建設系3次元CAD「V-nasClair」 砂防堰堤計画・設計・製図SABOシリーズ
株式会社 建設技術コンサルタンツ
増田次長(左)
中村主任(中)
内田係長(右)
所在地:鹿児島県鹿児島市
資本金:1,000万円
従業員数:59名
株式会社建設技術コンサルタンツは、鹿児島県に本社を置き、災害支援活動や道守活動など、地域に密着した活動を積極的に実施している総合建設コンサルタントである。
今回は、技術部砂防グループの増田氏、内田氏、中村氏に話を伺った。
システム導入の背景
建設技術コンサルタンツでは、フォーマットの標準化といったCALSの流れを受けて、2001年より川田テクノシステムの「V-nasシリーズ」をメインCADとして利用していた。
国土交通省の砂防堰堤設計業務の受注が増加傾向にあったことから、2013年にV-nasシリーズの「V-SABO」を導入。
1982年の創業当初より砂防設計業務をひとつの柱としてきた同社にとって、砂防設計業務の効率化は同社の実績に大きく貢献している。
こうして、九州地方整備局宮崎河川国道事務所発注の砂防施設予備設計業務(武床谷−ぶとこだに−砂防施設外設計)についても受注したのだが、ここで飛び込んできたのが、この物件で「『CIM』を活用できないか」という、宮崎河川国道事務所の担当課長からの発案であった。
当時、九州地方整備局管轄の各種業務においてCIM試行の動きがあり、その一環だったのだが、砂防堰堤業務におけるCIMの試行は前例もなく、まさに手探りの状態でのスタートであった。
「まず、『CIM』ってなんだ?の勉強から始まりました」(増田氏)
この物件の受注当時は「CIM」という言葉さえ聞いたことがないといった状況で九州地方CIM導入検討会の委員長である小林一郎教授(熊本大学)のアドバイスを受けながら、実業務に当たってはCADベンダーに相談することから開始した。
3次元CADの導入
この取り組みを実施するために、同社は、「V-nasシリーズ」の3次元汎用CAD「V-nasClair(ヴィーナスクレア)」の利用検討を始めた。
既に導入していた、砂防えん堤自動製図「V-SABO/Draw」を使って砂防施設の寸法値等を入力の上、堰堤図を構築し、それを「V-nasClair」で読み込んで3次元化する。
それを、地形モデルに配置する、という手順だ。
CIM物件としてどういったものを成果品として納めるべきかも試行錯誤、といった現状では、“やりたいことを想像しながら、やれることを見極める”の繰り返しである。
目的に応じて、あらゆるソフトウェアを駆使して各ソフトウェアの機能を細分化しながら利用し、データ
をつなげていく作業となった。
「使えるツールは全て“いいとこどり”をしながら使う、といったスタンスで臨みました。
この場合、同一規格に変換しながらの作業となるのが大変でした。
データの互換性によってかかる手間も左右されます」(中村氏)
砂防における3次元
橋梁や道路であれば山を切りながら進んでいく線のイメージだが、砂防の場合は点。
とにかく地形ありきなので、日常的には俯瞰できないような山間部の地形を、3次元で視覚的に捉えることができたのが良かったと言う。
「砂防堰堤は、急峻な山地に計画するものであり、人々が暮らす平地や盆地では、目にする機会が少ない防災施設です。
砂防堰堤と治水や利水を目的としたダムの違いを勘違いしている一般の方も多く、説明が不十分に感じています。
3次元化を実現することによって、いろいろな視点から一般の方に見てもらうことで、施設の規模や目的、効果等が理解され、結果的に防災意識が高まることを期待します。
私たちも今回、視覚的な刺激を受けることであらゆる可能性に着目することができました。
砂防堰堤の場合は、道路のように線形で施工はしないので、情報化施工と直接結び付くメリットは少ないかもしれませんが、どのようなデータをどのようなツールで活用すればいいのか、CIMの根幹である施工や維持管理の次のステージへどうすればうまく連携できるのか等を考えるためにも、もっとツールを使いこなしていく必要があると感じました」(内田氏)
砂防施設予備設計におけるCIMの目的
国土交通省が推進する「CIM」における試行業務として、CIMモデルの構築と活用を条件として、砂防施設予備設計におけるCIM導入の効果・課題を検証する。
砂防施設予備設計におけるCIMの目的
砂防堰堤業務の予備設計に関連する下記の事項についてCIMを活用
①レーザー測量成果を用いた地形モデルの作成
②砂防堰堤モデル作成
③3次元モデルを活用した配置計画検討や景観検討(打合せ業務等での活用)
④関係機関協議資料への活用上記の実施を踏まえた効果・課題等を整理
設計作業の延長で3次元化を
砂防堰堤モデルの3次元化に用いたソフトは使い慣れたCADの3次元版であったため、操作はさほど難しくはなかったようだ。
「2次元CADの操作の延長で3次元化ができれば理想です。
点群やレーザー等の技術の進歩はもちろん期待すべきところではありますが、われわれが日常的に利用するほど普及するまでにはあと数年かかるのでは。
それまでは、2次元のデータから3次元に起こすという現実的な需要に応えて欲しいと思います」(中村氏)
「確かに、現時点では作業量が“2倍”とまでは言わないが、“二度手間”に感じる点もあります。
ただ、思ったよりは自動的に行えた部分が多かった、というのが率直な感想です」(内田氏)
今回の取り組みを機に、砂防モデルの3次元化取り込みができるようソフトが機能改良されたため、2次元レベルのデータを入力しただけで、簡単な3次元モデルであれば自動的に作成できるようになる。
CIM試行としての課題
設計の前段階のデータ整備も含め、業界全体での取り組みが必要、と語る。
「今回は、発注者からLPデータ(※)の提供があったため、地形の3次元化は比較的スムーズに行えました。
現状では地形測量を3次元で行っていても、流通している図面は2次元であることが多い。
より精度の高いデータを求めるに当たっての技術的な課題もありますが、まずは地形データを3次元で普及させるという、制度面の課題もあると思います」(内田氏)
※1mメッシュの航空レーザー計測データ
先進的な取り組みに自信
今後は、効果的・実用的なものを見極めて、アピール度の高い案件には3次元を使う等、戦略的に活動したいと語る。
「今回のCIMへの取り組みで、まだほとんど意識していなかった3次元CADを使用することとなりました。
当初は困惑しましたが、検査官の評価も高く、手探りながら手応えを感じました。
砂防堰堤業務で初めてのCIMに取り組んだというアドバンテージを今後に生かしたいと思います」(増田氏)
同社では、予備設計に続き、同物件の詳細設計を受注した。
予備設計で培ったノウハウを生かして、詳細設計へのさらなる取り組みが期待される。
3次元汎用CAD「V-nasClair」と「SABOシリーズ」を使った砂防堰堤配置検討例
3次元汎用CAD「V-nasClair」では、「3D地形オプション」の利用により、国土地理院などのメッシュデータが使用できる他、2次元の地形平面図を3次元の地形平面図に変換することが可能なため、各種設計において3次元地形の有効利用が図れる。

「V-nasClair」で作成した3次元地形を使用し、「V-SABO/Plan」で砂防堰堤位置の計画検討を行った例
※この地図は、国土地理院の数値地図10mメッシュ(火山標高)阿蘇山を使用
砂防堰堤自動製図システム「V-SABO/Draw」で入力したデータを「V-nasClair」に取り込むことで、自動的に3次元の堰堤モデルを作成する。
3次元地形データと堰堤の合成により、3次元モデルを作成する。
作成した地形にはオルソ画像や、堰堤本体部分へのテクスチャ貼り付けが可能。
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