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成功事例集

建設ソフトやハードウェアなどのITツールを導入して成功した事例を紹介します。

民意主導による業界初の災害情報共有システム

社団法人群馬県建設業協会

情報共有ASPサービス「basepage」を使ったシステム構築

概要 社団法人群馬県建設業協会
会長代行 青柳 剛 氏
 2008年6月20日、群馬県沼田市において、社団法人群馬県建設業協会が川田テクノシステム株式会社と共同開発した「GPS携帯による災害情報共有システム」を使用して、大規模な災害模擬訓練を実施した。このようなシステム構築の取り組みは民意主導型としては業界初の試みとあって、当日は官公庁関係者(国土交通省、群馬県、近隣自治体)や報道機関(11社)など、総勢180人余りを集め、その注目度の高さがうかがえた。ここに至る経緯、システムの概要~訓練の模様を紹介する。

会長代行 青柳 剛 氏


システム構築の経緯

 2007年9月の台風による大規模災害は、群馬県の建設業者にとって大きな転機となった。災害状況の把握に予想以上に時間がかかるという問題が浮き彫りとなり、地元建設業者の地域貢献について、その役割を再認識させられたためだ。
 そこで、
・建設業協会会員283社の機動力による群馬県としての防災能力の向上
・災害発生時の国・県・市町村など行政機関および公共機関との一体的な対応

に、ITを利用できないか?と検討している折、川田テクノシステムの情報共有ASPサービス「basepage」を知り、災害情報共有システムとして共同開発することとなった。
 群馬県は県土の約3分の2が丘陵山岳地帯で、大雨や積雪など、その対応如何で大災害につながる可能性を有しており、協会員283社の“正確な情報に基づく適切な初期対応”こそが、被害を最小限にとどめる最大のポイントであるといえる。それを実現するためのシステム構築に先立ち、まずは集約すべき情報の整理から取り掛かった。

災害時に求められる情報と課題

表-1 災害発生時に伝達すべき事項  災害現場の携帯電話
表-1 災害発生時に伝達すべき事項

 群馬県建設業協会では災害予見時に、それぞれの拠点において「災害協定」に基づいた点検パトロール活動を行っているが、その報告は従来、電話やFAX、口頭によるものであったため、情報の伝達手段としては以下の点において正確性と迅速性に欠けていた。

1.災害時に電話回線が混雑し、情報伝達が円滑に実施できない。
2.災害発生に伴う情報を整理するのに手間と時間を要する。
3.現場状況、情報の確実な伝達手段である視覚的情報伝達ができない。

 そこで、災害情報を「画像」で確認・蓄積するシステムの構築を前提とし、「災害発生時に伝達すべき事項」(表-1)と、それに伴う「機能要件」を以下の通りまとめた。

【機能要件】

①情報伝達、収集にあたり時間的、空間的な制約が少ない手段で情報が入手可能であること
②最新の災害情報および災害に対する対処状況の情報を把握できること
③災害情報、災害に対する対処状況の時刻による変化を把握できること
④災害時の情報伝達網の崩壊に対して複数の情報伝達手段を有すること
⑤大量に発生する情報に対して情報の信頼性を確保できること
⑥広域、同時多発する災害に対して情報分類して情報収集し、発信できること
⑦視覚的に把握しやすいこと

⇒これらの要求事項を(非常時でもすぐに使いこなせる)「簡単な操作で」運用できるシステムの構築が求められた。


GPS携帯による災害情報共有システムとは

 そこで、情報共有ASPサービス(basepage)のインフラを利用することにより、災害時の対応のみならず蓄積された情報の整理・分類にも有効な災害情報共有システムを構築することとなった。このシステムの特長を以下に挙げる。

●携帯電話の利用による簡便性・正確性
 災害現場からの情報収集には、GPS機能付きの携帯電話を利用する。災害現場の写真、位置情報、確認時刻といったデータが、日頃使い慣れた携帯電話の操作だけで行える。

●電子MAPの利用による視覚的判断
 電子MAP上に災害地点をプロットし、災害状況を視覚的に把握できる。
図-2 災害MAP 画面 国土地理院の電子国土サイトを利用
図-2 災害MAP 画面 国土地理院の電子国土サイトを利用
●データベース化による管理・指示

 収集した情報はデータベース化され、随時更新・追加される情報を時刻歴で管理できるため、状況の把握、指示が迅速に行える。また、データベースは電子MAPと連携し、蓄積した情報の検索が容易に行える。
 こうしたメリットが、冒頭で述べた災害訓練で実証されたといえる。以下、訓練実施概要を紹介する。


災害模擬訓練の実施

 模擬訓練は、あらゆる自然条件の影響を受けやすい中山間地である、沼田支部で行われた。訓練は台風接近による警戒警報が発令されたことを想定してスタート。警戒警報発令→各路線パトロール建設会社待機→パトロール開始→災害個所発見→土嚢積み上げ作業→待機解除命令といったフローで、パトロール中の建設会社からの情報(現地写真、位置情報、応援要請など)をリアルタイムにスクリーンに映し出すといった、実践さながらの訓練であったが、これが予想以上にうまくいった。携帯電話という、すでに生活に密着した機器を使うことにより、特に事前のリハーサルなどなかったにもかかわらず、各現場からの情報が滞りなく集まったのだ。臨場感あふれる情報のやり取りに、訓練成功の手応えを感じた。
 訓練後の講評では、大澤群馬県知事をはじめ官公庁関係者から非常に高い評価を得て、今後他支部での災害訓練や説明会を継続して行うこととして、訓練を終えた。
 また、群馬県建設業協会が毎年開催している、国交省関東地方整備局や県との意見交換会でも、この「災害情報共有システム」が高い評価を受け、受注者・発注者が一体となった具体的な検討を始めることが示唆された。また、県は総合評価点への反映も検討したい意向を示した。

「basepage    「basepage
図-3 災害個所の発見情報に対して土嚢の積み上げを指示し、作業完了に至るまでの各現場の模様が、GPS 携帯で次々に送信される。


訓練成功の要因は

 沼田支部での公開訓練以後、約4ヶ月をかけて各支部での説明会や携帯電話 の供給を終え、本稼動に向けての準備がすべて整った。ここまで順調に事が運んだ要因として、第一に「各社の負担をできる限り少なくした」こと、第二に「すべてをIT化するわけではないといった共通認識をもって臨んだ」こと、が挙げられる。
 こうした民意主導の取り組みは、各社の協力が得られて初めて成功する。建設業協会では、月々の利用料金が安価に抑えられるASPサービスの採用だけでなく、携帯電話の支給を行うことにより、各社の負担軽減および稼動開始までの期間の短縮に努めた。
 また、“ITはface to faceを促進する道具に過ぎない”という意識を共有し、IT化によりまったく新しいやり方を推進するのではなく、従来から行っていたパトロール活動にIT化を取り入れるかたちをとった。これが協会員同士の結束を高め、かつ、地域住民へのアピールに奏功したと確信している。


今後の展開

 操作が簡単であるとはいえ、非常時のみの稼動では、いざという時に力を発揮しない恐れもあるため、今後はこのシステムを恒常的に使用する必要がある。
 情報共有システムは災害の他にも、防犯や道路の舗装状況などの経年変化データを蓄積するなど、あらゆる形で地域の安全活動に応用ができる。より住民の生活に密着した活用を提案するため、各支部・エリアでその特性に応じた運用の提案を今後の課題としている。


関連ソフト

情報共有ASPサービス「basepage」(川田テクノシステム)




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