ArchiCAD
前田建設工業株式会社
建築事業本部 企画・開発設計部
BIM設計グループ長 綱川 隆司 氏
所在地:東京都千代田区
創業:1919年
資本金:約234億5,500万円
従業員数:2,796名<単独>/3,882名<連結>
(2014年3月末現在)
前田建設工業の3次元設計の取り組みは2001年から始まった。
同社では、その当初より意匠・構造・設備のデータ連携を目指し、プロジェクトで実践を繰り返していたが、当時のCADでは限界が見えていた。
そんな時に出会ったArchiCAD。
現・BIM設計グループ長の綱川 隆司氏は、建築に特化した3DオブジェクトCADに“未来”を感じたという。
今回は、ArchiCAD導入に至った経緯と同社の3次元設計〜BIMに至る歴史、そしてBIM導入の重要ポイントなどの話を伺った。
建築3次元設計への挑戦
前田建設工業が本格的に3次元による建築設計をスタートさせたのは2001年です。
当時はBIMという概念もまだ普及しておらず、3DといえばCGと同義と捉えることが一般的でしたが、私たちが目指していたのは総合建設業における意匠・構造・設備を包括した業務フロー改善のための3D-CADの活用でした。
当初は製造業を範として汎用3D-CADを使っていくつかプロジェクトを実践しましたが、汎用CADの限界も特に業務効率の面で見えてきました。
そこでフロアの概念や3Dモデルと図面の連携機能が充実している建築専用の3D-CADを求めました。
その結果、ArchiCADに巡り合い2003年に導入しました。
ArchiCADの特徴はモデルを3Dオブジェクト単位で構築する“3DオブジェクトCAD”であることです。
建築に特化した3Dオブジェクトをパラメトリックに編集していく手法がわれわれの生産性を引き上げてくれる“未来”を感じさせました。
設計から施工へのBIMワークフロー
OPEN BIMへの取り組みとチームワーク機能の充実
構造・設備担当も各々専用CADを選び、これらとArchiCADとをデータ連携させる方法を模索しました。
プロジェクトの中核にArchiCADを据えて、データのコンバーターを自社開発し、あらゆる建築データを取り込みました。
2003年当時は現在よりハードの性能も低く、私たちが設計する大規模物件では、大量のデータにより動作しなくなる危惧が常にありました。
グラフィソフトの開発者は私たちのパフォーマンス向上の要求に対しバージョンアップ時の優先事項として取り組んでいただき、ハードの進化に呼応する形でソフトウェアを最適化し、体感できるパフォーマンスアップを実現してきました。
これ以上の情報付加は無理ではないかと諦めていたディテールを、さらに踏み込んで入力できるようになりました。
データの密度が高まり、BIMデータの解像度が向上し、われわれの視界がクリアになった感があります。
また敷地周辺のデータまで入力できるようになったのも特筆すべきことで、プロジェクトが与える周辺環境への影響を考慮する上でも重要なことです。
周辺環境入力の例
2005年頃からは設計図書をまとめるだけでなく、ArchiCADのデータをさまざまな解析用のソフトウェアに利用する新しい領域に踏み込みました。
従来は技術研究所に依頼していた熱流体解析をBIMから解析ソフトへデータを変換し少しずつ設計部で運用する頻度が増えてきました。
その後、照明解析やPAL値の算出など適用範囲を増やしています。
このようにシミュレーションを設計者にとって身近にすることで、これまで見えなかった空気の流れや温度分布、室内の明るさ感が事前に把握され、最終的にはクライアントにより良い建物を提供でき、さらに竣工後のクレームを未然に防ぐことにもつながります。
これらを実現するソフトウェア間のデータ連携が、私たちが取り組んだBIMの成果の一つですが、グラフィソフトが推進する“OPEN BIM”のコンセプトそのものでした。
現在ではIFCを活用することで特殊なコンバーターを使わずともデータの相互連携が可能となり、ArchiCADは“BIMオーサリングツール”としても機能しています。
大規模施設を設計する上で重要な機能が「チームワーク」です。
複数のスタッフが同時に一つのモデルを編集するチームワーク機能は、今ではなくてはならないものになりました。
同時並行に作業を行うのがまさにBIMが実現すべきワークフローです。
これにより私たちはごく短期間で設計を行う技術を身に付けました。
毎年行われるBuild Live Japanでは意匠・構造・設備等の設計者が約50名参加し、100時間の中で設計を行います。
2014年度Build Live Japanでの「GreenSpilal Station」は最優秀賞とBuilding Smart大賞をいただきました。
Green Spilal Station(Build Live Japan 2014)
ここで体得した技術は「福島給食センター」をはじめとする実際のプロジェクトで生かされています。
使って“楽しい”ことの重要性
近年、BIMは設計事務所やゼネコンのみならず専門工事会社やメーカーまで浸透してきました。
この十数年を振り返り、BIMの導入に当たり重要なポイントは「使って楽しい」ことだと思います。
私たちが10年以上前にソフトウェアを探している時の条件はまさしく「自分達が使いたいもの」でした。
カタログ上のソフトウェアのスペックの比較ではなく、設計者自身がストレスなくやりたいことがやれること。
これは単純なことのようで実はすごく奥が深いことだと思います。
BIMは建物モデルを構築中のプロセスの中にある「気付き」が重要で、この「気付き」そのものも作業を行っている人間の経験値によって左右します。
設計者や技術者が自らBIMに取り組むことの重要性があるのです。
ArchiCADがすでに30年も建築設計者と寄り添ってきたことはカタログのスペック以上の価値があることだと実感しています。
前田建設の建築設計部門は2015年新春より「飯田橋MKビル」へ移転します。
飯田橋MKビルのBIM
この自社ビルはもちろんArchiCADで設計されていますが、われわれ自身が建物のユーザーでもあることからライフサイクルを見据えたさまざまな試みを行っています。
Build Liveへの挑戦と合わせて今後もお客様に還元できる技術を磨いていきたいと考えています。
←戻る ↑ページ上へ ↑記事一覧へ