3D地図データ「3D都市モデルデータ」

株式会社アドバンスドナレッジ研究所
所在地:東京都新宿区
設立年:1998年
資本金:1,500万円(2021年11月現在)
従業員数:20人(2021年11月現在)
事業内容:熱流体解析ソフト「FlowDesigner」
の開発・販売、気流・温熱環境の解析コンサルティング
(左) ソリューション技術部 部長 黒岩 真也氏
(中央)ソリューション技術グループ 主任 蕪木 智弘氏
(右) ソリューション技術グループ 大塚 悟史氏
アドバンスドナレッジ研究所のFlowDesignerは、使いやすいインターフェースと、高速かつ安定性の高い計算ソルバーで、建築関係者から高い支持を得てきた。
さらに2016年からはゼンリンと連携し都市空間を広域で捉えたシミュレーションがより手軽にできるようになった。
シミュレーションに必要な建物の正確な3Dデータを取り込めるようになり、工数・コストが大幅に低減。BIMデータや大規模な3次元データを活用したシミュレーションは、大きな反響を呼んでいる。
3D都市モデルデータを採用した経緯とその使い勝手を、同研究所の黒岩氏に聞いた。
風を考慮した設計を容易にする熱流体解析ソフトウエア
アドバンスドナレッジ研究所は1998年の創業。
もともと大手電機メーカーで空調を設計していた創業者が、使いやすい熱流体シミュレーションソフトがないことから、自前で開発することを決意して独立した。
「熱流体解析は、流体力学や熱力学などの物理と複雑な計算処理を伴います。これまでも解析ソフトがなかったわけではないのですが、研究者なら使いこなせても、建築士やデザイナーが使うにはハードルが高いものでした」とソリューション技術部長の黒岩真也氏は語る。
2003年にリリースされたFlowDesignerは、使いやすさが大いに評価され、右肩上がりで利用者が増えているという。
BIM元年といわれた2009年からは、CADデータを取り込んでより詳細な形状を生かしたシミュレーションが行えるようになり、設計のアイデア検証に大いに役立てられてきた。
またアドバンスドナレッジ研究所自身も1ユーザーとしてFlowDesignerを使用しており、シミュレーションにハードルを感じている建築関係者への、解析コンサルティングにも携わってきた。
「都市を拭きける風をシミュレーションしたい」
もっとも、風の動きは複雑だ。
建物に取り込まれる風は、外的環境によって大きく変わる。
天気予報で北風が吹くと言っていても、近隣の地形や隣接する建物によっては、風が回り込んで南から吹いてくることもあり、正確に状況を把握するためには、広域で風の動きを捉えることが求められる。
実際、同社に寄せられる要望にも都市空間全体で風を検討したいという声が増えているという。
だが、操作性の高いFlowDesignerをもってしても、当時そのシミュレーションは容易ではなかった。
「従来、広域でのシミュレーションをお引き受けすると、街の地図データを手書きで作成する必要がありました。国土地理院で公開されている地形データの上に建物の形状を描き、インターネットの地図サービスとにらめっこで標高データをとって高さを出す。連日1,000棟余り描いて、ようやく街のモデルが出来上がっても、人の手によるものですから、ミスはつきもの。体力も神経も消耗する仕事でした」と打ち明ける。

幹線道路の強風対策として、道路沿いに樹木を配置した場合のシミュレーション比較動画。
樹木配置後に風の流れや強さが変化していることが分かる。
徹底した調査に裏打ちされた正確かつリアリティあふれる3D都市モデルデータ
そこで検討したのがゼンリンの「3D地図データ」だ。
ゼンリンは地図情報の国内最大手。
徹底した調査を基にした住宅地図やGIS(地理情報システム)を制作・販売している。
その中でも、3D都市モデルデータはゼンリンの詳細地図情報と専用車両で計測したデータにより、現実の街並みをテクスチャ付きで忠実に再現。
現在は、国内21都市の3D都市モデルデータが整備されている。
「リアルな街並みの3Dデータがあるのですから、手間が大幅に削減されることは明らかでした。しかも、形状、高さなどの信頼性も高い。シミュレーションサービスにおいてモデル制作工数が抑えられるため、結果的にお客さまへのご提供価格も抑えられ、精度も上がる。大いにうならされました」
黒岩氏は2015年、初めて3D都市モデルデータを触った時のことをそう振り返る。
さらに決め手になったのは、リアリティの高いテクスチャだ。
データを収集する専用車両には各種センサーや全方位カメラが搭載されており、建物の形状や質感、道路の交通標識や路面ペイントまで余さず収集している。
「他にも検討していた地図データはあったのですが、せっかくの3次元なのにマッチ箱を並べたような状態に過
ぎず、リアリティに欠けていました。当時われわれはVRを使ったプレゼンテーションの提供も視野に入れていましたので、その訴求力の高さは非常に魅力的でしたね」
実際、3D都市モデルデータをVRで見てみると、看板スペースや街路樹なども再現されており、歩いたことがある場所なら、一目見ただけでもどこだか判別できる。
「リアルに一番近いデータ」という黒岩氏の感想は決して言い過ぎではないだろう。

以前は、地図データをもとに1つずつ建物形状をFlowDesigner上で立ち上げていた(左)。
しかし、ゼンリン3D都市モデルデータ導入後は、データをインポートし精度の高い建築形状を容易に再現できるようになった(右)。
各種シミュレーションを統合したBIMソフトへ
ゼンリンの提供する3D都市モデルデータは、1区画625メートル四方。
「風を見るにはちょうどよい」(黒岩氏)サイズだ。
2014年のリリース時は、決められた区割りでしか提供されていなかったが、現在はオンラインでデータベースにアクセスし、任意のポイントを中心にエリア指定をしてダウンロードすることができる。
建築予定場所を中心に置いたり、風を考える上で欠かせない建造物や地形を含んだエリアを選択するなど、使い勝手が大いに向上している。
「これだけ詳細なテクスチャがあるにも関わらずデータが軽いのも3D都市モデルデータの利点です。FlowDesignerの数値計算結果に加え、テクスチャを表示したリアルな3Dデータを同時に描画することができ、シミュレーションソフトの枠を一歩超えたプレゼンテーションが可能になりました」
ゼンリンは、3D地図情報データの提供で長い実績がある。
マシンパワーの乏しいカーナビゲーションなどでもスムーズに動くデータを開発してきたことが、シンプルでユーザーフレンドリーなデータにつながっている。
今後、アドバンスドナレッジ研究所では、FlowDesignerとBIMソフト・3次元システムとの統合を目指していきたいと話す。
「建築設計をする上で検討したい要素はもちろん風だけではありません。採光や人の流れ、地震動なども検討に加える必要があるでしょう。その都度別のアプリケーションを立ち上げるのは非効率です。われわれのソフトは計算エンジンとしてバックグラウンドで動き、BIMソフト上でタブを切り替えるだけで各シミュレーションができるようなものに収斂していくはず。それにはマクロな視点で空間を素早く正確に再現ができる3D地図データが不可欠です。ゼンリンには大いに期待しています」

東京駅周辺の360度風環境シミュレーション動画。リアリティの高い建築物テクスチャもゼンリン3D都市モデルデータの特長。
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