-26
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