2016年6月28日
宮城大学 事業構想学部 デザイン情報学科
教授 蒔苗 耕司 一般財団法人 日本建設情報総合センター 研究開発部 影山 輝彰
はじめにCIM(Construction Information Modeling/Management)とは、 CIMに関わる国際調査平成27年度に実施したCIMに関わる国際動向調査は、 今回は、教育・訓練調査を主体とした米国方面の調査概要を紹介したい。 BIMを核とした生産管理システムの構築 ニューヨーク市デザイン・建設部ニューヨーク市の建設事業を担うデザイン・建設部(NYCDDC; New York City Department of Design and Construction)では、 現在のガイドラインは主に建築物を対象としたものであるが、 平成28年春に発行予定の「BIM Guidelines 2.0※1」ではインフラ構造物や施設管理への拡張を予定している(図-1)。 またレーザー測量の有用性についても理解がなされ、BIMとの融合についても取り組んでいる。 教育訓練については、市独自に教育訓練プログラムは有しておらず、受注各社が独自で行っている状況である。 ただし最近の米国の大学教育では建設マネジメントに人気があり、 BIMに関する教育も盛んに行われており、基礎知識を持った技術者が輩出されるようになってきているとのことであった。 維持管理・サービスの一体化 マサチューセッツ州港湾局マサチューセッツ州港湾局 (Massport)は、ボストン地域の3空港と港湾の建設・管理を担っている。 また、平成32年までのBIMのロードマップを作成し、 今後、プロジェクトマネジメント、教育訓練、そして施設管理、統合的なアセットマネジメントに至るまでの目標を段階的に示している。 また人とプロセス、技術のバランスを保つことが必要であると考え、 トヨタ生産方式に基づくプロセスマネジメント手法LeanをBIMと合わせて導入している点が大きな特徴となっている(図-3)。 明確な実施目標と着実な積み重ね ウィスコンシン交通局南東地域(WisDOT SE)WisDOT SEはウィスコンシン州南東地域を管轄しており、 WisDOT SEでは、平成25年にウィスコンシン大学と共同で3次元技術実装プランを作成し、 3次元モデリング、干渉評価、可視化、仮想現実(VR)・拡張現実(AR)の導入までを対象とした平成27年までのロードマップを作成し、 CIM導入を進めている。 WisDOT SEの管内に存するZoo ICは、 2本のインターステートハイウェイと1本のUSハイウェイが交差する平均日交通量35万台の大規模インターチェンジであり、 道路構造改良のために大規模な改築工事を進めている。 平成24年に改築工事に着手し、平成32年度に竣工を予定している。 工事の実施においては、15分の通行遅延を最大限度としたガイドラインを設け、日中の交通制限を極力避けるよう実施している。 また工事による規制情報は、SNS等を含めたさまざまな媒体を通じて住民への周知を図っている。 工事の遂行ではCIMを積極的に導入しており、工事契約時に必要とされる大量の設計図書が不要となること、 3次元設計の導入により異なる工種間での干渉検出が極めて有効であることが示されている。 またプロジェクト管理においては、さまざまな文書管理のシステム化を進めていることと、 事業遂行において予算、スケジュール、変更管理、リスクマネジメント、ドキュメント管理等を含めた 工程管理が重要であることが説明された。 またCIM全体の調整役として“CIMコーディネーター”が重要な役割を担っている。 米国の流れ今回の調査を通じて、米国の公共事業発注機関でのBIM/CIMの先進的な取り組みの状況を把握することともに、 新たな生産管理システムへの移行米国では、5億ドル以上(または交通省の長官指定の)プロジェクトにはIPD (Integrated Project Delivery)※3を義務付けている。 今回現地訪問した、「Zoo Interchange」は、IPDの指定事業であるが、いくつかの理由により実施していないとのことであった。 なお、今回調査した組織おける調達方法は、主に設計施工分離発注方式であった。 これらの背景として、BIM、CIMの運用を始めたばかりであり、 従来の生産管理システムとの融合または置き換えを進めている途中段階であることが挙げられる。 しかしながら、BIM、CIMの利点を踏まえ、その効果を生かすための調達方法を取り入れるのは自然な流れと考えられる。 なお、今回調査した組織の全てにおいて、BIM、CIMを取り入れた新たな生産管理システムを運用するにあたり、 必須となる役割や部署が設置されているのが理由の一つでもある。 技術の進歩により求められる新たな役割と立場現在、われわれの日常業務において電子メールやインターネットの利用が一般的になっているが、 このようなBIMの専門職員の配置は、CIMを円滑に利用していく上で重要な役割を果たしており、 今後、同様の試みは増加していくものと考えられる。 おわりに平成24年度より、わが国においては、CIMの取り組みを始めたところである。 建設ITガイド 2016 特集1「本格化するCIM」 |
2016年6月27日
IAI日本 Build Live分科会リーダー
山極 邦之
Build Live Japan 20152015年10月23日に開催されたArchi Future 2015のセミナーS-1には、ほぼ満員の聴衆にご来場いただき、 セミナーには杵築市から市長と城下町地区まちづくり協議会会長らも出席され、熱い思いの込もったコメントをいただきました。 12チームの参加を得たBLJ2015は、 杵築市の活性化につながる土地活用のアイデアや事業化への気付きを誘発するきっかけになり得たのではないかと感じました。 BLJ2015の上位入賞チームは次の通りです。 チームスカンクワークスに、今回課題敷地となった地元から地域賞として杵築大賞、 および主催者であるIAI日本からはデータ連係などの技術的な観点から、Best BIM Practice賞がダブルで授与されました。 また、チーム見沼ドラゴンズにBIMのプロセスや提案された建築の質を重点に審査する審査員賞として最優秀賞が贈られました。 チームスカンクワークスは前田建設工業を中心とした実務チームであり、 地元の方々に最も感銘を与えた完成度の高い取り組みを見せました。 近年のスカンクワークスは、職員のBIM教育の一環としてBuild Liveへの参加を継続しており、 毎年異なる陣容にも関わらず上位入賞の常連です。 また、最優秀賞を受賞したチーム見沼ドラゴンズは芝浦工業大学の学生チームで、 BIMの新しい可能性を毎回のように提案してくる上位入賞の常連チームです。 さらに、チーム東京都市大学インテリアプランニング研究室が杵築賞と優秀賞をダブル受賞しました。 東京都市大学インテリアプランニング研究室はBuild Liveに2011年から参加されている研究室ですが、 建築専攻ではない学生のチームということに驚かされます。 そして、もうひとつの杵築賞は、なんと高校生のチーム 大阪市立都島工業高校 KITTNESが受賞しました。 最後に、チーム中部大学Kitsuki-Labが優秀賞を受賞しました。 チーム中部大学 -KitsukiLab-は初参加にもかかわらず、質の高い提案をしたことが評価されました。 BLJ2015の各チームの取り組みは、公式Blogや、そこからリンクされている各チームのアピールサイトに記録されています。 また、要項や課題、公開資料もここからリンクが張られています。ぜひご覧ください。 http://bljapan2015.seesaa.net/ BLJ2015は、大分県杵築市および国土交通省九州地方整備局からの後援を得るなど、地元とのつながりが強い取り組みとなりました。 このため、これまでのBuild Liveと比べて、事業へつながる可能性をひときわ感じる大会となりました。 地元の方々も、全国から集まった多くの提案を見ることによって、まちの活性化の起爆剤になることを期待していたのです。 Build Liveとはさて、Build Liveは、2009年2月に初回が開催され、今回が第8回となりました。 遠隔地から参加するチームへの配慮BLJ2015では、現地見学会を開催するなど事前の情報発信が活発に行われました。 まちの様子は主催者が撮影した1,500枚近い写真を写真公開サイトで提供。 さらに、敷地周辺を文字通りウォークスルーする動画も公開しています。 これらの情報掲載は、杵築市の情報発信のメディアとしても機能します。 実際に遠隔地の参加チームから、これらの情報が役立ったとのコメントもいただきました。 一方で、深刻な問題として考えているのが一部の企業、 特に大きな企業で社内からBuild Liveで利用しているインターネットサービスを参照できない事態で、 デジタルデバイドに類似した課題と考えられます。 このような事態が足かせとなってIT化が進む世界中の建設業から、わが国の建設業が遅れをとらないように願うばかりです。 BLJ2015主催の技術的な特徴先にも書いたように、BLJ2015では一般の方々にアピールすることが求められたため、 さらに、杵築市の城下町地区は谷沿いの商店街と両側の高台の間の斜面が複雑な地形です。 国土地理院の標高メッシュデータでは精度良く表現しきれませんし、手作業でモデル化するのも困難です。 杵築市からArcGISのデータをお借りすることができたのですが、さらに情報が必要でした。 中心となる道路も緩やかな勾配と曲線が続く複雑な形状です。 ドローンを飛ばして計測するなどいろいろな可能性を探っていたところ、 地元の測量会社が航空機でレーザー測量した杵築市のポイントクラウドデータをお持ちでその活用先を探っており、 利用させていただけることになりました。 ポイントクラウドは概ね17cm間隔のメッシュデータで、これを変換して課題敷地周辺の土地モデルを作成できる見込みとなりました。 一方、まちなみをパススルーするソフトには、 上記のポイントクラウドから地面形状を作成、道路モデルの作成、周辺建物の表現、パススルーの機能が求められ、 支援体制なども検討し、土木系の道路シミュレーションソフトのUC-win/Roadを利用することに決定しました。 しかし、UC-win/Road の採用には課題が予想されました。 まずは、UC-win/Roadの操作理解という課題がありますが、厚意で講習会受講とヘルプデスクの利用ができることになりました。 また、UC-win/Roadは作成したまちなみモデルを建築BIMソフトで利用できる適当な形式でエクスポートできません。 もっとも、エクスポートできたとしても、建築BIMソフトには大きすぎると見込まれました。 このため、12カ所の敷地モデルは、各敷地ごとに12個のモデルを作成しIFC形式で各チームに配布することにしました。 さらに、建築BIMソフトからUC/win-Roadへの逆方向へデータを移動するには、UC/win-Roadがモデルとして読み込める3ds形式で、 建築BIMソフトからエクスポートしたものを利用し、建物BIMモデルとまちなみモデルとを合成しました。 しかし、ここでもデータ合成のための原点がモデル上で約50km先になるなど、 BIMとCIMやGISとの連携で検討すべき課題が表出しましたが、主催者側で参加者に影響のないように対応しています。 一方、参加チームにUC/win-Roadが利用できるように貸し出ししたところ、 短期間にもかかわらず、いくつかのチームはこれらの変換作業や動画作成などを自力で成し遂げ、技術力の高さに驚きました。 BLJ2015の終盤の週末と翌週の週末の2回、のべ四日間にわたり杵築市でパブリックビューイング(PV)を開催しました。 PVでは、各チームの取り組みや、提出作品を地元の方々に紹介しています。 初回のPVでは、参加チームとTV会議をつなぎ、参加チームのメンバーと地元の方々のコミュニケーションを図りました。 2回目のPVでは、参加チームの提出作品をVRで紹介しました。 VR体験では、地元の方々にHMD(Oculus rift)で 各チームから提案された建物モデルを組み込んだまちなみを体験していただく場を設け、好評をいただきました。 このときの様子は、地元の方がUSTREAMで中継されました。 地元では、この後ポスター展示と投票を実施し、その結果が地域賞の選定に反映しています。 このように、BLJ2015 では、初めてのことを数多く実施しました。 その結果、IFCの運用やBIMの取り組みにおいても、多くの課題が表出しました。 特にBIMとCIMやGISとの連携では、検討すべき点がまだ多いことが具体的に分かりました。 これらの具体的な課題を主催者であるIAIの今後の活動や、IAIメンバーのソフトベンダーにフィードバックすることで、 改善につながっていきます。 Build Liveの公共事業との整合性今回、BLJ2015への取り組みでは、Build Liveの方式によるデジタルコンペが、 これからのBuild LiveBLJ2015では、実際の地方のまちづくりの取り組みと連携したことが、大きな特徴でした。 IAI日本1990年代中盤、企業においてパソコンが一人一台に向けて普及が進むとともに建設業界でもCADが本格的に普及し始めた。 Build LiveのルーツIAI日本がBuild Liveを初めて開催したのは、2009年の2月であった。 BLT2009では当時から先進的にBIMに取り組んでいた6チームが参加し、 東京湾台場の海面に設定した仮想埋め立て地を課題敷地として環境技術研究センターを設計する課題に取り組んだ。 BLT2009の参加チームは48時間という短時間にもかかわらず、 高度な3次元モデルを作成しかつ、多くのシミュレーションソフトとデータを受け渡しし、 シミュレーションを実施し、検討を重ね、設計を進めていた。 そして、公式Blogに掲載された参加チームへ訪問取材した突撃レポートやTwitter、Facebookへの投稿などを通して、 その様子がインターネットでリアルタイムに公開されたことから注目を集めた。 Build Live開催後には、参加チームのBuild Liveのノウハウを共有、記録できるように、Collectionという冊子を毎年作成している。 Collectionには各チームのデータ交換の連携図やさまざまな情報が掲載されており、BIMの参考にしてほしい。 Collectionの入手は、IAI日本メンバーに依頼いただければ、在庫のあるかぎりお渡しできる。 またPDFファイルとしてもダウンロードできるので、IAI日本のホームページを確認して欲しい。 また、2月頃にはまとめシンポジウムを開催し、 参加チームによるBuild Liveの取り組みを話題としたプレゼンテーションおよびパネルディスカッションにて締めくくりとしている。 【出典】 建設ITガイド 2016 特集2「海外のBIM動向&BIM実践」 |
国土交通省 関東地方整備局 営繕部整備課
営繕技術専門官 古堅 宏和
はじめに官庁営繕事業におけるBIM導入プロジェクトについては、 これらの事案の検証の成果も踏まえ、 国土交通省大臣官房官庁営繕部において「官庁営繕事業におけるBIMモデルの作成及び利用に関するガイドライン」が取りまとめられ、 平成26年3月に公表されています。 上記事案の設計・施工段階において見えてきた内容について、 一昨年は「新宿労働総合庁舎」の施工段階における設計意図伝達業務についてのBIMモデルの活用をご紹介するとともに、 関東地方整備局試行2事案目となる「前橋地方合同庁舎」の設計段階のBIM試行について 「新宿労働総合庁舎」との違いも含め紹介させていただき、 昨年は「前橋地方合同庁舎」の施工段階でのBIM活用として 部材の干渉チェックや3次元の工程シミュレーション、施工シミュレーション等について紹介させていただきました。 今回は、平成27年8月より土浦労働総合庁舎の新築の設計業務と併せて実施しております 維持管理段階におけるBIMモデルのデータ活用の可能性調査・分析業務の内容について紹介いたします。 土浦労働総合庁舎新営設計業務における維持管理段階に関わるBIM活用の検討内容について(1)土浦労働総合庁舎事業概要●工事場所 茨城県土浦市 (2)維持管理段階におけるBIM調査・分析業務の目的施設の維持管理を進めていくに当たっては、施設の各部位についてさまざまな情報が必要となってまいります。 このような観点から、本調査・分析においては、通常設計段階で入手している各種情報について、 BIMモデルを介して施設維持管理関係者に情報を引き継ぐことの合理性等を検証することとしております。 ①各種情報を設計段階からBIMモデルに入力し、 その後BIMモデルまたはその他のツールを介して施設維持管理関係者に必要な情報を提供する場合と、 ②BIMモデルに入力することなく他の手法により提供する場合、とのコストやプロセス比較を実施していく予定です。 (3)調査・分析の内容業務として以下のような順序で検討を進めてまいります。 維持管理段階におけるBIMモデル活用に期待されること前述の通り、本業務においてはヒアリングを通した維持情報管理項目の整理、 まとめ施設の維持管理段階の活用については、BIMモデルについて施設管理者としてはどのような情報が必要か把握し、 おわりに官庁営繕事業におけるBIMの試行の中で、設計段階における結果を踏まえて「BIMガイドライン」が平成26年に策定されました。 建設ITガイド 2016 特集2「海外のBIM動向&BIM実践」 |
株式会社 砂子組 土木部
千葉 大樹
はじめに近年、建設業では情報化施工をはじめとするICT技術の進歩がめざましく、 情報化施工導入の目的当社が情報化施工に取り組む目的として掲げているのは、品質・安全の向上、工程の短縮、利益の向上はもちろんであるが、 写真-1は当社で導入した情報化施工の一部である。 当社で行う情報化施工は掘削や盛土、整形を行うツールだけでなく 重機に搭載する設計データに水道管などの埋設物の情報を追加することでオペレーターへの注意喚起を行っている。 また3D-MCについてはブルドーザ、バックホウともに情報化施工専用機などの新しい技術を積極的に導入したり、 ドレーン打設機械などの特殊な専用機械をMG化することで施工効率の向上を図ってきた。 情報化施工を導入することによって丁張設置手間の軽減や重機モニターを遠隔操作で管理、 社内に情報化施工担当者を配置し各現場で行う情報化施工導入に向けての準備を一元化しサポートを行うなど 現場職員の負担軽減にも取り組んでおり、負担が軽減されることで現場管理の充実、休日の確保につながっている。 写真-2は当社で行った情報化施工以外の取り組みの一部で、主に行っていたのはGNSS測量やTS出来形だが、 その他にも3Dレーザースキャナと3D-CADを使用しての施工計画、VRシミュレーションを活用した仮設計画、 構造物の3Dモデル化を行い打合せ等に活用してきた。 単発の情報化施工からサイクルの情報化施工へ情報化施工を導入した当初、活用する内容はさまざまな工種の中の一工種または一部だけということがほとんどであった。 図-1のように土砂運搬はGPSを利用した運行管理、土砂混合撹拌は3DMG、築堤盛土は3D-MCを導入することで 一連のサイクルの中で情報化施工を活用することで工事全体の効果を検証した。 検証の結果、土砂混合撹拌と築堤盛土は施工効率が約1.2倍に向上、法面整形については約4倍の施工効率の向上であったが、 向上したのは施工効率だけでなく、情報化施工により事前の丁張設置が不要となり丁張箇所の転圧不足等の品質低下の解消、 手元作業員が不要であったため重機の直近作業がなく安全性の向上などさまざまな成果を得ることができた。 図-2の上の表は、情報化施工と従来施工での盛土と法面整形について施工効率を比較したものである。 下のグラフは盛土で活用した3D-MCブルドーザについてコスト面での導入効果を検証したもので、 施工条件で変化はすると思われるが、この工事については盛土量約31,000㎥を超えることにより コスト面でも導入効果を得られる結果となった。 以上の事から一連のサイクルで情報化施工を導入することで安全、品質、工程、コストにおいて 単発の情報化施工よりも大きな成果を得ることができた。 この工事で3D-MCブルドーザを担当したオペレーターは熟練のオペレーターではなく、 情報化施工は熟練オペレーター不足の解消にも効果を得られることが分かった。 また情報化施工と従来施工を行った際のオペレーターの心拍数を計測し、 オペレーターにどれだけの人的負荷がかかるのかの検証も行った。 図-3に示す通り情報化施工はオペレーターの人的負担(緊張、プレッシャー)の軽減に寄与しているという結果が得られている。 情報化施工からCIMへクリティカルチェーンに着目し情報化施工を活用してサイクルを回す。 またUAVによる航空写真測量から得られる点群データも活用し現場を“見える化”することで 問題意識の共有、意思決定のスピード向上につなげ、情報化施工へのデータ反映にも活用している(写真-4)。 おわりに最初は難しいと思っていた3D-CADも経験を積むことで現場の意図するモデル作成に近づくようになってきた。 建設ITガイド 2016 特集1「本格化するCIM」 |
2016年6月24日
首都高速道路株式会社 保全・交通部長
東京大学 生産技術研究所 ICUS 客員教授 土橋 浩
はじめにわが国では、高度経済成長期以降に集中的に整備されたインフラの高齢化が、今後一斉に進む。 GISプラットフォームによる維持管理システムの構築首都高速道路は、現在約310kmの供用延長を有し、 新たなインフラ維持管理システム(InfraDoctor)InfraDoctor(インフラドクター)は、GISをプラットフォームとし、各種の点検・補修履歴等を統合し、 (1)システム概要 図-1に示すGISプラットフォームを入り口とし、各種台帳のさまざまなデータや全方位動画、3次元点群データを用いた距離計測、 点検シミュレーション、構造物の変状・変位計測、図面作成等を行うアプリケーション等にアクセスが可能なシステムである。 図-1上段に示す地図の任意の位置から、 構造物の竣工図、点検台帳、補修・補強台帳、ビデオ化画像等、タグ付けされたさまざまなデータを検索できる。 ビデオや点群といった3次元データを表示する際は、地図上に視点方向が示される。 背景地図には商用利用可能な「地理院地図」を用いている。 3次元点群データおよび全方位動画は、 MMSと呼ばれる、レーザースキャナや全周囲カメラ、また自らの位置を特定するGPSを搭載した車両を走行させることにより取得する。 河川を横断する橋梁など、周囲の道路上から取得できない箇所については、 人が持ち運ぶことができるレーザースキャナー等を使用して点群データを取得する。 取得した点群データを構成する点の一つ一つが位置情報(座標)を持ち、また色データを付加することができる。 なお、位置情報の相対誤差は数ミリ(公称相対誤差は150m離れた位置で5mm)と、非常に正確である。 同時に、高解像度な全方向走行画像も取得する。 (2)点検支援3次元点群データの各点が位置情報(座標)を持つため、 さらに、図-2に示すように、鉄道事業者等管理者の異なる構造物の位置情報を取得し、CAD化することも可能である。 限られた機電停止時間の間に測量を実施し図面を作成するには、一般に数日間を要するところ、 本システムでは、測量の時間に拘束されることなく、MMSにより計測し、1~2日程度で図面を作成することができる。 加えて、図面化の困難な、鉄道の架線や電線などの位置も、正確に把握でき、より効率的に点検計画や補修計画の策定が可能となる。 このように、従来行ってきたさまざまな作図作業を効率化、省力化することができる。 (3)構造図面・解析モデルの作成3次元点群データから、一般図や構造物のCAD図、あるいは構造解析モデルを作成することができる。 図-3に、2次元のCAD図を作成したものを示す。 Infi Pointsを用いて輪郭線を抽出し、CADソフトにより断面図を作図している。 また、3次元CAD図についても、取得した点群からノイズを除去した後、ポリゴンを生成し、 これから平面や曲面を生成させて、CAD操作により橋脚の図面を作図している(図-4参照)。 今回、大規模な土木構造物を対象としているため、従前の地上型レーザースキャナと計測精度が異なること、 データ処理の前提が機械系CADデータの精度と異なることから、新たにMMSを用いたリバースエンジニアリングのロジックを開発した。 さらに、上記プロセスにより作成された3次元CAD図から、図-4に示すような3次元の構造解析モデルを構築することも可能である。 この解析モデルを用いて、解析ソフトと連携することにより構造物の性能評価、劣化診断および劣化予測を行うことも可能となる。 詳細は、後述するが、点検結果から構造物の状態を定量的に把握することが可能となる。 また、地震を受けた後の耐震診断にも適用を検討している。 (4)変位・変状計測MMSにより取得した3次元点群データを経年で比較することにより、 さらに、土工部における法面のはらみ出し、傾動、段差、クラック、目開き、ずれ等の点検にも適用の可能性がある。 従前の目視点検から図-6に示すように、3次元点群データおよび全方位動画を活用した自動化により、 特に面的な変状の把握に有効である。 これにより、法面の点検に加え、植生・倒木の危険度の調査や航空レーザを併用した斜面防災への適用も期待できる。 InfraDoctorとCIMの統合現在、国土交通省によりCIMを活用した試行事業が進められており、調査・設計段階、工事段階でのCIM活用の検証が進められている。 この結果、上流側の初期情報と下流側の維持管理情報が統合され、構造物の生い立ちから、置かれている環境条件、 例えば、沿岸地域、積雪地域、凍結防止剤の使用の有無、交通量など使用条件等がつながり、 川上のプロセスと川下のプロセスがつながった点検、診断、措置が可能となる。 CIM導入の取り組みは、設計段階における不整合等の事前確認や施工段階における施工品質の向上に加え、 維持管理段階における点検・診断・補修結果等の「見える化」を図ることができる。 これにより、GISプラットフォーム上から、初期データをはじめ、過去の点検および補修履歴を確認することが可能となることから、 効率的なメンテナンスに寄与する。 加えて、これらの各種データを考慮した解析モデルを用いてシミュレーションすることにより、 構造物の性能評価、劣化診断、劣化予測が可能となる。 この結果、設計・施工から維持管理までをつながった一連の流れとしたより効率的なインフラマネジメントシステムができる。 シームレスなインフラマネジメントシステム上述の通り、CIMとInfraDoctorを統合して、CIMの初期情報のデータベースをInfraDoctorに移行する。 このように、ICT技術を活用して、計画・設計段階から施工、維持管理段階までを一連のプロセスとして「つなげる」ことにより、 シームレスなインフラマネジメントシステムを構築することができる。 現在、シームレスなインフラマネジメントシステム構築に向け、 CIMとの統合に当たって必要となるデータベースについて請負者と検討を開始した。 また、コンクリート構造物に対して、DuCOM-COM3等の解析ソフトを用いた劣化診断および劣化予測について研究を進めている。 CIMのデータベースとの統合および解析モデルによるシミュレーションとつなぐことについては、1年後を目途に取り組んでいる。 さらに、シームレスなインフラマネジメントシステムから得られる点検・診断の結果、 蓄積された経験や技術を、将来のインフラの整備に生かすことも忘れてはならない。 すなわち、維持管理段階で得られた情報を、上流側のインフラ建設にフィードバックあるいは積極的に反映することにより、 高耐久性を有し維持管理に優れるインフラの整備が可能となる(図-9参照)。 この結果、ミニマムコストで安全、安心、快適なインフラの整備、維持管理が実現され、 サステイナブルなインフラの整備に寄与することが期待できる。 おわりに首都高速道路は新たなインフラ維持管理システムとしてInfraDoctorを開発し、 建設ITガイド 2016 特集1「本格化するCIM」 |