2018年8月3日
Information-BIMへの取り組みBIMには「3D」と「情報=Information」の二つの側面がある。二つの側面を設計フローに即して捉えると、「3D」の側面は、設計が進むにつれて進化していく「形状」のフローであり、「Information」の側面は、設計の初期段階で行われる「性能」に関わるフローといえる(図-1)。日本ではBIMの「3D」の側面が主である。BIMの「Information」の側面について言及されたとしても、主に形態の寸法や仕上げ情報に留まっている。 BIMの本質は、建物の「データベース」化にある。「BIM」の持つ「データベース」すなわち「情報」の側面が、Information-BIMである。日本では、BIM「情報」活用がなかなか進んでいなかったが、その理由の一つには、意匠・構造・設備がそれぞれ別のソフトを使うところにあると思われた。異ソフト間での連携については、年々改善されており、「形状」に関してはかなり連携が改善されてきているものの、「情報」に関しての連携はまだ十分ではない。日本設計では、意匠・構造・設備が全て同一のBIMソフト「Autodesk Revit(以下、Revit)」を使う。そのため、セクション間での連携の問題が最初からない。後述するように、例えば、建築の面積や窓面積やその仕様、荷重条件、空調条件といった情報が、セクション間でスムーズに共有できる。このことが、日本設計において、Information-BIMの活用が大きく進むことにつながっている。 Integrated-BIMの推進意匠・構造・設備の共通プラットフォーム「Revit」を中心にして、さまざまなツールがダイレクトに連携する。これが、日本設計の考える「Integrated-BIM」の骨格となる。特筆すべきは2点、「アルゴリズム設計」と「ダイレクト連携」である。具体事例は後ほど紹介するが、セクション間を横断するアルゴリズム設計は、共通プラットフォームである「Revit」とアドインソフトであるビジュアルプログラミング「Autodesk Dynamo(以下、Dynamo)」があってはじめて可能になる。また、環境シミュレーションの「ダイレクト連携」は、環境設計を重視し、取り組んできた日本設計の設計思想に非常にマッチしている。「Rhinoceros+Grasshopper+ 環境シミレーション」の可能性も、日本設計が開発した「Rhinoceros-Revit」のダイレクト連携ツール「ant sat」があることでさらに拡がる。日本設計の構造解析ソフトとBIMをつなぐ、「NASCA-Revit」の連携、Dynamoを使った情報連携も効果を発揮している。今後も日本設計は「Integrated-BIM」を進化させていく(図-1)。 Connection-BIMに向けてBIMは、設計から、施工、さらには維持管理段階における建物「データベース」となる。だからこそ日本設計では、BIMを単なるツールではなく「ワークフロー」そのものとして捉えている。そして上述のとおり、「Revit」は設計の共通プラットフォームである。 BIMの「情報」を設備設計に生かすここからは、「設備BIM」の具体例を紹介する。これまで、日本の設備BIMは、納まり検討や干渉チェックなどでの利用に偏り、建築計画が固まった後の実施設計後半や施工段階での活用に留まってきた。 アルゴリズム設計によるルーティン自動化ビジュアル・プログラミングでアルゴリズム設計を実現する「Dynamo」を活用した、設備設計の自動化にも取り組んでいる。例えば、スペース情報を集計し、機器の合計容量を自動的に計算して結果を戻すという一連の作業や、機器プロットまでモデル化した後は、「情報」活用により、負荷計算結果の数値を元に、機器を自動選定したり大きさを変えるといった自動化を可能にしている。今まで、時間と労力を費やしていたルーティンワークの自動化により、さらに深度化した検討が可能になる(図-4、5)。 スペースと部材情報を活用した設備の自動積算BIMモデルから、BIMソフトのデフォルト機能を用いた数量算出は可能であるが、積算基準と異なる集計になるため、そのまま積算に活用できない。 設備設計でのBIMワークフローBIMを設計フローに取り入れる際に重要なことは、BIM作業を追加業務にするのではなく、今までの業務を、BIMで置き替えていくことだと考えている(図-7)。 ただし全てをBIMに置き替えるのではなく、汎用ソフトやExcelシートなどの便利なものは残しつつ、それらをBIMと情報連携させ、BIMを情報の中心に据えることが最も有効である。 日本設計では、各セクションの情報をロスなく共有できるRevitを中心に据えて情報の体系化を行い、全ての情報をRevitにつなげることで、今までバラバラだった情報を一元的に管理可能にしている。これにより、設計の過程でしか利用されていなかった貴重な情報を、「3D」利用に限られていた施工段階や、さらには運用段階へ引き継ぐことを見据えている。 なお、Revit(MEP)は設備の「性能」を決定する段階で活用し、最終的なアウトプット(実施設計図)は「Autodesk AutoCAD(以下、AutoCAD)」や、Revitとのダイレクト連携を開発したRebroを併用している。建築同様、アウトプットの実践的工夫により、実用化を図っている。 NASCAと構造BIMモデル次に「構造設計BIM」について概説しておきたい。日本設計では、構造解析プログラムは、自社開発の一貫構造計算プログラムNASCAを使用し、BIMソフトはRevitを使用している。それらを利用して、効果的にBIM活用を行うために、NASCAの構造データからRevitへのデータ変換を行うプログラムを開発し、現在運用中である(図-8)。 BIMモデルの使用現在、NASCAからのデータ変換によって作成された構造のBIMモデルは、①建築・設備などの他セクションのBIMデータとの干渉チェック(図-9)、②構造図(伏図、軸組図)の作成などで活用している。このBIMモデルから作成された構造図は、相互の図面間で整合性が確保されるため、図面の確認作業が軽減されている。 構造図作成の自動化Revitを用いて自社の製図基準に適合した構造図を作成するためには、多くの手間がかかる。そして、その作業の一部は単純作業の繰り返しであり、かつ、どの案件に対しても共通である。今後BIMによる設計を継続的に行っていく上で、このような作業を自動化することは非常に効果的であり、構造図の品質向上および作業効率の向上につながる。そこで、NASCAからRevitへの変換時に自社仕様の伏図・軸組図の自動生成も同時に行うようにさらなる開発も完了している(図-8、9)。 二次部材の設計小梁などの二次部材の設計においては、ビジュアルプログラミングツールであるDynamoを用いてRevitとExcelを連携させる仕組みを構築した。それにより、計算に必要となるRevit内の情報の抽出、Excelへの自動入力、そして計算結果に基づき修正された結果の反映を一連の流れで行うことを可能とした。以前と比較してExcelへのデータ入力や計算結果に基づく図面修正の作業時間を大幅に短縮することが可能になった。 情報の整理と共有部門間の調整においては、さまざまな構造情報の中から各部門(意匠・設備など)の設計者が必要とする情報を整理した検討図(伏図・軸組図・断面リストなどとは異なる資料)が必要となる。これまで、検討図の作成は主に構造設計者が手作業で行っていたため、部門間の調整事項に変更が生じた場合、検討図の再作成作業が大きな負担となっていた(図-10-a)。そこでDynamoを活用して必要となる情報をRevitデータから抽出・視覚化することで、検討図作成の支援を行うツールを開発した。それにより、検討図作成の負荷が大幅に削減された(図-10-b)。また、このツールにより部門間の情報連携がより強固となり、設計全体の高品質化にもつながっている。 Information-BIMとBIMFM連携の可能性Connection-BIMについても、具体例に触れておきたい。海外では、BIMは設計や施工のための効率化ツールというよりは、FMでの活用にこそ価値があると認知されつつある。だが、日本での活用例は非常に少ない。 そして、その活用を汎用化するため、FM段階では、直接BIMを扱うのはハードルが高いため、クラウド・プラットフォームである「Forge」を活用することを提案している。既存のさまざまなFMシステムの利点を生かしたまま、「Forge」を介したBIM¬FM連携こそ、付加価値を高めていく現実的なアプローチである。FMサービス会社「プロパティデータバンク」との連携も進めているところである(図-12)。 現在、「Forge」の活用開発も進み、運用段階へつなぐ環境が整い、ライフサイクルでのBIM活用が具体化している。実プロジェクトでの活用も、今後急速に増えていくものと予想される。 さらにこの先へは、AI、IoTの活用が間違いなく進み、AIの「判断」には、「定量化」が当然の前提となる。そして、AIの「経験」には、IoT による「情報」の一元的蓄積を必要とする。さらに、この「情報」に、単体のBIMデータベース情報だけではなく、クラウド・プラットフォームに並置されたさまざまな情報、それは複数のIntegrated-BIMの並置であったり、都市的環境情報であったり、事業採算予測情報であったりするわけだが、さまざまな情報が加わることにより、「判断」は都市レベルに、経済レベルにも適用されることとなる。それは部分最適化からより広い視点での全体最適化へつながる道である(図-13)。 株式会社 日本設計 プロジェクト管理部 BIM室
岩村 雅人/吉原 和正/田畑 健 建設ITガイド 2018 特集1「i-Construction×CIM」 |
2018年8月1日
はじめに平成24年度から国土交通省によるCIMの導入が開始されて6年目となり、CIMの概念自体は、建設業界全体に広くに普及したのではないだろうか。 当社のCIM推進組織の経緯当社においては、図-1に示すように、平成27年度まで、社内委員会制による「CIM研究会(準備会)」が設置されていたものの、具体的活動を行う部署を組織するための準備活動としての情報収集・整理を主としており、年間目標・工程を有する具体的活動を開始したのは、平成28年度に組織された「CIM推進研究会」の発足からであった。 当社のCIM推進への取り組み姿勢本来CIMは、3次元モデルを用いた事業全体での一連の建設システムの効率化、高度化を図るものであり、建設コンサルタントにとっては、計画・設計フェーズでのフロントローディングを担うことになるため、負荷の増加と捉えられがちではないだろうか。 CIM推進方針平成29年度は、「CIM導入ガイドライン(案)」が公開され、さらにCIM導入の動きが活発化するものと想定していたが、調査-設計-施工-維持管理に一貫して活用できるモデルの導入には、まだ解決すべき課題が多いようであり、その解決には、もう少し時間が掛かりそうな印象である。 CIM推進活動社内のCIM推進を図っていくためのCIM推進施策の具体的活動として、「CIM実施環境の整備」、「CIM技術の普及」、および「CIM技術の実践」が重要と考え、CIM推進活動の初年度は、主に以下の活動を実施することとした。 ソフトウェアの選定CIMに関連するソフトウェアは、その目的に応じて多岐にわたり、その選定は、CIM推進活動におけるポイントの一つになると考えられる。 CIM推進環境の整備CIM推進を円滑に進めていくためには、CIMソフトの動作環境の整備が必要である。このため、ハード・ソフト両面での環境整備を行うこととした。 CIM講習会の実施CIM技術を社内に普及するためのCIM講習会は、「CIM概念に関する知識を得るための講習」と「CIMソフトを利用するためのハンズオン講習」を行った。特にハンズオン講習については、AutoCAD系とV-nas系について、それぞれ2回実施し、延べ56名が受講することができた。これは、当社の技術系職員の約8%に相当し、初年度としては十分な成果と考えている。 CIM推進プロジェクト新しい技術を獲得するためには、実践が最も効果的であることは、CIMにおいても同様である。当社では、CIM技術を実業務において試行的に導入する「CIM推進プロジェクト」を実施することとし、初年度は、図-5に示す4件のプロジェクトを実施した。 CIM活用の有効性検討段階におけるCIM導入が、現時点で最も効果的となるのは、土工計画であろう。CIM推進プロジェクトを実施する過程で、土工計画においてCIMを活用した3次元的検討を行ってみた。 一方で、図-10に示すような複雑な形状を有する砂防堰堤堆砂量の検討を行ったところ、現時点の技術では、従来の2次元的検討と比較して、あまり効率的に実施することができなかった。 このように、同じ土工計画においても、CIMの活用が検討の効率化につながる場合とそうでない場合があり、試行の結果を踏まえて、CIM活用の対象を取捨選択していくことが、CIMの効率的活用の一つの方法ではないだろうか。 今後の取り組み昨年度一年間の上記の取り組みにより、当社内におけるCIM推進を図ることができたと考えており、同様の活動を継続していくことにより、当社全体のCIM推進を進めていくことを基本的方針と考えている。 3次元計測技術の開発UAVによる測量は、急速に普及が進んでいるが、当社でも現在、UAVを用いたレーザー測量の導入を計画しており、植生等の阻害物がある場合にも、広域な地表面情報の効率的な取得が可能な技術の開発に取り組んでいる。 災害対応への活用このような3次元的計測技術とモデリング技術の活用は、災害対応に非常に有効と考えられ、当社では、CIM技術を活用して、計測・調査から解析・計画・設計・モニタリングまでをワンストップサービスで解決できる生産体制の確立を急いでいるところである。 おわりに昨年度一年間のCIM推進活動を踏まえ、社員意識のアンケート調査(図-15)を行ったところ、社員の90%近くがCIM導入効果を感じており、社員の65%が自らの業務に活用したいと考えていることがわかった。 また、昨年度4件であったCIM推進プロジェクトは、今年度は公募の結果13件に増やして実施中である。 このように、当社のCIM推進の取り組みにより、社員のCIM推進意識は、徐々に高まりつつある。 今後も、できるだけ多くの技術者が、多様な分野で活用できるCIM利用方法を模索し、われわれの業務プロセス全体の品質向上・生産性向上につながるようなCIM推進に取り組んでいく予定である。 株式会社 エイト日本技術開発 技術本部 CIM推進室 室長 田中 栄吾
建設ITガイド 2018 特集1「i-Construction×CIM」 |
2018年7月31日
BIM普及に伴う新しい役割BIMの普及に伴い、設計業務に新しい役割りが必要とされている。「BIMマネージャー」「BIMファシリテーター」「BIMオペレーター」等の肩書きを持つ人材が、チームの一員として設計業務に参入するようになった。現段階ではそれら新しい役割の呼称は統一されておらず、各社各様に扱われているものの、呼称が何であれ、重要なのは、それらの人材が担う業務内容をチームが理解していることである。彼らあるいは彼女らが担うのは、チーム全体のデジタル・スキルを底上げするだけではカバーできない、プロジェクトの重要な側面である。 プロジェクト開始時の役割1.施主の要求を理解する 施主の要求が現実的ではないと思われる場合には、BIM coordinatorから代替案を提示することも視野に入れながら施主へのサポートを行う。そうすることで双方の混乱を防ぐことができ、活用される可能性が低い成果品のために作業のハードルを不要に上げてしまうこともなくなる。BIMへの取組みが日本国内では自発的なものである以上、施主の意図と立ち位置を理解した上でBIM成果品の内容を調整する余地、あるいは行き違いを修正する余地は必ずあると思っている。 2.BIM実行計画を作成する 成果品を調整した後、BIM coordinatorが担当するのが「BIM実行計画(BEP:BIM Execution Plan)」の作成だ。BIM実行計画は、施主要望に対する設計チームからの返答である。成果品の内容、コーディネーションミーティングの頻度、情報共有の方法等を、設計チームがどのように実現するのかを示すことが目的だ。設計チームを選定する際に発行するものと、契約後に発行するものの2種類があるが、後者は、チーム編成や業務のマイルストーンをより具体的に示して前者の精度を上げたものと考えて問題ない。 BIM実行計画は本来、チーム全体のBIMプロセスの方向性を定めるためのものである。意匠、構造、設備、ファサード等、分野別に作成するものではない。従って、BIM coordinatorは各専門分野の設計業務からは独立していることが望ましい。自身が担当する図面やモデルを作成しながら、他チームの進行状況を把握し、集めたモデルの干渉チェックをレポートにまとめることは、主要な図面提出直前になるほど難しくなる。英国では、各専門分野のプロダクションに携わる人を「BI Mauthor(BIM作成者)」と呼んで「BIM coordinator」と区別することが通常であり、BIM実行計画にもその点を明記する。 BIM実行計画の中で筆者が最重要視しているのは、モデルの活用目的を示す箇所だ。モデルは、「この目的のために使用してほしい」という作成者の積極的な意図を前提として参照するものであって、百科辞典のように完成度が高いモデルを目指すことは現実的ではない。設計チームが図面作成の目的で作った3Dモデルを、施主が積算やファシリティー・マネジメントに利用するつもりだったというような行き違いを防ぐためにも、モデルの活用目的については、早い段階で施主と設計チームの合意を取る必要がある。 3.共有データ環境を管理する 次に担当するのは「共有データ環境(CDE:Common Data Environment)」の構築と管理だ。共有データ環境とは、プロジェクト進行中にやり取りする情報を一元管理するクラウド環境のことだ。組織を限定せず、施主、設計者、施工者、コンサルタント等、多様なプロジェクト参加者間で利用する。この共有データ環境の構築と管理が、BIM coordinatorにとって一番肝心な仕事だと思う。なぜなら、施主がBIMデータを要求しない場合や、設計チームがBIM実行計画を正式には発行しない場合でも、プロジェクトチームが情報共有をする限り、共有データ環境は必要なはずだからだ(図-2)。 BIM coordinatorとして優先すべきは、必要なデータを個別に送り合う状況の打開だ。ドキュメントマネジメントに特化したプラットフォームサービスの種類は多岐にわたり、建築業界で利用されているものだけでもAconex、Asite、Autodesk BIM360、 Bentley ProjectWise、Flux、Panzura、Sharefile、SharePoint、Viewpoint4Projects(アルファベット順 2017年1月)等が挙げられる。最終的にはデータを施主に提出することを考えると、具体的なプラットフォームは施主が指定することが望ましいが、指定がない場合にはBIM coordinatorから提案する。また、これらのサービスに準ずる機能がなくとも、GoogleDrive、Dropbox、OneDrive等のファイルシェアサービスを利用することで、データを個別に送り合うことは防げる。そもそも個々のファイルを別送パスワードで守るよりも、データをやりとりする環境全体にセキュリティをかける方が効率的である。 BIMとは一見、手の込んだ3Dモデルのことを指しているようだが、モデルはあくまでプロジェクトに関係するデータの一部である。BIMcoordinatorが担当するのは、モデルを含むデータ環境全体のマネジメントだ。モデルに必要な情報を詰め込むのではなく、モデルも、適切なバージョン管理を行った上でその他のドキュメントと同様に共有データ環境に保存し、参照されて初めて有益なものとなる。 4.モデルの詳細度を設定する モデルの詳細度とは、成果品として提出するモデルに含まれるデータ量の目安である。専門分野別に設定はするものの、設計チーム全体で合意し、作業計画を立てる前提にする。モデルの詳細度は「LOD:Level of Detail/Development」と呼ばれ、LOD100~ 500 の指標で表されており、数字が大きいほどモデル内の要素数が増え、データ量も多くなる。 モデルの詳細度に関する仕様書としては、BIMフォーラム(builingSMART インターナショナル)による仕様書と、AIA(米国建築家協会)による仕様書の2種が、国内外で広く参照されている。ただし、それらの仕様書が、より詳細に各専門分野の対象要素の種類を定めているわけではない。例えば、設備系の配管に注目すると、給水配管、雑用水配管、給湯配管、排水管、雑排水管など、複数の要素が存在し、それらをいつの提出までに(基本設計終了時、あるいは実施設計終了時)どの程度(立て管のみ表す、あるいは横引き管も表す)作成するのかについては比較的自由に決められる。BIM coordinatorは各分野の設計者と共働し、プロジェクトに応じてその目安をコントロールする。具体的には、「BIM実行計画」あるいは「BIMスタンダード」という実務用文書の中に(図-3)に類する表を示し、各チームの作業を進めるマイルストーンとして共有する。 フェーズによって本来の利用目的が異なるBIMモデルを、フェーズを超えて引き継ぐためには多くの課題がある。モデル内の要素数やデータ量を増やすだけでは、モデルを、設計BIMモデル → 施工BIMモデル → 運用管理BIMモデル、と進化させていくことは難しい。実際のところは、設計BIMモデルに含まれるデータの一部なら施工BIMモデルにも利用できるという程度ではないだろうか。専門分野間、組織間、フェーズ間で共有されるモデルは、現段階ではシンプルなものであることを踏まえて、BIM coordinatorはモデルの詳細度を設定する必要がある。 プロジェクト進行中の役割本章では、プロジェクトが順調にスタートした後、BIM coordinatorが設計業務とどのように関わるかを紹介する。主に担当するのは、1)定期的に専門分野のモデルを統合する、2)干渉チェック(図-4)、3)コーディネーションレポートの作成、4)アニメーションやVR環境の作成、の4つである。どの場合にも共通するのは、施主と設計者がコミュニケーションの手段としてBIMモデルを利用しやすいように、モデル内の情報を展開することだ。 統合モデルには情報が多い。特定のソフトウェアを使用して図面やモデルを作成する人材は増えてきたものの、それらBIMオペレーターは各分野専任であるため、プロジェクト進行中に本人の専門分野以外のモデルの更新内容に随時気を配ることは難しい。だからこそ、統合BIMモデルから汎用性のあるデータを取り出す、あるいはソフトウェアの初心者にとっても参照しやすいコンテンツを作成してチーム全体と共有するのは、BIM coordinatorの業務だと筆者は考えている。 例えば、コーディネーションミーティングで使用したモデルを、その時のキャプチャや解決に至った経緯とともに共有データ環境内に保存する。または、発行図面と対応する統合モデルのバージョン管理を徹底するといったことによって、BIMデータはより多くの人にとって扱いやすくなる。このように、統合モデルそのものにアクセスしなくても各設計担当者が必要な情報を得られる環境を整えた上で、干渉チェックやコーディネーションレポートをチームに展開することが望ましい。 プロジェクト終了後の役割プロジェクトで得た経験を、後続するプロジェクトに生かすためのフィードバックの時間を設けることも、BIMcoordinator の業務に含まれる。アラップでは半年に一度、その期間内に進展があった設計プロジェクトに対して、世界中の全事務所で「BIMMaturity Measure(BIM成熟度評価)」(図- 5)の提出を必須としている。 専門分野別に、BIMに関する複数の項目に対して5 段階評価を行ったものを集積し、プロジェクト全体のBIM成熟度(%)を測定する形式だ。ここで評価の対象となるのは、いかにモデルや共有データ環境を介して「設計プロセス」を円滑にコントロールしたかであり、3Dモデルの情報量や完成度が問われているわけではない。 例えばプロジェクトのBIM実行計画(BEP)に関する項目は次のように評価する。評価1)BEPなし→ 2)アラップ社内用BEPあり→ 3)設計チーム全体用BEPあり→ 4)施主要望に対応するBEPあり→ 5)契約文書にBEPを含む。このような評価をプロジェクトに関わる各専門分野から集積し、プロジェクト全体におけるBIMマネジメントのさまざまな側面を定量化することで、より具体的な目標を立てやすくなる。プロジェクト単位で得たデータは事務所単位で集計し、それを世界中の全事務所で集計して、アラップ全体のBIMマネジメント向上の指標としている。 BIM成熟度評価の項目には、プロジェクト専任のBIM coordinatorがいることが前提のものがある。「プロジェクト開始時のBIM coordinatorの役割」に示したように、施主要望を反映してBIM関連成果品の調整を行う、BIM実行計画を作成する、共有データ環境を管理する、モデルの詳細度を設定する等は、従来の設計チーム編成のままでは対応することが難しい項目である。各項目の理想的な姿(評価5)を意識することによって担当プロジェクトで挑戦すべき課題を明確にし、プロジェクト終了時には、上手く進められた点・反省点を含めた経験をフィードバックし、他プロジェクトに生かしていこうと思う。 まとめ以上、「BIM coordinator」の業務内容を、設計段階のBIMマネジメントに携わる筆者の経験をもとに紹介した。BIMデータを作成するための環境は、参加者たちがそこで本来の創造性を自在に発揮するためにこそ設けるものである。そのようなコラボレーションの環境を整える場面では、専任のBIM coordinatorが重要な役割を担う。プロジェクト関係者のデジタル・スキルを考慮して情報の流れを整理し、共有データ環境にアクセスするための手続きが煩雑にならないよう管理する。多様なソフトウェアを扱う人材の育成に携わりながら、そうでないメンバーにも随時情報を展開する。このようなBIM coordinatorがチームにいることで、プロジェクト関係者はより自由にBIM環境に参加できるようになるのではないだろうか。本記事が、若手の育成を急ぐプロジェクトリーダー、手探りでBIM成果品の内容を定めている施主側の担当者、BIM推進リーダーに任命された方、その他、BIM coordinatorを目指す若手の参考になれば幸いである。 Arup BIM/CADテクニシャン 平島 ゆきえ
建設ITガイド 2018 特集2「BIM」 |
2018年7月27日
CIMを活用して現場の困ったを解決一般社団法人 CIM解決研究会は、CIM・i-Construction・ICT工事とは何をどうやったらいいのか、現場でCIMを活用して時間削減、工期短縮、コスト削減、生産性向上などの観点から何かいいヒント・アイデアはないかなど、「現場の困った!」をCIMで解決できるように勉強・研究する会として設立しました。会員同士で解決していきながら技術向上を図る目的で偶然にも平成27 年4月6日「シム」の日に設立しました。 この設立同期に賛同した元建設省大臣官房審議官の天本俊正氏や緒方正剛氏を参事として迎え入れ、会員の顔ぶれは12月現在、法人正会員27社、個人正会員19名で構成され、土木建設会社、測量設計コンサルタント会社、建機レンタル会社などの土木分野に限らず、UAVパイロットを育成する企業、ソフトベンダーやIoT(Internetof Things)関連会社なども参加しており、会員同士のタイアップ、コラボレーションも実現しています。 国土交通省では、i-Constructionのトップランナー施策である「ICTの全面的な活用」の推進に関連して、3次元モデルを活用し社会資本の整備、管理の効率化・高度化を図るCIMを、土工、トンネル、橋梁、ダム等へ本格導入するための動きがさらに活発化してきています。この取り組みは、「計画測量調査設計」から「施工」そして「維持管理」と建設生産システム全体の生産性向上を図る目的があるため、それぞれのフェーズでのネットワーク構築、連携、情報共有が重要となるためCIM解決研究会はまさに、CIM・i-Construction・ICTを解決する「ハブ」の役割を担っています。 毎月の勉強会で相互に意見交換研究会は設立以来毎月欠かさず勉強会を開催し、平成29 年12月で第32回を数えます。各分野からランダムに毎回2 名ほどの講師を招いて、CIM・i-Construction・ICT等の取り組みや事例、ソフトウェアの活用提案を講演していただき、各会員は情報収集や活発な意見交換の場となり、毎回大盛況で行われています。注目すべき点は、ただ発表を聞く場所としての一方通行ではなく、その場で参加した会員が「こんなことできないか?」「ここをこうしたい!」「ここが分からない」の困った!をそれぞれのプロが集まっているためその場で解決できるコミュニケーションの場ということです。毎回集まった参加者が何か一つでも役に立つヒントを持ち帰ってもらうため、講師、講演内容のバランスも工夫しています。また毎回事務局発表として、現場の3次元化事例や、i-Construction・ICT活用工事の事例等を現場目線で発表しており、実際現場で困っていることや課題、解決したいことを参加者に問いかけています。どうしても高額なソフトウェアに圧倒されがちですが、「身近な無償ツール、ソフトウェアでもここまでできる」事例紹介や、3次元データの利活用事例、アイデアを発表しています。情報通信系の企業で構成されるIoT分会ではセンサー技術や情報通信技術を研究、ICT建設系の企業で構成される技術部会では、UAV写真測量や点群処理のノウハウや、新技術の情報交換、相互協力で強力なネットワークを構築しています。 i-Con対応の技術習得を支援平成29年7月にはi-Constructionを一気通貫で学び技術習得できる環境を構築したいということで、UAV事業パイロット養成センター埼玉を展開する株式会社Taskと建機レンタル大手の株式会社アクティオ、測量会社の株式会社マナブ測建、建設会社のユタカ工業株式会社などと連携し、i-Construction専用の講座フィールドを開設しました。UAVの基礎知識はもちろん、写真測量の撮影計画、実習から写真解析処理、3次元データ作成、ICT建機の3次元データ活用まで一気通貫で体験習得できます。I-Construction対応を目指す中小建設関連企業の“駆け込み寺”として、さらなる充実した講座環境を目指しています。また、会員企業と連携、タイアップして出前講座も行っており、企業の研修・勉強会、現場見学会でのUAVデモフライトや実機体験フライトやICT活用講座も行っています。 仲間と共に生産性向上を「生産性向上」とは何か。CIM・i-Constructionの取り組みである「生産性向上」を実現、実感するためには企業連携が不可欠であり、一層の連携強化を推進する必要があります。 一般社団法人 CIM解決研究会
建設ITガイド 2018 特集1「i-Construction×CIM」 |
2018年7月26日
i-ConsrtuctionとCIM時代の始まりにどう考えていくのか2017年3月に国土交通省より「CIM導入ガイドライン・CIMの運用に関する基準」として「CIM導入ガイドライン」と「CIM事業における成果品作成の手引き」が発表され、本格的にCIMの取り組みが開始された。CIMはi-ConstructionにおけるICT施工のように適用箇所を指定する個別適用とは異なり、事業全体で3次元データを活用することでの生産性向上を目的としており、取り組む側が生産性と効率化の度合いや実現性を考えて進める必要がある。何をすべきかが分かりにくい点が、CIM実現の難しさを招いていると考えている。 CIM時代のソフトウェア活用についてCIMにおいてはデータの3次元化が目的のような話を聞くことが多いが、国土交通省の「CIMの拡大方針」からも分かるとおり、3次元化は一つの手段であり、目的は生産性2割向上である。単なる3次元化ではなくCIMモデルを活用してこれまでの作業を効率化することが本来行うべき取り組みである。 LANDXMLとIFCについて2017年3月に公開されたCIMの運用に関する基準において、CIMの納品フォーマットは以下の通り規定されている。 国際標準化のためのIFCの取り組み国際的なモデルの標準化を視野に入れた取り組みであり、bSJとJACICが「国際土木委員会」を共同で設置し、国際対応を開始していく(2017 年12月時点)。 CIMのためのIFCの取り組みCIMにおける各工程間のモデル交換の定義として2017年3月に「土木モデルビュー定義」を作成した。IFCの形状の交換のための決め事を記載したもので、bSJとOpen CIM Forumが共同で取り組んでいる。 2018年度に向けたOpen CIM Forumの取り組み2017年3月に国土交通省より発表された「CIM導入ガイドライン」では、IFCのモデル交換において属性情報は外部参照ということになっている。オリジナルにおいては属性を直接付与してもよいことになっているが、IFCの納品が必要になることを考えた場合、現実的には属性情報は外部参照を利用した関連付けということになると考える。 土木モデルビュー定義の属性情報の直接付与が実現すること2018 年度は地質・地盤モデルや3DAモデル(3Dアノテーションモデル)、積算モデルの取り組みが行われることは先述したとおりであるが、このような情報を各工程間で交換していくには、ソフトウェア側では3D形状と属性情報がひも付いた情報をして、エクスポート・インポートできる必要があるが、上記の対応により基礎部分の対応は準備できたと考えている。また、CIMにおいて各段階で追加された情報も次の工程に引き継がれることになる。 3次元モデルの活用
3次元モデルと新技術の活用では、構造物(側溝)の3次元設計を行い、AR対応ヘッドマウントディスプレイ(HoloLens)用のデータとして活用。丁張レスで側溝の据付を行うなども進んでいる。 このように3次元の取り組みはCIMと分けて柔軟に取り組む必要がある。 今回はCIM時代のソフトウェアの活用をテーマとして、関連する企業はどのように準備していくかをソフトウェア側の視点から書いた。Open CIM Forumとしては2018年もCIMにおけるソフトウェアを利用した支援の取り組みを中心に活動していく。ホームページやCIMセミナーという場を通じて、皆さまに情報を薦めていくので是非ご参考にしていただければと考えている。 一般社団法人オープンCADフォーマット評議会 浅田 一央
建設ITガイド 2018 特集1「i-Construction×CIM」 |