建設ITガイド

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書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。

「工事写真レイヤ化」の活用事例

2021年8月10日

 

はじめに

デジタル工事写真の高度化に関する協議会(2021年4月に法人化予定)では、一般社団法人 日本建設業連合会から、「工事写真レイヤ化」の要望を受け、技術的な検討を進めてきた。度重なる検討の結果、工事写真レイヤ化のファイルフォーマットとして、SVG(「Scalable Vector Graphics」JIS X4197:2012)を採用した。デジタル写真管理情報基準(2020年3月)では、写真のファイル形式が、日本産業規格(JIS)に示される形式であれば納品可能と緩和され、SVGは今後活用が期待される技術である。
 
本稿では具体的な活用事例として、当協議会の会員企業から3製品を紹介したい。
 
 

配筋検査アプリ SiteBox配筋検査  株式会社 建設システム

■配筋検査における工事写真レイヤ化

橋梁下部工における工事写真レイヤ化の試行事例(図-1、図-2)を紹介する。
 
工事写真レイヤ化を活用することで、電子的なマーカーを設置でき、従来の配筋検査における準備作業や、マーカーの回収作業等の後片付けを効率化することができる。建設システムの工事写真レイヤ化の対応は、配筋検査に特化した機能として提供している。
 
試行した株式会社桑原組(滋賀県高島市)の玉村氏からは、「特に天端の配筋検査では、型枠が組み上がってし まってからの検査となり、マーカーを落とすと回収作業に非常に手間がかかるため、マーカーレスは非常に有効で ある」と評価されている。
 
また、SiteBox配筋検査独自の機能である「連続マーカー」機能を利用すれば、鉄筋間隔に合わせて電子マーカーを簡単に描画することが可能である。電子マーカーは、信ぴょう性確認の対象ではないため、まずは大まかに配置しておき、隙間時間等を活用し調整することも可能となり、現場の生産性向上が期待できる。
 

配筋検査における工事写真撮影

図-1 配筋検査における工事写真撮影




レイヤを使った電子マーカー

図-2 レイヤを使った電子マーカー



■電子黒板、電子マーカーのオンオフ機能

 
その他にも、工事写真レイヤ化に対応した写真は、写真管理ソフトで電子黒板、および電子マーカー等の注釈を非表示にすることができる(図-3)。これにより、従来では黒板により隠れていた鉄筋の不可視部を確認することも可能になった。
 
写真管理ソフト「写管屋」では、SVGファイルであればアルバム貼付後に、レイヤの表示/非表示を切り替えることが可能である。例えば、図-3のように、同じ写真から、黒板有無、注釈有無を切り替えて表示可能であり、写真としてより幅広い利活用が期待できる。
 

「工事写真レイヤ化」により配筋検査業務を効率化できる事例を紹介した。建設システムでは、配筋検査業務の効率化を目指し機能をアップデートしていくとともに、配筋検査以外にも活用できるシーンを拡大し、建設業の生産性向上に寄与していくという。
 

写真管理ソフトで電子黒板や電子マーカー等の注釈表をオンオフできる

図-3 写真管理ソフトで電子黒板や電子マーカー等の注釈表をオンオフできる



【工事専用タブレット 蔵衛門pad】 株式会社 ルクレ

 
株式会社ルクレの「蔵衛門Pad」は、電子小黒板付き写真の撮影ができる工事専用タブレット。防水・防 塵・耐衝撃で、特に高堅牢な「蔵衛門 PadTough(タ フ)」では 、-2 0度から60度下での動作を保証しており、建築・土木をはじめ、幅広い業種で導入されている。
 
工事写真のレイヤ化には2020年10月に対応。工事写真に電子的なマグネットや補助線を描画できる「電子マー カー」機能を搭載した。ここでは実際に「蔵衛門Pad」を導入している風越建設株式会社での活用状況を紹介する。
 

■撮影の手間が半減

従来、配筋写真などの撮影には、カメラ以外に木製黒板や、配筋を目立たせるためのマーカーが必要だったが、「蔵衛門Pad」では、電子小黒板を画面に投影しながらの撮影が可能だ。さらに、工事写真に「電子マーカー」を描画できるため、「蔵衛門Pad」だけで配筋写真の撮影をすることができる。
 
「電子マーカー」は画面上をタップするだけで設置でき、現場でマーカーを取り付け、回収する手間を省ける。また、マーカーを回収し忘れることにより、異物として残ってしまう危険性がなくなり、施工品質の向上が期待できる(図-4)。
 

マーカーの設置方法の比較

図-4 マーカーの設置方法の比較



■より発注者へ伝わる工事写真に

 
手で取り付けるマーカーは、手が届かない下筋などには設置できなかった。また、無理をして手を伸ばして設置しようとすると、マーカーを落としてしまう恐れもある。「蔵衛門Pad」の場合 は撮影後に電子マーカーを設置できるため、今までは付けられなかった箇所にも電子マーカーを設置し、どの配筋を指しているのか分かりやすい工事写真を撮ることができる(図-5)。
 

手が届かなかった下筋にも電子マーカーの設置ができる

図-5 手が届かなかった下筋にも電子マーカーの設置ができる



パソコン用の工事写真管理ソフト「蔵衛門御用達 2021」では、電子マーカー付きの工事写真(SVG形式)と、通常の工事写真(JPEG形式)を 同じ工事写真台帳に取り込むことができる。さらに工事写真台帳では、電子マーカーの表示をオンオフで切り替えられるため、より施工品質が分かりやすく、信ぴょう性のある工事写真台帳の提出が可能だ(図-6)。
 

工事写真台帳上で電子マーカー表示のオンオフ切り替えが可能

図-6 工事写真台帳上で電子マーカー表示のオンオフ切り替えが可能



【デジタル野帳 eYACHOforBusiness】株式会社 MetaMoJi

 

■概要

 
次版のデジタル野帳「eYACHOforBusiness(以下eYACHO)」では一般財団法人日本建設情報総合センター(J A C I C)の工事写真作成基準改定に伴い工事写真作成機能にレイヤ化を導入し、注釈(アノテーション)を付与する機能を追加する。これにより電子納品向け工事写真の解釈・説明コス トを低減して業務効率化を促進する。

■レイヤ化による工事写真へのアノテーション

 
eYACHOはすでに、JACICの工事写真作成基準に準拠し、電子納品に利用できる工事写真の作成機能を提供し
ている。プリセットされた帳票上で項目を選択・記入するだけで工事計画に沿った工事黒板や工事写真票をノート上にあらかじめ、あるいはその場で直接準備することができ、現場での工事写真撮影をスムーズに進められる。(図-7)。
 

プリセットされた帳票に項目を選択・記入して電子黒板を自動作成

図-7 プリセットされた帳票に項目を選択・記入して電子黒板を自動作成



eYACHOにはもともとノートに追加した写真上に手書きによる説明を加える機能があるが、工事写真の撮影後に画像を編集すると改ざん検知機能のチェック対象となるため、工事写真については書き込みを許しておらず、検品する側は証明される現場情報を画像そのものから読み取るしかなかった。工事写真レイヤ化に伴い、次版のeYACHOでは写真撮影と信ぴょう性適用処理の間に注釈(アノテーション)を作成する機能を追加(図-8)。電子納品向け工事写真そのものに補助線や説明文、どこが注目箇所かを書き込むことができ、納品側・検品側双方のコミュニケーションコストを低減する。
 

工事写真レイヤー化によりアノテーション機能を実現

図-8 工事写真レイヤー化によりアノテーション機能を実現



■「写真にそのまま書ける」手書きの直感性

 
eYACHOの工事写真アノテーショ ン機能では、紙に書く感覚で直線や円形・矩形、手書きの囲い線や文字を写真上に直接書き込むことができる。証明する鉄筋がどこにあるかを示すリボンの着脱など写真の視認性を高めるための手間をかけなくても、検品側に見るべき場所と内容をはっきりと示せる。ペントレイ上の複数のペン(豊富な色・太 さ・ペン先を搭載:図-9)を用途に合わせて選び、短時間に意図どおりのアノテーションを完成することができる。
 

豊富な色・太さ・ペン先で意図どおりの手書きアノテーション

図-9 豊富な色・太さ・ペン先で意図どおりの手書きアノテーション



■確認したいレイヤだけを表示

 
信ぴょう性適用処理の完了後は「被写体画像」レイヤと「黒板画像」レイヤに改ざん検知機能が適用され、工事写真の信ぴょう性を保証する。従来は被写体と黒板を一体の画像として保持したが、今後はこの2層と「アノテーション」レイヤの画像をeYACHO上で個別に選択して表示でき(図-10)、納品後にも黒板部分や注釈が重なる部分の被写体写真を確認することができる。
 

確認したいレイヤーだけを選択して表示

確認したいレイヤーだけを選択して表示




 

デジタル工事写真の高度化に関する協議会

 

【出典】


建設ITガイド 2021
BIM/CIM&建築BIMで実現する”建設DX”
建設ITガイド_2021年


 



デジタル写真管理情報基準の改定について -工事写真のレイヤが可能に-

2021年8月5日

 

はじめに

国土交通省の土木工事においては、工事着手前および工事完成、また、施工管理の手段として各工事の施工段階および工事完成後目視できない箇所の施工状況、出来形寸法、品質管理状況、工事中の災害写真等を写真管理基準(案)に基づき撮影し、提出するものとされている。
 
工事写真は、古くはフィルムカメラにより撮影されたものを印刷して提出するものであったが、技術の進歩に伴いデジタルカメラで撮影した写真原本を電子媒体で提出することが一般的となり、平成29年2月より、ICT技術の活用による、電子小黒板の使用や映像による提出もできることとしている。
 
このようにデジタルカメラの画像に情報を付加する技術が進歩し、作業の効率化が図られることから、令和2年3月には「デジタル写真管理情報基準」を改定し、工事写真のレイヤ化の技術を活用できるようしたものであり、本稿において概要を紹介する。
 
 

工事写真のレイヤ化について

工事写真のレイヤ化とは、撮影した写真の映像データに黒板の画像や注釈画像を個々に別レイヤとして重ね合わせることにより、写真に情報を重ね合わせることができる技術である。なお、工事写真および電子小黒板についてはおのおの異なるレイヤとすることにより、それぞれの信ぴょう性を確保するものとし、注釈画像のレイヤのみ変更可能な領域とする。
 
実際の使用例として、施工中の配筋の確認においては、写真撮影時に目印となるマグネットやロッドを設置する必要があり、現場作業が煩雑になるが、注釈画像のレイヤ上にこれらの情報を表示することにより、現場における目印の設置が不要になり、作業時間の大幅な短縮による生産性向上効果が期待される(図-1)。
 

工事写真のレイヤ化

図-1 工事写真のレイヤ化




 

「デジタル写真管理情報基準」の改定

デジタル写真管理情報基準においては、従来は写真ファイルの記録形式は「JPEG」とされていたが、令和2年3月の改定により、写真のファイル形式を「J PEGやTI FF形式等」と変更した。これにより、レイヤ化した工事写真のファイル形式(SVG)による提出を可能とした(表-1)。
 

R2.3におけるデジタル写真管理情報基準の改定

表-1 R2.3におけるデジタル写真管理情報基準の改定


 

おわりに

今回の「デジタル写真管理情報基準」の改定においてはファイル形式による制限をなくすことにより、工事写真のレイヤ化を可能とした。 今後も同様にICTを活用した新たな技術の実装化が進み、工事における生産性向上や品質確保に寄与することを期待する。また、今後は画像データの活用に加え、映像データの活用や3次元点群データの活用、BIM/CIMとの連携により、より一層の建設現場における生産性革命が進むことを期待したい。
 
 
 

国土交通省 大臣官房 技術調査課

 
 
【出典】


建設ITガイド 2021
BIM/CIM&建築BIMで実現する”建設DX”
建設ITガイド_2021年


 
 
 



BIMの展開成果は積算-設備施工会社のBIM運用で工夫していること。まず“もの”を仕分ける、数える-

2021年8月4日

 
 

はじめに

2020年建築BIM推進会議モデル事業で採択された企業は、日本版BIM運用標準の策定に向けた評価を行っている。当社はこのモデル事業に採択していただいた。
 
本稿は、中間報告があったタイミングで書き留めている。BIMの環境は、各団体の活動報告から認知を超えて実装の時代に移っていることが感じられる。
 
当社はガイドラインの試行により、BIMの価値を示すことに注力している。モデル事業目標の一つに、BIM環境での積算情報を構築することを挙げている。「BIM」という言葉から感じる有効性から、価値の高まりを期待する。これまでのBIMを道具として、操作性の効率化を評価してきたが、成果はどのように作られるか、プロセスの評価に注力する活動が本質的なBIM活動だと思えるようになっている。そこで、積算業務への活用にフォーカスを当てた。
 
 

建築設備工事の“こと”と“もの”

“こと”と“もの”について記述する。“こと”は、仕事や方法、システムのような手法を指し示す。“もの”は、“こと”を構成するオブジェクトとして以下の記載をしていく。
 
設備施工会社の視点からBIMの成果を生み出す“こと”を次のように考えている。
 
① 建物に機能をもたらす要件を策定する「Estimate」、企画計画のフェーズ
② 関係する要素との調整や空間品質の獲得のために統合の環境で“もの”を決定する「Coordination」、実施設計のフェーズ
③ 施工現場の実現のために、工事手順、設置方法を確定する「Fabrication」のフェーズ
 
デザイン担当者は、空間創造におけるBIMの価値を獲得している。建物の維持管理に携わる方は、保全計画・予知・営繕におけるBIMの価値を獲得するために運用の準をしている段階であり、BIMから保守作業にかかる数字を算出している。俯瞰して見ると、建築を構成するBIMオブジェクトの分類を目的に応じて仕分けして、数量を積算して、労務工数を算出することは全てのプロセスで行われている。建設プロセスの多くの場面で「Estimate」が必要であり、人は判断する根拠として数字を見て決断する。すなわちBIMによる価値創造には「Estimate」が必須であり、BIM時代ならではの効果を獲得することができる。
 
基本設計・実施設計・施工3つのプロセスにおける「Estimate」作業が行われている場面は、“もの”の特定である。名前を付ける規則、分類がどのようなグループに属しているかと、表記の方法を約束として設定し連携させる。業務で扱うコストの構成は、電気設備工事、空気調和設備工事、給排水衛生工事、昇降機設備工事の4つに大別されて、空気調和設備工事は工事科目として、熱源機器設備・空気調和機器設備・空調ダクト設備・配管設備・換気設備・排煙設備・自動制御設備に分類される、さらに配管設備は冷却水配管設備、冷温水配管設備(蒸気・冷媒・給水・排水)に区分され、構成要素として配管材料、弁類、配管工事、保温工事、塗装工事が工事詳細として扱われている。設備工事という“こと”を特定し、構成する“もの”をデータ活用する。プロジェクト関係者で“もの”を共有するためには、共通の分類を確実なzものにすることが求められている(図-1~3)。
 

配管設備の構成 仕様システムマテリアル

図-1 配管設備の構成 仕様システムマテリアル


 
システムの空間要件への適合

図-2 システムの空間要件への適合


 
工事科目 工事詳細

図-3 工事科目 工事詳細

 
 

分類での“もの”

英国建築家協会RIBAのPlanof-Worksを参考に、分類体系として“もの”に分類コードをあてがうことで、積算業務の分類仕分けをすることができる(図-4)。
 

RIBA PlanofWorks

図-4 RIBA PlanofWorks


 
設備基本設計は、Excel等に要件を入力していく作業を伴うシステム構築の場面である。必要要件を設定していく、“もの”を配置することで作図に加え、スペース、部屋、ゾーン空間に必要な機能を持たせるためのパラメータを付与する準備を行う。
 
空調の計画では、負荷の発する熱・水蒸気・排気を処理させるためにどのような条件があるか、空間の条件がどのような“もの”か、部屋・スペース・ゾーンに対する事項を定義する。
 
定義した部屋要件を満たす“もの”を選ぶまでを実行する。
 
 

空間情報が“こと”から“もの”を特定

空間は“こと”でBIMオブジェクト=“もの”につながる仕組みがある。空間情報をBIMデータベースの世界で実現することに多くの期待が集まっており、空間情報を用いる受け皿として、buildingSMARTではSpatial Zoneを定義している。
 
コストの概算で、面積当たりの工事費単価を用いて算出する場合がある。実績値による概算となるが、SpatialZoneによる手法では設備システムの選択やグレード設定が行われて設備要件が提示される。精度には限界があるものの、要件からBIMの形状と情報が発生する場面から数量が算出され、根拠となる3次元形状が積算業務にもたらされる。仮設計図(ラフスケッチ)による設備容量・数量などを設定して行う手法は、仮の図から数字を拾い出す。
 
従来手法ではデジタルデータは存在しないので、修正や手拾いの手間が大きかった。Spatial Zoneを定義してシステム要件から拾い出す手法は有効だ。設備は建築情報の決定がないと数字が出せなかった。BIMを使った設備数量拾いの概算算出では、根拠が空間情報要件というデータベースであり、フェーズの移行によりデータ精度・粒度が高まる。LOI、LODが高まることにより、概算数値の精度が上がる(図-5~7)。
 

SPATIALZONE構成 定義

図-5 SPATIALZONE構成 定義


 
定義された要件が空間を予約する

図-6 定義された要件が空間を予約する


 
IFC SPATIALZONEから仕分けを導く

図-7 IFC SPATIALZONEから仕分けを導く


 
 

フェーズの移行により得られる確からしさ

実施設計は「Coordination」である。選ばれた機器を空間に配置することで、整合性を確保して設計情報を固めていく。P&IDが設備的には大変重要な情報だ。機器と器具、配管においてはラインを形成する制御弁やろ過、熱交換の装置要件を満たす仕様をラインで結んでいくことで、配管・ダクト・配線といった搬送に必要な管路が形成される。管路情報をライン情報として定義するのである。ファミリをプロジェクトに配置することで、視覚的な空間に配置する作業が、BIMでは数量算出に直結する(図-8)。
 

BIM集計表

図-8 BIM集計表


 
 

“もの”をいかに集めて仕分けるか

集計表に代表されるテーブルに“もの”が配置される。配管は流体種別の用途、管材、口径、数量であるところの長さ、個数、ダクトは形状構成する数字から、面積が情報としてもたらされる。
 
数量算定を行う場合、BIMからパラメータとして正確な数値・単位が出されるかが課題である。ファミリと呼ばれる関連付けされた情報の集合体は、BIMに配置されることで人の手を介さずに結果をもたらす。オブジェクト形状にこだわる視覚化評価のBIMが先行したことが要因なのか、肝心の情報の標準化がなされていないことがある。
 
例えばエルボの個数を算出する場合、エルボは曲がった管路のためパラメータに角度が仕込まれてあり、90と45が入るものをエルボとして選び出す方法を組んだ集計表からは、結果が得られなかった。角度に89.75度や44.87度が仕込まれたエルボが多く混在し、結果が得られなかったのである。
 
世界各国で多くの仕様の配管材料が存在し、命名規則、形を作り上げる過程で形状重視のファミリ共存があることに、注意するとともに、集計目標の運用では精査が急がれる(図-9)。
 

ファミリーパラメータ値

図-9 ファミリーパラメータ値


 
 

クラウドで数量を出す環境

施工は実現の場面であり、形とした“もの”の設置が検収評価対象であることを考えると、手直しや後戻りがあった場合に即大きな損失が発生する。クラウドのCDE環境を用いた多拠点同時作業が現実の“もの”となっている。BIMデータを構築して施工実現が可能な精度までに作り上げるには、多くの調整が必要である。天井内部で管路決定に行われる空間調整、総合図調整、取り合いと呼ばれる他業種の工事内容をお互いに調整し合う。例えば廊下天井内で電気ラックと設備の調整、無駄の少ない施工情報として曲がりの数がある。
 
まっすぐ通せば角度調整部材も少ない。なんといっても施工に要する手間が圧倒的に違ってくる。BIMによる工事費の算定では、オブジェクトが配置され、その後何かの要因で配置が変わった時の数量算出が容易にできる。
 
これは判断する材料として、大きな効果が得られることを示している。
 
工事というやり方を評価として扱うばかりではなく、ダクトが曲がって局部抵抗が増えて、20年間のランニングコストが2,000万で済むはずが3,500万になるかもしれないという比較判断が、空間構成を決定する際にBIMから手間なく提示される。
 
クラウドでBIMが同時編集できる環境が実装レベルになって比較できる“こと”が干渉回避作業手順ばかりではなく、建物運営維持管理の段階も踏まえた数字が出る。現時点の運用では空間整合確保が中心であるが、BIM360上で他業者との意見集約、その結果得られた要件による計画管路の差分が数字として示される(図-10~12)。
 

CDEクラウドデータ共有

図-10 CDEクラウドデータ共有


 
テレワークWEBでの意思決定

図-11 テレワークWEBでの意思決定


 
BIM空間調整

図-12 BIM空間調整


 
 

コスト構成要因は仮設工事が大きい

予備コストの顕在化、施工の場面では十分に計画された手順にも関わらず、現場でしか見いだせないこともある。工事において、ある一定比率で算出されている仮設費を効率よく積算できればと考えている。
 
仮設足場、養生、溶接のヒュームガス換気計画など、BIMでは設備工事として引き渡しができる“もの”ばかりではなく途中の“こと”を算出する(図-13~16)。
 

BIM変更箇所の色分け表示数量化

図-13 BIM変更箇所の色分け表示数量化


 
追加モデル ヴァージョン管理

図-14 追加モデル ヴァージョン管理


 
CDEによるBIM連絡帳

図-15 CDEによるBIM連絡帳


 
仮設養生計画モデルから数量算出

図-16 仮設養生計画モデルから数量算出


 
損失を見込んだコスト評価が現在の日本で行われているため、建設コストの30%に相当する時間と価値損失が発注者の負担となっている。加えてSDGsに提唱される循環型持続的社会の実現には、材料の無駄をなくす計画が求められている。
 
評価する数量を出せないが故に、無駄なコストの発生を黙認している。
 
 

ダクト数量を最適化する

Fabricationという環境でダクトの計画をした場合、材料であるロール鉄板から、何枚のダクト部材を取ることができるか、ネスティングという技術が備わっていることで、ダクトのサイズを変えた場合、曲がりの度合いを変えた場合、何枚の板取ができるかを計画段階で簡易に比較できる。ダクト材料ロールの効率的な板割付がなされることで、目に見えなかった製作過程の破材(廃材)の最適化が図られており、工事費算出にもインパクトが出ている(図-17、18)。
 

鉄板ロールダクトの素材

図-17 鉄板ロールダクトの素材


 
ネスティングダクト板材料を割付

図-18 ネスティングダクト板材料を割付


 
 

BIM時代、数量算出への期待

BIM時代では、要件と施主・設計思想で設定された仕様が確定されることで、情報が判断の余地なく(悩むことなく)付与されていく。BIMから獲得する成果を、人間が拾い・分類し・再調整する大きな負担が、BIM積算で省力化されることが実現できている。仕分け作業が“もの”に的確に付与されることで実現できる。
 
BIM時代にそぐう分類体系は、まだ確立の途上にある。建築BIM推進会議部会4ではUniclass2015の適合が議論されている。Uniclass2015のような建設要素の分類体系を網羅したソフトウエアが普及することや、仕様書や詳細図に示された各資機材に対する具体な製品情報の分類標準化は、資機材の調達、製造、施工管理、維持保全・管理の基盤データとなる。
 
分類体系と属性項目の標準化に当たっては、ソフトウエア相互で情報をやり取りする共通言語が必要である。
 
オープンな環境で使われるからこそイノベーティブなソリューションが生まれてくる。それを促すためには、グローバルに共通な標準化が必要である。私たちのモデル事業では、建設情報の中核をなす分類体系と属性項目の標準化を実装試行することを私たちのモデル事業で検討し、報告する準備をしている。
 
【謝辞】
今回、BIMの展開の次のフェーズに入ろうとする特別な時期に、このような報告の機会を頂きましてありがとうございます。
 
報告に際し、私が参加しているBIM関連の活動団体の皆さまから、多くのアドバイスを頂きました。小さな取り組みの一端ではありますが、これが少しでも参考になる“こと”になれば幸いです。

 

新菱冷熱工業株式会社 技術統括本部 BIM推進室 副室長 谷内 秀敬

 
 
【出典】


建設ITガイド 2021
BIM/CIM&建築BIMで実現する”建設DX”
建設ITガイド_2021年


 
 
 



DX時代に向けた、多機能ハンズフリーシステム「e-Sense」の取り組み

2021年8月2日

 

はじめに

現在、世界中で猛威を振るうCOVID-19感染拡大の影響を受けてニュースタンダードが求められ、過去の常識とともに働き方は一変している。これまでは人が移動をし、現地にて対面で会議を行うことや、現場の確認を行うことが当たり前であった。しかし、昨今の環境下では、人の移動にはリスクが伴うことから、行動変容は余儀なくされ、テレワークの取り組みや、Web会議による働き方が求められている。建設業界においては、国土交通省が試行を進めている建設現場の遠隔臨場に関心が集まっている。
 
遠隔臨場とは、ウェアラブルカメラなどを利用し、建設現場と遠隔地をつなぎ、検査官が現地に行かなくてもWeb会議機能で遠隔地より検査などの立ち会いを行うものである。これまでは建設現場において課題が多く、例えばスマートフォンなどによるコミュニケーションツールは、ハンズオンデバイスのため、片手をふさいだ状態となり、安全面で問題があった。また、作業をしながら、相手とコミュニケーションをとることができないため非効率だった。さらに、建設現場の管理・安全記録などを自動で蓄積するシステムは未整備であり、これらを解決するソリューションが求められている。
 
このような不確実な状況において、グローバル化にともなう外国人との交流機会はますます増加しており、あらゆる産業でコミュニケーションツールの開発・整備が喫緊の課題となっている。とりわけ、建設業界において、さまざまな国の外国人技術者とのコミュニケーションを取り合うニーズが高まっており、建設現場においては、専門性の高い業務内容の共有や状況に応じた臨機応変な対応などが欠かせない。しかしながら、言語の違いが業務上の支障となっている。
 
 

e-Senseとは

飛島建設は、このような時代の問題を解決し、建設業界のニーズに対応するため、多機能ハンズフリーシステム「e-Sense」を開発した。e-Senseは、建設現場の生産性向上を目的として、遠隔地からの情報共有を可能とするコミュニケーション機能、外国人技術者との専門性の高い同時自動通訳機能、さらに、建設現場におけるドライブレコーダー機能を付加した多機能ハンズフリーシステムである。
 
「e-Sense」を利用することで、建設現場関係者の「働き方改革」を実現する。例えば、コミュニケーション機能を活用することにより建設現場と遠隔地をダイレクトにつなぐことが可能となる。その結果、人の移動を減らし、時間の短縮や経費削減にもつながる。また、同時自動通訳機能を活用することにより、これまで外国人技術者とのコミュニケーション不足によって起きていた安全教育や施工手順確認の不足を解消することが可能となる。また、通訳機能を使うことで、外国人技術者とコミュニケーションを図ることができるようになり、安全性の向上、作業効率の向上はもとより、外国人技術者のモチベーションアップにもつながり、結果として建設現場の安全性の向上と、生産性向上が期待される。さらに、ドライブレコーダー機能により、これまで蓄積することができなかった建設現場のあらゆる情報を蓄積することができる。これにより、今後はこの蓄積したデータを有効利用して建設現場情報の分析やAIへの活用が推進される。これまでの建設現場におけるデータ蓄積は進んでいなかったが、「e-Sense」により、あらゆる情報を蓄積し応用することができる。
 
「e-Sense」は、COVID-19感染症対策としても効果を発揮するソリューションである。コミュニケーション機能を利用することで、人の移動を減らすことができ、密集・密接を避けることが可能となる。
 
e-Sense
 
多機能ハンズフリーシステム 「e-Sense」を


 

e-Senseの機能

開発した「e-Sense」は、デバイスとしてスマートグラス「M400 SmartGlasses」(Vuzix Corporation)を活用することにより建設現場でのハンズフリーのソリューションを実現した。「e-Sense」は、コミュニケーション機能、同時自動通訳機能、ドライブレコーダー機能、スマホアプリ連携、フォトラクション連携と大きく5つの機能を備えている。詳細を以下に示す。

①コミュニケーション機能 (遠隔地連携機能)

「e-Sense」はM400同士の連携だけではなく、ネットワークシステムを活用し、遠隔地の建設現場事務所、監理者・事業者会社のパソコンやスマートフォンと連携することにより、音声・画像・図面・動画の共有をタイムリーに行うことが可能となる。特徴として、「e-Sense」は技術者のヘルメットに装着することで、現場技術者目線からの建設現場の状況を転送することができる。そのため、遠隔地にいる監理者はどこにいても現場を確認でき、リアルタイムに指示を出すことが可能となる。また、遠隔地側と図面やマニュアルなどを共有することができる。さらに、遠隔臨場の記録提出用として活用するためM400の画像の記録だけでなく、遠隔臨場を行っている画面を記録することができ、後日、記録として利用することも可能である。

②同時自動通訳機能

外国人技術者とのコミュニケーションを円滑にするための通訳機能を備えている。外国人技術者との同時通訳機能は、音声に対してリアルタイムにSpeech to tex(t音声認識)通訳を実施し、結果を画面上に表示することで異なる言語の技術者同士でも円滑なコミュニケーションを図ることが可能となり、適切な業務指示の伝達・事故防止につながる。また、相手が「M400」を着用していない場合であっても、手持ちのスマートフォンやタブレットを使うことで同様のコミュニケーションをとることができる。
 
一般的な会話はもちろん、建設技術に関する専門用語、さらには建設業界特有の単語も網羅したロゼッタグループの通訳システムをベースに開発を行ったことにより、建設現場における建設業界特有の用語についても網羅した通訳を行い、円滑なコミュニケーションを行うことができる。まずは、日本語、英語、ベトナム語に対応し、順次、対応言語を増やしていく予定である。建設業界特有の用語についても順次増やし、通訳精度の向上を実施していく。

③ドライブレコーダー機能(特許出願中)

「e-Sense」を技術者が装着することにより、音声・テキスト・画像データ・LOGをハンズフリーでサーバー上に保存することができる。これまでのハンズフリーは、動画や音声を保存するのみあったが、「e-Sense」は動画にブックマークを付けることで、動画の整理を簡単に行うことができる。
 
具体的には、事故原因の記録・追及・対策を打つことや優秀な技術者のテクニックを映像で残すことができる。また、現場だけでなく遠隔からの指示内容を蓄積することを可能とする。データはクラウド上に1カ月間自動的に保存され、長期的に必要なデータはダウンロードすることで残すことができる。人がカメラを備えることでヒヤリハットやトラブル発生時の画像データも取得することができ、この画像を解析することによって、これまで明確になっていなかったヒヤリハットやトラブルの原因を究明し、さらなる安全性向上に結び付けることが検討されている。
 
建設現場では、WEBカメラによる定点観測が一部で始まっている。WEBカメラは建設現場の全体を確認するのに適している。ただし、これまでのWEBカメラは固定されているため、現場の細部までとらえることは難しく、工事の進捗によって生じる死角をなくすため、移設や増設を行う必要があった。しかし、「e-Sense」を活用することで、これまで撮影することができなかった技術者視点の映像を取得することができ、WEBカメラではとらえることのできなかった細部の状況を確認し、記録として残すことを可能とした。
 
e-Senseの機能


 

ニーズに合わせた価格設定

2020年5月18日の発売段階では高価格帯のサービスであったが、現場の規模や用途により柔軟に対応できるようスマートグラスとユーザーID単位での価格の設定により、11月2日から新たにリーズナブルな価格にてレンタルの提供を開始した。現在のWEB会議需要や遠隔地からの建設現場の検査を行う「遠隔臨場」に、手軽に利用することが可能となった。
 
 

今後の展開

建設現場で多機能ハンズフリーシステム「e-Sense」を活用することにより、これまで記録することができなかった建設現場に関するさまざまなビッグデータを蓄積することが可能となる。これまでに明らかになっていない新たな安全面に必要な要因分析、技術者の会話や指示の内容、トラブル時の対応などを詳細に分析することで、優秀な技術者の要因抽出を可能とし、AIの活用に生かすことを目指している。
 
ハンズフリーシステムにおけるプラットフォームとしての機能を備え、他のアプリケーションとの連携も今後さらに行う。データ活用による生産性向上機能を拡充し、レポート自動作成やデータ分析への活用、ノウハウの蓄積に役立てて、BI(BusinessIntelligence)やAIとの連携を想定している。さらに、BIMやCIMと連携することで、より詳細な3D情報が共有できるようになり生産性の向上につながる。
 
海外を含めた建設現場はもちろんのこと、広く建設業界へ「e-Sense」を展開することで、より多くの外国人とのコミュニケーションが可能となり、あらゆる建設現場における生産性、安全性の向上が期待される。
 
今後は、建設業界の垣根を越えて異業種の企業と共創することにより、多機能ハンズフリーシステムの展開を拡大する予定だ。国内外を含めた建設現場にとどまらず、ハンズフリーの利点やデータの蓄積を生かせる業種(製造・外食・警備・医療・介護・航空)へ展開していく。さらに、国際的なイベントの開催時には外国人への案内やコミュニケーションを図るアプリケーションとして、有効に活用できるシステムを目指している。
 
 

おわりに

めまぐるしく変化する環境に対応するべく、当社は2019 年5月に「中期5カ年計画」(2019~2023)を策定した。「飛島建設」から「飛島(トビシマ)」への企業変革を推進し「NewBusiness Contractor」への進化を掲げ、DXの取り組みに重きを置いた経営計画を発表した。これまでの土木事業、建築事業だけに限らず、当社のあらゆる事業においてもDXを基盤とし、経営の活性化を図っていく。
 
当社は、これまでおのおのの総合建設企業が取り組んできた働き方改革、生産性向上、安全管理などについて、多機能ハンズフリーシステム「e-Sense」のような新たなソリューションをきっかけとし、これまでばらばらに取り組んできたことに横串を通し、各総合建設企業が連携することで、建設業全体の働き方改革、生産性向上、安全管理に寄与するソリューションを構築したいと考えている。さらに、建設業全体を活性化するための新たなソリューションの構築には、異業種企業との連携も必要不可欠であり、当社は異業種との連携も強化し始めている。
 
「e-Sense」の多機能ハンズフリーシステムのプラットフォームは、建設業における一つのソリューションに過ぎない。しかし、このようなソリューションをきっかけとして各総合建設企業、異業種企業が連携し共創することで、建設業全体の活性化を行うことができると考える。「e-Sense」がそのきっかけとなることを願っている。
 
 
 

飛島建設株式会社 企画本部新事業統括部 科部 元浩

 
 
【出典】


建設ITガイド 2021
BIM/CIM&建築BIMで実現する”建設DX”
建設ITガイド_2021年


 
 
 



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