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書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。

いまさら聞けない BIM/CIMの始め方

2021年9月13日

 

BIM/CIMの状況

周知の通り、国土交通省は令和2年9月の第4回BIM/CIM推進委員会にて、「令和5年度(2023年度)までに小規模を除く全ての詳細設計・工事においBIM/CIMを原則適用」という方針を示しました。
 
また、CIM導入ガイドライン(案)は、「設計業務等共通仕様書」の構成に合わせて、より業務内容との関係性を明確にして参照しやすくするために、BIM/CIM活用ガイドライン(案)への再編が行われ、共通編については、令和2年3月に公開されました。令和3年度には河川編、砂防および地すべり対策編、ダム編、道路編などが公開されます。
 
このようにBIM/CIMの世界は毎年急速にバージョンアップしていますので、常に情報を把握することが重要です。
 
弊社が受託しているBIM/CIMモデル作成の依頼では、昨年度よりモデリング相談が漸増し、本年度はさらに新たな顧客からの相談が急増している状況から、業界全体が大きく変わってきているのが手に取るように分かります。
 
新たな相談の中で最も多いのが、「BIM/CIM活用業務ではないけれど、会社として取り組みをしていきたいが、どうすれば良いでしょうか」という相談です。今までも国土交通省の発表や各種団体のセミナーなどで情報を把握していたけれど、いざ具体的な取り組み方についてとなると経験がないので分からないということです。
 

BIM/CIMの詳細設計・工事への適用のロードマップ(案)

国土交通省 第4回BIM/CIM推進委員会資料より抜粋



弊社もCIMという言葉が出てきた平成24年度あたりの時点では、取組順序も分からず、何が正解かも分からずやってきましたが、さまざまな経験から得たものがあり、今回ここにこれから取り組む際に知っておくべきことを紹介したいと思います。
 
 

まずは3次元データの特徴を把握する

BIM/CIMを始めようとすると、すぐにどのソフトを選定すれば良いかとか、後述するリクワイヤメントを満たすには、どうすれば良いかと考えがちですが、ソフトを買えばできる訳でもなく、単に3次元化するだけでは、自分たちの生産性向上は図ることはできません。
 
まず、初めに必要なのは、土木で利用する3次元データの特徴を把握する必要があります。土木で利用する3次元データには、下記の3種類のデータがあります。3Dポリラインなどの線(ワイヤーフレーム)は今回除いて考えます。
 
・ソリッドモデル
・サーフェスモデル
・点群データ
 
ソリッドモデルは、中身の詰まったデータで、豆腐のようなものです。土木では「構造物」で利用します。単体で体積を算出したり、形状に属性を付与することが可能です。

 
土木で利用する3次元データの特徴


サーフェスモデルは、表面だけのデータで、ブルーシートのようなものとなります。
 
土木では「現況地形」「造成後の法面」などに利用します。
 
単体だと表面積しか算出できませんが、複数のサーフェスデータがあれば、差分計算により土量計算に活用できます。
 
中にはソリッドモデルに見えるサーフェスモデルというものもありますが、今回の解説は省略します。
 
土木で利用する3次元データの特徴

点群データは、集合体で見ると地形や建物が3次元に見えますが、1点につきXYZの座標を持つデータです。
 
点群単体で、「現況」の状況が見えるだけでなく、必要な個所をデータ上で計測が行える他、点群からサーフェスを作成することも可能です。
 
また点群を削除することで、新しい景観を見ることが可能となります。
 
土木で利用する3次元データの特徴

これら3種類のデータは、複合的に利用しても単体で利用してもBIM/CIM活用をしているといえます。ただし、どの工種にも使えるわけではないということに加え、異なる特性のデータなので、扱うソフトウエアが異なるということに、気付いていただきたいのです。
 
対象の工事でどのデータが必要になるかを先に知ることが重要であったりします。
 
例えば、起工測量時に点群をとっておけば、施工計画書作成にも利用できますし、これから施工する3次元モデルを配置する3次元の現況図を別途作成する手間が省けてBIM/CIM活用にもなり、生産性向上にもつなげられたりするからです。
 

土木で利用する3次元データの特徴

福井コンピュータ株式会社提供



工種によるデータの違いとソフトウエア選定

2次元CADもソフトウエアによって特徴がありますが、3次元は次元が増えた分、当然ながら倍以上のソフトウエアの種類や特徴があります。
 
3次元CADは、自動車業界、映像・ゲーム業界、建築業界などで発展してきました。
 
これらの業界では、作成するモデルは自動車業界ならクルマ、建築業界なら建物といったように作るものは一貫性があり、形状が異なるだけなので複数のソフトウエアを利用する必要がありません。
 
一方、土木業界は多種多様な工種があるので、異なる3次元データを混在させたり、使い分けたりする必要があります。
 
では土木業界で必要な3次元モデルは工種によってどのように分類されるのでしょうか。
 
3Dデータと工種のポジショニング

上図のようにサーフェスとソリッド、地形を含む工種と単体で成り立つ構造物で分類すると、多種多様なのが分かります。
 
この図からも分かるように、当然、利用するソフトウエアも異なってきます。
 
・ 地形が絡む工種(現況地形、計画地形、道路、河川)
 
地形が絡む工種(現況地形、計画地形、道路、河川)

・単体で成り立つ工種(構造物、仮設)
単体で成り立つ工種(構造物、仮設)

ここで重要なのは、BIM/CIM対応するためには、数種の3DCADを利用しなければならないことです。
建築と土木は同じ建設業界ですが、考え方が大きく異なることを知っておくべきです。
 
構造物は地形上に存在し、施工段階の状況(土工事や地形なりの構造物)を複合的に表示したりしますので、サーフェスデータとソリッドデータを同じ空間で表示する、いわゆる統合モデルを作成する必要が生じることもあります。
 
上記のような理由から、会社全体で統一したソフトウエアを選定するのではなく、工種ごと(担当部署ごと)に選定し、複数のソフトウエアを組み合わせて利用することを推奨します。
 
 

詳細度によるデータの違い

工種により作成するデータやソフトウエアが異なることを理解しただけでは不十分です。
 
BIM/CIMに対応するためには、詳細度(LOD:Level Of Detailsの略)を考慮したデータを作成する必要があります。
 
詳細度は、LOD100 ~ LOD400まで4段階あり、3次元モデルの利用シーンによって、どこまで詳細に作成すべきかを決めて作成します。
 
3次元をやったことない方が最初に壁となるのは、この詳細度といっても過言ではありません。
 
全ての構造物データを一番詳細なモデルであるLOD400で作成すれば、積算も可能になってきますので(積算については他の問題点もありますが)、これでなければBIM/CIM活用ではないと思っていないでしょうか。
 
図-1のように鋼構造物は重要となる場合がありますが、どのような工種でもいつも必ずその詳細度は必要があるでしょうか?
 

詳細度によるデータの違い

図-1
LOD400の例:オフィスケイワン株式会社提供



例えば、道路工事の場合、L型街渠を1本ずつ作る必要があるでしょうか?そこまではほとんどすることはないので、大げさな話ですが、LODを詳細にすると当然作業時間も膨大になるということです。
 
国土交通省は2023年度までに小規模を除く全ての公共工事でBIM/CIM化と言っていますが、詳細度については指定していません(図-2)。
 

土木分野におけるモデル詳細度標準(案)

図-2
出典:土木分野におけるモデル詳細度標準(案)
【改訂版】平成30年3月 社会基盤情報標準化委員会 特別委員会



詳細度は下図のように定義されていて、BIM/CIMをどのシーンでどのように活用し、どのような効果が得られるのかによってLODを決めてやっていくことも重要なポイントだと思います。3次元から少し離れた話になりますが、地図情報においてこの詳細度について考えてみてください。
 
都道府県を表示している時は主要な道路くらいしか表示されていないのに対し、自分の住んでいる地域を表示している時には主要道路に加え、街区道路や住宅が表示されています。
 

尺度による表示内容の違い

尺度による表示内容の違い:地理院地図より引用



つまりエリアが広範囲の場合は街区道路があっても見えないため、詳細度を下げ、エリアが狭い場合は詳細な情報が必要なため、詳細度が高くなっています。
 
BIM/CIMも同様に利用シーンによって詳細度は変えるべき(常に詳細に作る必要はない)と私は思っています。生産性向上、問題点の解決など、意味のある3次元モデルを作成することを強くお勧めします。
 
 

2次元CADの使い方と異なる点

現在は3次元での設計までは実現できていないことが多く、設計された2次元図面から3次元モデルを作成することがほとんどです。
 
その際に必要な知識としては、2次元図面では1工事単体で図面の役割を成していましたが、土木における3次元の場合は、地理空間上の構造物として管理するために単位を合わせる必要があり、m単位、少数点以下第3位までの管理となります。
 
平面図においては、図面枠内に作成していたのに対し、方位や座標をCADデータそのものに与えることに加え、測地座標系を設定する必要が生じます。
 
そのため、測地座標系は世界測地系(測量成果2011)とし、平面直角座標系を用い、m単位で統一することになります(管理する数値は小数点以下第3位まで)。
 
さらには、基準水準面については、T.P.(東京湾中等潮位)を標準とするので、A.P.やO.P.は変換した高さに変換しなければなりません。
 
構造図の場合は、現状ではmm単位で作図されていることが多いと思いますが、3次元ではm単位で作図して小数点以下第3位の精度でモデリングします。
 
3次元データに取り組む際に、2次元図面の描き方も変化を求められているのです。
 
さらに3次元図面を作図するためには、画面を上から下からまたは左右からと動かしながら作図します。画面表示の変化が激しいため、PCのスペックが乏しいと動かなくなってきます。
 
 

必要なハードの環境

BIM/CIMに取り組む際によく聞かれる項目の一つがPC環境です。そしていつも回答することは、作成する3次元データによって異なるということです。点群を扱う際や3次元モデル作成の範囲が広ければ、情報量が多いため相当なスペックが求められます。単体の構造物で配筋などが入らないLODが低いデータであれば、それほど高スペックでなくても良いこともあります。全員のPCを高スペックにするのではなく、作成するモデルによってPCを使い分けるのも手です。
 
推奨スペックは扱う3Dモデルによって異なります。
・点群処理、広範囲の場合やVRの場合
・単体のモデリング程度の場合
(表-1)
 

BIM/CIMに取り組む際に必要なハードの環境

表-1



人材育成

土木業界では今まで3次元に取り組んでいませんでしたので、BIM/CIM作成ができる人材はほとんどいないのが実情です。他の業界(建築や機械業界)でモデリングできる人を探す方法もありますが、構造物のモデリングはすぐにできるようになる一方、サーフェスモデルは土木の図面を読み取る力が必要なので、特に時間がかかります。メーカー各社の研修を積極的に受講することをお勧めします。
 
 

事例

 

CIM導入ガイドライン 下水道編

CIM導入ガイドライン 下水道編 R1.5 国土交通省抜粋




施工計画の例

施工計画の例:福井コンピュータ株式会社提供




点群活用の例

点群活用の例:株式会社デバイスワークス



要求事項(リクワイヤメント)について

BIM/CIM活用の実施方針として、要求事項(リクワイヤメント)という言葉があります。
 
これは、BIM/CIMモデル作成に関する発注者の要求事項ということですが、必須項目としては、
・CIMモデルの作成・更新
・属性情報の付与
・CIMモデルの照査
・CIMモデルの納品

選択項目としては、表-2から5項目
を選択することになっています。
 

要求事項(リクワイヤメント)選択項目

表-2



要約すると、
・CIMモデルの共有、確認
・情報共有システムによる情報連携
・後工程で活用できる必須項目以外の
属性情報
・施工ステップの確認、工程連携
・モデルからの自動数量抽出
・2次元図面との整合性を確認する3DAモデル作成
・3次元モデルおよび属性を活用した照査
・ICTによる3次元計測と3次元モデルでの検査
・CIMモデルを活用した仮設計画、施工計画
を選択することになっています。
 
リクワイヤメント必須項目で出てくる属性情報について、どんな属性を入れれば良いかという議論が必ず出てきます。
 
例えば、今回の案件が道路設計だとします。
 
道路設計には、サーフェスモデルで作成される道路線形や法面に加え、BOXカルバートのようなソリッドモデルが共存することが多いと思います。
 
ここで重要なのは、リクワイヤメントを対象範囲全体でやる必要はないということです。この例で言えば、属性としては道路の中心線形はJ-LandXMLによって属性情報が入ります。道路線形情報は、施工者側にデータが渡る際に非常に重要な役割を果たしますので、この属性情報を作成すれば良いのです。
 
このデータがあるとMG(マシンガイダンス)で利活用でき、施工者側が生産性向上を図れるのです。BIM/CIMはデータが活用できなければ意味がありません。自分たちが便利になることも重要ですが、業界全体がトータル的に生産性向上に図れるように考えるべきだと思います。
 

構造物モデルは、施工者側でコンクリート打設リフトの情報などの属性を入れるなど完成形状にだけ属性を入れるなど、作業途中の情報を入れることも可能です。
 
BIM/CIMを行うに当たって、見栄えの良い実績となる配筋のモデリングを望む声が多く聞こえます。しかし私は必ずしも重要だと考えていません。設計図どおりに作成すると継ぎ手は重なってしまいますので、干渉チェックをする際にはわざわざ動かしておかなければなりません。
 

継手部分の重なり

継手部分の重なり



確かに数量は算出できますが、2次元図面から作っているだけなので、数量は分かっています。設計ミスを見つけることはできるかもしれませんが、作業ボリュームに対する費用対効果があまりないと思います。
 
鉄筋の取り合い(補強筋など)を確認する箇所だけ作成すれば良いと思います。
 
属性を利用して数量を算出する際に、3次元モデルを作成すれば本数などを計上することができ、効果的になると考えて、鉄筋の属性を入れることが挙げられますが、鉄筋が全て入っていなくても参照による属性管理をすることが許されていますので、参照(リンク)による対応も考える方が得策かもしれません。参照情報のデータベースがあれば積算につなげられますので、3次元モデルとは別途作成して管理することも考えてみてはいかがでしょうか(図-4)。
 

BIM/CIM活用ガイドライン(案)

図-4 BIM/CIM活用ガイドライン(案)共通編 R2.3 国土交通省



鉄筋の例のように、全てを3次元化しようとするのではなく、費用対効果を考えて協議すべき箇所についてBIM/CIM化をすべきだと考えています。
 
BIM/CIMを始める際に、最初から難しいことをやろうと考えると非常に大変です。できるところから取り組んで、そこから飛躍していっていただければ幸いです。
 
最後にBIM/CIMは1年ごとに進展しています。常に最新の情報を取得していくこと
が大切です。
 
国土交通省のBIM/CIMポータルサイトを確認して実施方針やガイドラインを確認するようにしましょう。
http://www.nilim.go.jp/lab/qbg/bimcim/bimcimindex.html
 
 

問い合わせ先

株式会社デバイスワークス
東京都中央区日本橋茅場町2-14-7
日本橋テイユービル1F
03-6661-7771
代表取締役 加賀屋 太郎
Email:consul@deviceworks.co.jp

株式会社 デバイスワークス 代表取締役 加賀屋 太郎

 
 
【出典】


建設ITガイド 2021
BIM/CIM&建築BIMで実現する”建設DX”
建設ITガイド_2021年


 
 
 



中部地方整備局におけるBIM/CIM 活用への転換に向けた取り組み

 

はじめに

国土交通省では、インフラ分野のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進本部を設置し、2023年度までに小規模なものを除く全ての公共工事において、BIM/CIM活用への転換を実現することとしました。
 
BIM/CIM活用による生産性向上を目指すためには、契約~監督~検査のプロセス全体の3Dモデルによる工事契約手続きが必要になると考えています。本稿では、3Dモデルによる工事契約も見据えた中部地方整備局におけるBIM/CIM活用への転換に向けた取り組みを紹介します。
 
 

中部地方整備局における現場での取り組み

中部地方整備局では、2023年度(令和5年度)までに直轄工事の約9割を受注している「一般土木Cクラス」の受注者が、3Dモデルによる施工プロセス(契約~施工管理~完成図書納品)の対応ができることを目指し、インフラ分野のDX推進のロードマップ(図-1、2)を作成し、以下の取り組みを実施します。
 

中部地整におけるBIM/CIM活用への転換に向けた取り組み

図-1 中部地整におけるBIM/CIM活用への転換に向けた取り組み




令和5年度のBIM/CIM活用に向けたロードマップ

図-2 令和5年度のBIM/CIM活用に向けたロードマップ


 

(1)BIM/CIM活用への転換に向けた具体的な課題の解決を検討

具体的な課題検討を進めるため、分任官の道路新設工事を試行工事(モデル工事)に位置付けて、3Dモデルによる業務執行上の課題抽出、解決案を検討します。
 
課題抽出、解決案検討については、今年度発足した「中部i-Construction研究会」の構成員であるICTアドバイザー(BIM/CIMやICT施工経験のある建設コンサルタント、施工者、ソフトメーカー担当者等)の協力も得ながら、より現実的・実践的な検討を実施していきます。検討された解決案で対応可能なものは随時適用しながら、その結果も踏まえ、次年度以降、他工事へ横展開することで、短期間に多くの工事のBIM/CIM対応能力の底上げを目指します。
 
今年度の試行(モデル)工事として、i-Conサポート事務所でもある紀勢国道事務所の熊野道路における道路建設工事、下部工事を選定しました(図-3)。
 

熊野道路の全体概要

図-3 熊野道路の全体概要


 
今後、試行(モデル)工事による検証を先行させながら、順次、適用事業を拡大していく予定です。

 

(2)i-Constructionモデル事業「新丸 山ダム建設事業」

単一大規模構造物としてBIM/CIM活用効果の高いと考えられる新丸山ダム建設事業(新丸山ダム工事事務所)においてBIM/CIM適用拡大に向けた取り組みを推進します。
 
2020年度には本体工事を発注し、設計段階から施工段階へ移行します。3D統合モデルによって発注者、施工者、設計者との情報共有を推進し、無駄、手戻りのない施工を目指します。
 
本体工事は2D図面を契約図書として工事契約しますが、参考資料として工事受注者に3Dモデル(図-4)を提供し、受注者の協力も得ながら現場での施工効率化、高度化のさまざまな実証を検討していきます。施工情報を付与した3Dモデルは完成図書の一部として納品され、維持管理資料として活用していく予定です。
 

ダム本体モデルのイメージ

図-4 ダム本体モデルのイメージ(設計段階で作成するモデル)


 
今後、ユースケースを想定した3Dモデルを作成し、事業全体の情報共有システムを構築して情報の一元化・共有を強化し生産性向上を目指します。
 
 

DX推進のための人材育成の取り組み

国土交通省、国土技術政策総合研究所等と連携して、2021年度からBIM/CIM活用できる人材育成するための拠点施設として、中部技術事務所に人材育成センターを整備していきます。1階はインフラ分野のDXを進めるさまざまな技術(BIM/CIM、VR、AR、遠隔臨場等)を体験でき、2階は高性能PCを使用できる数十人規模の講義、研修、セミナースペースとする予定です。
 
施設完成後は、さまざまな対象者(国、自治体の発注者、建設コンサルタント、工事施工者、学生等)に対してコンテンツを用意し、インフラ分野のDXによる効果を体感しながら具体的な技術を学ぶ場として活用していく予定です。
 
また、中部地方整備局には、DXルームを整備し、整備局来客者へBIM/CIM活用の紹介、現場フィールド(新丸山ダム)から配信されるリアルデータを用いたバーチャル体感により、DXによる効果を実感していただく予定です。
 
さらに中部地方整備局管内事務所へ複数台の高性能PCを導入し、職員自らが実際の業務・工事で活用できるよう環境整備を進めています。
 
 

おわりに

中部地方整備局では、BIM/CIM活用への転換を目指して、全国に先駆けて3Dモデルを主体とした業務執行にあたっての課題解決を進めていきます。
 
2021年度からは、中部地方整備局内で試行工事(モデル工事)を拡大していくとともに、そこで得られた課題や解決案を他の地方整備局とも共有していく予定です。
 
それにより実務的な課題に対応できるようになると考えており、2023年度には、3Dモデルの契約図書化を含め、3Dモデルを主体とした工事の実施を目標にしています。
 
最後に、中部技術事務所に整備する人材育成センターを活用して、中部地方のインフラ分野のDXをリードする人材の育成をしていくことで、建設業界の生産性向上と働き方改革、新たな生活様式への対応に寄与していきたいと考えています。
 

国土交通省 中部地方整備局 企画部 技術管理課

 
 
【出典】


建設ITガイド 2021
BIM/CIM&建築BIMで実現する”建設DX”
建設ITガイド_2021年


 
 
 



北陸地方整備局における BIM/CIMの取り組み

2021年9月7日

 

はじめに

国土交通省では、建設現場の生産性向上を図るi-Constructionの取り組みにおいて、3次元データを基軸とする建設生産・管理システムを実現するためBIM/CIM(Building/Construction Information Modeling,Management)という概念において産官学一体となってBIM/CIMの取り組みを推進しています。なお、全体的な方針として令和5年度までに小規模構造物を除く全ての公共工事でBIM/CIMを活用することが示されており、北陸地方整備局においても令和2年度の実施方針として、大規模構造物予備設計からBIM/CIMを原則適用、そして前工程で作成した3次元データの成果品がある業務・工事についてもBIM/CIMを原則適用することとしています。
 
また、i-Constructionをより一層促進し、3次元データなどを活用した取り組みをリードする国土交通省直轄事業を実施する「i-Constructionモデル事務所」(全国10事務所)を平成31年3月に決定しており、北陸地方整備局では信濃川河川事務所が指定され、「大河津分水路改修事業」が『3次元情報活用モデル事業』となっています。
 
本稿では「大河津分水路改修事業」でのBIM/CIMの取り組みを紹介します。

 
 

大河津分水路改修事業の概要

大河津分水路は信濃川の洪水から越後平野を守るため、大正11年(1922年)に通水した延長約10kmの放水路です(図-1)。しかし、河口部は洪水を安全に流下させるための断面が不足しており、直近では、令和元年10月の台風19号による出水にて観測史上最高水位を記録し、約10時間にわたり計画高水位を超過するなど、大変危険な状態となっています。また、分水路は建設後90年以上が経過し、施設の老朽化などが進んでいます。
 

大河津分水路改修事業 位置図

図-1 大河津分水路改修事業 位置図




そのため、信濃川水系全体の洪水処理能力を向上させるため、大河津分水路の改修に着手することになりました。大河津分水路の改修に当たっては、課題となっている流下能力向上や河床の安定、老朽化施設の対策として、河口山地部掘削、低水路拡幅、第二床固の改築を実施する計画とし、事業期間は2015年から2032年までの18年間にわたり、全体事業費は1200億円となります(図-2)。
 
統合CIMモデル

統合CIMモデル(完成予想図)



信濃川河川事務所におけるBIM/CIMの取り組み

信濃川河川事務所ではi-Constructionモデル事務所としてさまざまな検討を進めていますが、ここでは大河津分水路改修で取り組んでいる「監督・検査でのBIM/CIMの活用検討」について紹介します。
 

(1)3次元データとVR技術を活用した出来形検査

信濃川河川事務所では対象構造物を3次元レーザースキャナで計測し、統合CIMモデルに取り込み、そのモデル空間にVR技術を活用し、出来形検査の試行を行いました(写真-1、図-3)。
 




バーチャル空間に表示される検査対象の3次元モデル

図-3 バーチャル空間に表示される検査対象の3次元モデル




検査官は事務所内にてVRゴーグルを装着し、ゴーグル内に表示される検査対象構造物の3次元モデルに計測ツールのカーソルを合わせ、出来形を計測することができます。
 
一方で、使用するハードやソフトにも依存する部分ですが、VR機材におけるコントローラーの操作感覚が職員で異なるなど、使用に際し困難な点もあることが確認できました。また、本来であれば一人で対応可能な検査でもパソコンを操作する職員が補助として必要になります。
 
一般化していくには、誰が操作しても同様の品質で成果が出せる必要があり、職員の習熟度の向上に合わせ、ハード・ソフトの機能改善が必要であることが確認できました。
 

(2)ウェアラブルカメラとウェブ会議による遠隔臨場検査

 
現在実施中(R2.10末時点)の工事において、ウェアラブルカメラとWeb会議の併用による法面保護工の遠隔臨場検査を実施しました。
 
現場では、ウェアラブルカメラを装着した受注者が施工個所に赴き、大河津出張所において検査官と受注者が立会のもと、Web会議により検査官指示のもと施工個所の立会検査を行いました(写真-2)。
 

検査官による立会検査の状況

写真-2 検査官による立会検査の状況




これにより検査官は現地で立会うことなく検査を実施できるため、現場への移動時間を削減することができます。
 
一方、受注者は検査に際し、現場を止めることなく検査を受けることができ、さらに立会う人員の抑制や検査時間の抑制が可能となりました。受注者からは、人工、工数でおおむね50%程度の削減効果があったとの報告を受けており、遠隔臨場検査による効果が確認できました。
 

(3)ウェアラブルカメラとMR(複合現実)技術を活用した段階確認

現在実施中(R2.10末時点)の工事において、ウェアラブルカメラとMR技術の一つであるMicrosoft社のHololensを活用して、ICT法面出来形確認を対象とし、遠隔での書類検査と臨場立会の試行を実施しました(写真-3)。
 

新しい協議形態の試行状況

写真-3 新しい協議形態の試行状況(MR技術の活用)




MR技術を活用することで、Holo-lensを装着した複数の担当者が、クラウド上で共有された書類や現地の情報をHololens越しに目の前で閲覧、確認できるため、あたかも臨場しているかのような環境で各種情報を確認することができるようになります。
 
 

おわりに

北陸地方整備局においては、本稿で紹介したi-Constructionモデル事務所の大河津分水路改修事業によるさまざまな取り組みの経験を基に、さらなるBIM/CIMの拡大を図るべく管内各事務所においてもBIM/CIMを活用し、生産性向上の推進を行っていきたいと考えています。
 

北陸地方整備局 企画部 技術管理課

 

【出典】


建設ITガイド 2021
BIM/CIM&建築BIMで実現する”建設DX”
建設ITガイド_2021年


 



関東地方整備局におけるBIM/CIMの取り組み~一貫した3次元データの利活用を図るため~ 大宮国道事務所の活用事例

2021年9月6日

 
関東地方整備局では、令和5年度までに小規模なものを除く全ての公共事業についてBIM/CIM活用への転換を図り、発注者、受注者の育成およびBIM/CIMを活用した新技術の現場実証を推進するため、令和3年4月に関東地方整備局 関東技術事務所に「関東i-Construction人材育成センター(仮称)」を設置する。
 
「関東i-Construction人材育成センター(仮称)」では、3次元情報を利活用(モデル作成、照査等)できる人材を速やかに育成するための研修を実施していく予定である。
 
さらには、i-Constructionモデル事務所である甲府河川国道事務所と連携するとともに、VR・AR等の活用など体感型の研修や民間の業界団体が実施する講習会との連携についても、本省を含め検討しており、BIM/CIMの導入促進について、取り組んでいく。
 
また、国土交通省が進める3次元データやデジタル技術の活用を加速するインフラ整備および管理におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進に向けて、令和2年10月28日に関東地方整備局BIM/CIM・DX推進本部を設置し、建設生産プロセスの各段階において3次元モデルや3次元情報を活用するとともに、関連する新技術の活用により、受発注者双方の業務の効率化・高度化を図り、建設現場の生産性向上、働き方改革の促進、ワークライフバランスの実現を目的として、これらを達成するため、推進本部の下に、河川、道路関係の各種取り組みを検討、実施するワーキンググループを設置し推進していく。
 
今回は、関東地方整備局のi-Const-ructionサポート事務所である大宮国道事務所が所管している一般国道17号新大宮上尾道路におけるBIM/CIM活用について紹介する。
 
 

事業の概要

 
新大宮上尾道路は、埼玉県の中央部を南北に縦断し、東京外かく環状道路と首都圏中央連絡自動車道をネットワークでつなぐ、延長約25.1kmの自動車専用道路である(図-1、2)。
 
本事業は、1日当たり約7万台の交通量がある6車線道路の現道上に高架橋を整備する必要があるため、施工ヤードの確保や車線規制等に大きな制限を受けることとなる。また、国道16号およびJR川越線と交差する宮前ICでは、既設ランプ等の道路構造物が錯綜していることから、交差条件および施工条件が非常に厳しい中で、橋梁設計および施工計画を立案する必要がある。
 

完成形イメージ(宮前IC付近)

図-1 完成形イメージ(宮前IC付近)




新大宮上尾道路位置図

図-2 位置図



 

設計段階でのBIM/CIMモデルの活用

(1)BIM/CIMを導入した設計

本事業では橋梁予備設計および道路詳細設計においてBIM/CIMを導入した。設計段階からBIM/CIMを導入することはフロントローディングと呼ばれており、工事を見据えた作業の前倒しである。BIM/CIMモデルを作成することで設計成果の可視化、シミュレーション化による検証が可能となり、品質の最適化を図ることができる。
 

(2)3次元測量の実施

a)3Dモデルへの活用
 
本事業ではCIM導入の先駆けとして、測量段階において移動計測車両(MMS)による3次元測量を全線で実施している。MMSによる測量では交通規制が必要ないため、現道交通に大きな影響を与えることなく3次元測量が可能である。しかし、MMSによる測量だけでは点群密度が低くなる箇所や、遮蔽物等の影響で点群データの取得が不可能となる箇所が発生する。そのため、本事例では3Dレーザースキャナー測量およびUAV測量により補足測量を実施し、現況地形および現況地物の把握に必要となる点群データの取得を実施した。
 
b)点群データの活用
 
点群データによる現況地物を3Dモデル化し、橋梁予備設計を基に、橋梁CIMモデルを合成した(図-3)。点群データ上にBIM/CIMモデルを重ねることで完成イメージがより具体化し、関係機関協議等において、完成形イメージの共有化を図ることができた。特にJR川越線をまたぐ橋梁計画ではBIM/CIMモデルを提示することで、実際の架橋位置や、基線近傍の擁壁からの離隔を確認することができ、早期の合意形成を図ることができた。
 

点群データの活用

図-3 点群データの活用

 

(3)橋梁予備設計での活用

a)橋脚配置検討での活用
 
本路線は、国道16号と国道17号上尾道路が複雑に交差する宮前ICをまたぐ計画である(図-4)。
 

宮前IC(現況)

図-4 宮前IC(現況)

 
竣工図および測量結果より既設構造物の3次元モデルを作成し、その上に計画橋梁を配置することで、立体的に既設構造物との離隔を確認しながら、支間割検討を行うことができた。
 
b)既設構造物との取り合いの確認
 
実際に計画した上・下部工と既設構造物のコントロールポイント(建築限界)の3次元モデルを作成することで既設橋梁と計画橋脚の取り合いの確認を実施した(図-5)。作成したBIM/CIMモデルから任意の横断図を抽出することで、任意の位置で離隔幅を数値的に確認することができた。
 

既設構造物との取り合いの確認

図-5 既設構造物との取り合いの確認

 
また、横断歩道橋に対しては建築限界2.5m+桁下の維持管理空間0.8m以上のクリアランスが必要となるため、各横断歩道橋の建築限界、維持管理空間を3次元モデル化し、道路中心線に対する断面を抽出することで、必要計画高さを漏れなく確認することができた。このような確認により縦断線形の精査をすることができた。
 
c)施工計画の妥当性の確認
 
宮前IC跨道部は交差条件および施工条件が非常に厳しく、上部工架設時および下部工施工時ともに2次元上での検討だけでは計画の妥当性の判断は困難であった。
 
そのため、橋梁計画と同じモデル上に施工機材を配置することで、各施工ステップの計画の妥当性を確認し、立体的に施工計画の精査を実施した。基礎はケーソン基礎が検討されており、必要となるクレーン等の施工機材を配置することでアームの回転の可否や施工ヤードが確保できているか等、その妥当性を確認することができた(図-6)。
 

下部工施工計画

図-6 下部工施工計画

 
また、上部工架設では一般的なトラッククレーンベント架設は難しいため、隣接する区間からの送り出し架設を検討した。送り出し架設の可否のため、隣接する区間にトラッククレーンおよびベントの設置を3次元上(架設計画モデル)で実施し、施工ヤードの確保が可能であるか等、妥当性を確認することができた(図-7)。
 

架設計画モデル

図-7 架設計画モデル

 
このように構造物が輻輳する箇所でBIM/CIMモデルを活用することにより、施工計画を立体的に立案することができた。
 

(4)道路詳細設計での活用

a)現道移設平面計画
 
現道移設平面計画にあたり、コントロールとなる下部工施工ヤードおよび上部工架設時の俯角影響範囲の確認にBIM/CIMモデルを活用した(図-8)。地形の起伏(現道の縦断線形)と専用部架設時の俯角影響ラインを3次元化することでコントロールポイントを正確に抽出し、手戻りの発生を未然に防ぐことが可能になる。さらに地形、計画道路BIM/CIMモデルと点群を合成することで、電柱やガードレール等の支障物件を漏れなく抽出できた。
 

俯角影響範囲の検討

図-8 俯角影響範囲の検討

 
b)設計精度の向上と照査の充実
 
橋梁施工における各ステップに対し、現道移設の道路詳細設計に基づいたBIM/CIMモデルを構築した。正確なモデルを構築することで、瞬時に任意の箇所における断面図を抽出可能となることから、民地との高低差や法面の切盛境等の確認が可能となり、2次元設計と比較して精度を上げること
ができた。また、建築限界のクリアランス確認や、将来の重要物流道路指定時における路線としての確認も同時に実施し、設計照査だけでなく、条件変更時の要対策箇所の抽出にも活用できた。
 
c)シミュレーションの実施
 
完成形モデルを利用し、交差点の見通し確認や走行シミュレーションを実施した。橋梁下部工施工の現道移設では、中央分離帯に防護柵を設置することとなり、透光パネル等の対応が必要になる場合が考えられるが、実際の走行シミュレーションをBIM/CIMモデル空間上で実施することで、道路利用者へ与える影響をイメージしながら、設計計画を立案することができた。
 
 

今後の活用方法について

(1)BIM/CIMモデルからの数量の算出/h6>

地形情報および構造物を3次元化しておくことで、施工予定区間内の土工数量の算出を自動化することができる。また、構造物の3次元モデルを作成し、構成部材ごとに材料に関する情報を属性情報として付与しておくことで、部材や材料ごとの数量を自動的に算出することができる。詳細設計時での数量算出に際し、BIM/CIMモデルを用いることで自動化させ、省力化を図ることができる。
 

(2)景観検討や設計説明会等での活用

点群データから作成した地形サーフェイス上にモデルを重ねることでより具体的なイメージ画像やシミュレーション動画を作成し、景観検討や設計説明会での資料作成に活用することができる。
 
具体的なイメージ画像やシミュレーション動画を共有することで、地元との迅速な合意形成を図ることが期待される。
 

(3)施工・管理への活用

BIM/CIMを活用し3次元での設計を行うことにより、施工時の出来形管理等を3次元で行うことが可能になる。
 
竣工図と設計図を重ねることで、図面では気付きにくい不整合箇所等を視覚的にも分かりやすく瞬時に確認することができる。また、将来管理を行う際にも、MMSを利用し、台帳を更新することで、日常管理における点検記録の効率化、構造物の劣化やひび割れ、路面の損傷等を迅速に確認することができる。
 
 

まとめ

計画段階から全長8.0kmに渡り3Dレーザースキャナー測量を実施し、取得した点群データをサーフェイス化した橋梁予備設計は、あまり例がないと思われる。
 
このような取り組みが一般化しない原因は、多大な労力、コストを必要とするためであると考えられる。本事例で得られた利点として、コントロールポイントや既設構造物との離隔、3次元的な施工ヤードの確認、完成形モデルを使ったシミュレーションによる確認等、計画の妥当性の検証が挙げられる。今後、地域住民に向けた設計説明会での完成形イメージの活用や、任意の箇所における民地との高低差確認などの個別対応の円滑化、任意の区間での数量算出による発注ロット調整など、事業実施における設計の手戻り防止や省力化が期待できる。
 
さらに、構造物の一連のプロセスにおいて適切なデータ管理がなされれば、設計趣意の伝達や物性値の管理、施工段階での活用、維持管理情報の集約等、BIM/CIMモデルを構築するメリットは大きくなっていくと考えられる。
 
引き続き、BIM/CIMの有効な活用方法を検討し、生産性向上に向け研さんを重ねていきたい。
 

国土交通省 関東地方整備局 企画部 技術管理課

 
 
【出典】


建設ITガイド 2021
BIM/CIM&建築BIMで実現する”建設DX”
建設ITガイド_2021年



大学におけるBIM教育の先進事例 「広島工業大学 建築デザイン学科」 -アナログとデジタルの両端から建築のリアルを捉える-

2021年9月4日

 
広島工業大学 建築系学科


広島工業大学の建築系学科は、工学部につくられた建築学科に始まり、同学部で発展した建設工学科と、環境学部の環境デザイン学科に派生している。われわれが所属する建築デザイン学科は、建築系学科創設50年の節目に、約20年間続いた環境デザイン学科の改編に伴いスタートした新しい学科である。前身である環境デザイン学科では、広島を代表する建築家・村上徹が中心となり、現在の設計教育の土台を築いた。建築デザイン学科は、この設計教育を母体とし、より幅広いものづくりを視野に入れたカリキュラムが特徴である。
 
 

カリキュラムの新たな柱

建築デザイン学科では、「建築」を軸とし、「インテリア・木工」と「デジタルデザイン」を新たな柱として加えた。これら2つの柱を加えた理由は、現在の建築教育において、木材などのリアルな材料に触れるものつくりが少なくなっていること、また日本の建築教育におけるデジタル技術の導入が、海外と比べ著しく遅れていることが挙げられる。今後建築業界にロボットやAIなどが浸透していく段階においては、伝統的な技術を含めた既存のやり方と、最先端の技術の両方を理解し、それぞれの良さを尊重させながら、うまく組み合わせていく人材が重要になってくる。新カリキュラムでは、そのような建築の未来像を見据えた内容といえる。
 
広島工業大学のカリキュラムの新たな柱 広島工業大学のカリキュラムの新たな柱


広島工業大学のカリキュラムの新たな柱 広島工業大学のカリキュラムの新たな柱


全ては手から始まる

「インテリア・木工」ではこれまでの伝統的なものつくりを学ぶために、本格的な木工機械を取りそろえた「木工房」を整備し、そこで1年生の最初の設計演習として『デザインワークショップ』をスタートする。この授業の初回は、入学直後の1年生を対象とした新入生オリエンテーションにて実施する。同オリエンテーションでは、広島県木材組合連合会や広島の家具メーカー協力の下、午前中に広島近郊の山林に行き、間伐材の伐採を体験する。午後は製材所を訪れて丸太が製材に変わる過程を、夕方には家具工場で製材が木製家具になる過程を学び、日ごろ何気なく使っている椅子や机などが、山林からどのようなプロセスを経てわれわれの手に届いているのかを体験する。そこから3カ月かけて、木製ベンチのデザイン・設計、ならびに制作を行う内容となっている。
 
この授業は専任教員が全員で担当しており、各教員が5人1組のグループを2つずつ受け持つ。意匠だけでなく、構造や環境、生産や木材加工を専門とする教員が一堂に会して学生を指導することで、形態や座り心地だけでなく、耐久性や生産性といったさまざまな視点からデザインを検討することを目指している。またこのベンチつくりには1脚当たりの予算と工期を設定しており、学生は、木材の使い方や、加工の方法、さらには木取図の作成を通しての積算など、建築の設計においても最低限必要な意識を植え付ける。
 
 

世界との溝を埋めるデジタルデザイン教育

本学科のデジタルデザイン教育は、『コンピュテーショナルデザイン(1年後期)』『デジタルファブリケーション(2年前期)』『BIM実習(2年後期)』の、「デジタルファブリケーションラボ」にて実施する3つの授業が中心となっている。日本の建築教育においては、まだまだデジタルvsアナログの議論が収束しそうにないが、そんな間にも海外の大学との差が大きくなりつつある。また、建築業界はBIMへのシフトが加速しており、絶対的な人材の不足が大きな課題になっている。今後の変化に対応すべく、建築を学ぶ学生はデジタルとアナログを横断するコンピュテーショナルな思考を養い、つくりながら考える力を身に付ける必要がある。そのような力を伸ばすために『コンピュテーショナルデザイン』では、国際的なデファクトスタンダードの3DCADとなりつつあるRhinocerosを使い、3 次元で考え、3 次元でデザインする基礎スキルを身に付けるとともに、Grasshopperを使ったパラメトリックモデリングでプログラミングを通したモデリングを学ぶ。その後、『デジタルファブリケーション』では、レーザーカッターやNC加工機といったデジタル加工機を使い、3DCAD上に作られたモデルを模型やモックアップに具現化するスキルを学ぶ。これらデジタル加工機を使ったプロトタイピングを繰り返すことで、コンピューターの中では見えてこない問題を見つけ出すと同時に、材料の特性に触れながら構造的な検討や実際の組み立て方などを考える。そういったデジタルデザインの土台の上にBIMやプログラミングを武器に、日本国内に限らず、世界に飛び出していける技術者を育てる設計教育を目指している。
 

広島工業大学のデジタルデザイン教育



広島工業大学のデジタルデザイン教育 広島工業大学のデジタルデザイン教育


多角的な視点から建築デザインにトライする

また3年生後期の授業に『デザインスタジオ』がある。これは3年前期の研究室配属以降、研究室ごとに専門的な学びを深めている3年生最後の設計演習である。『デザインスタジオ』では、各教員の専門領域を活動対象にすることで、建築デザイン学科の幅の広さを象徴する授業を目指している。
 
この『デザインスタジオ』では、3年間継続される「共通テーマ」に沿い、各ゼミで「ゼミテーマ」を設定して課題に取り組む。ちなみに2018~2021年の共通テーマは「TRANSITION(移行、変遷、変わり目)」である。われわれの生活自体が大きく変化する時代である今こそ、あらためて「過去」から「現在」を見つめ直し、「現在」から「未来」をデザインすることを目指し、各研究室の専門領域において思考するとともに、「社会実践的なものつくり」にトライしている。
 
 

設計教育の設計

ここまで、わが学科の方針や主要科目について概説したが、「設計の科目は?」と思われた方もいると思う。最後に、わが学科における「設計教育の設計」についてまとめたい。
 
建築デザイン学科の設置にはさまざまなサブテーマを持って取り組んだが、その一つに「学生の設計離れ」があった。他大学の現状について数校にヒアリングを実施したが、この傾向はわが校だけの現象ではなかった。ヒアリングの過程において、教員らの多くは「学生のレベル低下」「根性の無さ」「安定志向」などなど、学生に対して攻撃的な意見は耳をふさいでも聞こえてきたが、これは外的要因に他ならない。われわれは、学生の設計離れの要因を大学における「設計教育」にあると捉え、その解決の一環として「さまざまな設計演習」を取り入れることとした。『デザインワークショップ』や『デザインスタジオ』など、前述した一連の設計演習に加え、HEΛIOΣ(ヘリオス)アカデミック版を活用したコストプランニング(自身が考えた建築コストをリアルタイムで体感する)などもこれにあたる。
 
広島工業大学の設計教育の設計 広島工業大学の設計教育の設計


広島工業大学の設計教育の設計


HEΛIOΣ(ヘリオス)アカデミック版を活用したコストプランニング教育

建築教育においてコストプランニングの教育が非常に遅れていることは周知の事実である。この原因の一つは、設計教育が構造や材料、設備などと連携が図られていないことに尽きると筆者らは考えている。設計=意匠といった教育を実施している学校・大学は少なくない。
 
このような状況を鑑み、わが学科では設計教育におけるBIM導入をにらみ、設計教育とコスト教育を連携した「コスト感覚の養成」を「建築積算演習(3年後期)」で試みている(今年で3年目)。
 
本演習では、HEΛIOΣ(ヘリオス)アカデミック版を使用しているが、市販のHEΛIOΣとアカデミック版の大きな違いは、数量ではなく値入れまでを自動演算してくれる点である。つまりアカデミック版では、学生が柱や壁、基礎や屋根を配置すれば造った部位ごとのコストが順に加算され『ここまで造るのにいくらかかるのか?』がリアルに体感できる。また本演習では、同一床面積の建物であっても、平面形状の違いにより壁長が変わればコストが変わること、地下1階地上2階と地上3階ではコストが変わること、すなわち「何によりコストが変わるのか?」をリアルに体感できる。
 
導入当初は学生の飲み込みを心配したが、『BIM実習(2年後期)』を学んだ後の学生はゲーム感覚でHEΛIOΣアカデミック版を活用してさまざまなパターンの設計にチャレンジしている。今後は建設費だけではなく、維持管理費を含めたライフサイクルコストの算出にもチャレンジしたい。引き続き、株式会社日積サーベイにご協力をお願いしたい。
 
 

さいごに

建築デザイン学科では、従来の設計演習における設計対象を拡大し、展開する全ての設計演習において「リアル」というキーワードを大切に教育に取り組んでいる。
 
建築業界のみならず、社会全体で急激にデジタル化が進む今だからこそ、われわれはアナログとデジタルの両端から建築のリアルを捉えて教育に取り組む必要があると考えている。
 
 
杉田 洋 Hiroshi Sugita
広島工業大学教授/1971 年広島生まれ。大阪芸術大学卒業。芝浦工業大学大学院修了。広島大学大学院博士課程後期修了。博士(工学)。建築保全。株式会社杉田三郎建築設計事務所、広島大学助手を経て2005年より現職。
 
杉田 宗 So Sugita
広島工業大学准教授/1979 年広島生まれ。パーソンズ美術大学卒業。ペンシルバニア大学大学院修了。広島大学大学院博士課程後期修了。博士(工学)。建築設計。米国や中国の設計事務所勤務の後、株式会社杉田三郎建築設計事務所、東京大学G30コースアシスタントを経て2015年より現職。

 
 

広島工業大学 環境学部 建築デザイン学科 教授 杉田 洋/准教授 杉田 宗

 
 
【出典】


建設ITガイド 2021
BIM/CIM&建築BIMで実現する”建設DX”
建設ITガイド_2021年


 
 
 



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