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書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。

BIMソフトとの親和性を追求した『ΗΕΛΙΟΣ2020』~これからの積算ソフトの在り方として~

2020年7月13日

 

はじめに

(株)日積サーベイでは、この春、BIM(Building Information Modeling)に対応した3D建築積算システム『ΗΕΛΙΟΣ(ヘリオス)2020』をリリースする。このシステムでは、従来版ヘリオスの入力操作やデータ形式を一から見直し、システムそのものを大幅に刷新して、より効率的な積算、よりBIMソフトとの親和性を向上した機能を実現している。
 
 

従来のBIM連携

昨今、建築設計の各段階においても、ますます数量・金額算出の重要性が求められており、BIMソフトとのデータ連携に対する期待が増している。従来版システムにおけるBIM連携では、リリースした当時のデータ形式のままで行っていたこともあり、BIMソフトからそれぞれのデータを自社形式に変換させた上で、移行させる必要があった。当然ながら、特に双方向での連携を実現させる上では、この違いが大きな障壁となってしまっていたことは周知の通りである。
 
 

BIMソフトとの親和性の向上

そこで、従来システムのデータ形式を一つ一つ見直し、BIMソフトとの違いを洗いざらい調べ上げた。例えば、壁のレベルに関しては、BIMソフト側では、壁の上端と下端それぞれのレベルを保有しているのに対し、従来版ヘリオスでは、壁のタイプ(腰壁、垂れ壁、全面)とその高さ寸法を入力させる形式であった(図-1)。つまり、その寸法がどこからの高さなのかという情報がないため、周囲の梁やスラブに依存させる仕組みをとらざるを得ず、梁やスラブの有無によって連携後のモデルの差異が生じていた。このような食い違いをなくすため、できる限りBIMソフトに近い形式で保持できるようデータの持ち方を変える必要があり、『ΗΕΛΙΟΣ2020』において思い切ってこの変更を行った。これにより、BIMソフト側のデータをそのまま移し替えるだけ済むようになり、モデルの差異も発生しなくなった。
 

図-1 BIMソフトと従来ヘリオスの「壁高さ」の違い




 

対象オブジェクトの追加

また、この『ΗΕΛΙΟΣ2020』は、連携対象となるオブジェクトとして、外壁を立面配置可能となり、カーテンウォールも追加された。この外壁およびカーテンウォールは、従来システムでは、階単位のオブジェクトでしか保有できなかったが、『ΗΕΛΙΟΣ2020』では階をまたぐことが可能となり、BIMソフトの考え方を踏襲させている。これにより、変更等が発生したとしても、オブジェクトが一つにまとめられていれば、変更作業も一回で済ますことが可能となった。
 
 

入力作業の向上

さらに入力作業に関しても、大規模な改良を行った。ヘリオスでの数量拾いの手法としては、大きく「配置拾い」と「個別拾い」の2通りある。「配置拾い」とは3DCADと同様モデルを作成するだけで数量が算出される仕組みに対し、「個別拾い」とはシート上に自分で寸法を入力させて算出させるもので相応の知識と経験を要する。弊社では、「配置拾い」を推奨しているが、仕上積算についてはまだまだ「個別拾い」を使用されているユーザーが多数を占める。そこで、配置の入力操作に関して次の機能改良を行った(図-2)。
 
これにより、仕上積算における「配置拾い」の作業性が大きく向上し、構造・仕上ともに「配置拾い」が浸透してくるのではと期待している(図-3)。
 

  • 図-2 『ΗΕΛΙΟΣ2020』の主だった改良項目

  • 図-3 『ΗΕΛΙΟΣ2020』の配置画面



 

これからの積算ソフトの在り方として

これまで、弊社ではBIMソフトとの連携として、2011年にIFCファイルを中間ファイルとした『IFC連携』を、2016年にはBIMソフトのデータを直接変換させる『ダイレクト連携』を実現してきた。ただ、いずれの連携においても、双方のシステムの知識を有する必要があり、使いこなすためには相応の努力が伴うものであった。
 
 
これまでの『BIM』とはデータの有効活用という観点からソフト同士のやり取りを行う『OPEN BIM』という考え方が主流であった。ただ、単にソフト同士と言っても、当然仕組みも異なれば、データの持ち方も異なるソフト間でのやり取りは無理があるとも言える。そこで、今声が上がり始めているのが『One Data BIM』という考え方である。一つのプラットフォームに各分野の機能を統合させることによって、データを変換することなく共有させる仕組みである(図-4)。
 
つまり、積算業務においても設計側と同じソフトウェアを使用することによって、設計者が作成したデータを連携させることなく、そのまま使用することができ、ソフト間によるデータ形式の食い違いや、複数のソフトの知識も必要としなくて済むようになる。積算システムにおいても、単体のパッケージソフトとして作業するより、BIMソフトの中でのアドインとして組み込む方が、より効率的とも言える。
 
弊社では、このようなプランを描き、積算システムとしての将来像を模索している。ただし、当然BIMソフト側はそもそも積算を行うためのものではなく、積算を行うための情報を満たしている訳ではないこともあり、このアドイン版はあくまでも概算もしくはコストコントロールとしてのツールに留まると捉えている。つまり、従来のパッケージソフトがアドインソフトへと移り変わっていくわけではなく、従来版・アドイン版、それぞれの用途に応じて使い分けていくことになると思われる。弊社では、近い将来、このようなビジョンを実現できるよう総力をあげて取り組み始めている(図-5)。
 

  • 図-4 『OPEN BIM』と『One Data BIM』のイメージ

  • 図-5 従来版とアドイン版の比較


会社名:株式会社日積サーベイ
所在地:大阪市中央区谷町3丁目1番9号 MG大手前ビル
創業:1964年(昭和39年)10月
URL:https://www.nisseki-survey.co.jp/
資本金:2,000万円
従業員数:49名(2019年4月現在)
主な事業内容:建築積算、コスト算出、コンピュータシステムの開発

 
 
 

株式会社 日積サーベイ システム開発部 西村 修司

 
 
【出典】


建設ITガイド 2020
特集2「建築BIMの”今”と”将来像”」



 
 
 



施工BIMの対応-フジテックのBIM

2020年7月10日

 

はじめに

昨今、BIMを利用した設計・施工のフロントローディング、業務効率化に対し、「施工BIM」を活用する事例が増加している。施工BIMとは一般社団法人 日本建設業連合会から提唱されているBIMへの取り組み方の手法であり、手引書で明確に基準化され、BIM対応における一つの確立された手法といえる。ここでは施工BIMに対する当社の取り組み、事例、またBIMを利用した社内業務効率化を紹介していく。
 
 

当社が認識する施工BIMの現状

施工BIMという言葉は、業界の一般的な用語として広く認知されている。前述した通り、明確に基準化されているため、必然的に当社としての取り組みも基準化しやすく、業務効率化へ効果をもたらしている部分もある。しかしながらBIM自体が新しい取り組み故にさまざまな要因で、必ずしも効率的に進められるとは限らないことも認識しなくてはならない。
 
 

施工BIMへの取り組み事例

施工BIMとして作成した当社のBIMデータを図-1に示す。着目して頂きたい点はエレベータの機器はほとんど作成していない点だ。データ上で重要なのはエレベータを納めるための昇降路必要有効範囲と、エレベータ設置のために必要な2次鉄骨部材である。この2点に対し干渉はないか、設置を阻害する要因はないか、ソフトによる自動検出と各工種設計者による二重チェックで問題点を抽出し、解決していく。自動検出による阻害要因は図-2のようにリスト化され現場BIM関係者へ配布される。各工種設計者によるチェックは図-3のような定型様式に則り、元請へ申し入れを行う。このような方法で抽出された問題点を定例会にて現場BIM関係者と共有し、可能な限り定例会の場で解決策や方針を決定し、決定内容をBIMデータへ反映し提出する。このPDCAを繰り返し、精巧なBIMデータを仕上げていく。この事例は一例ではあるが施工BIMへの取り組みとして、メリットのある例である。
 
一方、当社としてデメリットが大半を占める例もある。それは施工BIMの取り組み時期とデータ取り扱いに大きく影響を受ける。施工BIMは早く取り組むほど効果が高いといえる。故に施工開始後に取り組んでも効果は薄く、ただBIMデータを作成するという作業が発生し、効率化は図れず工数が増す。また取り扱いによってはBIMデータに対するリアクションがなく、当社側で製作図への情報反映が不可となる例がある。
 

  • 図-1

  • 図-2

  • 図-3



  •  

    当社内でのBIM活用の取り組み

    前述した施工BIMへの取り組み事例は、あくまで社外的対応である。社内的なBIMへの取り組みとして、最大の課題であり利点は情報の共有とその利用であると認識している。では、その情報を当社ではどのように扱っているのか述べていく。
     
    まず当社はBIMの解釈を広く持つことを意識した。「BIM=BIM専用ソフト」とは考えず、さまざまなソフトやツールを活用しBIMとの連携を図ること、それによって業務効率化や情報の連携が成されることを目的とした。一例を挙げる。当社は製造業だが上流部門では建築業と関わる業務が多くある。それによって適したソフトも変わってくる。建築業と関わる部門ではBIMソフトを使用し、製造部門では製造向け2D/3DCADを使用する。しかしこの2つのソフトは互換性こそあれ、直接的な変換は難しく、また上流部門から製造部門へフローが流れるのでBIMソフトから製造向け2D/3DCADという、より現実的ではない変換が求められる。では当社ではどのように変換したのか。結論としては変換しないこととした。
     
     

    業務効率化への取り組み

    では前述の通り、変換せずどのようにBIMを利用した業務効率化や情報の連携を持たせたのか、図-4の図式である。異なる業務やソフト、社内部門間は共通の仕様情報で統一し、その仕様情報からBIMソフトや製造向け2D/3DCADの自動作図を可能とした。よって効率化や情報統一というBIMの利点を生かしつつも、ソフトに必要以上に依存せず、仮に特定のBIMソフトではないソフトを使用した場合にも、仕様情報の読み取りさえ可能であれば、どのソフトへも変更可能となる社内システムとした。
     
    社内外ともに効率化されているのは作図業務と情報の速度と精度だ。作図業務は施工BIMに取り組むことにより2D図面作図と変更の削減が図れる。またBIMで作成することにより図面間の不整合が大幅に削減され、ヒューマンエラーが起きにくい環境にある。情報の速度と精度は、従来の情報のやり取りでは当社と元請側で最新図面の共有や認識に差異が発生する場合や、当社の設計者からの申し入れを専門的な知識を交えた情報として提供することができなかった。しかし施工BIMでは会議の場や、3Dを交えた詳細な情報共有により、正確かつ迅速に情報を共有することが可能となった。
     

    図-4




     

    今後の課題

    終わりに施工BIMに関する今後の課題について述べていく。施工BIMの手法があるため、元請側、われわれメーカー側ともに共通の認識や目的を持ってBIMに取り組める手法であり、メーカーの立場も考慮している手法ともいえる。これはBIM黎明期にさまざまなルールや手法、要求に翻弄されていた当社としては、BIMに対し基準化、効率化を図る非常に有効な手法である。しかしながら昨今、施工BIMと詠いながらも内容は施工BIMではないという状況を多く経験している。こういった場合、手引書に沿って効率化を図る当社としては、効率化の効果は低減してしまう。だが一概にこの状況が望ましくないものではなく、急速に変化していくBIMというツールが進化しているとも認識できる。施工BIMという言葉に縛られず、さらなる柔軟さを持ってBIMに取り組むことが今後の課題であるように強く感じている。
     
     
     

    フジテック株式会社 営業技術統括部 栁沢 啓太

     
     
    【出典】


    建設ITガイド 2020
    特集2「建築BIMの”今”と”将来像”」



     
     
     



    地方発!i-Construction・BIM/CIMチャレンジ事例 地方で奮闘!!小さなi-Constructionから建設業を盛り上げる

    2020年7月6日

     

    はじめに

    弊社は静岡県袋井市に本社を置く、昭和34年創業の土木・建築を業とする建設会社です。
     
    社員は現在14名とまさに地方の(中)小企業です。本稿では、そんな小さな会社・現場も生産性革命を目指して奮闘している様子を事例として紹介していきます。
     
     
     

    ドローン、3次元化との出会いから現在まで~一歩ずつ進んでいます~

    弊社のi-Constructionは約4年前、「3次元測量って知ってる?」という問いからスタートしました。その頃の弊社にはドローンの3次元化は最先端過ぎて夢のような話だなぁと思っていました。
     
    ところが何かと便利そうなドローンに対しては、まずおもちゃを購入し、その後phantomを購入。完成写真やコンクリートの点検診断に生かそう!との思いで、徐々に独自のICT化を進めていきました。
     
    ドローンを飛ばし始めると、平面図に航空写真を重ね始め、やがて「自社でも解析ができないかなぁ?」と、一歩ずつ前に進み、現在ではUAVの他にLS、MCマシンコントロール重機と、ICT活用工事の活用5段階を全て内製化、CIM、VRなどの見える化業務を受注しております。
     

    現場でのUAV測量風景


     

    自社LSでのICT舗装検証風景


     

    ICT舗装検証PC画面




     

    2017年にICT活用工事へ初チャレンジ

    2016年に導入したドローンを活用しなければと、ドローンの国土交通省申請、HP撮影、CM撮影など徐々にスキルが上がってきた頃、3次元化への思いから、2017年に安くはない3D系ソフトへの投資に踏み切りました。
     
    ICT活用工事(県工事)を自社で受注した際には、絶対に内製化できるようになろう!と決意し、自社の通常の現場でも計測やモデリングのTry&Errorを繰り返しました。
     
    ようやくUAV3 次元測量、3D設計データ作成の癖が分かり始めた2017年頃、静岡県土木事務所発注の河川工事を受注することができ、規模が小さく・短い工期の現場でしたがなんとか対応することができました。(税込1,000万以下・工期約2カ月)
     
    またこの工事では、施工履歴データ活用の県モデル工事を担当し、当時の国土交通省・県のどちらでも施工履歴データを使用した管理基準がない中で工事を行ったことで、より多くの経験やノウハウを得ることができました。
     
    現在では発注量の多い河道掘削を中心に、盛土、舗装工事でもICT活用を行っています。
     

    自社MCでの施工(施工履歴採取)


     

    施工履歴精度確認(現場)


     

    施工履歴精度検証(PC画面)




     

    3Dデータ活用の効果

    活用効果は、当初より広く知られているように、測量の効率化、丁張なし、3DMCによる施工の効率化、検測手間の減少、工期短縮、安全性の向上、精度の向上、環境負荷低減、現場説明の容易さなど、多くのメリットを感じることができました。
     
    現在弊社での3Dデータの活用は、その幅を広げており、①設計施工での利点:限られた設計図面(標準横断のみ)の発注図に対してオルソ画像から線形を作成し、縦横断を入力することで設計の検討を3Dで行ったり、そのデータをそのまま丁張用データとして活用し、任意測点の丁張を計算表なしで3Dデータを基に現場に位置出しをしたり、施工後の検測もしています。
    ②計画→照査→変更までのサイクルを早める:点群とモデルを使用することで、事前に干渉部分の確認ができ設計変更の回数の減少、現場での位置確認作業の減少、検討の時間的融通(夜間でもモデル内で計画検討が可能なこと)は大きなメリットになっています。
    ③その他:また危険箇所の設計照査に3次元計測と設計モデルを重ねることで危険な測量や作業をなくし、現場と設計との整合性の確認を行ったり、施工検討に点群とモデルを確認したりと、3Dデータはさまざまな用途で活躍しています。
     

    オルソからの線形作成


     

    設計と現況照査


     

    現地での3D設計活用(構造物丁張と検測)




     

    i-Constructionチャレンジの付帯効果

    実はかなり大きな付帯効果と考えているのが、モチベーションUP効果です。これまでの技術も諸先輩方の知恵や経験が現場の細部にわたり改善されてきたと感じます。しかし行き届いた改善は逆に、次なる大きな改善が難しかったり、常識として見えない壁のように立ちはだかっていました。
     
    しかし、i-Constructionの進展はこれまでと違ったアプローチの改善を生み、私も現場も改善しようとする思考がよく回るようになりました。この思考は大切な一歩ではないかと感じています。また、私は現場の完成が早く見たい・スキルを向上させたいとの思いから、自分の現場はとにかく3次元化しています。これが次の現場へのモチベーションとなり、より楽しく仕事に向かえるようにもなりました。そんな陽のエネルギーこそがi-Constructionの付帯効果「モチベーションUP効果」だと感じています。
     



     

    国土交通省中部地方整備局ICTアドバイザー認定を受けて

    2018年4月より国土交通省中部地方整備局よりICTアドバイザーと認定されました。とても大きな名前で荷が重いのでは、と思いましたが、私自身が一歩一歩前に進み自分の経験を伝えたり、ICT活用工事に関する議論を有識者の方々の中でできることにやりがいや面白みを感じております。
     
     
     

    おわりに

    私たちのような地方の小企業がi-Constructionに積極的に取り組んでいられるのも、周りのサポートがあってこそだと日々感じております。ここで、関わる全ての皆様に心より感謝申し上げます。何も分からないとき、寄せ集めの情報から始めることが多いi-Constructionに取り組むには、情報や資料の他、施工指導を下さる方、ソフトやPCの導入支援業者や電話でのソフトサポートセンター、そして社内からその時間を与えていただくことで支えられております。
     
    生産性の向上は、これからの日本社会において非常に重要で、人手不足や老朽化したインフラの危機的状況を肌で感じる昨今、私たちの世代や中小建設業が担う役割をより強く感じます。私は現場の小さな効率化がこれからの日本の社会基盤を支えることにつながると信じ、地方から建設業を盛り上げていけるよう今後も技術研鑽を続けていく所存です。
     
      
    中部地方整備局HP                  ICTアドバイザー認定証
      『ICT活用工事ガイドブック事例集』より



       
    自社作成の360°ストリートビューを使用した工程会議   参考ツアーQRコード


     


    株式会社 内田建設 専務取締役 内田 翔

     
     
    【出典】


    建設ITガイド 2020
    特集1「i-Construction×BIM/CIM」



     
     
     



    i-Construction・BIM/CIM 最新事例 -コンストラクションデジタルへの加速-

    2020年7月3日

     

    コンストラクションデジタルへの流れ

    CIMは2012年から、i-Constructionは2016年から始まり、既に7年が経過した。この間、3次元のモデルの取り組みという内容でさまざまな雑誌が取材を行い、それぞれの時代でトレンドが紹介されてきた。
     
    BIMと違い、CIMという土木分野での3次元の取り組みは、属性情報の取り扱いについて多くの話題も提供した。3次元オブジェクトにNavis+というツールを活用し、Navisworks上で属性を自由に設定することができることに関して数多くの議論がもたらされた(図-1)。自由すぎる属性設定が建設サイクルの最終目的である維持管理への取り組み時に必要なものを求める状況を生み出した。

    図-1 3Dへの属性設定事例




    維持管理に必要な属性情報は何か。それを皮切りにそのために施工ではどのようにその必要な属性情報を収集もしくは整理するのか。さらに、施工で必要な属性情報を設計段階ではどのように入れるのか、入れるために3次元データをどのように分割して入れるのか、調査段階で得られるデータにはどのようなものがあり、それらを設計で生かすためにどのように整理するのか、など、効率化や生産性向上という言葉がかえってこれらの議論を不毛な流れにしてしまっている部分が否めない。
     
    また、3次元形状にしても、詳細度という言葉が一人歩きしてしまい、形状だけに注目したLOD議論があちこちで行われている(図-2)。

    図-2 JACIC社会基盤情報標準化委員会
    特別委員会報告書より



    本来LODのDは形状のみのDetailではなく3次元オブジェクトとして必要な情報を全て包含してDevelopmentとしての意味を持たせることが重要のはずだが、Detail部分に焦点が集まり、本来議論しなければならない中身を無視した表面的な議論に終始してしまっている。
     
    このように見ると、この数年間の産官学を上げた日本での議論は、木を見て森を見ずの様相を呈していたようにも思われる。
     
    そのような中で2016年にはi-Const-ructionという施策を国土交通省が打ち出し、3次元形状をベースとして、デジタルとフィジカルが連動して活用する流れを打ち出した。特に施工で利用した情報を元に、設計で作成されている3次元形状を重ね合わせることで、施工状況の確認や出来高・出来形確認・検査に利用する流れが出来上がり、3次元デジタルデータとして構築されたCIMが施工で現れるフィジカルデータと連携して活用する流れが一気に加速した。2018年12月に経済産業省が「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)
     
    Ver. 1.0」を提唱する流れもあり(図-3)、デジタル情報を作るだけではなくそれを活用して生産性を向上する仕組み作りが確立されたのである。
     
    時を同じくしてデジタルツインという概念も現れ、建設業界はこの数年、コンストラクションデジタル化を一気に進める状況が産まれた。

    図-3 経済産業省サイトより(2018年12月12日




     

    「デジタル」という言葉から求めている事例は何か

    建設業界はこの30年間、紙図面から2次元CADへと変化し、さらにこの10年は3次元CADへの取り組みが加速している。
     
    「デジタル」化については、紙図面からCADになった時点でもデジタル化が行われている。しかし、今回のCAD化から3次元への取り組みについては、同じデジタルでも様相が違ってきている。CAD化は単に紙情報がデジタルという媒体に置き換わり、その情報を誰でもいつでもどこでも好きなところから修正できる環境が整ってきた。
     
    3次元では、CAD化された情報から高さ情報を与えることで、実世界と同じものが出来上がる環境がパソコンの中でも構築できるようになったことが上げられる。
     
    パソコン環境で、実際の構築物を作り上げることが可能になったのである。バーチャルの世界と現実の世界が融合し、一品受注生産を売り物にしてきた建設会社はパソコンの中でその生産プロセスを事前に確認することができるようになったのである。
     
    単に2次元CADから3次元CADがすごいのではなく、そこにプロセスを組み込み、一品受注生産の場合に一度しか体験できなかった取り組みが仮想世界の中で実施できる状況がこの10年で実現してきたのである。
     
    これを世間では「デジタルツイン」と呼んでいる。
     
    デジタルツインに世界は単に形状を現実と合わせるだけではない。そこにはIoTセンサーや形状を瞬時に取得できる技術として、3DレーザースキャナーやSfM技術を活用するところから、計測データをIoTセンサーと連携して、現場の「今」が分かる技術がふんだんに盛り込まれている。
     
    「建設のデジタル化」が叫ばれて久しいが、実データをこれほどまでにハンドリングしやすくできるツールと通信環境が整ってきた今こそ、まさに「デジタル」という言葉と建設事業を進めていく上での流れがマッチングした時代はない(図-4)。
     
    いまわれわれはこのような良い環境の中で仕事をし、生産性向上を求められているのである。

    図-4 大林組のBIMWillの取り組み




     

    コンストラクションテックのトレンド

    建設事業はその構築物の大きさや重要性などを鑑み、計画段階から設計段階、施工段階と経て供用物としての使命をスタートさせ、寿命を終えるまでの期間が長いため、設計段階や施工段階での技術としては、その施工方法や設計手法など、技術というよりも手法の開発、計画の手法などについて議論や開発の時間を費やしてきた。
     
    ところが、デジタルデータの扱いやすさや、その周辺テクノロイジーが一気にわれわれが利用できる状況となり、設計段階や施工段階でのプロセスを表現できる状況になってきた。
     
    例えば、設計段階では、一定の条件で、多くの設計内容を検討することができるような設計プロセスを短時間で多く検討できるようなツールができてきている。
     
    施工では、設計データと施工状況を重ね合わせることでその出来高や出来形を管理するツールがある。一般的にそのような施工途中のデータを取得する方法としては、3Dレーザースキャナーなどの測量機器が用いられることが多いが、施工現場でこれらの施工管理の合間に活用するというプロセスは施工管理の職員にとっては負担が大きく、ツールがあっても利用しづらい状況がある。
     
    そこで、これらの課題を解決するために、動画や写真撮影だけで、施工状況を点群化するという製品も登場している。
     
    このように、施工の「今」が簡単に取得できるツールがこの数年で一気に増えてきた。しかし、手間をかければどんな情報でも取得することができるが、手間を「誰が」かけるのかというポイントを忘れがちである。
     
    なので、この課題を解決する流れとして、誰でも簡単に利用できる「写真」や「動画」のみを活用した現場の「今」を表現するツールが求められている。
     
    このようなことを最重要の課題として認識し、構築されたアプリケーションが多く存在することも分かってきた。「Reconstruct 」や「HoloBuilder」「StructionSite」など既に製品として使われているものが多い(図-5
     
    残念ながらこれらの製品は全て海外製品であり、日本で作られている製品はない。
     
    今後このようなコンストラクションテックが日本から発信され、日本のみならず世界での利用が進むことを期待している。そのためには設計や施工で今何が求められているのか、それを解決するためにはどのような技術を必要とするのか、その技術を「簡単」に使える様にするにはどうするのかという観点でツールを開発する姿勢が重要であろう。
     

    StructionSite

    HoloBuilder

    Reconstruct


    図-5 デジタルツインを可能にする各種製品の一覧


     

    BIM/CIMがもたらす今後の業界

    デジタルツインをどう表現していくのか。そのためのキーワードとしてはBIM/CIMという3次元データがあると考えている。
     
    これらのデータを使って、データとIoTセンサーや形状を取得するための計測機器から取得される「今」の現状を表すAS-Buildデータを作成し、これらを統合管理することで、現場の「今」を表現することが可能である。
     
    施工管理や設計監理を行うに当たり、現場に張り付いて行う仕事の「やりかた」は、今の時代、この仕事のやり方(Process)をそのまま行う必要があるのだろうか。
     
    まったく行わないでも「良い」とは言わないが今までと同じProcessにて管理や監理を行う必要があるのかという疑問はあると思われる。
     
    デジタルツインが実現すれば、これらの業務はどのように変化するのであろうか。従来であれば、施工出来形を確認管理する方法は、測量を行い、図化し数量化しその結果をもって出来高も出来形も表現する方法が通常である。しかし、このデジタルツイン技術を利用することで、今の状況を「今」知ることができるようになる。そうすると、出来高や出来形確認にかかる時間は一瞬で終わり、従来かかっていた時間短縮のみならず、その結果を元に、次の判断に生かすことができるようになる。プロジェクトを進めていく上で、「正しく」「判断を」「瞬時に」行うことが最も重要であるが、デジタル技術を使うことで、これらを実施することができるようになるのである。
     
    この考え方を国土交通省では「施工履歴データによる土工の出来高算出要領(案)平成31年3月」という基準を出している(図-6)。
     

    図-6 施工履歴データによる土工の出来高算出要領(案)



    施工履歴データを使い、設計との差分や出来高の差分を出すことにより出来高清算業務を大幅に削減することを目的とした基準である。この基準を使うことで、出来高支払いが毎月可能になるものである。これこそまさに現場の「今」が形だけの活用ではなく、コストまで結びついた流れを作り出す重要なものだと認識しているが、この基準を運用して企業の資金繰りをよくしている会社はまだ私の知っている限りない。
     
    BIM/CIMはまずはこのような身の回りで実感できる取り組みをもっと多く実施していくべきであろう。
     

    この先の延長には、建物やインフラがそのままデジタル情報として活用することができるようになり、これらを使って建物であれば、建物がどのように運用されているのかがつぶさに分かり、それを元に建物そのものの価値だけではなく、建物の中にある「空間の価値」までも向上させることが可能となる。
     
    インフラも維持管理のシステムは行政が管理している現存システムがあるが、これらのシステムでは特にBIM/CIMを活用した管理を行っていないため、現状の方法から新しいツールを使った活用への取り組みは積極的ではない。しかし、建設後50年以上経過する社会資本の割合は今後どんどん加速してくることが報告されており、2023年には3割から4割の社会インフラが老築化している現状になるため、単なる維持修繕ではなく大規模更新を行う時期が来る(図-7)。
     

    図-7 建設後50年以上経過する社会資本の割合



    全てが新築で実施するわけではなくても、これらの更新に合わせて、BIM/CIMを使ってその当時のその状況が分かるようになれば利用する価値があると考える。
     
    昨今では点群にて現状を取得し、その点群に属性を与える製品も出てきている。BIM/CIMの取り組みとして属性の話題が多く挙がっているが、何かを決めてから行うのではなく、既存ツールなどを活用し、点群の塊に必要な情報を連携することから始めるのがよいのではないかと推察する。
     
    BIM/CIMは決して3D形状ありきではないが、フィジカルな形状を簡単にデジタル表現するためのツールである点群を活用した新しいインフラ管理Processを構築することこそが、デジタルツインとしてのインフラ構造物への価値を見出すことになるのではないかと思われる。
     
     
     

    2020年のキーワード

    i-Constructionの2019年度のキーワードは「貫徹」であった。行政から発信されるデジタル変革はまさに、深化から貫徹へと進んできている。そのスピード感は従来われわれ建設業界に身を置くもの全員が初めての経験である。それ故、この動きに疑問を抱く人がまだまだ多く、この業界の動きを単なる「一過性のもの」としてしか捉えていない人がいることは理解しているが、決してそうではなく、いま建設業はこのデジタルツイン技術を活用し、変わろうとしているのである。
     
    もう他人事ではなく自分「コト」として真剣に進めなければならないのである。
     
    デジタルツイン・規制緩和・PRISM・i-Construction・BIM/CIMとわれわれ建設業界は大きな変革の波が来ている。この流れに乗り、農業・林業・建設業というデジタル変革が一番遅れていたといわれている業界が一気に変わろうとしている。
     
    しかし、ここで気を付けなければならないこともある。デジタル革命を進めながら、Processは従来のアナログ時代の流れをそのままにしてデジタルを使おうとしている懸念があるところである。
     
    デジタル変革とProcess変革は同時に行われなければならない。両輪が回らない限り車は前に進まず、その場をぐるぐる回っているだけになってしまう。動いているので、改革が進んでいるようにも勘違いするが、間違ってもその場を周り続けるようなことはしてはいけない。両輪回して前に進むのである。
     
    「新しいツールを手に入れて仕事を行う」(=デジタル変革)のは「新しい仕事のやり方を行う」ことをセットにして、真のデジタル変革とProcess変革が成立する。この流れを私はイノベーション活動と理解しているが、従来のような改善だけによる生産性向上では本来のデジタルの力は活用できない。一気にイノベーション活動を通じて新しい世界に飛び出す必要がある(図-8)。
     

    図-8 生産性向上の手法改善と革新の違い



    その助走として、2016年から4年間のi-Construction活動が進められてきた。深化から貫徹へ、貫徹から「成長」へと向かう流れができつつあるのではないかと想像する。
     
    「成長」するためには単にトレンドを追いかけても無理であることは皆さん周知の事実である。成長に向けて、デジタル変革とProcess変革を同時に確立し、単に目先のデジタル変革にとらわれることなく、新しい建設業の在り方を肌で感じながら突き進んでいってほしい。
     
    今まで見たことがない新世界はそこまで来ている。
     
     
     

    次の10年に向けて

    2030年、われわれの世界はどうなっているのだろうか。
     
    AIが人類を滅ぼすことを題材にした「ターミネータ」、チューリングテストがとてもリアルすぎて話題の「ExMachina」など、未来の世界と思われる映画が話題である。現実世界と乖離した世界であると思っている人が多いと思われるが、ここ10 年のデジタル変革で行われている世界は、過去50年間人類がなし得なかったことを軽々と超越してしまっているものが多い。
     
    自動運転に始まり自律運転への流れ、単なる画像認識からそこに意味を持たせ理解し判断する処理技術、人間の「目」「手」「脳」がどんどんデジタルで補完されるような時代になってきた。あながち映画の世界が現実の世界と同調し始めてきている。
     
    建設業はデジタルからいささか離れた存在で、フィジカルを追及してきた産業でもあるが、そろそろ、デジタルとフィジカルを融合させ新しい世界に突入する時代である。
     
    10 年後がどうなっているのか、今のデジタル変革の時代に先がどうなるかをわれわれ自身も予測することは難しい。そうであるならば、未来を創りあげる方が楽しいはずである。
     
    「未来を予測する最良の方法は未来を創り出すことである」とはアメリカの計算機科学者で、ゼロックスのパロアルト研究所の創設に加わり10年関わった後、1984年から97年までアップルコンピュータのフェローになったゼロックスのリサーチ部長、アラン・ケイの言葉であるが、10年後を待つのではなく「創り上げる」のもわれわれ建設業に身を置くものの使命でもある。
     
    待つのではなく攻めることで新しい世界が生まれる。建設業は「請負業」として今まで保守的な業態であったが、真の建設業とは単なる請負業ではなく、世の中が持続的に進化できる社会となるための、未来を創り出す「創造業」としての立ち位置を確保しなければならないであろう。
     
    そういう建設業への取り組みが今求められている。
     
    10年後の創造業がますます盛んになっていて、日本とかアメリカとか中国とかドイツとか、国という枠を超えて、地球規模で関係者全員が連携して世界が変わることを願ってもいるし、それを作り上げていく礎を今この瞬間、われわれ関係者は意識高らかに進めていく必要があるのではないか。
     
    宇宙船地球号と言われて久しいが今その時代が来たのかもしれない。決めるのは誰でもない、読者諸氏である。
     
    この業界が世界で一番素晴らしい業界にならんことを祈り、本報告を終える。
     
     

    ※図の出典
    図-1
    http://www.engineering-eye.com/NAVISPLUS/
     
    図-2
    http://www.jacic.or.jp/hyojun/modelsyosaido_kaitei1.pdf
     
    図-3
    https://www.meti.go.jp/press/2018/12/20181212004/20181212004.html
     
    図-4
    https://www.obayashi.co.jp/news/detail/bimwill.html
     
    図-5
    StructionSite https://www.structionsite.com/casestudies/
    HoloBuilder https://www.holobuilder.com/
    Reconstruct https://www.reconstructinc.com/
     
    図-6
    http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/constplan/sosei_constplan_tk_000031.html
     
    図-7
    https://www.mlit.go.jp/common/001179306.pdf

     


    株式会社 大林組 経営基盤イノベーション推進部 杉浦 伸哉

     
     
    【出典】


    建設ITガイド 2020
    特集1「i-Construction×BIM/CIM」



     
     
     



    オープンBIMによる建設デジタルツイン構築への挑戦 buildingSMART北京サミットレポート

    2020年7月1日

     

    はじめに

    2019年10月末、世界各地のBIM関係者が集い、建設産業におけるデジタル化についての標準化や実用化に向けての情報共有、議論を行うbuilding SMART International(以下bSI)サミット会議が中国・北京で開催された。bSIサミットでは、建設ライフサイクルにおけるBIMワークフロー、BIMのデジタルツインへの展開、インフラへの拡張などの議題を中心に、標準化、最新事例の共有、BIM実務者のネットワーキングが行われている。
     
    本稿では、bSI北京サミット2019、およびbSIサミットで発表されたオープンBIMの国際アワードbSI Award2019の概要について報告する。
     
     

    building SMART北京サミット2019

    bSI北京サミット会場となったのは、2008年の夏季オリンピック大会メインスタジアムであった鳥の巣や競泳会場の水立方など巨大施設に囲まれた国家会議センターであった(図-1)。本サミットには1,500名以上が来場し、全体会議のオンライン配信では4万人の視聴者が参加、日本からの参加者も30名超の規模となった(図-2)。
     

    図-1 bSI北京サミット2019会場(左:展示会場、右:北京国家会議センター)


     

    図-2 bSI北京サミット2019基調講演の様子 (日本のBIM展開状況と鹿島スマート生産
    ビジョンの紹介:鹿島建設 矢嶋和美氏(buildingSMART Japan理事))




    bSI北京サミットでは、建設デジタルツインへの方向性をより深化させていくテーマが設定され、建設ライフサイクルに関わるさまざまな業務プロセス、システム、サービスなどがオープンでコネクテッド(つながっていく)していく、というメッセージが強く打ち出された。
     
    今回は中国での開催ということで、中国交通建設(China Communications Construction Company)、中国建設科技集団(China Construction Technology Consulting)、中国鉄道BIM連盟(China Railway BIM Alliance)などの企業・組織がサミットのスポンサーとしてもプレゼンスを発揮し、bSI中国支部の司令塔として中国建築標準設計研究院(China Institute of buildingStandard Design&Research)が活動している状況が確認できた。特に、中国支部が鉄道、港湾施設などインフラ分野におけるBIMデータ国際標準IFC(Industry Foundation Classes:ISO 16739)の拡張を積極的に取り組んできている背景に、アジア、欧州、アフリカを結ぶ大経済圏構想「一帯一路」があることが今回のサミット基調講演で述べられていた。
     
    4日間の日程のうち、初日は世界各地からの基調講演、2日・3日目はRoomと呼ばれている分科会、BIM資格認証・教育(ProfessionalCertifi cation)およびスマートシティなどのテーマ別会議、4日目の最終日には各Room会議の取りまとめを行う全体会議が行われた。
     
     
    ・建築分科会(Building Room):
    BIMデータ連携の要件定義であるIDM(Information Deliver yManual)、IDMに基づいたIFC使用範囲の定義であるMVD(ModelView Defi nition)など、BIM活用に必要な標準、ドキュメント、技術仕様などの策定を行っている。今回のサミットでは、数量積算(QuantityTake Off , QTO)、エネルギーシミュレーション、GIS座標系とBIMモデル原点の設定などのIDM、MVDについての策定、LOX(Level Of X)、空間ゾーン(Spatial Zone)のユースケース・BIMソフトウェア実装などについて議題が設定された。
     
    ・インフラ分科会(InfrastructureRoom):
    道路、橋梁、鉄道、トンネル、港湾分野へのIFC拡張(IFCバージョン5:以下IFC5)を行っている。2020 年末にIFC5をbSI FinalStandardとするロードマップが確認された。
     
    ・製品分科会(Product Room):
    建材に関連する用語、分類体系コードなどを、国際標準(ISO 12006)に基づく建築デジタル辞書サービスbSDD(building SMART Data Dictionary)により、BIMライブラリや、デジタルサプライチェーンなどへの展開を検討している。最近は、分類体系コードと、製品識別コードの連携へと展開してきている。
     
    ・建築確認分科会(RegulatoryRoom):
    建築申請分野におけるユースケース、自動チェックシステムの検討を行い、IDM、MVDやガイドラインの策定を目指している。今回のサミットでは自動構造審査の試みが紹介された。
     
    ・技術専門分科会(TechnicalRoom):
    IFCの拡張、メンテナンスおよびセマンティックWebへのIFC活用手法、API活用などの検討を行っている。CDEのAP(Iアプリケーション・プログラミング・インターフェース)標準に関しての提案が行われた。
     
    ・施工技術分科会(ConstructionTech Room):
    4D(時間)、5D(コスト)についての考察、BIMデータの次元表現についての議論が行われた。また、物流へのBIMデータ連携、中国(2社)、欧州(1社)の施工BIM事例を共有した。その他、製品コード、デジタルツイン、共通データ環境(Common Data Environment:以下CDE)、IFCモデルサーバをテーマに議論が行われた。
     
    ・空港分科会(Airport Room):空港
    分野の資産管理、運用管理の視点から空港施設ライフサイクルへのBIM活用に必要なIDM 、MVD、ガイドラインなどの策定を行っている。今回は空港のData Dictionary活用、BIMとGISデータの変換手法、空港のデジタルツインについての議論、および空港に関連する新たなIFC要素の提案とロードマップ再設定が行われた。
     
    ・鉄道分科会(Railway Room):
    IFCの鉄道分野スキーマの策定を推進しており、今回サミットにおいて標準案候補が今後のレビュー段階に入った。

     
    今回の基調講演には、英国のアラップ社のデジタルトランスフォーメーション(DX)戦略、シンガポールのスマートネーション計画における都市デジタルツイン化戦略、都市デジタルツインを目指したフィンランドのヘルシンキ3Dプラスプロジェクト(図-3)など、BIMと地理情報システム(GIS)、IoT(モノのインターネット:Internet of Things)などのセンシング情報を統合する世界各地の最新の動向が紹介された。1年前のbSI東京サミットにおいて、内閣府が推進しているサイバー空間とフィジカル空間(現実世界)を融合させたデジタル基盤戦略Society5.0へのBIMが果たす役割についての可能性を世界に向けて発信した。それを受けて、今回のサミットではBIMを軸とした屋内外の空間情報、製造・流通業が持つデジタル情報、IoTによるリアルタイム情報を統合した建設デジタルツインの議論の場が広がってきた。BIMとスマートシティの関連性については、シンガポールやヘルシンキの関係者、シーメンス、オラクル、IBMなどの情報システム大手が参加する会議も行われ、ユースケースやデジタルツイン構築に向けての意見交換が行われた。
     

    図-3 ヘルシンキ3D+プロジェクトにおける都市デジタルツイン
    (左:属性情報なしのメッシュ形状モデル・右:属性付きのCityGMLモデル)




     

    BIMから建設デジタルツインへ

    製造業におけるデジタルツインは、実空間に物理的に存在する製品・システムと、その製品・システムのデジタルデータで表現された仮想モデルと共に、製品・システムの状態をIoTに代表されるセンサーデータとして取り込み、製品ライフサイクルを通してデータ解析、シミュレーション、機械学習などを活用して全体最適を図る概念である。
     
    建設分野におけるデジタルツインとはどのような定義となるであろうか。第一にBIMが提供する建物のデジタル表現としての3次元空間情報、第二に建物を構成する建材・設備機器などの諸元・製造元情報を含む製品情報、第三に建設中および運用中の建物の現時点の状況を計測するセンサー情報、その蓄積された過去からの履歴情報、シミュレーションなどによる予測情報などのダイナミックな環境情報、という3つの要素から成り立つといえる。
     
    建設デジタルツインを構成する製品情報に関しては、建築情報分類体系( 米国のOmniClass、英国のUniclassなどの分類コード)や、製品情報の基本的な属性情報の定義をAPIによりデータ連携するためのbSDDと呼ばれるデジタル辞書サービスの普及が進められている。bSDDを活用し、分類コードと製品レベルの製品識別情報を連携して、建設現場や建物運用時の建材、資材、設備機器などの管理、追跡をデジタル化する実証実験が行われている。建材製品情報とBIMのデータ連携を活性化するため、バーコードやRIFDなどで知られている製品識別コードの標準化、管理を行っている国際組織GS1(本部ベルギー)とbSIは、昨年からBIMと製品情報の連携をテーマとした実証実験やワークショップなどの協調活動を進めている。
     
    また、IFCとCityGML(都市3Dモデル)の統合、IoTとの連携による都市デジタルツイン構築の可能性が今回のサミットにおいて議論されたが、今後bSIサミットにおけるスマートシティ関連のテーマ設定をさらに進めていきたいと考えている。
     
     

    building SMART Award 2019について

    bSIでは、IFC、BCF(BIM Collaboration Format)などbuilding SMART標準を活用したオープンBIMの普及促進を目的に、2014年からbuilding SMART Awardを実施している(図-4)。春に応募を開始して、秋のサミット国際会議において設計、施工、運用・維持運営、学生、プロフェッショナルの5部門の審査発表、表彰式を行う形式である。2019年度は、全世界から100以上の応募があり(日本からは1)、bSIサミットにおいてその最終結果の発表、表彰式が行われた図-5~7)。今回のAward審査には各building SMART支部から67名の審査員(うち2名が日本支部から)が参加した。今後、bSJにおいてオープンBIMの専門家層を育成し、審査員として世界のオープンBIM実践状況を把握する機会を強化していきたい。
     

    図-4 buildingSMART Awardの分野別の参加チーム数の増加(2014から2019年度 2019年度はステージ2のチーム数)


     

    図-5 buildingSMART Award 2019設計部門Award (PDC Engineering
    Queen’s Wharf, Brisbane) IFC, COBie, CDEなどを活用したBIMデータ連携


     

    図-6 buildingSMART Award 2019施工部門Award (ICOS Group, BYLOR
    Group & EDVANCE Group, Hinkley Point C EPR):IFCによる鉄筋モデル調
    整(左上)、建設現場における鉄筋制作情報タグの様子(右上)、IFCによるデジタル
    データフロー(下)


    ・設計部門(Design Award):PDC Engineering, Queen’s Wharf, Brisbane
    ・施工部門(Construction Award):ICOS Group, BYLOR Group & EDVANCEGroup, Hinkley Point C EPR
    ・運用・維持管理部門(Operations & Maintenance Award):Automated QualityControl, Copenhagen Airport
    ・研究部門(Professional Research Award):ACCA Software, StructuralE-Permit
    ・学生研究部門(Student Research Award):Technical University Munich, Multi-LOD Requirements Manager
     

    図-7 buildingSMART Award 2019 審査員賞・イノベーション賞等




     

    おわりに

    本稿では、中国・北京で開催されたbSIサミット会議の概要を紹介した。BIMの展開は、設計、施工フェーズを超えて、製造業、サプライチェーン、運用・維持管理、都市経営などの領域に広がってきている。今回のbSIサミットにおいて、製造業とのデジタルサプライチェーンによるデータ連携を推進するための製造業分科会(Manufacture Room)、発電所・送電施設分野の電力分科会(PowerRoom)など、新たな分科会設立準備が進んでいることが判明した。インフラ分野のIFC標準化も2020年に大きな進展を向かえる。
     
    2020年には、3月下旬にbSIサミットがノルウェー・オスロおいて、9月最終週にはカナダ・モントリオールで開催される。bSJでは、bSIサミットにおいて発表された基調講演、分科会、アワードなどの資料を各委員会やWG活動で分析し、今後の活動に役立てていく予定である。ご興味のある方は、ぜひこれらの活動の原動力となっているbuildingSMART Japanへ参加し、世界の大きなオープンBIMの潮流へ加わっていただきたい。
     
    参考文献:
    ●building SMART International Standards Summit,Beijing China:
    https://www.buildingsmart.org/the-international-standards-summit-beijing-china-28-31-october-2019/
     
    ●buildingSMART Awards 2019:
    https://www.buildingsmart.org/awards/bsi-awards-2019/
     
     
     

    一般社団法人 buildingSMART Japan 理事・技術統合委員会委員長 buildingSMART Fellow 足達 嘉信 博士(工学)

     
     
    【出典】


    建設ITガイド 2020
    特集2「建築BIMの”今”と”将来像”」



     
     
     



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