〜情報共有ASPサービス「basepage」を使った資機材管理データベースと災害情報共有〜
情報共有ASPサービス「basepage」
会社概要
東北建設業協会連合会
所在地:仙台市青葉区
社団法人 宮城県建設業協会
所在地:仙台市青葉区
東北建設業協会連合会(以下、連合会)は、東北6県の各建設業協会を束ねる組織で、1948年各建設業協会発足と同時に立ち上げられた。連合会で、各建設業協会、国や県、経済連合会など各経済団体などのパイプ役を務める大槻専務理事に、資機材情報データベースの構築について話を伺った。
また、資機材情報データベース構築と密接に関係する、災害発生時の情報共有をスタートさせた、(社)宮城県建設業協会の伊藤博英常務理事にも話を伺った。
左から 東北建設業協会連合会 専務理事兼事務局長 大槻 良子 氏
社団法人宮城県建設業協会 常務理事兼事務局長 伊藤 博英 氏
東北6県が一丸となって災害対策を検討
連合会が、東北6県の建設業協会員の保有する資機材のデータベースを構築するきっかけとなったのは、2008年6月14日に発生した岩手・宮城内陸地震であった。
「災害対応施策検討委員会」を立ち上げ、災害時における迅速な支援を検討する中で、東北6県を束ねる立場での使命として、広域BCPの策定に取り組むなどさまざまな活動を展開した。「資機材データベース化」は実現している具体的な事例のひとつで、全国初の試みである。
災害時に出動できる資機材(ショベルカー、ブルドーザー、オペレーターなど)を登録し、情報の一元化および関係機関との情報共有を図ることで、災害発生時に効率的な復旧活動を目指すもの。位置情報や写真などを同時に扱えるため、電子MAPで被災地との距離感を視覚的に捉えながら指示が出せ、より迅速な対応が可能となる。
「とにかく使いやすいこと。そして“一目瞭然”であること。いざという時に、実際に動ける機材がどこにあるか、ということを瞬時に判断できるのがシステム化の決め手です」(連合会 大槻専務理事)
それまでは、このような資機材情報は各社から紙で発注者に提出していた。機材の総体的な数は把握できるが、有事の際、被災地への派遣を効率的に行うためのスピード感に欠けていた。システム化にあたっては、他の建設業協会で導入実績があったこと、また、類似するサービスが他になかったことなどから、川田テクノシステムが提供する情報共有ASPサービス「basepage」が選定された。
「我々連合会は東北地方整備局と災害協定を締結しており、2010年4月にスタートした時点でのデータ登録企業数は、東北地方整備局との災害協定に基づく協力会社252社で、各建設業協会会員数の約4割にあたります。現在、全社に協力いただくために活動中です。なお、宮城県においては、県との協力企業を含む協会会員全社が協力に応じ、登録を完了しています。来年早々には全社分のデータが揃うように、地道に働きかけています」(大槻専務理事)
■資機材データベース画面イメージ
各建設業協会員会社が自社で保有している建設重機や資機材を登録することにより、災害発生時には建設業協会が指揮をとり、被災地への派遣が迅速に行える。
データベース登録を東北6県で実施しており、かつ電子MAP上で位置関係を視覚的に捉えられるため、県境への出動もより効率的な指示を与えられる。
地域の安全は建設業が守る
「この仕事をしていて強く感じるのが、地域の安全を守っているのは建設業だということ。自然の脅威と対峙した時に真っ先に駆けつけるのは地元の建設業者なんです」こうした現状を、ひとりでも多くの人に理解して欲しいと大槻専務理事は語る。
「私は“建設”という言葉が大好きなのですが、省庁の名称も変更され、文字通り“建設的”な意味で使われる機会が減っている気がします。日々の暮らしやすさに慣れてしまった世の中で、どんなに暑い日でも、どんなに寒い日でも現場で働く人々の“建設=ものづくり”の使命感には頭が下がります。公共事業というととかく風当たりが強い昨今ですが、“建設業”が地域の安全も作っているということが少しでも多くの人に伝わるとうれしいですね」
同じくbasepageサービスを使って災害情報共有への取り組みを開始した宮城県建設業協会 常務理事の伊藤氏に話を伺う。
確実性、視認性、発注者との共有
宮城県建設業協会は、1998年3月に県との防災協定を締結していたものの、見直しがなされないままであったが、協定に謳われている内容と実際の動きに整合性が取れていないことを露呈したのは、やはり2008年岩手・宮城内陸地震であった。
「パトロールにあたっての契約対象、方法、金額発生の有無などが明確になっていませんでしたし、地域によってバラバラでした」(常務理事 伊藤氏)
宮城県土木部としても2010年6月にBCPが策定され、それに基づき9月に災害協定が見直された。そこには、災害発生から48時間以内であれば社会貢献活動として無償でパトロールを実施することが盛り込まれた。
連合会で前述の「資機材のデータベース化」が進んでいたため、同じくbasepageを使ってのシステム化が実現した。
「携帯電話はつながらない。衛星電話はコストが高い。メールだけは遅れはしても届く。岩手・宮城内陸地震等の災害発生時でのこうした経験をもとに、GPS携帯電話のメールを利用するという『確実性』と、位置情報を電子MAPで見られる『視認性』、そしてそれを『発注者にも提供』できるという点が大きな利点でした」
今後の活用に大きな可能性
また、災害時だけでなく日常的な使用も検討しており、廃棄物の不法投棄の情報提供や子供110番パトロール等での活用を予定している。建設業は思った以上に地域の生活に密着していることを、もっと多くの人に理解して欲しい、と伊藤氏は語る。
「建設投資が縮小傾向にある現状において、国家としてのBCPが問われていると思います。宮崎県で2010年に発生した口蹄疫問題で、最終的に殺処分された牛の埋却で実動したのは建設業です。4m以上掘削する技術は建設業にしかありません。当協会でも宮城県との家畜伝染病に関する協定を9月に締結し、実働にあたっての説明会を全9支部において実施し周知を図っております。宮崎県では埋却する土地を確保するのに時間がかかった等の反省を踏まえ、土地の確保と併せてその土地に重機が入っていけるか等の検証が現在なされています。そういった土地や家畜の情報もbasepageを使って建設業の資機材情報とリンクさせれば、より有機的な活用ができるのではないでしょうか。あらゆる機関と連携した組織的な対応が必要となりますが、地域の安全を守るといった観点から、建設業が率先できればと考えます」
■資機材情報管理と災害情報共有の融合
GPS機能付き携帯電話から被災状況をメールして、電子MAP上にその情報がプロットされる。
さらに、予め登録しておいた資機材の情報を表示することにより、迅速な判断・指示が可能となる。
今後の展開
連合会は、資機材データベースの普及と併せて“広域BCP”の策定を推進している。まだBCPの必要性に対する認知度がまちまちで、実際に策定した企業の具体例を示した説明会の開催や、企業規模に合わせたマニュアルを作るなどで後押ししたいと考えている。
宮城県建設業協会では、(社)仙台建設業協会と共催し、仙台市(若林区)との合同災害訓練を実施し、今後各地区での開催も検討しているため、これまで行っていた災害訓練のシナリオをもとに、システム導入に伴う見直しをかけている。
「こうした災害訓練等を通じて、ソフトウェアベンダーには地域の実状を深く理解してもらい、実態に即した提案とシステム改良をして欲しいですね」
今回話を聞いた両氏はともに、地域の安心・安全を守るという建設業の使命を全うするために、人と人との繋がりを最も重視しており、その手段としてITを利用していることがよくわかる。あらゆる人と情報とのマッチングのバリエーションを豊かにするためのITであり、その目的あってのITであると感じられた。
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