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書籍版「建設ITガイド」に掲載した特集記事のバックナンバーです。

課題解決に向けたBIM活用の取り組み

2021年9月27日

 

はじめに

日本郵政グループでは、数千を超える施設を所有している。内訳としては約95%が郵便施設であり、その他にはオフィスビル、宿泊施設、集合住宅(社宅)、データセンターと多岐にわたっている。日本郵政施設部は、持株会社である日本郵政株式会社内の一級建築士事務所として、郵政グループ所有施設の企画・設計から工事発注・工事監理、維持・保全、中長期保全計画の策定までを業務の対象とし、いわば建築物のライフサイクル全般にわたる業務を行っている。
本稿では、これまでのBIMへの取り組み状況と、インハウスの設計事務所として発注者に寄り添った視点からのBIMの活用方法について紹介する。
 
 

BIMの導入

日本郵政グループは、2012年の東京駅前JPタワーを皮切りに不動産事業を経営の柱の一つとして力を入れ始め、駅前にある比較的規模の大きな郵便局、社宅跡地などを対象とし、コンバージョン・建て替えなどの不動産施設を再活用する検討を開始した。
 
弊社ではそれら多数の検討案件に対応するため、企画提案の可視化や比較、容積率や法規などの技術的なチェックに適したBIMソフトウエアを導入することとし、2014年度よりBIMの活用検討を開始した。具体的には、検討する内容を「部内の活用・普及促進」、「ソフトウエア間の連携」、「ガイドライン作成」、「維持・保全業務に活用する手法」の4つのパートに分け、設計、工事監理、維持保全の各部署において検討を進めた。
 
またBIMソフトウエアの選定条件としては、容積率等の法規チェックの機能があること、さらに基本計画まで作成ができること、BIMに不慣れな社員でも直感的に操作できること、などが挙げられた。
 
国内外の複数のソフトウエアを検証した結果、国内法規対応に優れ、容積率チェックも比較的容易に行うことが可能な福井コンピュータアーキテクト株式会社の「GLOOBE」を採用することとした。
 
以来、福井コンピュータアーキテクト社には、新入社員のBIM研修や、新機能の説明会の実施、また、実装してほしい機能についての要望・提案を行い、国内のソフトウエアならではのきめ細かいサポートを頂いている。

 
 

BIMの活用方針

BIMの特徴と弊社の業務範囲を踏まえ、新築設計時とファシリティマネジメントの2分野に対し、それぞれBIMの活用方針を掲げることとした。特にファシリティマネジメントの分野では、BIMモデルの属性情報をデータベースの一つとして位置付け、各種のファシリティマネジメントツールと連携させることで、紙図面と設備機器台帳で行っている従来の維持管理業務をデジタル化し、BPRを進め、業務の高精度化と高効率化の検討を行うこととした(図-1)。
 

図-1 BIM活用の方針




 

設計上の課題と解決策

(1)設計プロセスの変化

新築プロジェクトの企画からBIMにより設計を進めるプロセスは、今までのCADによる2次元での設計プロセスとは大きく異なることが分かった。
 
BIMによる設計では、企画の初期段階からある程度の精度を持った3次元モデルを作成するため、設備スペースやダクトルートの確保等、従来よりも早い段階から設備担当を巻き込んだフロントヘビーな業務にならざるを得ない。従来の設計プロセスに合わせて組織した人員配分のままプロジェクトを進捗させた場合、初期段階の設計時間が増大し、意匠設計者以外の社員に大きな負荷がかかることとなった(図-2)。
 

図-2 設計ツールの変化による設計プロセスの違い(イメージ)




 

(2)BIMモデルの詳細度

いくつかの新築案件でBIMモデルを企画・設計の初期段階から試行作成した結果、設計進捗の各段階においてBIMモデルに求められるデータ量および種類が異なることが判明した。よって、それぞれの設計段階における入力データ詳細度とデータ分類の整理が必要なことが分かった。
 

(3)課題の解決策

フロントヘビーの問題は、それと引き換えに享受できるメリットも大きいことが分かった。
 
①法令規制内のボリューム検討、複数プランの作成と概略コストの比較、完成イメージなどがおのおの連動した形で可視化され、発注者とのイメージ共有が早期に可能な分、意思疎通不足による後戻りが少なくなり、迅速な関係者間の合意形成・意思決定がなされた。
 
②意匠・構造と設備の調整が上流段階で整理がつくため、基本設計以降の調整がスムーズに移行するなど、従来の設計手法では下流側で明るみになるようなメンテナンスを含む設備スペース確保などの諸問題を初期段階で解決でき、プロジェクト全体における検討時間の余裕が生まれ、より品質の高い設計となった。
 
問題の解決としては、設計プロセスの変化に追従する形で、設計に携わる社員に対し全体最適への理解を求め、組織形態を徐々に変化させていくこと。また、実践には時間を要するが、将来的にはOne Modelによるコンカレントエンジニアリングを実現し、多様なワークスタイルを取り入れ、効率の良い設計業務体制を確立したいと考えている。

 
 

維持管理上の課題と解決策

(1)維持管理で使用するBIMモデルの課題

いくつかの新築物件において、維持管理で使用するBIMモデルを作成するプロセスを試行した。設計BIM・施工BIMをもとに、施工段階で変更される建具位置や取り合い、メーカー、仕様、機器型番等、維持管理に役立つと考えられる情報を維持管理用BIMモデルへ入力したところ、情報量が過多となり、起動に時間がかかることに加え、スムーズに欲しい情報にたどり着かない「維持管理業務に使えないBIMモデル」となってしまった。そこで設備機器の表現や曲面部分を簡素化するなど、維持管理上では不要な部分の簡略化を試みたが、実質的にモデルの作り直しになってしまい、非常に時間と手間がかかった。
 
この教訓から、維持管理で使用するBIMモデルは、「維持管理に使う」という目的を明確にし、モデルをどのように作り、どのような情報を持たせるのか、作成初期から決める必要があることが分かった。また維持管理業務は、BIMモデルが手元に存在しない現状でもビジネスとして成立しており、BIMモデルが追加導入されることで、モデルの構築費など、その投資に見合うだけの業務品質の向上・省コスト化が図れるのか、という問題も挙げられた。
 

(2)課題の解決策

①情報レベルの明確化
維持管理業務で必要となる設備機器表、中長期保全計画の策定、改修工事プランの策定など、おのおのの業務目的により必要なBIMデータの詳細度が異なること、また、建物の種類により必要な部材・設備項目が異なることから、「目的」、「建物種類」、「情報が必要なタイミング」の観点で、モデルに搭載すべき「BIMモデル搭載情報(150項目程度)」を整理した。
 
この150項目は、施設を問わず共通的に使われる基本的な部材・設備であり、設計から維持管理業務まで現状の業務で使用する情報になるため、業務遂行のための最低限必要な情報として、設計BIMモデルの段階からジェネリックモデル等の簡易モデルとして表現するルールとした。
 
その後、施工段階で建築部材、設備メーカー等の仕様が決定された際、BIMモデルへ部材情報を付加することにより、実際の建物とBIMモデルの情報が合致し、完成後の維持管理業務で生かされることになる。
 
一方、150項目以外の情報は、施設の特徴や目的に合わせ、適宜追加するオプション情報の位置付けとし、必要に応じ項目数を増やすこととした(図-3)。
 

図-3 BIMモデル搭載情報の例




 
②FM-BIM®モデルの定義
BIMモデルの使用を設計から維持保全業務まで拡大すること、使用する端末上でストレスなく動作することを目的として、上記の「BIMモデル搭載情報」に従い、維持保全業務に必要十分なデータ詳細度に抑えたFM-BIM®モデルを定義した。
 
前述の「BIMの活用方針」を時系列的に表したイメージグラフ(図-4)をもとに、FM-BIM®モデルの作成手法とメリットを以下に示す。
 

図-4 JP-BIM®モデルの定義




設計時のBIMモデルを有効に活用するため、設計が進捗し、実施設計時点のある地点から発注コスト算出用とは別に、維持管理に使用するモデルとしてBIMモデルを分岐・派生させておく。そして施工段階で決まる建設情報のうち、維持管理業務に関連する情報をFM-BIM®モデルへ付加する。竣工後は、このFM-BIM®モデルを活用し、維持保全業務を行うこととする。この作成手法により、設計段階から維持管理段階へ途切れなくBIMモデルを活用でき、維持管理用BIMを新たに構築する手間・コストが縮小される。
 
 

検証

(1)維持管理用BIMモデル検証

2018年度より、上記に示す維持管理で使用するBIMモデルの課題について各種検証に取り組んでいるが、2020年6月に国土交通省が主催する建築BIM推進会議における「令和2年度 BIMを活用した建築生産維持管理プロセス円滑化モデル事業」の一環である連携事業に、「維持管理BIMモデルの維持管理業務への効果検証・課題分析」と題し、参画している。
 
本事業における検証のポイントは、①既存建物の維持管理用BIMモデルの提案、②維持管理業務へのBIMモデル活用検証、③維持管理業務を行う際の「使いやすいBIM」にするためのBIMモデル構築ルールの策定、という3点である。
 
築45年を経過している事務所ビルを題材として検証しており、いずれのポイントも維持管理業務にBIMモデルを導入する際の課題解決策として、建物を複数所有されている企業や団体がBIMを導入・活用する際の参考になると考える(図-5)。
 

図-5 国土交通省モデル事業(連携事業)の概要



(2)データ連携

今回の連携事業で力を入れている項目は、BIMモデルの格納情報と中長期保全計画の連携である。
 
維持管理用BIMモデルに搭載した情報から、仕様および数量データを抽出し、中長期保全計画策定ツールへ情報を取り込むことで、精度の高い中長期保全計画を策定できると考えている。
 
BIMモデルの各種データを中長期保全計画策定ツールへ取り込む際、中長期保全計画の各項目に、BIMモデルのデータを適切な単位と部材の組み合わせで取り込めるよう、BIMモデルの部材情報と中長期保全計画の項目とをひも付ける辞書(BIM-FMコンバートツール[(株)FMシステム])を用意し、自動的にBIMモデルの部材・数量情報が中長期保全計画策定ツールへ取り込めるようにした。連携の仕組みを示す(図-6)。
 

図-6 BIMモデルとFMツールの連携の仕組み



2020年10月の時点では、建物基準階部分の建築・電気設備・空調衛生設備統合モデルの作成と同時に、刊行物単価を参考にした単価一覧表データを作成している。この部分的なBIMモデルを用い、BIM-FMコンバートツールにて連携IDで突合し、単価・数量一覧の精度を検証したところ、比較的良い数値が出ており、年度末の報告に向け、全体的なBIMモデルにて検証を行う予定である。

 
 

さいごに

BIMを導入し6年が経過したが、ようやく社内的にも若い世代を中心に理解と習熟が進み、「まずはBIMでモデルを作ってみる」、「BIMの方が事業者との合意形成が早い」というような声が聞こえてくるようになった。また、国土交通省連携事業への参画は、ファシリティマネジメント分野のBIM活用の事例として注目される良いきっかけとなっている。
 
新築案件へのBIM活用はもとより既存建物へのBIM活用に対し、若い世代のマインドチェンジと国土交通省の連携事業の成果をうまく軌道に乗せ、将来的には数千を超える施設ごとに作成したFM-BIM®モデルを維持保全に活用し、既存建物への付加価値向上と維持保全業務の効率化を目標としたい。
 

日本郵政株式会社 施設部 担当部長 土田 真一郎

 
 
【出典】


建設ITガイド 2021
BIM/CIM&建築BIMで実現する”建設DX”
建設ITガイド_2021年


 
 
 



 

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