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書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。

設備BIMへの取り組み状況と今後

2020年4月23日

 

はじめに

建設業界の設計、施工、保守運用の各段階において普及度合いにバラつきはあるが、全体としてはBIM活用が進んでいる。当社は設備工事を主力事業としておりBIMについても施工フェーズにおいての取り組みに重心を置いている。
 
当社のBIM推進は、現時点で最も情報量の多いCADと業務を支援するソフト群の連携の強化・拡大を当面の目標としている。併せて個別業務の生産性・品質向上につながるソフトウェアの充実・機能向上を進めている。
 
施工業務は多岐にわたりBIM推進上でも検討・開発・試行・展開中のテーマも多いが、本稿では事例をいくつか紹介する(図-1)。
 

図-1 CADを中心とした相互連携の強化




 

モデルを利用した取り組み事例

①VR(Virtual Reality)の活用
VRはBIMモデルの空間にVR用のゴーグルを使用して入り込み、実物大での確認を行うことができる。この仮想空間の中で機器やダクト・配管の納まりを体感し、施工手順の事前確認や操作性などの合意形成に寄与できる。この特性を活用して施工品質を向上させ説明力を強化することを目的として展開している。
 
2016年よりVRを活用できる環境を構築し、顧客への説明や社内の検討に使用している。VRでは空間内を自由に移動でき、任意の位置での視線や姿勢に応じた確認が可能である。自身の手を伸ばすことで、弁などの操作部へのアクセス性や操作性の検証が可能である。
 
VRシステムを全社9支店・事業部に配備し主に施工現場での活用を進めている。客先向けの合意形成用途のみではなく、職長への施工説明や仮想落下シミュレーションなどによる安全意識向上にも活用している。人事部門にも配備し、なじみの少ない当社の本業の成果物を実物大で体感していただいている。社員向け施工図研修でも受講者自身の施工図を変換した実物大のモデルに入って、納まり、見た目、通路、保守スペースなどを体感することで研修効果を上げるツールとしている。活用時のニーズを基に自社開発でVR画面内での機器移動、属性情報の日本語表示機能を開発した(図-2)。
 

図-2 VR利用例




現場でのVR活用では2018 年度完成の国土交通省の工事から選ばれるi-Construction大賞の優秀賞を受賞した。これは、改修工事でのVRをはじめとしたBIM取り組みを評価されたもので、従来は土木案件での受賞のみであったが、2018年度に建築系で当社が初めて受賞した(図-3)。
 

図-3 i-Construction大賞優秀賞受賞現場の実施内容



②MR(Mixed Reality)活用に向けて
MRはReal(現実)とVirtual(仮想)を同時に見て操作できる、新しいユーザーインターフェースである。現場での活用が期待できる技術であり、社内の複数現場で評価を行った。当社が想定している用途と現場での現在の評価結果を表-1に示す。
 

表?1 MR現場試行時の現時点での評価




MRゴーグル内では2次元の図面を現場に実物大で表示することが可能である。また同時に3次元モデルを実際の位置で確認できる。施工前に完成時の姿を現地で確認すること、施工中に進捗を確認すること、竣工後に天井内設備の確認を行うことなど、MRの活用には有効な場面が多い。
 
しかし、BIMモデルをMRのゴーグルに表示するまでの手順が多いことと、一度に扱えるデータ量が少なく、機器・ダクト・配管などがある当社のBIMモデルでは、200㎡程度しか扱えないことなど事前準備の上で手間が多い。
 
現地での利用でも、利用開始するまでに原点、レベル、向き、長さ比率調整などの作業が必要となる。また、現在のソフトでは、画面での進捗確認などには使用できるが、結果を記録しBIMモデルに書き戻すなどの実務に必要な機能が不十分である。
 
MRは利用が始まったばかりでありコストの課題がある。対応ソフトも少なく本格的な普及は今後のハードウェア・ソフトウェアの進化を待つこととなる。
 
すぐに広く利用するには課題が多いが、ソフトやMRゴーグル自身の開発が進めば、当社が想定している用途での活用は可能になる。今後は、本社中心の評価から現場中心の試行に重点を移して活用につなげる(図-4)。
 

図-4 MRゴーグル内の表示



③施工管理へのモデル活用
現場事務所までのPC配備は当たり前になったが、情報を持ち込む必要があり、情報が生まれる場所である施工現場内の情報化は緒に就いたばかりである。建築業界では現場でのタブレット普及が急激に進んでおり、当社も現場技術者のほぼ全員がiPadを利用している。現場の情報インフラとして、タブレットが使えることをソフト開発などの前提にできる状態になっている。
 
BIMモデルから生成した図面を現場での図面確認に利用することに加え、現場写真の記録・管理や自社・客先の指摘管理業務への利用など一般的なものを進めている。さらに、共同開発などにより適用範囲を風量測定や圧力試験など試運転業務へと拡大している。
 
多くの現場での試運転業務では現場内で記録した試運転計測の結果を、現場事務所に戻ってからExcel等で報告書にまとめる作業を行っている。これを、現場での計測作業自体も支援した上で、計測終了時には報告書が出来上がるようにしている。
 
いろいろなツールの試行・展開は行っているが、まだ現場業務を変革したといえるほどの大きな効果が上がっているとはいえず、掛け声の割には成果が大きいとはいえない。本当に効果あるものとするには事前準備作業の負荷を減らすことが重要であり、BIMモデル自体が十分な情報を持つことと、それをタブレットと容易に情報連携できる仕組みが重要である。現在のようなBIMモデルをPDF形式に図面化して、それをベースにしているようなシステムから、モデルと直接連携したシステムにすることが求められている(図-5)
 

図-5 現場試運転測定業務への利用例




 

属性情報を利用した取り組み事例

BIMモデルが建物全体の設備を扱えるようになることで、従来の計算や積算などの業務を変革することができ始めている。
 
①技術計算の変革
設備CADでは内部に技術計算機能を持つ例が増えてきた。技術計算専用ソフトもモデルとの連携ができるものが出ている。当社も自社開発した技術計算とBIMモデルの連携を進めてきた。しかし、採用されている計算方法や出力は手計算を前提に設定されている旧来の方法をソフトで実行しているものが多い。出力も紙での計算書を前提にしたままである。
 
対象の機器と属性情報、管路の全ての情報をモデルで定義することができるようになってきた現在では、手計算のための計算法に縛られる必要はない。当社では、計算を行う上で信頼できる管路データが得られるようになってきたことを受けて、漏れ量を考慮した上でダクト系の風量分配を推定するソフトを開発し運用を始めた。運転時に十分な風量が確保できなかったり、逆に風量が出すぎて騒音の問題を引き起こしたりすることを回避できる。
 
静圧計算は送風機の送風圧力選定のために計算するものであるが、従来の計算法では制気口は全て設計風量が出るという前提で、最も遠い制気口までの抵抗を一経路のみ計算している。風量分配ではダクト系の送風機に設計風量を流すと、管路の全ての制気口ごとにいくらの風量が出るかを計算できる。その際にダクト系の接続部の漏れ量を計算し、結果に反映できる。特に排煙ダクトは風速が早く局部抵抗が大きく、内圧が大きな負圧になりダクトフランジ部などの漏れが無視できない。このため、排煙系ダクトの従来の静圧計算では、計算結果に対して根拠の薄い大きな余裕係数を乗じて送風機を選定している。風量分配では漏れ量を評価した上で、どの排煙口を開けた時に系内がどのような圧力分布になるかを判断できる。どの部位が多く漏れるかも判定でき施工時のシール方法の検討にも活用可能である。
 
モデルの充実は、現場で行う計算を従来の手計算を前提にした簡略な方法から、より現実に近い結果を推定するシミュレーションへの変革につながる(図-6)。
 

図-6 風量分配計算例




 
②墨出し作業の変革
インサート打設のための墨出し作業は短期間に行う必要がある。このため作業員に提供するインサート図は分かりやすくしなければならない。寸法の数を減らすことが現場での手計測回数を減らすことになるため、インサート図の寸法は吊り間隔などの技術的な要求を満足しつつ位置をそろえ、寸法を丸めて測りやすくすることが必要である。図面自体は簡単なものであるが、技術力のある担当者でなければ書けなかった。
 
モデルの情報を利用して墨出しを行うレーザー墨出し技術を使えば、手計測での現場測定がなくなる。これにより、寸法は端数でもよくなり手計測回数を減らすためにインサート位置を並べる必要もない。インサートの位置は重量などによる吊り間隔のルールを守るのみで良いので、すでに設備CADに搭載されている自動生成機能を多少改善すれば自動作図も可能になり、インサート図を描く行為自体が不要になる。
 
 
③積算作業の変革
BIMモデルの充実は積算でも変革をもたらす。施工段階でも従来は特別な場合のみに行ってきた継手の単価まで反映した積算が、BIMモデルの活用で常に可能になる。設計段階が現在の成果物のままでは継手を拾っても意味がないが、施工段階では発注に使えるレベルの情報をモデル化できるようになってきた。これにより、より高いレベルでの積算が可能になる。これを実現するには現在の施工図で要求されるレベルのモデル化では不十分で、自動制御用タッピング、エア抜き、水抜き配管などを含めた詳細なモデルが必要になる。これは、プレハブ配管の発注・製作連携のためにも必須の機能である。
 
 
 

今後に向けて

現在は現行業務を前提に個々の業務の品質向上や生産性向上にITを活用した上で、BIMモデルと関連業務の連携を強めることを取り組みの中心としている。この実現には、技術計算・積算・発注・施工管理などに耐えるだけの「使えるモデル」を構築できるCADが必要である。BIMの中核となるCADの一層の進化に期待したい。多くのソフトの連携で実現するBIMでは相互を連携させるための情報交換が重要になる。中心となるCADも含めてソフトウェアを進化させていく必要があり、ソフト自体が別のものになることもある。このために、情報交換手段の標準化が重要である。
 
連携、統合のレベルを上げるには、人が拾ったり数えたり測ったりすることを前提にした方法、紙を前提とした表現が使われている成果物を変えていくことも必要である。これからは業務に対応したソフトウェアが理解できる方法で情報を標準的な手段で交換できることが求められる。情報をデータベースとして蓄えて、多くの関係者のそれぞれに適した表現で提供することを実現していかなければならない。
 
 
 

高砂熱学工業株式会社 事業革新本部 イノベーションセンター 新技術開発部 BIM推進室

 
 
【出典】


建設ITガイド 2020
特集2「建築BIMの”今”と”将来像”」



 
 
 



 

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