情報共有ASPサービス「basepage」
国土交通省東北地方整備局 三陸国道事務所
建設監督官 宮林 克行 氏(左)
三陸沿岸道路事業監理業務(宮古箱石工区)
PPP事業促進チーム 岩花 知司 氏(右)
未曾有の大災害となった2011年3月11日の東日本大震災。同年11月の第三次補正予算で三陸沿岸道路等の新規事業化からわずか2年後の2013年11月には、全ての新規区間で工事着手した。通常は約4年かかると言われるこの準備期間を1〜2年で工事着手まで漕ぎつけた要因のひとつには、事業促進PPP(Public Private Partnership)の導入があった。従来、発注者が行ってきた協議や調整等の川上の業務(事業化から工事着手までの業務)を、官民が連携して実施する取り組みだ。この事業促進PPPにも導入したのが、情報共有システム(ASPサービス)である。システムの導入効果について、国土交通省東北地方整備局 三陸国道事務所 建設監督官である宮林克行氏と三陸沿岸道路事業監理業務(宮古箱石工区)PPP事業促進チーム 岩花知司氏に話を聞いた。
復興道路の一日でも早い整備を
図-1
「三陸沿岸道路359km(内、新規事業化区間224km)の早期完成—」
平成23年の第三次補正予算を受け、復興道路の早期整備に向けて壮大なプロジェクトが動き始めた(図-1)。今回新規事業化された区間は震災前の約5倍に当たる、大規模な事業量。これを一日でも早く完成させるためには、着工前の業務(測量、調査、設計、用地取得等)をいかにスピードアップするかが鍵となる。そこで導入されたのが「事業促進PPP」であり、その円滑な進行の一助となったのが情報共有ASPであった。
「PPPは初めての取り組みであり、最も留意した点は守秘義務の確保でした。セキュリティを維持しながら、いかに効率的に進めるかを考えると、情報共有システムのように、登録されたユーザーの範囲内でやり取りができる閉じた世界での運用が最適でした。データの蓄積に当たっても、行政の情報であることからPPPに携わるいずれかの企業で所有しているサーバーを利用するわけにはいかない。第三者的な立場で管理する必要があったので、一ベンダーが提供する情報共有ASPサービス(basepage)の導入に至りました」(東北地方整備局 三陸国道事務所 建設監督官 宮林克行氏)
セキュリティを重視したフォルダ構成
従来の情報共有といえば、受発注者間で成果物を共有するのが主流であったが、今回の取り組みでは、多種多様な事業者が情報を共有することとなる。実際、宮古箱石工区では、平成24年度は24社、徐々に業務から施工にフェーズを移行している現在でも13社と、実に多くの企業が参画しており、相当数のメンバーが利用しているため、より厳密な情報の共有範囲の設定が求められる。もちろん、情報ごとに閲覧制限等の設定は可能だが、同一サイト内での業務ごとのフォルダ分けや閲覧制限だけでは設定漏れのリスクが残るため、ログイン可能なサイトを複数設け、利用者ごとに閲覧可能サイトを管理した。
「業務ごとにフォルダ分けをするだけでなく、全ての業務が閲覧できるサイトを別途作成したことが、スムーズな情報共有のポイントだと思います。業務ごとの共有、PPP事業促進チーム内での共有、事務所内での共有。それぞれ共有したい情報が異なる中で、全メンバーが共有すべき情報をアップすることで確実に情報が行き渡り、運用がかなりスムーズになりました」(PPP事業促進チーム 岩花知司氏)

図-2 情報共有システム(basepage)のファイル管理機能
業務フローの変革を実現
事業促進PPPでは、川上の業務の短縮化が求められるが、それには業務フローそのものの変革が必要である。
「通常は設計なら設計、協議なら協議で業務が完結し、その成果品を次の段階に引き継ぐ…といったように、業務フローは一方向でしたが、システムの導入で各段階の業務が平行して同時に行えるようになりました(図-3)」(宮林氏)
「測量の情報を即、設計に、また調査に、データベース上でリアルタイムに共有することにより、情報を反映しながら業務に着手できる。システムの導入により、業務フローの変革が実現されたのです」(岩花氏)
「また、用地調査した結果を設計にフィードバックして活用できることも、情報共有システムによる効果ではないでしょうか」(宮林氏)
このように、現在では情報共有システムのメリットを感じられるようになったが、新しいシステムということで、慣れるまで時間がかかることが予想され、導入当初は抵抗があった。
「工事では情報共有ASPは主流ですが、業務(調査・設計・用地)で利用するのは初めてだったので、帳票の様式やどういったフォルダ構成にするか、また決裁ルートの決め方等、導入準備段階では頭を悩ませました」(岩花氏)
これについては、多数の導入実績を持つベンダーのノウハウを生かしながら、関係者間のファイル共有、決裁ワークフロー、掲示板の機能を利用することに決め、講習会を実施して利用促進に努めた。

図-3 国土交通省公開資料より
打合せの効率が格段にアップ
情報共有の効果について、宮林氏はこうも語る。
「工期内に何度か打合せを行いますが、次回の打合せまでの間にアップされている資料を読んでおくことで打合せの効率がぐっとアップしました。事前に各社の考え方が異なる点等を把握しておくことで、時間のロスがなく、打合せの精度が高くなりました。横の連携が実現されてきたと感じます」
ホームページでの情報公開も
復興道路の進捗状況を知らせるツールとして、地域住民向けのホームページも立ち上げている(図-4)。今現在、事業促進チームが何をしているか、復興道路・復興支援道路の進捗状況等が見られる。
「行政が発信する情報は『これからどうなります』といった将来像の発表ですが、PPPの情報公開は、『今、こんなことをしています』『これができました』といった成果の報告であるというのが大きな違いです。情報共有システムに登録した情報をホームページでの公開情報として自動的にリンクできるの
で、ホームページ更新の手間がかからず、リアルタイムに更新できます。ただし、公開には発注者の承認が必要ですので『公開ボタン』を設置し、ワークフロー的なワンステップを取り入れています」(宮林氏)

図-4 事業促進PPPホームページ
http://54.251.44.45/ppphp/top.html
大規模事業で実感する情報共有の大切さ
大規模事業ならではの課題もある。工区の大きなCAD図面等では膨大なデータ量になるものが増えており、バックアップや今後の電子納品保管管理への連携等も視野に入れ、肥大化するデータ容量につ
いての対策だ。
さらに、多種多様な情報が蓄積されるため、閲覧して欲しい情報が閲覧されない等の可能性がある。データベースの利点を生かした検索性の向上や、規模に合わせた運用ルール等、気づいた課題をノウハウとして蓄積し、今後の改善に移す段階となってきた。
「運用が進んだことで改めて気付かされるのが、各担当課、PPP内の担当ごとに情報共有することの大切さです。各担当分野別に縦割りになりがちな情報が、『一日でも早い復興を実現したい』という共通の思いのもとで垣根を越え、画期的な相乗効果を生み出しています」(岩花氏)
情報共有システムへの要望としては、「関与する事業者は今後も流動的に変わって行きますので、初心者でも気軽に使えるような、より一層の工夫をお願いしたいですね」(岩花氏)
「電子MAPとの連携機能等、情報共有システムが既に装備している機能をPPPでも利用する等、日常的な作業の延長で情報を有機的に活用できればと思う」(宮林氏)
事業促進PPPは、今後全国的な展開が期待される。三陸沿岸道路の早期復興と、この経験の共有を切に願う。
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