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成功事例集

建設ソフトやハードウェアなどのITツールを導入して成功した事例を紹介します。

岩手県大槌町の震災復興計画を3Dでモデル化して被災地支援

いわてデジタルエンジニア育成センター

Autodesk Infrastructure Modeler


会社概要 いわてデジタルエンジニア育成センター

所在地:岩手県北上市
設立:2009年7月


(右)センター長 黒瀬左千夫氏
(左)主任講師 榊原健二氏
東日本大震災の津波で壊滅的な被害を受けた岩手県大槌町では、被災した地元住民の要望を取り入れながら、大槌町東日本大震災津波復興計画基本計画(以下、復興計画)を2011年末に策定した。現在は、住宅地のかさ上げや高台移転地の造成、道路や避難路の新設、公共施設や商工業用地の配置など、復興計画を具体的に実施するための検討を建設コンサルタントとともに行っている。

いわてデジタルエンジニア育成センターは、この復興計画をオートデスクの「Autodesk Infrastructure Modeler」で3Dモデル化し、分かりやすく表現する支援を行っている。復興計画に対する地元住民の理解度も高まり、合意形成にも役立ちそうだ。今回は、その様子を取材した。

 

ゼロからのまちづくり

大槌町役場における3D
モデルによる復興計画の検討


「中心市街地から高台に向けて避難路を設置して」「この辺りには商業地を設けて」─2011年3月11日に発生した東日本大震災の津波で、町の中心部がほとんど流された岩手県大槌町では、復興局の職員がノートパソコンの画面をのぞき込みながら、復興後の町のイメージを3Dモデルにまとめるために次々と指示を出していく。

ノートパソコンを操作するのは、岩手県北上市にあるいわてエンジニア育成センター(以下、いわてDEセンター)の主任講師、榊原健二氏。2012年2月7日の打ち合わせでは、復興計画に示す地域別の復興イメージを、オートデスクの「Autodesk Infrastructure Modeler(以下、InfrastructureModeler)」によって3Dモデル化したものを大槌町役場の会議室に持ち込み、いろいろな角度からコンピューターグラフィックス(CG)を確認しながら、計画の細かい内容や未確定な部分を検討する作業を行っていた。

三陸海岸に面する大槌町は、大槌川と小鎚川が合流し、太平洋に注ぐ位置にある。かつて住宅や役場などの建物が密集していた海沿いの平地は、東日本大震災の津波で壊滅的な被害を受け、3700棟以上の家屋が全壊・半壊、800人以上が亡くなり、400人以上が行方不明になっている。

当時の町長や町の幹部職員も津波の犠牲になったため、一時は機能不全に陥った同町は、情報通信技術の活用に関心の高い碇川豊・現町長や若手職員、そして彼らを支える国や県からの出向職員によって、復興に向けて歩み始めた。

現在、以前の市街地は建物の基礎を残すだけだ。その周辺には険しい山並みが迫っている。この場所に津波の被害を防ぐ防潮堤や中心市街地、道路、そして新しい住宅地からなる町を、ゼロから作っていくのだ。


(左)検討中の3Dモデル
(右)津波で壊滅的な被害を受けた市街地の背後には険しい山並みが迫る

 

 

 

3Dで復興計画の課題が明らかに

復興計画では、地域ごとに定めた「復興まちづくりの方向」に沿って、市街地や公共施設、住宅地などの配置や、防潮堤の位置、津波避難ビルなどが計画され、国からの委託を受けた建設コンサルタントによって2011年末に縮尺3000分の1〜1万分の1の地図上にまとめられた。

一方、自動車や機械など製造業系の3次元CADを扱える人材を育成する機関である、いわてDEセンターは、3D技術で被災地の支援を行いたいと考えていた。そこで、県南広域振興局を通じて大槌町の復興計画づくりにかかわることになり、地域別の復興イメージを一つの3Dモデルにまとめたのだ。


地図上に表現された大槌町町方地域の復興イメージ(左)。 左の復興イメージをいわてデジタルエンジニア育成センター が3Dモデル化したもの(右)










現在の町役場から見た大槌町の市街地


特に分かりやすいのは、高低差や勾配だ。高台を切り開いて住宅地にする候補地を3Dモデルで見ると、地図で検討していた時には気が付かなかった勾配の状態が手に取るように分かったのだ。

「山を一面に平らに造成すると残った山の法面が急になりすぎて危ない。だからここは階段状に整地した方が良さそうだ。また、造成地が北向きになると日当たりが悪いので南向きにしよう」と、大槌町復興局復興推進室主任の小國晃也氏は提案した。

小國氏の隣で一緒に計画案を検討するのは、復興推進室主事の松橋史人氏だ。「地図上に書かれた道路の計画を3Dで見ると、勾配が急すぎたり、切土・盛土が大規模になりすぎたりして現実的に建設が難しい場所も視覚的に分かりやすい」と松橋氏は言う。

3Dで復興計画を見ることにより、建設コンサルタントも気づかなかった問題点を発見することも多い。
こうして、地図や図面上では分からない疑問点をその場で視覚的に確認しながら、作業が着々と進んでいく。


Infrastructure Modelerとは


図面と3Dモデルを照合しながら
地域別の復興イメージを確認

復興計画の3D化に使われている「Autodesk Infrastructure Modeler 2012」は2011年11月にオートデスクから発売された。その特徴は、さまざまな形式のデータを読み込んで一つの3Dモデルに統合できることだ。

2次元CADやGIS(地理情報システム)、衛星写真などのラスターデータを読み込んで、地形や自然環境などの既存インフラを3Dモデル化。その上に、AutoCAD Civil 3DやAutoCAD Map 3Dなどで作成した詳細な地形や盛土・切土、防潮堤や鉄道・道路などの構造物モデルをインポートし、復興景観案を一つの3Dモデルにまとめることができるのだ。

複数の計画案を切り替えて表示することや、さまざまな視点や角度からの計画案の検証、3D 空間の中を動き回って見る「ウォークスルー」など、計画案を土木・建築の専門家以外の人でも分かりやすく表現することができる。

「ラフな情報しかない段階でも、取りあえず3Dモデルを作り、計画の進行とともに徐々に高精度にしていける柔軟さがある」と榊原氏は語る。










3.5mの盛土を行った後の風景を3Dモデルで見たもの

町長や職員にも好評、地元説明会でも活用

東日本大震災の復興計画の検討に3Dモデルを使うのは、非常に珍しい。いわてDEセンターの黒瀬左千夫センター長と榊原氏は1月16日、復興計画を3D化したサンプルモデルを大槌町の碇川町長や職員の前でプレゼンテーションを行った。現況地形による復興計画のコンセプト確認や、複数のプロジェクト案の比較・検討、情報共有や柔軟な検討など、3Dによって可能になる復興計画支援の内容を説明するためだ。スクリーンには防潮堤や盛土された新市街地などを、上空や地上から見た姿がリアルに映し出された。
それを見た碇川町長は「復興計画の内容がとても分かりやすかった」と語り、復興計画で3Dモデルを活用していく方針を明らかにした。当日の様子は地元のテレビや新聞でも報道され、いわてDEセンターには他の被災地や建設会社などからも問い合わせが来ているという。

大槌町東日本大震災津波復興計画は、2011年度から8年間にわたり、復旧期(2013年度まで)、再生期(2014〜2016年度)、発展期(2017〜2018年度)にわけて実施される予定だ。2011年度中には事業実施計画をまとめ、いよいよ本格的な復興に向けて動き出す。










高台を切り開いた住宅地のイメージ(左)
海岸や松林、津波避難ビルのイメージ(右)





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