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書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。

国土交通省が推進するインフラ分野のDX

2022年8月25日

はじめに

わが国は、現在、人口減少社会を迎えており働き手の減少を上回る生産性の向上などが求められている。
そこで、国土交通省では、2025年度までに建設現場の生産性を2割向上することを目指して2016年度より「i-Construction」の取り組みを推進している。
具体的には、①建設現場において調査・測量、設計、施工、検査などのあらゆる建設生産プロセスにおいてICT(情報通信技術)を活用すること(図-1)、②設計、発注、材料の調達、加工、組立などの一連の生産工程や、維持管理を含めたプロセス全体の最適化が図られるよう、全体最適の考え方を導入し、サプライチェーンの効率化、生産性向上を目指すこと、③国債などの活用により年度末に集中する工事量を平準化することをトップランナー施策として推進する他、BIM/CIMなどの3次元データの利活用促進や「i-Construction」を推進するための広報など、建設現場の生産性を向上させるためのさまざまな取り組みを推進してきた(図-1)。
 
また、今般の新型コロナウイルス感染症を踏まえ、政府を挙げたデジタル社会への変革が求められる中、国土交通省においてもデジタルを積極的に活用し、これまでの建設現場の生産性向上はもとより職員自身の働き方改革なども含めたインフラ分野のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を推進しているところであり、建設ITガイド2021に掲載された拙稿にてその取り組み状況を紹介した。
 
本稿では、その後の進展などを含めた、国土交通省におけるインフラ分野のDXに関する最新状況を紹介する。

建設生産プロセスを3次元でつなぐ

図-1 建設生産プロセスを3次元でつなぐ



 

インフラ分野のDXの取り組み状況(令和2年度)

インフラ分野のDXの加速化に向け、国土交通省では、省横断的に取り組みを進めるべく、「国土交通省インフラ分野のDX推進本部」を令和2年7月29日に設置するとともに、第1回本部会議を開催した。
その後、令和2年10月19日に第2回本部会議、令和3年1月29日に第3回本部会議を開催した。
 
第2回本部会議では、インフラ分野のDX施策概要を議論し、その中で、大きく4つの方向性で取り組みを推進することとした。
 
1点目は、「行政手続きや暮らしにおけるサービスの変革」である。
これは、デジタル化による行政手続きなどの迅速化や、データ活用による各種サービスの向上を図る取り組みである。
具体的には、特殊車両通行手続きなどの迅速化や港湾関連データ基盤の構築等による行政手続きの迅速化に加え、ITやセンシング技術などを活用したホーム転落防止技術の活用やETCによるタッチレス決済の普及などに取り組むこととしている(図-2)。

行政手続きや暮らしにおけるサービスの変革

図-2 行政手続きや暮らしにおけるサービスの変革

 
2点目は、「ロボット・AI等の活用で人を支援することによる、現場や暮らしの安全性の向上」である。
これは、ロボットやAIなどの活用により危険作業や苦渋作業の減少を図るとともに、経験が浅くても現場で活躍できる環境の構築や、熟練技能の効率的な伝承などに取り組むこととしている。
具体的には、無人化・自律施工による安全性・生産性の向上やパワーアシストスーツ等による苦渋作業の減少による安全で快適な労働環境の実現、AIなどによる点検員の判断支援やCCTVカメラ画像を用いた交通障害自動検知等によるAIなどを活用した暮らしの安全確保、人材育成にモーションセンサーなどを活用するなど熟練技能をデジタル化した効率的な技能習得などの取り組みである(図-3)。

ロボット・AI等の活用で人を支援することによる、現場や暮らしの安全性の向上

図-3 ロボット・AI等の活用で人を支援することによる、現場や暮らしの安全性の向上


 
3点目は、「デジタルデータを活用した仕事のプロセスや働き方の変革」である。
これは、調査・監督検査用務における非接触・リモートの働き方の推進や、データや機械の活用により日常管理や点検の効率化・高度化を図る取り組みである。
具体的には、衛星を活用した被災状況把握等による調査業務の変革、画像解析や3次元測量などを活用した監督検査の効率化やリモート化に加え、AI活用や技術開発により点検・管理業務の効率化などを図る取り組みである(図-4)。

デジタルデータを活用した仕事のプロセスや働き方の変革

図-4 デジタルデータを活用した仕事のプロセスや働き方の変革



 
4点目は、「DXを支えるデータ活用環境の実現」である。
これは、スマートシティなどと連携し、データの活用による社会課題の解決策の具体化に加え、その基盤となる3次元データの活用環境を整備する取り組みである。
具体的には、都市の3次元モデルを構築し、各種シミュレーションによるユースケースの開発に加え、データ活用の共通基盤となる位置情報の基盤整備、さらには3次元データの保管・活用や通信環境の整備などを進める取り組みである(図-5)。

DXを支えるデータ活用環境の実現

図-5 DXを支えるデータ活用環境の実現



 
第3回本部会議では、インフラ分野のDX施策概要のそれぞれに紐付く個別施策の整理や将来的な取り組みの方向性を議論し、それに基づき、令和3年2月9日にインフラ分野のデジタル・トランスフォーメーション(DX)施策を公表した(図-6)。

インフラ分野のデジタル・トランスフォーメーション(DX)の概要

図-6 インフラ分野のデジタル・トランスフォーメーション(DX)の概要



 
 

インフラ分野のDXの取り組み状況(令和3年度)

さて、上述の通り、インフラ分野のDX施策を公表したところであるが、令和3年度からは、それをより具体的に進めるべくアクションプランの策定に着手することとした。
また、国土交通省の内外に「インフラ分野のDX」をより分かりやすく説明するため、その概要をあらためて整理した。
 
まず、「インフラ分野のDX」とは端的に言うと、「デジタル技術の活用でインフラまわりをスマートにし、従来の『常識』を変革」する、ということとした。
また、具体的な施策を「手続きなどいつでもどこでも気軽にアクセス」「コミュニケーションをよりリアルに」「現場にいなくても現場管理が可能に」の3つの観点から整理した(図-7)。

インフラ分野のデジタル・トランスフォーメーション(DX)の概要

図-7 インフラ分野のデジタル・トランスフォーメーション(DX)の概要



 
その3つについて、以下で具体的に述べる。
 
まず1点目の「手続きなどいつでもどこでも気軽にアクセス」であるが、これはインフラに関係する諸手続きやサービスについて、その利便性向上を図るもので、例えば、特殊車両通行手続きの効率化や民間事業者・港湾管理者における手続きの効率化・非接触化、高速道路やその他多様な分野におけるETC等によるキャッシュレス化・タッチレス化などが挙げられる。
 
次に2点目の「コミュニケーションをよりリアルに」については、対象者の内外を問わず、より理解しやすいコミュニケーションを図るもので、例えば、水害リスク情報の3次元での提供によるリアルに認識できるリスク情報の提供や、官庁営繕事業におけるBIM活用などが挙げられる。
 
続いて3点目の「現場にいなくても現場管理が可能に」であるが、これは本誌の読者であれば容易に理解できるであろう。
すなわち、従来から進めている建設現場の生産性向上を図る取り組みである「i-Construction」に包含されるICT施工について、そのさらなる拡大、といったイメージとなる。
具体的には、受注者・発注者を問わず、建設現場の省人化や効率化のさらなる追求を図るものであり、例えば建設施工における自動化・自律化の促進やAI・ICT・新技術の導入による道路の点検・維持管理の高度化・効率化などが挙げられる。
 
また、上記3つの観点に加え、位置情報の共通ルール(国家座標)の推進やDXデータセンターの整備などといった、「インフラ分野のDXを支える仕組みや基盤の整備」も重要である。
 
令和3年11月5日に開催した第4回国土交通省インフラ分野のDX推進本部会議では、上記の「インフラ分野のDX」の概念について認識共有をするとともに、主な施策の進捗紹介や、年度内のアクションプラン策定に向けた今後のスケジュールについて議論を行った。

 
 

事例紹介(DXデータセンター、国土交通データプラットフォームの構築)

それぞれのDXに関する取り組みを推進することは重要であるが、こうした取り組みで得られたデータなどの利活用促進や、データを連携し横断的に活用することにより新たな価値を創造していくことも重要な取り組みである。
その事例を紹介する。

①DXデータセンター

国土交通省では、2023年度までの小規模なものを除く全ての公共工事でBIM/CIMを原則適用する予定であり、調査・計画・設計・施工・維持管理の一連のプロセスにおいてBIM/CIMなどの3次元データを積極的に活用していくことを目指している。
各事業段階でBIM/CIMを活用していくためには、調査・計画・設計の段階からBIM/CIMを導入し、その後の施工・維持管理の段階においてもBIM/CIMを連携、発展させ、事業プロセス全体にわたって関係者がBIM/CIMを活用して情報共有を行うためのシステムを構築する必要がある。
また、このシステムを利用してBIM/CIMなどの3次元データを活用していくためには、大容量データの蓄積、表示、編集、受け渡し、検索などを円滑に行えることが不可欠である。
そこで、国土技術政策総合研究所では、BIM/CIMなどの3次元データを一元的に保管し、活用するためのシステムとして、DXデータセンターの構築を進めている。
 
DXデータセンターの構築により、国土交通省の直轄事業の業務や工事で作成されるBIM/CIMを一元的に保管し、保管したデータの表示や検索、BIM/CIMを共有したWEB会議などを行うことが可能となる。
今後は、施工管理と検査、構造物点検、災害対応などの現場においてBIM/CIMをさらに広く活用できる環境を整備するために、現場で使用するタブレット端末などを介してDXデータセンターに接続し、BIM/CIMを容易に取り扱うことができるアプリケーションソフトを開発し、実装していく予定である。

②国土交通データプラットフォームの構築

上記BIM/CIMなどの3次元データを含む各種データを連携する基盤として、「国土交通データプラットフォーム」の構築にも取り組んでいるところである。
これまで、国・地方自治体の保有する橋梁やトンネル、ダムや水門などの社会インフラ(施設)の諸元や点検結果に関するデータ約8万件、全国のボーリング結果などの地盤データ約25万件、平成30年度の発注の直轄工事のBIM/CIMデータ10件と3次元点群データ約570件、地方公共団体の電子納品データ約200件、さらに、全国幹線旅客純流動調査のデータや浸水想定区域などの防災に関するデータなどの表示・検索・ダウンロードが可能となっている。
 
今後は、3次元データを含む電子成果品のほか、他省庁や民間、地方公共団体などが保有するデータとの連携拡大に取り組んでいく予定である。

 
 

おわりに

本稿では、国土交通省が推進しているインフラ分野のDXの取り組みについて紹介した。
新型コロナウイルス感染症の発生を契機に時代の転換点を迎える中、陸海空のインフラの整備・管理により国民の安全・安心を守るという使命と、より高度で便利な国民サービスの提供を担う国土交通省が、学界や民間と連携・協調を図りつつ、インフラ分野のDXの先導役を果たしていきたいと考えている。

 
 

注意)
本稿は執筆時点(令和3年11月中旬)での情報である。
インフラ分野のDXの最新状況については、国土交通省HPなども適宜、参照されたい。

 
 
 

国土交通省 大臣官房 技術調査課 建設情報高度化係長
小泉 陽彦

 
 
【出典】


建設ITガイド 2022
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド_2022年

最終更新日:2023-07-14



 


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