建設ITガイド

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書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。

地方発! i-Construction×BIM/CIMチャレンジ事例 -CIMとの出会いから活用のための人材育成―

2019年5月15日

 

はじめに

当社は、新潟県柏崎市に本社を置き、明治18年創業の130年を超える歴史を持つ総合建設業の会社です。
 
 
 

UAV~CIMとの出会い

約4年前の2015年にUAV PHANTOMⅢを導入しました。当面は現場の空撮目的で、自社社員で空撮を行って、着手前、完成と月々の進捗の定点写真として撮影を開始しました。
 
同2015年に、「土木分野は3次元化へ進む」というような情報を聞き、「どんな感じになるのだろうか? 何から始めたらいいのか? とにかく、情報収集、3次元CADの導入準備か」と思い、そして、土木学会CIM講演会(新潟)にて、3次元化推進の話を聞き衝撃が走りました。
 
ところが、石井大臣によるi-Constructionについての記者発表を聞き、「ICT(土工)って何? CIMはどこに?」と考えながらも、「CIMもICT(土工)も、とにかくやってみよう! 自分たちでやってみなければ、何も分からない、何も技術が残らない」という思いで、内製化に向けてスタートしました。
 
 
 

3次元モデルの活用に向けた取り組み

2016年3月に3次元CADを導入しました。(Autodesk社:Civil3D、Revit他一式、福井コンピュータ社:TRENDPOINT、TREND-CORE)
 
同年8月にまずは、現況地形の3次元化として、自社のUAVで空撮と点群処理を行い、3D地形データの作成(図-1)から土工量の算出までを行いました(図-2)。
 
また、ICT(土工)の起工測量を自社UAVとTLSで行い、結果を比較してみました。UAVの飛行経路に沿って、TLSと5cm程度の誤差が生じていました。UAVの写真のラップ率が少なくなると誤差が大きくなることを立証する結果となりました。UAV測量の走行方向ラップ率が80%を切るところもあったので、ラップ率を確実に守ることの重要さが理解できました。
 
3次元モデルの活用として、鉄筋の干渉チェック(図-3)、安全管理として離隔の確認(図- 4)、施工のステップ動画に取り組んでいます。
 
また、3次元モデルをVRへ活用しています(図-5)。
 

図-1 空撮写真から地形の3次元データを取得




図-2 3次元設計データと現況地形データから土工量を算出




図-3 鉄筋の干渉チェック




図-4 クレーンの稼働可能範囲の確認を行い、共用中の高架橋との離隔を確保




図-5 VR体験会にて教育活用




 
 

3次元モデル活用への当社の課題

(1)人材育成 CIMチーム( マネージャー、コーディネーター)の育成
(2)複数CADソフトの活用による煩雑さをコーディネート
(3)現場職員へのCIM、ICT(土工等)育成と3次元CAD習得
 
 
 

CIMチーム育成の道のり

CIMを効果的に運営していくためには、CIMマネージャー、CIMコーディネーター、CIMモデラーの3つの役割によるチームが必要です。CIMマネージャーとは、受発注者でCIMに詳しい人、CIMコーディネーターとは、実際のモデル空間を段取り、データ監理を行う人、CIMモデラーとは、モデルを調達する人のことです(図-6)。
 
今はまだCIMが始まったばかりでCIMコーディネーターがほとんどいないため、まずはこのCIMコーディネーターを目指すこととしました。
 
そのために、3次元モデルの導入促進を目的としている、Civil UserGroup(CUG)やCIMチャンピオン養成講座に参加し、3次元CADや3次元モデルの利活用、CIMについて勉強しています。
 
 

図-6 CIMチーム (「CIMを学ぶⅢ」より)




 
 

おわりに

今後の目標として、ソフトを実務で生かせるように習得すること。まだソフトの操作方法が分かってきたところであり、今後、CIMを活用していく中で、現場の特性に合わせて、どういうデータが必要か?作成したデータをどう生かすか?を考えながらやっていくことが大切です。まだまだ勉強することはたくさんあります。CIMコーディネーターを目指し、現場の生産性の向上に貢献できるよう、これからも努力していきます。
 
 
 

株式会社 植木組 土木技術部 陶山 直人

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2019
特集1「i-Construction×BIM/CIM」



 



施工BIMの今 -竹中工務店における鉄筋工事の専門工事会社BIM連携事例-

2019年5月10日

 

はじめに~施工BIM以前

竹中工務店としては、BIMをベースとした業務のデジタル化・高度化を進めており、設計施工の強みを生かし、業務プロセスを通じた生産性の向上を図っている。その中で、施工BIMにおいて生産性を向上させるためには、専門工事会社とのBIM連携が不可欠である。例えば鉄骨工事や設備工事などではBIMに取り組む環境が整備されつつあるため事例が増えつつある。一方、鉄筋工事もBIM連携のニーズが多い工種だが、鉄筋の加工に直結するような機能を有した市販BIMツールがないなど課題も多く、事例が少なかった。そこで本稿では鉄筋工事に着目し、自社開発によってツール上の課題解決を図るとともに、実プロジェクトにおいて専門工事会社とのBIM連携を試行したので紹介する。
 
 

鉄筋工事における専門工事会社とのBIM連携方法

従来鉄筋工事において施工者は躯体図の発行までが仕事であり、その後職長が構造図と躯体図を読み込み、配筋の納まり検討を実施している。そこから加工図・加工帳を作成し、鉄筋加工工場にて加工帳を基にして加工を実施している。
 
鉄筋加工工場では工場担当者が手作業で加工帳から専用ソフトへ数値を転記することが一般的であり、入力手間やヒューマンエラーの可能性がある。また一部の鉄筋加工機では曲げ角度や切寸法を表すQRコードを読み取ることで加工の自動化が可能な機種がある。そのQRコードは絵符を作成する専用ソフトから発行されており、生産性向上が図れている。そこで本稿では、自社開発によって鉄筋のBIMモデルからQRコードを直接発行するシステムを開発することで、配筋検討から鉄筋加工までの一貫したデータ連携を図った。
 
自社開発ソフトRCSは構造計算時に作成されたデータST-Bridgeを活用し、当社の配筋標準に適合した3Dモデルを自動作成、鉄筋加工図・カットリストの作成までを行うプログラムとなっている(図-1)。RCSは構造データと連動していることで、間違いのない鉄筋本数と鉄筋間隔によって配筋納まり検討が可能である。また納まり検討実施したモデルにて加工図を出力することが可能である。
 

図-1




 
しかしながら以前まではRCSから出力された加工帳から手作業で加工用に数値を転記しており、データが鉄筋加工まで連動していなかった。そこで主要鉄筋加工機メーカーが対応している仕様のQRコードを直接RCSから出力することを今回開発した。
 
使用者は当社の生産設計部署および作業所だけでなく、鉄筋工事協力会社の職長へも広めるため、操作教育・展開を現在進めている。両者が使用することで、構造計算時から鉄筋加工までBIM連携で一貫した業務の実現を目指している。
 
 

実プロジェクトへの適用事例

先述した開発を以下の実プロジェクトにより適用した(図-2)。
 

図-2




 
建築地:埼玉県草加市
建築用途:独身寮、事務所
建物規模:RC造、地上3階
工期:2018年3月~2019年3月今回の開発は約2 年前からQRコード出力の開発を実施しており実プロジェクトでの適用を実現させた。範囲としては基礎工事(基礎梁4本)部分を対象範囲として以下の手順(図-3)にて試験的に実施した。
 

図-3




 
STEP1:構造データを読み込んだRCSにて鉄筋BIMモデルを生産設計部署にて作成した。
 
STEP2:鉄筋BIMモデルを用いて生産設計部署・作業所・専門工事会社の関係者にて配筋納まりを確認、合意をした。
 
STEP3:関係者にて合意したBIMモデルよりQRコード絵符付き鉄筋加工図を出力した。
 
STEP4:QRコード絵符を鉄筋加工機にて読み込み鉄筋加工を実施した。
 
以上のような流れは従来の鉄筋工事における流れと全く異なり、新たな生産体制を構築できたと考える。
 
今回当プロジェクトにてRCSから出力したQRコード付絵符にて鉄筋自動加工を実施した。その結果は通常の鉄筋工事加工と比較して約50%向上することができた。また今回の開発に携わった専門工事会社の意見では、職長、工場作業員の鉄筋加工図作成工数が今後RCSを活用していき習熟することで従来から約20%低減が見込めるとの見解を得られた。今回の開発効果を鉄筋工事全体で考えると約7.4%のコスト削減効果がある(図-4)。今後減少が予想される熟練技能労働者減少による生産力確保は建設業界の大きな課題の一つである。今回の開発はその問題の解決策の一つとして期待できると考える。
 

図-4




 

今後の展開と将来展望

本稿では鉄筋工事における自社開発BIMソフト活用におけるBIM連携を生かした事例を紹介した。しかし、今回は部位を限定した試行であり、広く展開するためにはツール・体制両面で課題がある。今後は、業界への働きかけと技術開発の2手段でさらなる生産性向上へ寄与したい。建築のリーディングカンパニーとして鉄筋業界へのBIM連携の働きかけを継続していく。技術的には、データ連携の汎用性向上とともに、加工材の出荷管理・生産計画等、工場側で効果の大きい業務とのデータ連携も図り、生産効率の向上を推進していく。
 
建設業におけるBIM連携はゼネコンだけでなく、関わる専門工事会社も含めてメリットを享受する必要がある。また、より多くの専門工事会社がBIMに取り組むことでよりメリットを享受しやすくなるので、今回の鉄筋工事だけでなく、他の工種にも広めていきたい。ゼネコン側も建設業界として足並みを揃える必要があるので、他社とも協力して規格化・標準化を進めていきたい。
 
 
 

株式会社 竹中工務店 東京本店 調達部 く体グループ 中村 健二

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2019
特集2「進化するBIM」



 



i-Construction×BIM/CIMに向けた人材育成

2019年5月8日

 

はじめに

2012(平成24)年に国土交通省がCIM導入推進委員会を設置してから、既に7年が経過しこの間にCIM試行事業により多くの成果が報告されている。2016年には、CIM導入ガイドライン(案)も制定されCIM推進の形も決まりつつある。
 
土木学会でも2013年よりCIM講演会を開催しており普及推進を進めている。2017年までの5年間に開催された土木学会CIM講演会のアンケート結果では、人材育成・教育、CIM知識・技術、導入コストが毎年25%以上の参加者により課題として挙げられている(図-1)。
 
当社では、2004年にAutodesk社のCivil 3Dの前身のスーパー土木セットを導入以来、一貫してAutodesk社製品を利用した3次元化の取り組みを進めている。この活動の中で分かったことは、人材育成を進めるためには個人的な教育は元より、さらに重要な点は全社的な取り組みが必要であるということである。
 

図-1 「CIM講演会2017」開催報告 アンケート結果のまとめより




 

3次元への挑戦の歴史

2004年Autodesk社はLandDeskTopというCivil 3Dの前身の製品の販売を開始した。当社ではこのLandDeskTopとAutoCADなどをセットにしたにスーパー土木セットを導入し、社内でのCADをAutodesk社製品として標準化した。これが当社での3次元設計への取り組みの始まりである。
 
この時の取り組みについて対外的に実施した際の講演集の抜粋を図-2に示す。当時は、CALS/ECという概念で、電子納品・電子入札などの電子化を進めており、CADの3次元化も目標とされていたが、ご存知のように電子納品・電子入札などの成果を残したが、3次元化までは進まなかった。
 
図-2の左上の図は、現在のBIM/CIMの中で検討されている、クラウドを利用した情報共有とほぼ同じ考え方であり、建設業界は、この20年程全体的なICT化を目指していることが分かる。
 
導入してから、Civil 3Dの利活用に向けた3次元設計研究会を組織し、3次元モデルの作成方法について検討を開始し、社内での勉強会の他、年に1回の軽井沢での合宿研修、翌年からは新入社員への講習などを実施し3次元への社内体制の基礎を築いていった(図-3)。
 
しかし、この当時のパソコンのCPU・OSは32bit対応で、登載できるメモリの上限も4Gバイトしかなかった。3次元で地形を扱うには、大容量の高速なハードディスクも必要であるが、まだまだハードウェアの能力は低く、加えて、ソフトウェアの機能もまだまだ発展途中であり、実際の業務に適用するのはしばらくの時間が必要であった。
 
使用するソフトウェアも、当初はCivil 3Dだけであったが、構造物の設計のためにRevit Structure、統合モデル作成のための Infrastructureの導入を行い、3次元設計への社内対応の体制を整えており、2012年に開始された国土交通省のCIM試行業務にもいち早く対応し、横浜環状南線での橋梁モデルの実施につながっている。
 
この後も国土交通省のCIM試行業務をはじめ、幾つかの業務で3次元への取り組みを開始していたが、特定の社員、特定の部署での実施にとどまり、なかなか全社で一体とした取り組みになっていかなかった。
 
2013年には、全社での推進のためにCIM推進室を設置し、国土交通省のCIMに対応するための教育・普及を開始する一方、3次元設計をサポートするための3Dプリンター、Leica社のレーザースキャナーMS60導入、Autodesk製品のライセンスの追加など、CIM推進に必要となるための環境整備も進めている(図-3)。
 

図-2 Autodesk Civil 3D ロードショウ 2004 講演資料より




図-3 社内の3次元設計推進の動き




 

yecCIM推進2020行動計画

(1)計画
2017年4月に全社で統一したCIM推進のために、2020年までの3年間を目標とする、「yec CIM推進2020行動計画」(図-4)を策定し、当社の56期(2017年7月~2018年6月)開始時から、全社でこの行動計画に沿って、推進を開始した。
 

図-4 yec CIM推進2020行動計画(表紙)




この行動計画の目標は、「59期(2020年7月~)から全ての業務でCIMを活用し生産性を2割向上」させることにある。この目標達成のための各期の取り組み目標は、表-1に示すとおりである。
 
開始当時は、国土交通省の全ての設計業務で3次元の現況地形モデルの作成を目標として、その中の2割でのCIM対応の実施を目標としている。これは、まだ全ての業務でどのように3次元モデルを利用した実施フローにすべきかが明確でないため、基本である現況地形のモデル化を目標としたものである。現況地形もモデル化による全体を俯瞰することで3次元モデルの新しい見方の習得を目指しているが、まだ明確な答えは出ていない。
 

表-1 各期での取り組み目標




 
(2)行動計画実施体制
計画の策定・推進は、CIM推進室が中心となり実施しているが、実際の業務を実施するわけではないため、設計現場との連携が必要となる。このため、図-5に示すように、社長をトップとし各部に1~2名の兼務者を配置し、各部には実際のモデル作成の中心となるモデラ―を配置する実施体制を採っており、社長、専任者2名を含め総勢129名となっている。
 
CIM推進室として月1回の定例会議で、進捗状況やCIMの動向などを報告している。
 

図-5 CIM推進室の体制




 
 
(3)行動計画実施のための方策
目標・体制を整えても、やはり現場で使用してもらわないことには始まらない。このため、以下のような方策も実施している。
 
 
1)個人への学習支援
社内では、Autodesk AECコレクションの使用を前提としており、こうしたソフトウェア習得のための勉強会を、本店・支店で2カ月に1回程度開催している。
 
この他に、社員自らがCIM導入のための学習を行うための、e-Learningサイトを構築している。このe-Learningサイトでは、AECコレクション製品のマニュアルだけでなく、CIMの考え方のコンテンツも作成しており、技術系社員のみならず、営業系社員の受講も推奨している。
 
また、実際に業務に適用した際の疑問と回答のためのQ&Aサイトの運営、年1回の合宿形式の集合研修も実施している(図-6)。
 

図-6 CIM e-Learningサイト




 
2)全社へ向けた啓蒙とレベルアップ・報奨
入手した業務のCIMを適用した際には、CIM成果報告書を提出してもらっている。これは、CIM試行業務として指定されていない自主的な取り組みも含めて提出する仕組みとしている。
 
この成果報告書をもとに、年2回12月、5月にCIM成果報告会を開催し、優秀な成果は報奨している。
 
 
3)CIM資格制度
59期の全業務でのCIM業務執行を円滑に進めるために、CIM資格制度の導入を検討している。これは、CIM業務の的確な計画と実施を目指し、役割分担を明確にするとともに、社員への新たなモチベーションアップを狙っている。
 
CIM資格制度としては、熊本大学の小林教授の「CIMを学ぶⅢ」で定義されている資格に、社内で実施する工種の業務への推進を進めるためのCIMインストラクターを加え、CIMモデラーも初級・上級に分けた5区分としている。
 
資格認定は、各期の期末(6月末)に実施し、翌期より資格者として活動する予定である(表-2)。
 
社内の執行部所は4つのグループに分類されており、資格制度導入後は、資格者も含めた図-7のような体制でCIM推進を進めていく予定である。
 

表-2 CIM資格制度




図-7




 

まとめ

現在は、パソコンが普及して手書きの図面からCADを利用したデジタル図面に移行した時期と似ている。しかし、2次元をベースとしたCADは、利用しなくても紙とペンで代替ができるが、3次元モデルは、確認するためには専用の機器(パソコン、タブレット、スマートフォンなど)と作成するにはモデル作成ツールが必要であり、従来のように紙とペンでは代替できない。3次元モデルから2次元図面を出力することで、修正忘れなどの図面間の不整合も解消され、一度、3次元モデルを作成しておけば、修正・追加は非常に簡単にでき、生産性向上が期待できる。こうした観点で、2020年までの社内での利用を推進している。
 
このためには、教育は重要である。個人の能力を向上させることも重要であるが、全社として取り組むことでさらに大きな展開が期待でき、施工・維持管理への展開が加速される。
 
 
今後は、最終的な3次元モデルの利用による継続的な生産性向上を推進していくがこのために以下のような検討を予定している。
 
・資格制度を運用する中で、工種ごとに適したソフトウェアの利用方法の検討
・3次元での設計手法を確立しソフトウェアの開発
・積算・施工への連携
・維持管理への適用
・インストラクターによる部内・グループ内への普及
 
 
CIMの普及推進は、いつでも学習したい社員が自由に学べる環境(ソフト、ハード、教材、そして時間)を提供することが、一番重要であると感じている。
 
 
 

八千代エンジニヤリング株式会社 技術管理本部 CIM推進室 藤澤 泰雄/金光 都

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2019
特集1「i-Construction×BIM/CIM」



 



ダイバーシティに向けた 3次元データ利活用の取り組み

2019年5月1日

 

はじめに

近年、土木事業全体において、i-Constructionに基づくICT活用工事やBIM/CIM活用工事など3次元データを利活用することによる、生産性向上への取り組みが推進されている。急な変化にもかかわらずこの数年で、適用規模や工種が拡大してきている。今後、3次元データを活用する機会はますます増加していくと考えられる。3次元データの取り扱いにおいては、3次元データを扱えるハードウェア・ソフトウェアの環境整備や3次元データを扱える人材育成などが課題として挙げられる。本稿では、それらの課題に対する当社の取り組み事例を紹介する。
 
 
 

3次元データを扱う環境整備

国土交通省工事においては、i-Con-structionに基づくICT活用工事が特記仕様書に明記され現場でも適用が進んでいる。ICT活用工事は、①起工測量、②3次元設計データ作成、③ICT建機による施工、④出来形管理等の施工管理、⑤データの納品の全ての段階において、ICTおよび3次元データを全面的に活用する工事であり、主に大規模掘削・盛土等を伴う道路工事などの土工事で適用されている。一方で、都市土木のような狭隘かつ複雑な施工箇所においても、構造物の構築工事にBIM/CIMを活用するなど工事中の各所で3次元データを扱う場面が生じている。ICT活用工事およびBIM/CIMを活用する工事においては3次元データの作成が必須である。
 
以上のように、実施工の現場において3次元データを取り扱わなければならない機会が増えている。
 
一方、3次元データは、容量が大きくなるとGPU(Graphics ProcessingUnit: リアルタイム画像処理に特化した演算装置ないしプロセッサ)を持つハードウェアが求められることや、点群利用ソフトやBIM/CIMツールのといったソフトウェアが必要となる。しかし、通常現場技術員が持つ標準PCは、このようなデータの取り扱いには適していない。そこで、個々の現場に高性能PC(WS)を1台ずつ導入するような対応策では、コストや管理面での負担が過大となることや一部の技術員だけが扱うことになる。また、ソフトウェアにおいては、新バージョンの更新などの統一的な管理に労力がかるといった課題があった。
 
そこで、3次元データを取り扱うに当たり、高性能サーバー上に仮想PCを配置し、標準PCからマウスとキーボードによって遠隔操作する「VDI(Virtual Desktop Infrastructure:仮想デスクトップ環境)」を採用することで、標準PCからでも3次元データを取り扱う作業環境を実現した。VDIは、操作端末にデータを残さないなどのセキュリティ面で金融業等での利活用が進んでいたが、技術の進展により、GPUを搭載したVDIが構築でき、各種3次元データを取り扱うことができるようになった。
 

写真-1 標準PCからVDIへの接続


 

図-1 VDI環境イメージ




 

働き方改革を支えるVDI

VDIシステムの導入に当たっては、運用面で支援するシステム部門の負荷低減も考慮し、建築のBIM推進部門とも協調し、同じシステムを導入した。現在、当社では土木部門にVDIサーバー2機を設置し、建築部門と合わせて、10機のVDIサーバーが稼働中である。サーバー1機には最大16台の仮想マシンが稼働する。
 
このVDI上で高いマシンスペックを必要とする各種3 次元データを扱えるようにVDI上で使用できる3次元CADなどのソフトウェアの整備を進めた。3次元CADなどのソフトは、容量が大きく、毎年のバージョンアップにも時間がかかる。VDIであれば、マスター環境に一度インストールをすれば、その後は複数の仮想PCにクローンとして自動展開できる。ソフトウェアの更新においても業務効率化を図ることができている。
 
標準PCには、VDIへのアクセスソフトウェアも既にインストールされており、簡易な登録によってすぐにVDIを使用できる。土木部門では、2機のVDIサーバーに最大28人が同時接続できる環境としている。一方で、VDI利用登録人数は60人を越えており、長期的なコストを抑えつつ、ハイスペックのマシンを複数人で共有できる環境となっている。これは社員だけでなく、当社の標準PCを使用している派遣CADオペレーターでも利用することができ、作業所からでも3次元データを取り扱える環境をすぐに構築できる。
 
なおこのVDIは、標準PCがVPN(Virtual Private Network:公衆回線を使って構築する仮想のプライベート・ネットワーク)に接続されていれば、社外のネットワーク環境からでもアクセスが可能である。出張時や発注者への説明時においても軽量PCやタブレットからVPNを通じてVDIにアクセスし、簡便に3次元データを取り扱うことができる。当社は、2018年7月より働き方改革を推し進めるためテレワーク勤務を導入した。自宅だけでなく、全国100カ所超のサテライトオフィスにおいても業務が可能である。これらのテレワークにおいてもVDIを使用することができ、どこからでも3次元データを取り扱える環境となっている。2020年東京オリンピック開会式の2年前にあたる2018年7月24日のテレワークデイでは、派遣社員を含む当ICT推進グループ全員がテレワークを実施した。Skype for BusinessによるミーティングとVDIにより、出社しての業務と同様の対応ができることを確認した。VDIの導入は、単に3次元データの取り扱いに対する効率的な環境整備だけでなく、働き方改革に対してもその効果を発揮している。
 

表-1 シニア層向け講習会カリキュラム


 

図-2 講習2日目の成果




 

3次元データを扱う人材育成

前述のように環境を整えるとともに、人材育成についても重要な課題である。
 
3次元データは、直感的に理解ができ、施工状況などを容易にイメージできる効果がある。CIMガイドライン(共通編)においても、CIMの効果としては、理解が進むことによる合意形成の迅速化やフロントローディングが挙げられている。施工段階のフロントローディングは、構造物を3次元化することで、従来行っている2次元での施工検討では分かりづらかった構造物の取り合いなどの検討を前倒しで進め、施工計画の高度化を図ることが期待されている。また、経験の少ない社員や、施主、協力業者との意思の共有を図ることができる。このように、3次元データの効果は社内でも享受できているものの、3次元データの作成において障壁があった。これは、BIM/CIMの適用における業界全体としての課題としても挙げられている。
 
ICT活用工事やBIM/CIMの3次元モデルの活用によって、3次元データを現場技術員が取り扱う機会が増えている。施工管理に多忙な技術員に対して、いかに3次元データに慣れてもらうかが課題であると考えた。
 
そこで、当社ではAutoCADによる3次元データの作成と比較して直感的に操作ができ3次元化することができるソフトウェアであるSketchUpProの導入・普及を現場技術員に進めている。
 
SketchUp Proは、直線の集合体により形成されており厳密な曲線を示すことができないが、精度はミリ単位でモデリングすることができ、簡便に3次元モデルを作成することができる。前述のような施工段階における合意形成の迅速化などのBIM/CIMの効果を得るためには、簡易的なモデリングソフトであるSketchUp Proでも十分機能する。そこで、3次元モデルへの心理的障壁を緩和し普及を図るため、SketchUp Proの教育を進めている。環境としては、全社的にソフトのネットワークライセンスを導入し、アプリケーションセンターから標準インストールできる。さらに、操作の習熟のために、理解しやすい当社独自の土木技術員向けのマニュアルを整備し、講習会を実施している。講習会は、本社・支店だけでなく現場でも受講可能としている。これまでに講習を受講した社員は、200人以上となっており、社内での3次元データの活用を図っている。
 
 
 

ダイバーシティに向けて

また、2018年度より当社独自の取り組みとして60歳以上のシニア層社員に対するSketchUpの講習受講を原則化した。前述のように施工段階において3次元モデルを活用することは、実施工で発生するリスクを早期に把握し、対策の立案ができるフロントローディングが可能となる。一方で、3次元データを作成する人材に施工リスクを把握できる能力がなければ、その効果を享受することは難しい。土木施工の経験が浅い若手社員やCADオペレーターにとっては、リスクへの気付きが疎かになることもある。
 
一方、シニア層のベテラン社員は、土木工事特有の知見や施工経験を有している。当然ながら、2次元図面の読解能力に長けており、頭の中に3次元を描くことができている。しかし、その描いた3次元をアウトプットとして表現するスキルがないだけのことである。表現スキルを身につけると、ベテラン社員はすぐに正しい3次元モデルを描くことができる。さらに、これまでのその多様な経験を生かし、モデリングのプロセスにおいて施工状況をイメージすることで、その段階で施工上のリスクを発見できることもある。そうしたことは、施工に当たっての大きなフロントローディングとなる。問題点の早期抽出により、施工計画・施工管理のマネジメントに寄与できるメリットがある。また、技術の伝承においても若手社員への教育時の3次元モデルの利用によって効果が見込まれる。シニア層社員へのSketchUp講習会は、新たなキャリアアップによりダイバーシティにも寄与している。
 

写真-2 講習会状況


 

図-3 講習3日目の成果




 

3次元データから定量的効果を得る

i-Constructionに基づくICT施工は、多くの工種に拡大され、それぞれで3次元データの活用は進んでいるものの、都市土木のような複雑かつ輻輳する構造物を対象とする工事では、まだまだその効果を生かしきれていないと考えられる。都市土木においては、BIM/CIMモデルを用いた説明の分かりやすさによって、関係者間の理解力の向上など“定性的”な効果は十分に得ている。しかし、次のステップとして3次元モデルを施工に直結させて生産性を向上させる“定量的”な効果を得ることを掲げなければならない。つまり、施工計画検討に用いたモデルを加工することなく、そのまま現場施工に使うことが必要となってくる。
 

写真-3 狭隘箇所で施工する都市土木工事




 

都市土木のi-Constructionへ

そこで、まずは施工ポイントの位置出し確認のため、BIM/CIMモデルを用いて、オートデスクの『Poi ntLayout』『BIM 360 Glue』、トプコンの『レイアウトナビゲーター LN-100(杭ナビ)』が連携した『施工CIM』パッケージを導入した。現場の座標を設定したBIM/CIMモデルをクラウド経由でタブレット端末に表示して見える化し、測量器機とそのまま連携することができる。前述のSketchUpProのデータもNavisworks Manageを介したデータによって、連携が可能となる。
 
適用した当該工事は、都市土木の再開発工事における構造物の撤去工事であり、付帯工としての地盤改良工(薬液注入)があった。地盤改良工においては、残置する埋設管やマンホール室などの構造物に対して影響を及ぼさないよう留意する必要がある。通常、埋設物は台帳などで管理されているが、示されている土被りの数値と実際の埋設位置が異なることや、一部の断面しか図面がなくて形状が分からない場合がある。そのため、今回はマンホール室を3次元レーザー測量し、設計のBIM/CIMモデルと統合して地下の施工範囲を表した。3次元モデルは、2次元図面で表現できないところを分かりやすく表現できる一方で効果としては定性的な面が強い。この効果を定量的にするため、3次元モデルをそのまま測量に活用した。
 
現場では、地盤改良工事に伴う地下構造物の干渉などを3次元モデルで確認するとともに、杭ナビと3次元モデルを連携させた。基準点から杭ナビを後方交会してセットした後、器械と同期したタブレット端末の画面に映した3次元モデルのポイントをタッチすることで、3次元空間上の薬液注入の施工ポイントに誘導した。
 
垂直方向だけでなく、埋設物の下部に斜めに薬液を注入する箇所もあった。メリットとしては、数値ではなく3次元モデルから直感的に計測できるため、座標値の読み間違いのミスも低減し測量の効率化につながることも確認できた。都市土木は、夜間工事などの規制が多く、施工ポイントのマーキングだけでも時間制約がある。いかに効率よく作業を進めるかが重要になる。
 

本取り組みでは、3次元データの直接的な活用により、通常、2人がかりの作業を1人に省力化することが可能となった。都市土木においてもi-Constructionに基づいたBIM/CIMの定量的活用を積極的に進めたいと考えている。
 

写真-4
ポイントをタッチするだけで3D誘導




 

おわりに

当社は、2012年のCIMのスタート時から、3次元データの利活用を進めてきた。近年では、3次元データの取り扱いを必須とされる工事も増加しており、ますます3次元データを活用する機会は増加していくと考えられる。今後に向けて、社内全体でのリテラシーの向上、さらに3次元データを扱うための体制の整備を継続して推進していく必要がある。
 
現状としては、3次元データを活用するためのハードウェア・ソフトウェアといった設備については、一通りの整備が完了している。そのうえで、3次元データを日常的に扱える人材を教育によって増やしていく必要がある。
 
現在、PCやCAD図面を当たり前に使えているように、若い社員だけでなく、全世代の建設に関わる人々が、3次元データを当たり前に取り扱えるようになることが求められる。3次元データの利活用によって生産性が向上し、楽しい建設業になる未来が待っている。あとはそれに向かってどうやって成長をしていくか?と考えるだけである。
 
 
 


東急建設株式会社 土木事業本部 事業統括部 ICT推進グループ グループリーダー 小島 文寛

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2019
特集1「i-Construction×BIM/CIM」



 



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