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書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。

設備BIMの運用について現状と希望《その5》

2014年1月21日

 

新菱冷熱工業株式会社 谷内 秀敬

 

ガイドライン・マネジメントの整備

標準化の取り組み

S-CADのエンジンであるMicroStationはエンジニアリング志向のハイエンドなシステムである。操作性の教育や運用方法の水平展開にS-CADを有効に活用するため社内のプロジェクト委員会を中心にガイドラインを整備し社内イントラネットで公開している。
 
標準化の取り組み
 
エンジニアとして価値のある創作に時間を投じるためには道具の操作でつまずいていては効率化・生産性の向上は図れない。このため定期的に講習会を実施している。若手社員が受講する昇級試験の施工図試験においてもS-CADを使い、課題となる建築設備施工図を作成している。
 
操作の過程は学習できるが、マネジメントスキルは実案件に携わることでスキルアップを図っていくこととなる。ガイドラインで整備を進めている運用のヒントとなるワークフローは全国の事業部支社から選出されたメンバーが自らの経験とアイデアを盛り込んだものとなっている。
 

S-CADを使うことで 業務スタイルを変革

S-CADを使うことで 業務スタイルを変革


 
さらに社内の情報共有として社内SNSを開設し、手作りのガイドライン公開の場としている。このSNSは、使い勝手のアイデア共有をするなど、BIMを推進するための意見交換の場であり、若いエンジニアとベテラン社員とのコミュニケーションの場となっている。毎年、BIMツールユーザーの集まりも催し、リアルの場でもコミュニケーションを推進している。
 
ユーザー交流会

ユーザー交流会


 

まとめ

当社は施工現場における生産性向上を目指し設備BIMを展開している。建設業全体の中でもBIMの最終目的は
FMにあるといわれているが、FMにおいて設備は大きなウエイトを占めている。
 
建設ライフサイクルの設計期間・建設期間というフェーズは、ほんのわずかな時間である。建築物を運用するお客様が長く快適に運用を継続するためには適切な保全が不可欠である。その保全の最適な運用のための基礎情報として、BIMモデルが必要となる。設計段階でBIMモデルによる環境シミュレーション・技術情報の見える化を実現することで、建物性能は向上するのである。
 
現在設備BIMは、建築BIMとの調整をタイムリーにできることが求められており、情報の連携・引け渡しに規則性や標準化を目指しているように見受けられる。
 
机上のプレゼンテーションとして「できる」「可能である」がBIMのカンファレンスで語られているが、「誰が」という言葉には具体的な職能としてのポジションが出てこない。ベンダーはできることを訴えるが、現場の要望には届いていない。現場はITツールに自動化を望むが、自動的に進む仕組みには至っていない。
 
BIMのイベントできれいにまとまったプレゼンを見るたびに、実際の現場ではそのギャップと現場担当者のマインドセットに時間がかかっていることを感じる。何のために設備がBIMを運用するか、できることではなく実現したいBIM運用を実際の生産現場で展開することが本質的なBIM運用であろう。
 

施工規模が大きくなればなるほど、BIMによる効果は高くなる

施工規模が大きくなればなるほど、BIMによる効果は高くなる


 
担当現場の元請設備の幹部からこのような言葉をいただいた。
 
「設備担当として多くのBIM運用に接してきた、谷内さんのBIMモデルは、見栄えが悪く、何が干渉しているのか分からないモデルを初期段階に平然と情報展開しているところが勇気あるなと思ったよ。できたことをBIMで見せる後付けのモデルではなく 課題を解決に持っていく運用が実際の現場の役に立っている。本質的な設備BIM活用ですね」
 
当社は業界の中でも比較的早い段階から3次元CADの研究を行ってきた。近年の潮流に習いBIM運用という言葉で現状実現できていることをまとめさせていただいたが、お客様の満足と環境との共生のために建築設備業界ではBIMは確実に有効性を高めてきている、先日著名な美容アドバイザーの先生からこのような話を伺った。
 
「化粧品を売ろうと思ってお客様に接するのではない。お客様が美しくあってもらいたいと願って接するのです。すると結果としてお客様の方から信頼を寄せてきていただけます」
 
新菱冷熱工業もこのようなお客様との信頼関係を目指し、「さわやかな世界をつくる」というキャッチフレーズの下、建設現場における設備BIMの運用を推進し、その運用を通じて設備施工ででき得る社会貢献をしていきたいと考えている。
 
「さわやかな世界をつくる」
 
 
 

設備BIMの運用について現状と希望《その1》
設備BIMの運用について現状と希望《その2》
設備BIMの運用について現状と希望《その3》
設備BIMの運用について現状と希望《その4》
設備BIMの運用について現状と希望《その5》

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2013
特集「建設イノベーション!3次元モデリングとBIM&CIM」
建設ITガイド2013
 
 



設備BIMの運用について現状と希望《その4》

 

新菱冷熱工業株式会社 谷内 秀敬

 

道具の整備−社内委員会 仕様策定の取り組み−

社内S-CAD推進プロジェクトの仕様策定分科会として、設備BIMツールの新規開発に取り組んでいる。今までの操作の複雑さを解消すべく直感的な操作で簡単に入力でき、陰線処理の時間を短縮し簡単に出力できることを目標に開発に携わってきた。社員の声を反映し使い勝手を向上させ、2次的利用計算ソフトも組み込む等、他CADソフトとの差別化も合わせて検討。分科会のメンバーはS-CADのヘビーユーザーを中心に構成され2週に1回の頻度で毎回8時間にも及ぶ会議を開催している。あくまでも施工図を書く道具として整備したわけである。
 

分科会開催風景

分科会開催風景


 
他のBIMツールとの差別化した具体的内容は、
 
①描写としてアイソメ図の自動化
②2次利用として静圧計算、揚程計算、排煙漏量計算、保有水量計算、材料拾い集計、発注帳票作成、試験帳票作成の自動化
③CFD(流体シミュレーション技術)との連携である。
 
他ツールにない機能は、設備会社が開発したからこそできたものと確信している。あくまでも施工図を書く道具であるが、書いた施工図を元に必須となる計算も同時にでき、CADオペレーターでも計算等が簡単にできることが特徴だと考えている。
 
今までは他ソフトとのデータ互換性に課題があったが、Be-BridgeやIFCによる互換性も向上し、作業上の課題も解消した。また、機能面・描画においても他ソフトと同等以上の機能を追加し、誰でも使用できる設備BIMツールとしている。
 
 

施工図教育

3D-CADは、工事ノウハウを熟知した技術者がPC内の仮想現場で施工をイメージさせながら、ものをつくりあげていくことができる作図ツールである。従って、3D-CADを有効活用するためには現場技術者がその作成業務に関わらなければならない。
 
近年、現場業務の多忙化により、現場技術者が図面作成に携わる機会が減ってきた。施工図ノウハウを上司が部下に伝承する場面も少なくなってきた。図面作成業務を外注するケースも多い。自ら施工図を描いたことがなければ他人の描いた施工図はチェックできず、施工不備によるトラブルを招きかねない。
 
当社は、それらの問題を解決するために、若手技術社員を中心とした施工図教育に取り組んでいる。3D-CAD操作の習得だけではなく、ベテラン社員が施工ノウハウをみっちりと教育し、それを図面に反映させる訓練を行っている。グループごとに分かれて3Dの同一モデルを複数人が同時進行で作り上げていくカリキュラムがあり、現場を想定したより実践的な作業を体感している。
 

施工図教育風景

施工図教育風景


 

今後の構想

1)材料集計
施工図が完成するとそこに書かれているさまざまな材料(配管・ダクト・器具類など)を集計して、その手配や工事コストを算出する。今までは2D表示の図面を紙に印刷し、手作業で集計するのが一般的であった。3D-CADで作成すると、同時に属性情報が記憶されるため、PC上での集計が可能となる。データベース化した材料データから資材の手配や納品検査にも利用でき、手配ミス防止に寄与する。
 
2)配管・ダクトの圧力損出計算
3D-CADの属性情報はさまざまな技術計算にも活用できる。その一例として配管・ダクトの圧力損出計算が挙げられる。ポンプやファンが設計通りの能力が発揮するかどうか、その計算結果から判断する。無理な配置をすると、能力が出なくなる場合もあり、必ず行う業務である。3D-CADでは、配管・ダクトの属性情報を基に各ルートの圧力損出が自動的に計算できる。計算する作業が大幅に削減でき、算出ミスがなくなる。さらに能力削減の検討ができ、省エネルギー化が図れる(特許第5021790号)。
 
3)試験帳票
設備工事では、配管・ダクトの施工が完了した時点で必ず風量試験や漏洩試験、満水試験、通水試験などの性能試験を実施する。担当者は試験結果について、確認のために写真撮影し、試験条件等を記入した試験帳票を作成する。試験箇所が多数になると、帳票作成業務が膨大になる。
 
当社は3D-CADの属性情報を利用し。諸条件を入力するだけで簡単に帳票が作成できるシステムを運用している。現場事務所内での帳票作成業務の大幅な削減ができるとともに、試験結果を正確に記録することで品質確保にもつながる。
 

試験帳票1
試験帳票2

 
4)3次元計測
3次元空間の位置計測技術は近年、計測機器のコスト面および精度が大幅に向上し、実用レベルになった。当社ではトータルステーションおよびレーザースキャナーを活用、高精度な3次元モデルを作成して生産性向上を目指している。
 
現場における計測・墨出し作業は施工精度に大きく影響する重要な業務である。3次元モデルとモータードライブ型トータルステーションを連携させて、墨出し作業の精度向上と時間短縮を図ることができ、多くの現場で活用している(特許第5044596号)。
 

機器アンカー墨出しの様子
機器アンカー墨出しの様子
墨出しの様子
 墨出しの様子

 
改修工事において既存躯体や設備を3次元スキャナーで計測し、その点群データを3次元モデル化してプレハブ加工へ展開する取り組みを開始し、いくつかの現場で運用した。
 

3次元計測1
矢印
3次元計測2
矢印
3次元計測3

 
5)CFD解析
室内の気流や温度分布を予測する手法としてCFD解析が一般的になってきており、当社でも多くの実績がある。これまでは専用の解析ソフト上で計算モデルを入力していたため、対応物件が増加するとともに、入力担当者の負担が大きくなっていった。そこで、解析に必要な条件を3D-CADに入力することですぐに解析ができる機能を開発し、運用を開始した。解析のためにわざわざ計算モデルを入力する手間がなくなり、大幅な効率化が図ることができる。
 
CFD解析
 
6)現場のクラウド化
当社ではiPadを使ったクラウド型の施工管理システムを開発、運用を開始した。施工業務の大幅な効率化を目指しており、その一環として3DCADと連携し、生産性を高めるためである。iPad用のアプリは市販のものに独自の機能を加え、プライベートサーバーに保存した図面やさまざまな資料をパソコンとiPadで共有することができる。現場内で3次元モデルデータの確認や作業進捗の確認、さまざまなチェックに効果を発揮する。
 

iPadアプリ(Accel-Gear) 画面イメージ

iPadアプリ(Accel-Gear) 画面イメージ


 
7)FM管理
3Dモデルの資機材をデータベース化し、メンテナンス時期や消耗品の交換時期等を管理するFM管理について、試験的な運用を開始している。
 
FM管理
 
 
 
設備BIMの運用について現状と希望《その1》
設備BIMの運用について現状と希望《その2》
設備BIMの運用について現状と希望《その3》
設備BIMの運用について現状と希望《その4》
設備BIMの運用について現状と希望《その5》

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2013
特集「建設イノベーション!3次元モデリングとBIM&CIM」
建設ITガイド2013
 
 



設備BIMの運用について現状と希望《その3》

 

新菱冷熱工業株式会社 谷内 秀敬

 

改修工事におけるBIM運用事例

1)本社省エネeco化プロジェクト
当社は本社ビルの改修工事を決定し、建築設備のリーディングカンパニーとして技術力を結集させた「省エネ計画」を採用した。
 

本社改修工事用BIMモデル

本社改修工事用BIMモデル


 
本社ビル省エネ改修工事ではS-CADを活用し、モデリング計画、納まり計画、シミュレーション等を行った。これらのアイデア、技法を集約した設計を行って施工の見える化を意識し、「設計段階から各部の納まり、取り合い」を3次元で確認しながら設計図を作成した。この設計図データはそのまま施工担当者へ引き渡され、施工が行われている。
 

屋上設計モデル
屋上設計モデル
屋上施工モデル
  屋上施工モデル

 

事務所内設計モデル
事務所内設計モデル
事務所内施工モデル
  事務所内施工モデル

 
設計図からS-CADを用いることで、単線設計から複線の施工図を作成する作業を省くことができ、複線で事前検討された設計図をそのまま直接利用できる。これにより問題点が「見える化」「見せる化」され、その場で解決することができた。
 
2)日中友好会館
改修工事の設計提案に求められているのは、既存のシステムが設置されている現状を把握し、より高効率な運用が実現できるシステムを既存空間で実現する施工技術である。改修工事で課題を解決する手法としてS-CADを積極的に使った日中友好会館本館を紹介する。
 
この現場では、次の課題があった。
 
①短工期であること
 建物全体の熱源を、大幅なシステム変更を加えて更新することは、すなわち空調システムの停止を意味する。空調停止が可能な期間は、冷房と暖房を切り替える中間期に限定される。今回の空調停止期間は20日間であった。また施工業者決定から工事開始まで2カ月と二重の意味での短工期であった。
②施工空間に制限があること
 既存熱源システムは蓄熱水槽を備えた地下4階の機械室であり、冷却システムは屋上階地上80mにある。屋上階の冷却システム設置スペースへの搬入搬出の手段は、大型のレッカーを用いるほか術がない。しかも地下への搬入動線・経路が遮断されている。新システムの採用で分散された熱源を1カ所へ集約するため、別棟の語学学校と寮への主要熱源供給とする配管経路を新たに設ける必要があった。既存施設のさまざまな制限の中で、配管経路を短時間で決定しなければならなかった。それらの課題に対して、BIMを活用した情報共有に取り組んだ。
 

情報共有

情報共有は「周知」「課題解決」の観点で運用することが必要である。そこで、施工情報としてのS-CAD BIMモデルの格納フォルダを定め、情報共有関係者がアクセスできる仕組みを構築した。施設全体のBIMモデルを「工期別」「棟別」「階別」「工事種別」「その先」「施工手順別」「システム別」に定義したフォルダに、作業日の時間軸を加え管理運用した。
 
関係者には、どこに必要なデータがあるか、どのデータが関連付いているのかを周知。これにより最新データの管理を行え、関係者間で目的のデータを検索する時間を大幅に短縮し、「課題解決」に向けたスピーディな情報のキャッチボールを行えた。
 
「周知」方法は社内のさまざまな案件を誰でも理解できるように全社で標準化を促しており、工期途中に応援で参加する技術者も即情報共有の戦力となり得る環境となっている。このような決定されたことを正確に周知する情報共有の仕組みを確立した。
 

IPDによるコミュニケーション

情報が勝手に精度を高めていくことはない。情報は人が判断し選択するものであり、そのアシストをするのが情報技術であり施工情報である。施工図は人が作り上げていくものである。課題を解決するために考え出された概念に「IPD(Integrated Project Delivery)」というものがある。
 

IPD(インテグレート・プロジェクト・デリバリー)概念図

IPD(インテグレート・プロジェクト・デリバリー)概念図


 
これは、プロジェクト関係者が一堂に集まり、協力し合いながら合理的な計画・施工を進めていく体制である。この考えのもと、施主側も参加した定例会議において、BIMモデルを共有し課題を解決することができた。
 
会議中、われわれ施工者はBIMモデルを操作し、「課題解決」に必要な情報を参加者の要望に合わせて瞬時に提示していった。将来の完成形、地中の既設インフラ状況、複数の系統が交錯する熱源など「見えない」「見えにくい」設備性能に関わる空間情報を、関係者が「見たい」タイミングで「見せる」運用を実施したのである。
 

3次元計測トータルステーションの活用

「設備停止」「既存撤去」「新設機器据付」の工程は3交代24時間の作業である。夜間の作業において、正確な据付位置のマーキング作業に3次元計測トータルステーションを活用し、S-CAD BIMモデルと位置情報を連携させた。
 
居ながら改修工事では系統ごとに施工手順を工夫する必要がある。止水バルブを凍結工法で挿入するポイントをS-CAD BIMモデルで決定した。改修工事では既存の設備、新設する設備、再利用の方法、空間内に時間軸を持ったモデルを使うことで、工事順番の確認、仮設資材の手配や工事の過程を「見える化」することが有効である。「見える化」には「見せる化」とセットでフォローした。
 

時間ごとによる工種の見える化

時間ごとによる工種の見える化


 
計画段階ではわたりの冷温水、冷却水配管は地中ピット埋設ルートを予定していたが、地中障害の発見で施工が困難となってしまった。
 
既存地中鉄骨の回避検証

既存地中鉄骨の回避検証


 
暖房開始日までに設備を復旧させる計画は実現が危ぶまれたが、新たな配管設置方法として建築意匠と調和する架空計画を立案した。計画決定・施工までのコミュニケーションにBIMモデルを段階的に発展させ、意思決定を進めていった。
 
モデルの段階的発展による意思決定の促進

モデルの段階的発展による意思決定の促進


 
 
 

設備BIMの運用について現状と希望《その1》
設備BIMの運用について現状と希望《その2》
設備BIMの運用について現状と希望《その3》
設備BIMの運用について現状と希望《その4》
設備BIMの運用について現状と希望《その5》

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2013
特集「建設イノベーション!3次元モデリングとBIM&CIM」
建設ITガイド2013
 
 



設備BIMの運用について現状と希望《その2》

 

新菱冷熱工業株式会社 谷内 秀敬

 

設備BIM活用事例

1)生産空間
BIMの活用実例として、生産工場の新築現場でBIMモデルを運用した例を紹介する。延床面積9,300㎡のこの工場は、基礎工事開始から竣工まで約8カ月、その内実質の設備工程は3週間程度のプロジェクトであった。
 

設備工事 工程表

設備工事 工程表


 
超短工期の設備工程で工事を進めるためには、施主、ゼネコン、工事関係者間のさまざまな情報の共有および迅速な意思決定が必要であり、短工期であっても無理のない工事を行い、無事故で安全に工事を進めるため、工事工程の効率化および分散化を行う必要があった。これらを実現するために、この現場ではBIMを採用した。
 

BIM化=見える化

まず、約1週間程度でラフなBIMモデルを構築した。3次元のBIMモデルにより「見える化」が実現したため、2次元図面では「見える人にしか見えなかった」課題が、最初から関係者全員の共通認識となった。今までの2次元図面では難しかったが、BIMモデルによる空間の取り合い調整作業において、効率的に進めるための多くのアイデアが生まれた。
 
例えば、工事工程の工夫である。通常、設備工事は建築の躯体工事が完了してから行われる。しかしこの物件は、設備工事の実質工程が3週間ほどしか見込めなかったため、少しでも設備工事のピークを分散したかった。そこで生まれたのが、鉄骨躯体屋根工事完了後と床コンクリート工事開始の間にあるわずかなタイムラグに設備工事を先行するというアイデアであった。これにより天井内設備の8割を先行工事として完了することが可能となり、実質3週間だった工程を5週間に拡大することができたのである。
 

高所作業車を用いた作業
高所作業車を用いた作業
設備ルート確保のため床ピットを計画
 設備ルート確保のため床ピットを計画

 
また、この物件は生産工場のため、生産機械が多数設置される。中には設置実績のない生産機器もあり、必要とするレイアウト空間が不明な機器も存在した。
 
機能的な機器のレイアウトや多様な各種専門設備との取り合いは、精度の高い生産空間を実現するために非常に重要な要素である。専門家にしか分からなかった従来の2次元図面とは違い、「見える化」されたBIMモデルは、容易に空間を把握できるため、施主、工事側の意思疎通がスムーズになり、意思決定、合意形成が迅速に行われた。
 
一般的に、変更事項はその決定が遅れるほどコスト増や品質低下を招くが、この現場では合意形成が迅速に行われたため、精度の高い生産空間を提供することができた。当初構築したラフなBIMモデルは、関係者との調整や打ち合わせを重ねるに従い、徐々にその精度を上げていった。
 
次の段階では、ラフモデルをベースとした調整から、「当初天井レベルにあった生産冷却系配管を床レベルに変更する」など、さまざまなアイデアが提案され、多くの変更事項がBIMモデルに盛り込まれていった。提案と意思決定が迅速に行われるため、変更事項の多さが工事工程を圧迫することなくプロジェクトを進めていくことができた。
 

搬入計画 3Dモデルによる周知
搬入計画 3Dモデルによる周知
搬入作業 実施
 搬入作業 実施
搬入計画 作業者への説明資料
 搬入計画 作業者への説明資料

 
また、これら3次元CADデータを活用し、搬入(重機使用による楊重作業)の事前検討や、より良い搬入計画書の作成と施主、施工関係者への周知にも役立てられた他、超短工期にも関わらず、無事故無災害で精度の高い生産空間を提供できた。
 
BIMモデルの構築は、2次元の図面を作成することに比べれば、確かに手間が増えることは否定できない。時には自分達の工事区分だけでなく、他工種の工事区分範囲の入力が必要な場合も多い。しかし、BIMモデルは関係者への趣旨説明、合意形成、周知確認にかかる時間を短縮でき、新しいアイデアが提案され、関係者のコミュニケーションを円滑にすることで、プロジェクトの進行をスムーズにする。BIMは施主の高い要求に答えるために必要なツールなのである。
 

設備機器レイアウト設計 天井配管
設備機器レイアウト設計 天井配管
設備機器レイアウト計画 床支持配管
 設備機器レイアウト計画 床支持配管

 
2)生産空間コンポジット
空調設備業者の先端施工技術が投入される建物用途として医薬品製造施設、実験施設等がある。それらは一般ビルの建築設備に比較して多くの用途の管路が交錯し、なおかつ製造施設の生産プラント配管等が加わる。各工事区分の2次元の設計図面を基に統合調整を行うのだが、着工したばかりの現場ではその調整に多くの労力が費やされることになる。
 
そこで当社では、S-CADの軽快な参照機能による課題の絞込み・属性連携による判断基準の見える化を駆使して空間コンポジットを行った。コンポジットとは複数のものを組み合わせ、それぞれ単独では得られない特性を獲得することである。
 

課題解決に向けた具体的手法

7,100坪 工期13カ月の医薬工場であるが、課題として工場着工時における施工情報の構築・全体最適を実現することが求められた。ただし生産設備周りの空間調整は専門メーカーの範疇であり調整範囲外である。
 

BIMコーディネータによるスペースマネジメント

BIMコーディネータによるスペースマネジメント


 
①運用目的を設定した組織構築+ITインフラ整備
 短期に全体調整するマネジメント組織権限の付与とともに情報共有ネットワークを敷設した。
②関係者に対するITツール教育
 情報の欠損・遅れ・後積みの存在しないルール、ネットワーク運用教育。
③調整会議や情報交換ツールによるコミュニケーション機会の設定
 情報は自動的に進化していかないことを踏まえ、チェックポイントを設定して情報を重ね合わせることで全体における各々の位置を確認し、フィードバックすることを実施した。
④施工情報の構築、進捗工程の管理、情報精度の管理
 情報で大切なことは時間軸が揃っていることである。タイムリーな情報共有、鮮度の高い情報を構築することで無駄なモデル入力を極力しないことを徹底した。
⑤課題解決に必要な見える化作業
 専門技術者であってもITツールとしてのBIMを操作することはスキル習得まで時間を要する。3DPDFモデルの運用で簡単な情報共有を実現した。
⑥スプール図作成・施工図の完成に向けた調整
 施工情報として施工に引き渡す情報が「製作図としてのスプール図・施工図」である。支持金物やメンテナンススペースも含めた調整を再度実施した。
 
以上を短期間のうちに行った。従来の2次元データによる調整であれば6カ月かかる作業を、わずか3カ月で実現することができた。
 
課題を抽出し優先度を判断し、解決に導く選択肢を提示することはBIMの優位点であるが、判断するエンジニアが判断スキルと全体における位置を把握しないままでは、課題解決に至らなかったであろう。
 

多くの干渉が見られる
多くの干渉が見られる
BIM運用で解決
 BIM運用で解決

 
設備エンジニアリング会社としての技術力とBIMのもたらす課題解決の選択肢提示力がマネジメントによって有効に進められた案件である。
 

空間最適化が可能なスペースマネジメント

空間最適化が可能なスペースマネジメント


 
 
 

設備BIMの運用について現状と希望《その1》
設備BIMの運用について現状と希望《その2》
設備BIMの運用について現状と希望《その3》
設備BIMの運用について現状と希望《その4》
設備BIMの運用について現状と希望《その5》

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2013
特集「建設イノベーション!3次元モデリングとBIM&CIM」
建設ITガイド2013
 
 



設備BIMの運用について現状と希望《その1》

 

新菱冷熱工業株式会社 谷内 秀敬

 

はじめに

新菱冷熱工業株式会社は、空調・衛生を中心とした建設設備施工において、環境との共生を命題に企業活動を行っている。建築設備業界は建築物が高機能化・高層化・複雑化するに伴い、建築設備も建築主や施設利用者から求められる機能・居住性に対応できるよう、設計技術・施工技術を磨いてきた。
 
施工技術に、情報として図面は必須コミュニケーションツールである。図面構築手段が手書きからCADに変わり、現在ではモデル形状にさまざまな属性情報を付加して解析・シミュレーションまでが可能となった3次元オブジェクトCADやBIM対応CADが主流になってきた。
 
当社は、1990年代後半から3D-CADの研究開発を行い、現在、全国の事業所においてS-CADというBIMツールを運用展開している。現行の建設業界のワークフロー中でBIMをどのように設計・施工業務に取り込み活用できているのか、また将来にわたって建設マーケットの中で新たな価値を創出するために何を実践していくのか、設備BIMを運用している施工会社の視点から報告する。
 

新菱冷熱工業におけるS-CADの活用範囲

新菱冷熱工業におけるS-CADの活用範囲


 
 

BIM・ICTを活用

近年、建築物に要求される高い性能への対応に加えて、短工期・低コストの要求も厳しくなる一方、業界の人的資源の構造として、2次元図面を正確に読み書きできるエンジニアが減少している。現場をよく知る経験者は退職して空洞化が起き、技術の伝承が課題となっており、例えばさまざまな施工情報の受け渡しなどに苦労することが多い。結果として上流フェーズにおける曖昧な点や潜在的な課題が下流フェーズで発覚したり、要件と異なる施工を行ってしまう原因となっている。
 
要件と異なるということは手直しが発生するということである。上流側の意思決定の遅れや設備要望のフィードバックの遅れは結果として、下流工程である設備設計・施工に無理な工程や手戻り作業を押し付ける要因となっているともいえる。
 
設備は建物の付帯という立ち位置でもあり、建設業の重層構造の中ではゼネコンの下請も多くを占め、施工情報としては下流フェーズとなる。しかし、情報が下流であっても、「早く」「品質良く」「低コストで」の3つが実現されなければならない。
 

ICTを使う目標

ICTを使う目標


 

BIMが建築ライフサイクルの中心に

大規模ビルや病院、電算機センターなどの建築物において、もし設備に不具合があればその安全性や機能性が大幅に低下し、建物自体が全く機能しなくなる状況になる。
 
それらの問題に対処することは、現在のICT技術やBIMシステムであれば可能となってきた。図面情報を読み解く技術のない人でも、3Dモデルを見れば問題や疑問点を提示できる。モデルに技術情報が付加されれば、施工や施設管理でも情報を活用できる。
 
設計フェーズにおいて図面だけでなく「形状と属性」を作成し、次の工程へバトンタッチ(継承)できるBIMが、今後の建築ライフサイクルの中心となるであろう。
 
設計フェーズの設備BIMはいまだBIM運用の有効性の域まで踏み込めていない現状ではあるが、当社では受注後の現場でBIMを使い、「早く」「品質良く」「低コストで」を実現している。
 
 

建築業界での立ち位置と現状

設計におけるBIMでは、成果物が設計図・設計図書の2次元情報であり、建物の性能要求を取りまとめ、設計図書を作成するためのツールといえる。これまでの2DCADは、モデル形状+属性情報を併せ持つ「3DオブジェクトCAD(BIM)」に進歩し、これを運用する概念として「フロントローディング」が提唱されている。
 

建築業界全体の中で設備計画の果たす役割

一般的に、設備は建築の付帯物と考えられており、「建築が先行、設備はその後」という工程のため、常に建築が先行しなければ設備は手出しできない。しかし、建物工事全体を考えた場合、上流側の意思決定の遅れや設備要望のフィードバックの遅れは結果として、下流工程である設備設計・施工に無理な工程や手戻り作業を押し付ける要因となっている。設計のフェーズであれ、施工のフェーズであれ、情報の下流という立場や建築業界の重層構造の中での設備設計施工は下請けというポジションであり、それが故に設備設計施工エンジニアは工夫を重ねてきた。
 
だからこそ今、BIMの潮流の中で設備設計エンジニアの参画を望む声が多く聞かれる。設備情報のフィードバックなくしてBIMの成功はなし得ない。設備の果たす役割が、BIM全体の成果に大きく影響を与えるからである。
 
「耐震偽装問題」に端を発して、建築基準法をはじめとする建築関係制度の見直しがなされ、建築確認申請の際、設備と建築の整合が図られることが半ば必須となってきた。建築意匠構造の構築された3次元モデルが不整合とならないよう、建築設備技術者も後施工の設備情報によって前工程への参加が求められているのである。
 

BIM属性CAD運用による設計業務

BIM属性CAD運用による設計業務


 
「企画1年・設計1年・施工1年・維持管理30年」という建物のライフサイクルの中で、設計施工の時間は一瞬に過ぎない。しかし建築設備は、ライフサイクルの中で幾度も改修・更新が施される。設計段階で属性情報を3次元モデルとともに付加することで、設備管理帳票とリンクした効率的でリスクを低減できる運営管理と、耐久年数による消耗機器の交換サイクルを「見える化」した「建物の価値の見える化」を実施できる。さらに建築設備改修計画の計画性の透明化を図り、ビルオーナーにビル資産価値の進行形を視覚的に提供する。設備の果たす役割は断片的な情報連携の一部分を担うだけにとどまらず、情報付与エンジニアとして業界に果たす役割は大きくなると考えられる。
 
次項から、設備BIMを活用した具体事例を紹介する。
 
 
 
設備BIMの運用について現状と希望《その1》
設備BIMの運用について現状と希望《その2》
設備BIMの運用について現状と希望《その3》
設備BIMの運用について現状と希望《その4》
設備BIMの運用について現状と希望《その5》

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2013
特集「建設イノベーション!3次元モデリングとBIM&CIM」
建設ITガイド2013
 
 



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