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書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。

AutoCADの互換CAD複数の製品からベストの選択 現在、IJCAD 170ライセンスが稼働中。

2017年8月4日

 
奥村組では2014年以降、インテリジャパン製のDWG互換CAD「IJCAD」を導入している。作図ソフトの維持管理を検討する中、2次元CADはDWG互換CADを利用していくことが同社のコスト削減・業務効率化につながると判断。IJCADは当初10ライセンスでスタートし、2016年11月現在、約170ライセンスとなっている。
 

DWG互換CAD導入に足掛け3年の検討期間を要した。「ここまでの 道のりは決して平坦ではありませんでした」 (右:生産技術課長 吉原 宏和氏 左:課長代理 平井 崇氏)




 
 

施工BIMモデル (奥村組 九州支店)




 

施工CIMモデル (阪神電鉄 青木駅付近高架橋)ステップ




 
 

免震技術のパイオニア トンネル工事のフロントランナー

奥村組は「堅実経営」、「誠実施工」を社是に創業来(1907年創業)、関西はもとより日本の建築・土木を牽引、免震技術やトンネル施工技術に強みを持つ準大手ゼネコンである。建築では今ほど関心が高くなかった1980年代から免震技術の研究を開始し、日本初の実用免震ビルを設計・施工するなど『免震のパイオニア』として名高い。土木においては、得意とするトンネル工事の中でもシールド工事に強みを発揮、従来の2倍以上の施工速度を可能にした六角形の”ハニカムセグメント”を用いた施工法を開発するなどトンネル工事のフロントランナーとしての信頼は厚い。また、昨今では、建設業界において、建設現場における生産性を向上させ、魅力ある建設現場を目指す取り組み“i-Construction(アイ・コンストラクション)”が推し進められる中、同社では、現場におけるスマートデバイスの活用、CIM・BIMの導入加速などICT(情報通信技術)を積極的に活用して生産性向上につなげる取り組みにも力を入れている。同社のICT推進の中心的な役割を担う管理本部情報システム部の生産技術課長 吉原宏和氏と課長代理 平井崇氏にDWG互換CAD導入の経緯と効果について聞いた。
 
 

必要に迫られDWG互換CADを検討

同社のDWG互換CADの導入は2012年に遡る。当時、2次元CADの大半がAutoCAD。AutoCADから互換CADに変える必要性はあったのだろうか。当時の状況を吉原課長は、「当時、ネットワークライセンス版(以下NL 版)の” Aut oC A D C i v i l 3D 2006″を60 ライセンスと、スタンドアロン版の”AutoCAD LT”を数百ライセンス利用していました。AutoCAD LTにはNL版がなく、利用する全てのパソコンにAutoCAD LTのライセンスを購入しインストールしていました」と話す。利用者全てが常時AutoCADを利用しているわけではなく、スタンドアロン版のAutoCAD LTでは利用効率も低く、また、管理面でも支障が出ていた。
 
「ライセンス管理は各支社店の管理者が行っていましたが、利用する作業所の開設・閉所があり、利用者の異動やパソコンの置換えも多く、バージョンやライセンス管理は、非常に手間もかかり煩わしいものでした」(平井課長代理) 互換CADのウリの一つがイニシャルコスト、ランニングコスト、いずれについてもAutoCADより廉価であることだ。また、NL版であれば、利用状況の把握・管理が容易に行え、システム管理そのものの簡素化につながる。もう一つ、DWG互換CAD移行へと後押しされたのが、WindowsXPからWindows7へのOSバージョンの変更である。「AutoCAD Civil 3D 2006 はXPまでの対応でWin7での動作保障がなく、バージョンアップには多額の費用が必要でした。XPのサポートが終了となる2014 年4 月までにWin7 への対応を考える必要がありました」(平井課長代理) 今も昔もOSのバージョン変更は、企業にとって大きな負担となる。ここがスムーズに運ばなければ事業にもマイナスだ。同社では、”AutoCAD LT”、”AutoCAD Civil3D 2006″のいずれについてもDWG互換CADへ移行すべきとの機運は高まっていった。
 

「われわれの業務においては生産性向上が 大きな課題となっています。そのためにも DWG互換CADへの移行は欠かせないもの でした」(吉原課長)




 
 

AutoCADと同等なDWG互換CADは存在するのか?

「互換CADはいくつかありましたが、われわれが必要としたのはAutoCADに慣れた利用者がストレスなく作業ができることです。業界ですでにある程度の評価を得ていた数社のソフトを検討しました」互換CADは廉価であるがゆえに機能性だけを見ればAutoCADより劣ることは否めない。しかしながら、現業部門で使えないものを導入できない。必要とされる機能・性能・操作性全てを備えた互換CADを選択する必要があった。「情報システム部で検討を開始し、候補のソフトを現業部門の利用者に試験的に使ってもらいました。まずAutoCADとの相違点を明らかにし、業務への影響がないか、レスポンスや操作性、印刷設定など機能を比較検討しました。検討を開始した頃は、どの互換CADも現業部門から必要とされるレベルには達していないというものでした」(平井課長代理)「AutoCADの機能はかなり成熟しており、多種多様な機能が搭載されていますが、利用者の多い施工部門ではそれら全ての機能が必要とされていたわけではありませんでした。そこで必要な機能、操作感など限定して検討を進めていきました」(吉原課長)
 
ライセンス管理で必要な適正数の把握についても検討が行われた。「ネットワークライセンスの適正数を予測するのも大変でした。想定の利用者は約1,000人。これらの利用者が待機なくCADを動かせるにはどの程度のライセンスが必要なのか。ライセンス数の想定は思った以上に難しい作業でした」(平井課長代理)
 
 

最初の互換CAD導入はB社製のCADに

このような中、2012年にAutoCADの機能には及ばないものの、施工部門で必要となる最小限の機能を備えていると評価されたB社製互換CAD(以下BCAD)が30ライセンス導入され、AutoCADから互換CADへの移行が開始された。評価の結果、IJCADは要求レベルに達しておらず落選していた。BCADはその後機能的に大幅に改善されることはなかったものの2014年1月には70ライセンスとなっていたが、同社はバージョンアップの都度、粘り強くIJCADを紹介してきた。「2013年にIJCADの新バージョン2013を紹介されましたが、すでにBCADを使っていたのであまり興味はありませんでした。過去3度、バージョンアップごとに試してはいましたが、満足いくものでなかったので、”2013″もあまり期待していませんでした」ところが以前に比べ”IJCAD 2013″の操作性が格段に向上していた。「これには驚きました。AutoCADとほぼ同様の操作で作図でき、基本的な機能は備わっていたのです」(平井課長代理)
 
また、当時のBCADのライセンス管理では、ライセンスを自動解放できないという問題点があった。作業所などでは作図中に急な業務が入り、CADソフトを起ち上げたままで無駄にライセンスを専有することがしばしばあり、一定時間操作のない場合、自動的にライセンスを開放する機能が必要であった。「B社には以前からその要望を伝えていましたがなかなか実現されませんでした。ところがIJCADではすぐに対応するとの回答をもらいました。CADソフトの良し悪しはもちろん大切ですが、迅速な対応、スピード感もビジネスには重要なものです」(吉原課長)
 

「IJCAD 2013がAutoCADと同じ感覚で 業務に利用できるレベルに達したと感じまし た」(平井課長代理)




 
 

IJCADへの乗り換えは、間違いではなかった

現在、導入から2 年余りでIJCADのライセンス数は170を超えた。他社製互換CADとの入れ替えとともに、多くの利用者からAutoCADと同じレベルの操作性が好評を得た。「導入以前からの経過は決して平たんな道のりではありませんでした。ただ、満足いかないときでもシステムメトリックス社は何度も何度も機能・操作性アップにトライしてくれました。熱意は強く感じましたね」(吉原課長)
 
IJCADを導入して奥村組の2 次元CADに費やすコストはそれまでの7分の1程度に抑えられた。さらに、ライセンス管理作業も簡素化されました。同社ではiPadの導入に伴いモバイルCADソフトとして”IJCADMobile”を採用した。「2015 年からiPadを作業所に配備していますが、同時にCADデータ閲覧ソフトとして”IJCAD Mobile”を導入しています」(吉原課長)
 
iPad+IJCAD Mobileで工事現場のシーンががらりと変わる。大きな紙の図面を持ち歩いて、担当技術者が頭を寄せて図面を覗き込む工事現場のどこにでもあった風景はなくなった。携帯性に優れ、なおかつ、簡単なチェック・修正ポイントをメモ表記しておけば、事務所に戻ってその修正点をPCのCADソフトで確認できる。「2016年に入ってさらに利用が広がり、現在200 本以上のIJCAD Mobileが稼働しています。建築現場の若手職員を中心にiPadの携行を勧めていますが、さらに利用範囲を広げていく予定です」(吉原課長)
 

導入後わずか2年でIJCADは170ライセ ンスを超えた。「今後、他社でもDWG互換 CADは検討されていくでしょう」(吉原課長)




 
 
現段階での利用法は、「現場で図面をみること」が大半だということだが、モバイルCADの可能性は無限に広がっている。「今から思えば、2010年前後はDWG互換CADの黎明期だったのではないでしょうか。注目はされていましたがどのソフトにもパーフェクトといえるものはありませんでした。そのなかで”IJCAD 2013″はDWG互換CADが抱えていた問題点の大部分をクリアしていました。一度BCADを導入してからIJCADに変更したのは、回り道したともいえますが、今では、当社にとってベストの選択をしたと思っています」吉原課長のI JCAD導入に対する評価である。奥村組で始まったDWG互換CADへの移行は、2 次元CADの性能向上とともに、3 次元CADの時代を堅固に下支えしている。
 

「すでに200人以上の作業所職員がiPad+ IJCAD Mobileを活用しています」 (吉原課長)




 
 


株式会社 奥村組
所在地:大阪市阿倍野区、東京都港区
創業:1907年2月
資本金:198億円
従業員数:2,072名(2016年4月1日現在)
主な事業内容:総合建設業
http://www.okumuragumi.co.jp/


 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2017
特集3「建設ITの最新動向」



 
 



施工BIMの今 -三谷産業グループのBIM-

2017年8月1日

 

はじめに

三谷産業株式会社は首都圏、北陸地区、ベトナムを拠点に6つの事業領域を展開する総合商社である。本稿では、6事業領域のうちの1つである空調設備工事部門と、22 社の連結子会社がある中でベトナムを拠点とし建築関係会社からの受託業務を主体とするACSD社(Auroel ConstructionSoftware Development Inc.)との業務連携について紹介する。
 
三谷産業では、近年、建築業界でニーズが高まってきているBIM技術の活用および習得を目的とする専門部署(BIM推進室)を今年度(H28 年度)発足し、社内へのBIMの浸透や社内外への情報発信に注力する体制を整え、弊社施工物件に展開するとともにBIMモデリングの受託業務も開始した。
 
三谷産業とACSD社は、設計および積算業務(主に拾い出し)の業務連携においては15年の実績があり、この経験をベースにBIMモデリングの業務連携を展開している。共通のプラットフォームとしては、株式会社 NYKシステムズが開発・販売している設備3D-CADのRebro(以下、レブロ)を採用している。三谷産業では、19 年前にドラフターを一斉撤去し、手書き施工図からCADへの転換を決断した際に選択した設備CADがU/KITであり、当時としては高性能すぎた(時代を先取りし過ぎた)3D-CADとしての精巧かつ実直なコンセプトがよく似ているレブロに、とても馴染みやすかったことも選択の理由の1つだと思っている。三谷産業の3Dへの思いはここから始まっている。
 
 

取り組み事例の紹介

三谷産業とACSD社のBIMモデル構築の実際の業務連携は、三谷産業からの基本的な作図指示に基づきACSD社が3Dモデルを構築するのが基本スタイルである。
 
過去(ACSD設立時)にACSD社へ現場施工図の作成依頼(いわゆるアウトソーシング化)を進めた時期があったが、当時は現場からの指示や要望事項の伝達手段や通信手段の脆弱さ、言葉の壁などの理由から、結果として数年で収束してしまった経緯がある。今回はその過去の反省点を十分踏まえて取り組んでいる。
 

業務分担フロー




 
 
1つは伝達(コミュニケーション)手段である。業務の指示やレビューの際にはベトナムとの専用回線(XVDコミュニケーションシステム※1)を活用し、お互いの顔を見ながら会話するスタイルをとった。
 



 
 
また、ACSD社(ベトナム側)の大画面に資料を映し出し、ポイントを指し示して指示することで、スムーズなコミュニケーションが図られ、意思疎通を格段に高めることができた。資料の受け渡しや情報共有については、当社が開発したグループウェアである“POWER EGG”を活用し、業務が滞ることがないようにタイムリーに進めている。POWEWREGGの機能を活用することで、プロジェクトに関わる全ての関係者に、情報がリアルタイムで発信されるような仕組みを構築できた。
 



 

グループウェア“POWER EGG”の活用2




 
 
もう1つは言葉である。三谷産業とACSD社の共通語は日本語である。ACSD社では、日本語能力試験N2を取得したチーフが窓口となって現地スタッフに指示を出しており、直接指示では理解が難しい内容についても、現地スタッフをフォローできるような仕組みを構築した。また、三谷産業における研修を繰り返し実施することにより、会話力の上達はもとより技術の習得も図られ、大幅の改善ができている。
 
現在は、プロジェクトごとにキックオフミーティング→中間レビュー→最終レビューのサイクルを実行し、品質レベルの向上につなげている。
 
また、このスキームを活用したBIMモデル構築の取り組みとして3Dスキャナーの活用がある。3Dスキャナーを使用し、三谷産業で撮影した点群データを基にACSD社でCADデータ(レブロ)への変換業務を行う。これには、点群処理ソフトと強化されたレブロの連携機能を有効に活用しており、正確性と作図スピードを高めることを目的に取り組みを始めたのだが、ここで問題が発生した。点群データの情報量の多さである。撮影の仕方(設定)にもよるが、撮影した点群データは1カ所当たり110 ~ 150MB程度の容量があり、全箇所分のデータを送信すると数GBとなる。データやり取りを繰り返すことは決して不可能ではないが、膨大な時間を要する。大容量データの送受信方法の改善が業務効率向上には欠かせない課題として、仕組みの構築に取り組み中である。
 

点群データ~CAD化までの流れ




 
 

今後の展望

BIMというキーワードで建築業界自体が動き出したことを実感している今だからこそ、三谷産業グループの強みとして海外BIM連携を推進していきたい。過去のインフラやハード/ソフトがまだ成熟しておらず、業界自体の3Dの必要性も認識されていない時期に取り組んだ経験をしっかりと反映していかなければならないと考えている。
 
今後は、前述した取り組みに改良を重ね、より効率的に、かつ新たなICT技術なども取込みながら最善策を探っていくことに注力する。また、三谷産業にACSD社の現地社員を継続的に受け入れて育成していくことにより、その業務連携を強固なものにしていく方針である。
 
いずれにしても、国内では技術者、技能者の数が減っていく中、BIMやICT技術、海外の人材の活用は必須であり、これらの技術をベースとしたフロントローディングやコンカレントエンジニアリングが必要不可欠な課題だと理解し、今後も取り組んでいく。
 

ACSD社のベトナム人技術者たち




 
 

三谷産業株式会社



 
 
【出典】


建設ITガイド 2017
特集2「BIMによる生産性向上」



 
 



 


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